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  • 平成23年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第3節 特定検査対象に関する検査状況

研究開発法人の業務の状況について


第6 研究開発法人の業務の状況について

検査対象 研究開発等の業務を実施している独立行政法人37法人
研究開発法人の業務の概要 概要科学技術に関する研究開発業務、公募による研究開発に係る資金配分業務等
研究開発業務を実施する法人に係る研究費の額 34法人 6390億円(平成22年度)
資金配分業務を実施する法人に係る主な資金配分の額 7法人 3413億円(平成22年度)

1 検査の背景

 国は、研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進のために必要な事項等を定めることにより、我が国の国際競争力の強化及び国民生活の向上に寄与することを目的として、「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」(平成20年法律第63号。以下「研究開発力強化法」という。)を制定している。研究開発力強化法では、科学技術に関する研究開発業務、公募による研究開発に係る資金配分業務又は科学技術に関する啓発及び知識の普及に係る業務を行う独立行政法人のうち、特に重要な法人を研究開発法人として指定している。そして、国は、研究開発法人を研究開発能力の強化及び国の資金により行われる研究開発等の効率的推進並びにイノベーションの創出のための極めて重要な基盤と位置付けて、その運営の効率化を図りつつ、柔軟かつ弾力的に科学技術の振興に必要な資源の確保を図るとともに、その自律性、柔軟性及び競争性の更なる向上並びに国の資金により行われる研究開発等の推進におけるその能力の積極的な活用を図ることが必要であるとしている。
 研究開発法人の在り方については、研究開発力強化法附則第6条で施行後3年以内の見直しが規定されていることなどから、総合科学技術会議等において検討が行われてきており、定型的な業務を効果的、効率的に行わせることなどを主眼とする独立行政法人制度は、研究開発の特性に鑑みて、研究開発等の成果を最大化するためにはなじまない点があるなどとして、新たな法人制度の創設の必要性が指摘されている。
 こうした検討結果も踏まえて、平成24年1月に閣議決定された「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」では、研究開発を主たる業務とし、公益に資する研究開発成果の最大化を重要な政策目的とする法人を研究開発型の法人として類型化し、国の関与の在り方を始めとして、会計制度、人事制度、評価制度等について、研究開発型の法人に最適なガバナンスを構築して、26年4月に新たな法人制度及び組織に移行することを目指すとされている。
 なお、内閣府において、科学技術イノベーション政策を国家戦略として位置付け、その推進の司令塔機能を担う「科学技術イノベーション戦略本部(仮称)」の設置が検討されており、効率的・効果的な推進体制の構築のための司令塔機能の強化等の見直しが行われることから、国は、これと併せて、組織を含む各法人の在り方等について必要な見直しを行うこととしている。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

 研究開発力強化法は、我が国の科学技術水準の向上及びイノベーションの創出を図るという同法の基本理念にのっとって、研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進に努めることを研究開発法人の責務としている。
 そして、研究開発力強化法においては、研究開発を適切に評価して、その結果を、研究開発に必要な資源の配分や、研究開発推進の在り方に反映させることが、研究開発能力の強化及び国の資金により行われる研究開発等の効率的推進に極めて重要であるとして、研究開発法人は、その研究開発等の適切な評価を行うよう努めることとされている。また、研究開発成果の実用化及びこれによるイノベーションの創出を図るため、研究開発の成果のうち、活用されていないものについて、積極的な活用に努めることなどとされている。
 以上を踏まえて、研究開発法人が実施している研究開発業務や資金配分業務を対象として、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の項目に着眼して横断的に検査した。
〔1〕 研究開発法人の業務に係る収支の状況はどのようになっているか。
〔2〕 研究開発等の評価は、適時適切に行われているか。
〔3〕 研究開発の成果の活用はどのように行われているか。また、知的財産権の取得や維持に当たって、その必要性は適切に検討されているか。
〔4〕 資金配分業務を実施するに当たり、審査、評価等は適切に行われているか。

(2) 検査の対象及び方法

ア 検査の対象

 22年度末時点において研究開発法人として指定されていた法人のうち、23年11月1日をもって学校法人に移行した独立行政法人沖縄科学技術研究基盤整備機構を除く37法人(表1 参照)を検査の対象とした。

表1  検査対象とした研究開発法人
主務省 法人名 研究開発業務を実施しているもの 資金配分業務を実施しているもの
総務省 独立行政法人情報通信研究機構
財務省 独立行政法人酒類総合研究所  
文部科学省 独立行政法人国立科学博物館  
独立行政法人物質・材料研究機構  
独立行政法人防災科学技術研究所  
独立行政法人放射線医学総合研究所  
独立行政法人科学技術振興機構  
独立行政法人日本学術振興会  
独立行政法人理化学研究所  
独立行政法人宇宙航空研究開発機構  
独立行政法人海洋研究開発機構  
独立行政法人日本原子力研究開発機構  
厚生労働省 独立行政法人国立健康・栄養研究所  
独立行政法人労働安全衛生総合研究所  
独立行政法人医薬基盤研究所
独立行政法人国立がん研究センター  
独立行政法人国立循環器病研究センター  
独立行政法人国立精神・神経医療研究センター  
独立行政法人国立国際医療研究センター  
独立行政法人国立成育医療研究センター  
独立行政法人国立長寿医療研究センター  
農林水産省 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
独立行政法人農業生物資源研究所  
独立行政法人農業環境技術研究所  
独立行政法人国際農林水産業研究センター  
独立行政法人森林総合研究所  
独立行政法人水産総合研究センター  
経済産業省 独立行政法人産業技術総合研究所  
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構  
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
国土交通省 独立行政法人土木研究所  
独立行政法人建築研究所  
独立行政法人交通安全環境研究所  
独立行政法人海上技術安全研究所  
独立行政法人港湾空港技術研究所  
独立行政法人電子航法研究所  
環境省 独立行政法人国立環境研究所  
計 37 法人 34 法人 7 法人

(以下、各法人の名称中「独立行政法人」は記載を省略した。)

イ 検査の方法

 検査の実施に当たっては、18年度から22年度までを対象に、検査対象とした37法人から特別調書等の提出を受け、その内容を分析するとともに、37法人において会計実地検査を行った。

3 検査の状況

 研究開発力強化法は、研究開発法人が実施する研究開発業務及び資金配分業務において、研究開発能力の強化や研究開発成果の実用化の促進、国からの業務移管の促進による公募型研究開発の効率的推進等に取り組む必要性について規定している。そこで、研究開発法人が実施している研究開発業務、資金配分業務及び普及啓発業務のうち、研究開発業務と資金配分業務の実施状況について分析することとした。

(1) 研究開発業務の実施状況

ア 研究開発業務に係る収支等の状況

 研究開発業務を実施している34法人における研究開発業務の原資としては、国から法人運営に必要な経費の財源として交付される運営費交付金、施設整備費補助金等の基盤的資金並びに国及び国以外の者から受託して研究開発を行う場合の受託研究収入等がある。
 これらの法人の研究開発業務に係る収入について、22年度における交付主体別の状況をみると、表2 のとおり、34法人全体としては運営費交付金が64.4%、施設整備費補助金が4.5%で、収入全体の68.9%を占めている。
 これらを法人別にみると、その他の収入が収入計の過半を占めている法人が2法人(石油天然ガス・金属鉱物資源機構及び港湾空港技術研究所)あるが、その他の収入の内訳をみると、両法人ともに国からの収入が大部分となっている。

表2  研究開発業務に係る収入の状況(平成22年度)

(単位:百万円)

法人名 収入計  
運営費交付金 施設整備費補助金 その他の収入  
直接の交付主体
国から 研究開発法人から 大学等から 民間企業等から
情報通信研究機構 54,154 30,899 4,851 18,403 5,926 11,824 88 563
100.0% 57.1% 9.0% 34.0% (10.9%) (21.8%) (0.2%) (1.0%)
酒類総合研究所 1,141 1,064 77 23 54
100.0% 93.2% 6.8% (2.0%) (4.7%)
国立科学博物館 6,427 3,044 2,608 774 25 27 29 693
100.0% 47.4% 40.6% 12.1% (0.4%) (0.4%) (0.5%) (10.8%)
物質・材料研究機構 23,550 14,050 2,699 6,800 3,763 1,616 292 1,127
100.0% 59.7% 11.5% 28.9% (16.0%) (6.9%) (1.2%) (4.8%)
防災科学技術研究所 9,790 7,972 325 1,492 954 75 153 309
100.0% 81.4% 3.3% 15.2% (9.7%) (0.8%) (1.6%) (3.2%)
放射線医学総合研究所 15,139 11,443 543 3,153 386 233 43 2,489
100.0% 75.6% 3.6% 20.8% (2.6%) (1.5%) (0.3%) (16.4%)
理化学研究所 126,018 58,311 9,777 57,928 49,385 5,358 209 2,975
100.0% 46.3% 7.8% 46.0% (39.2%) (4.3%) (0.2%) (2.4%)
宇宙航空研究開発機構 242,685 130,391 5,752 106,541 104,890 207 249 1,192
100.0% 53.7% 2.4% 43.9% (43.2%) (0.1%) (0.1%) (0.5%)
海洋研究開発機構 45,164 36,336 449 8,378 2,976 2,502 1,190 1,708
100.0% 80.5% 1.0% 18.6% (6.6%) (5.5%) (2.6%) (3.8%)
日本原子力研究開発機構 212,327 167,936 7,426 36,964 16,473 1,454 1,507 17,528
100.0% 79.1% 3.5% 17.4% (7.8%) (0.7%) (0.7%) (8.3%)
国立健康・栄養研究所 877 738 138 36 4 8 88
100.0% 84.2% 15.8% (4.2%) (0.6%) (1.0%) (10.1%)
労働安全衛生総合研究所 2,592 2,075 230 286 9 255 2 19
100.0% 80.0% 8.9% 11.1% (0.4%) (9.8%) (0.1%) (0.8%)
医薬基盤研究所 11,178 9,742 55 1,380 541 16 3 819
100.0% 87.2% 0.5% 12.4% (4.8%) (0.1%) (0.0%) (7.3%)
国立がん研究センター 6,396 3,634 2,761 610 982 1,169
100.0% 56.8% 43.2% (9.5%) (15.4%) (18.3%)
国立循環器病研究センター 2,139 1,138 1,001 340 8 399 253
100.0% 53.2% 46.8% (15.9%) (0.4%) (18.7%) (11.9%)
国立精神・神経医療研究センター 4,625 3,522 1,103 450 306 346
100.0% 76.1% 23.9% (9.7%) (6.6%) (7.5%)
国立国際医療研究センター 5,194 4,350 843 323 180 25 313
100.0% 83.8% 16.2% (6.2%) (3.5%) (0.5%) (6.0%)
国立成育医療研究センター 4,028 2,928 1,099 532 338 48 180
100.0% 72.7% 27.3% (13.2%) (8.4%) (1.2%) (4.5%)
国立長寿医療研究センター 2,770 2,447 322 134 140 9 37
100.0% 88.4% 11.6% (4.9%) (5.1%) (0.4%) (1.4%)
農業・食品産業技術総合研究機構 56,093 45,838 385 9,869 6,749 1,313 294 1,511
100.0% 81.7% 0.7% 17.6% (12.0%) (2.3%) (0.5%) (2.7%)
農業生物資源研究所 12,239 6,981 215 5,042 3,502 537 49 952
100.0% 57.0% 1.8% 41.2% (28.6%) (4.4%) (0.4%) (7.8%)
農業環境技術研究所 4,579 3,065 126 1,387 1,157 170 19 41
100.0% 66.9% 2.8% 30.3% (25.3%) (3.7%) (0.4%) (0.9%)
国際農林水産業研究センター 4,624 3,713 60 850 482 161 174 31
100.0% 80.3% 1.3% 18.4% (10.4%) (3.5%) (3.8%) (0.7%)
森林総合研究所 12,471 9,972 256 2,241 1,738 206 124 172
100.0% 80.0% 2.1% 18.0% (13.9%) (1.7%) (1.0%) (1.4%)
水産総合研究センター 26,538 16,047 1,478 9,013 5,918 213 48 2,833
100.0% 60.5% 5.6% 34.0% (22.3%) (0.8%) (0.2%) (10.7%)
産業技術総合研究所 96,985 61,406 8,717 26,860 6,238 12,581 695 7,346
100.0% 63.3% 9.0% 27.7% (6.4%) (13.0%) (0.7%) (7.6%)
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 22,906 7,563 15,343 15,172 171
100.0% 33.0% 67.0% (66.2%) (0.7%)
土木研究所 9,939 9,124 388 426 250 49 20 105
100.0% 91.8% 3.9% 4.3% (2.5%) (0.5%) (0.2%) (1.1%)
建築研究所 2,221 1,924 78 218 81 30 70 36
100.0% 86.6% 3.5% 9.8% (3.7%) (1.4%) (3.2%) (1.6%)
交通安全環境研究所 1,235 747 103 384 284 0 7 92
100.0% 60.5% 8.4% 31.1% (23.0%) (0.0%) (0.6%) (7.5%)
海上技術安全研究所 4,030 2,932 349 748 190 60 61 435
100.0% 72.8% 8.7% 18.6% (4.7%) (1.5%) (1.5%) (10.8%)
港湾空港技術研究所 3,246 1,384 205 1,656 1,557 9 10 79
100.0% 42.6% 6.3% 51.0% (48.0%) (0.3%) (0.3%) (2.4%)
電子航法研究所 1,910 1,597 231 81 61 19
100.0% 83.6% 12.1% 4.3% (3.2%) (1.0%)
国立環境研究所 15,556 12,127 297 3,131 2,658 131 62 278
100.0% 78.0% 1.9% 20.1% (17.1%) (0.8%) (0.4%) (1.8%)
1,050,783 676,458 47,616 326,708 233,806 41,021 5,899 45,981
構成比 100.0% 64.4% 4.5% 31.1% (22.3%) (3.9%) (0.6%) (4.4%)
注(1)  百万円未満を切り捨てているため、計等は一致しない。
注(2)  研究開発を実施している勘定・セグメント単位で収支を管理している法人は当該単位で計上した。そのような管理をしていない法人は法人全体で計上した。表3表4 及び表5 においても同じ。
注(3)  その他の収入のうち、「大学等から」には、大学等のほか研究開発法人以外の独立行政法人からの収入も含まれる。

 研究開発業務に係る収入のうち、その他の収入は、34法人全体でみて、国からの受託研究や補助金等による収入が最も多くなっている。また、その他の収入のうち、研究開発法人からの収入は、そのほとんどが、日本学術振興会等の国の資金を原資とした資金配分業務を実施している法人からの競争的資金等である。
 これらの各法人は、主たる財源である国からの運営費交付金が年々抑制される傾向にあるため、その他の収入の獲得に注力してきているが、その他の収入の直接の交付主体の大半は、国となっている。そして、収入の推移の状況についてみると、表3 のとおり、国又は研究開発法人からの収入の増加率がその他(民間企業や大学等からの収入)の増加率を上回っている。

表3  研究開発業務に係る収入の推移(平成18年度〜22年度)

(単位:千円、%)

収入区分 平成18年度(A) 19年度 20年度 21年度 22年度(B) 18年度と22年度の変化(B)/(A)
収入計 979,193,124 992,218,705 1,018,214,490 1,059,146,762 1,025,629,201 104.7
  運営費交付金 686,333,792 686,240,768 679,686,195 690,076,627 658,436,564 95.9
施設整備費補助金 59,608,355 55,748,742 47,394,294 67,480,479 47,616,106 79.9
その他の収入 233,250,976 250,229,194 291,134,000 301,589,654 319,576,530 137.0
  国から 176,255,123 183,786,319 213,893,408 229,327,660 231,414,198 131.3
研究開発法人から 17,766,657 17,471,956 30,631,251 23,615,642 39,064,919 219.9
その他 39,229,196 48,970,918 46,609,340 48,646,351 49,097,412 125.2
注(1)  千円未満を切り捨てているため、計等は一致しない。
注(2)  平成22年4月1日に設立された国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立国際医療研究センター、国立成育医療研究センター及び国立長寿医療研究センターの6法人は除いている。表5 においても同じ。
注(3)  その他の収入のうち、「その他」とは、民間企業、大学等及び研究開発法人以外の独立行政法人からの収入を指す。

 一方、研究開発法人の研究開発業務に係る支出は、表4 のとおり、34法人全体としては研究費が支出全体の67.4%を占めている。そして、資金配分業務も実施している医薬基盤研究所及び石油天然ガス・金属鉱物資源機構を除く32法人においては、自ら実施している研究開発に係る支出が研究費の過半を占めている。

表4  研究開発業務に係る支出の状況(平成22年度)

(単位:百万円)

法人名  
支出計       施設費等
研究費 うち自ら実施している研究開発分 人件費 うち研究開発系 うちその他 一般管理費 うち人件費
情報通信研究機構 63,464 47,121 39,920 2,773 2,331 858 11,238
酒類総合研究所 1,096 358 358 411 254 71
国立科学博物館 5,538 1,300 1,300 1,333 932 401 296 2,608
物質・材料研究機構 24,811 12,117 11,934 8,296 8,296 1,697 795 2,699
防災科学技術研究所 10,288 8,042 7,525 1,377 1,377 542 371 325
放射線医学総合研究所 16,586 10,274 10,217 4,501 4,501 899 528 910
理化学研究所 125,176 84,415 84,279 25,161 25,161 4,001 1,490 11,597
宇宙航空研究開発機構 237,871 209,764 209,202 13,365 13,365 6,760 4,165 7,980
海洋研究開発機構 45,704 33,650 33,237 8,301 7,827 474 461 3,292
日本原子力研究開発機構 183,794 118,147 118,147 47,533 42,780 4,753 10,834 187 7,279
国立健康・栄養研究所 810 219 219 476 331 145 113
労働安全衛生総合研究所 2,235 742 742 906 906 355 184 230
医薬基盤研究所 10,602 9,624 2,271 734 708 187 55
国立がん研究センター 5,787 2,469 1,573 1,859 1,139 185 796 631 661
国立循環器病研究センター 2,279 1,449 1,449 131 131 699 329
国立精神・神経医療研究センター 4,249 1,777 1,323 1,581 1,581 890 591 0
国立国際医療研究センター 3,704 835 692 128 87 41 1,495 1,039 1,244
国立成育医療研究センター 3,458 1,925 1,755 918 918 613 393 1
国立長寿医療研究センター 2,855 1,443 1,133 1,260 1,260 148 88 2
農業・食品産業技術総合研究機構 56,504 25,583 16,787 26,562 26,153 159 3,244 1,114
農業生物資源研究所 12,086 7,236 5,178 3,326 3,326 890 490 632
農業環境技術研究所 4,446 2,260 1,569 1,783 1,509 273 276 126
国際農林水産業研究センター 4,454 2,135 2,015 2,035 1,628 407 122 161
森林総合研究所 12,293 3,784 3,241 7,364 6,364 999 888 256
水産総合研究センター 26,485 14,122 12,817 8,723 7,459 1,263 476 3,164
産業技術総合研究所 91,760 45,784 44,513 28,304 28,304 8,134 4,205 9,536
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 25,586 21,738 5,150 2,520 1,327 1,015
土木研究所 9,961 4,935 4,935 4,067 3,344 723 569 388
建築研究所 2,221 889 869 935 693 241 317 78
交通安全環境研究所 1,390 671 638 449 449 172 127 97
海上技術安全研究所 4,028 1,236 1,236 2,347 1,906 440 95 349
港湾空港技術研究所 3,188 1,785 1,785 1,098 892 206 98 205
電子航法研究所 1,993 1,021 1,021 509 509 222 175 240
国立環境研究所 15,910 10,600 10,026 4,645 3,967 677 367 297
1,022,629 689,463 639,071 215,728 197,821 11,393 50,586 17,672 66,850
構成比 100.0% 67.4% (62.5%) 21.1% (19.3%) (1.1%) 4.9% (1.7%) 6.5%
注(1)  本表は、百万円未満を切り捨てして、各経費のうち一部の費用のみを記載しているため、計等は一致しない。
注(2)  日本原子力研究開発機構及び国立がん研究センターは、管理部門に係る人件費は、人件費の「うちその他」に計上し、非常勤職員及び嘱託職員等に係る人件費を一般管理費の「うち人件費」に計上している。
注(3)  国立国際医療研究センターは、管理部門に係る人件費は、一般管理費の「うち人件費」に計上し、外部研究協力者に対する謝金を人件費の「うちその他」に計上している。
注(4)  情報通信研究機構、酒類総合研究所及び石油天然ガス・金属鉱物資源機構は、人件費を研究者等に係る支出と管理部門に係る支出とに区分できないとしているため、表示していない。
注(5)  医薬基盤研究所は、人件費のうち、資金配分部門に係る支出を除き、研究者等に係る支出と管理部門に係る支出を「研究開発系」に一括して計上している。

 研究開発業務に係る支出のうち、人件費は、研究開発業務における研究者等に係る人件費と、研究開発業務等以外の管理部門に係る人件費に分けられる。このうち研究者等に係る人件費は、表4において「人件費」の中の「うち研究開発系」に記載している。管理部門に係る人件費は、表4のとおり、法人によって、「人件費」により支出している(「うちその他」に記載している。)場合と、「一般管理費」により支出している(「うち人件費」に記載している。)場合とがある。
 前記34法人のうち、宇宙航空研究開発機構等5法人(注1) は、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)の規定に基づき各法人が主務大臣に提出している決算報告書において、人件費のうち研究者等に係る支出を「事業系」として、また、管理部門に係る支出を「管理系」として、明確に区分して公表していた。
 しかし、情報通信研究機構等4法人(注2) は、人件費の内訳を研究者等に係る支出と管理部門に係る支出とに区分できないとしていた。その他の法人は、人件費の内訳を区分できるとしていたが、決算報告書において宇宙航空研究開発機構等5法人のようには人件費を区分して公表していなかった。
 決算報告書における人件費の記載方法については各法人が定めているが、人件費の主な原資は運営費交付金であることから、研究開発業務に要した内訳については、可能な限り明らかにして、財務情報の一環として広く一般に開示することが望まれる。

(注1)
 宇宙航空研究開発機構等5法人  放射線医学総合研究所、理化学研究所、宇宙航空研究開発機構、海洋研究開発機構、日本原子力研究開発機構
(注2)
 情報通信研究機構等4法人  情報通信研究機構、酒類総合研究所、医薬基盤研究所、石油天然ガス・金属鉱物資源機構

 そして、支出の推移の状況についてみると、表5 のとおり、人件費及び一般管理費は減少傾向にあり、中でも、人件費の「その他」及び一般管理費の「うち人件費」(管理部門に係る人件費及び一般管理費により支出された人件費)の減少率は、「研究開発系」の人件費(研究者等に係る人件費)の減少率を上回っており、簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律(平成18年法律第47号)等に基づく総人件費改革の取組上、各法人が管理部門に係る人件費について、より削減を進めている状況がうかがえる。

表5  研究開発業務に係る支出の推移(平成18年度〜22年度)

(単位:千円、%)

支出区分 平成18年度(A) 19年度 20年度 21年度 22年度(B) 18年度と22年度の変化(B)/(A)
支出計 887,637,239 901,076,033 913,948,531 966,720,738 899,543,673 101.3
  研究費 565,130,526 573,324,274 592,589,102 626,481,569 600,719,604 106.3
人件費 208,098,492 210,479,891 208,751,428 202,303,093 203,408,169 97.7
  研究開発系 195,378,392 198,112,558 196,767,319 190,590,921 191,993,396 98.3
その他 12,447,912 12,102,432 11,721,619 11,455,181 11,165,861 89.7
一般管理費 51,616,666 51,425,243 49,474,547 46,872,870 41,840,550 81.1
  うち人件費 15,146,682 14,862,542 14,667,009 13,850,325 12,723,677 84.0
注(1)  本表は千円未満を切り捨てして、支出のうち、一部の費用のみを記載しているため、計等は一致しない。
注(2)  人件費の内訳を研究開発系(研究者等に係る支出)とその他(管理部門に係る支出)とに区分できないとしている情報通信研究機構、酒類総合研究所、医薬基盤研究所及び石油天然ガス・金属鉱物資源機構については、本表から除いている。

 研究開発法人の中には、財務諸表の附属明細書において、事業費用、事業収益、事業損益その他の財務情報について、事業内容等に応じた区分単位(以下「セグメント」という。)に分別して、開示している法人がある。
 セグメント情報は、「独立行政法人会計基準」(平成12年2月独立行政法人会計基準研究会策定。以下「会計基準」という。)において、法人の事業内容等に応じた適切な区分に基づく情報とすることとされていることから、事業費用等は事業内容等に応じて各セグメントへ配分される必要があると考えられるが、セグメントを設定している法人の中に、事業費用等を各セグメントに配分するのではなく、一律に特定のセグメントへ配分していた法人が以下のとおり見受けられた。

<事例1>

 国立循環器病研究センター等3法人(注1) は、研究、臨床研究(注2) 等の様々な業務を行っていることから、「研究事業」、「臨床研究事業」等のセグメントを設けてセグメント情報を開示しており、「研究事業」には戦略的研究・開発を推進する事業に係る費用等を、「臨床研究事業」には臨床研究等の事業に係る費用等をそれぞれ配分することなどとしている。
 しかし、上記の3法人は、運営費交付金を原資として毎年度課題を採択して実施している研究開発業務について、両事業で発生している研究費を両事業に応じたセグメントに配分するのではなく、一律に「臨床研究事業」のセグメントに配分するなどしており、事業費用等の各セグメントへの配分方法について検討する必要があると認められる。

(注1)
 国立循環器病研究センター等3法人  国立循環器病研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立長寿医療研究センター
(注2)
 臨床研究  医療における疾病の予防方法、診断方法及び治療方法の改善、疾病原因及び病態の理解並びに患者の生活の質の向上を目的として実施される医学系研究であって、人を対象とするもの

イ 研究開発評価の状況

(ア) 研究開発評価の概要

 国及び研究開発法人は、研究開発力強化法において、国の資金により行われる研究開発等の適切な評価に努めることとされており、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成17年3月内閣総理大臣決定。平成20年10月改定。以下「大綱的指針」という。)において、評価の実施主体は同指針に沿った的確な評価を実施することとされている。
 そして、研究開発法人は、自らが実施する研究開発に対する評価を自らが行うことに加えて、通則法の規定に基づく中期目標期間における法人の業務の実績の評価を主務省の独立行政法人評価委員会から受けている。そのほか、個々の研究開発で10億円以上の費用を要することが見込まれるものの実施を目的とする政策については、行政機関が行う政策の評価に関する法律(平成13年法律第86号)等に基づき、当該政策を実施する行政機関による事前評価が実施されるなどしている。
 このように、研究開発評価は、重層的に実施されることから、大綱的指針においては、研究開発評価を研究開発課題、研究開発機関の評価等に分類した上で、評価の実施主体は、関係機関と連携して、全体として効果的・効率的に運営することとされている。

(イ) 大綱的指針における研究開発法人が実施する研究開発評価の概要

 評価の実施主体は、優れた成果を次の発展段階に着実につなげていくため、大綱的指針においては、評価の具体的な仕組みを整備して、厳正な評価を実施することとされている。そして、研究開発法人が主に実施している研究開発課題の評価については、評価対象とする研究開発の性格(基礎研究、応用研究等)、目的、規模等に応じて、評価の目的や評価結果の活用方法等を的確に設定して、必要となる評価実施体制等を整備することとされている。
 その具体的な仕組みとしては、評価の客観性を十分に保つため外部の専門家等を評価者(以下、当該評価者を「外部評価者」という。)とする外部評価を実施すること、国民への説明責任を果たすため評価結果等を積極的に公表することなどとされている。また、研究開発課題の評価の実施時期については、表6のとおり、開始前の評価から追跡評価まで時系列的な評価の実施時期が示されており、研究開発課題の開始前にあらかじめ実施時期等を決定して、評価の連続性と一貫性を持たせることとされている。

表6  大綱的指針に示された研究開発課題の評価の実施時期
開始前の評価 研究開発課題の開始前に、実施の必要性、目標や計画の妥当性等を把握し、予算等の資源配分の意思決定等を行うための評価
中間評価 研究開発の実施期間が長期にわたる場合には、情勢の変化や進捗状況等を把握し、計画変更の要否の確認等を行うための評価
終了時の評価 将来の発展が見込まれる優れた研究開発成果を切れ目なく次につなげていくために、研究開発課題が終了する前の適切な時期に実施する評価
追跡評価 国費投入額が大きい主要な研究開発課題から対象を選定して、波及効果の把握や過去の評価の妥当性の検証等のために、課題終了後、一定の時間を経過してから実施する評価

 大綱的指針は基本的な方針を示したものであり、これによると、評価の実施主体は、その特性や研究開発の性格に応じて同指針に沿った的確な評価を実施することとされている。そのため、研究開発法人は、研究目的や予算規模等に応じて外部評価者を中心とした外部評価を実施したり、主務省等の第三者から評価を受ける大規模な研究開発課題については、当該評価を外部評価とみなして、法人自らは法人内部の者を中心とした内部評価や進捗管理を中心に実施したりするなど、各法人の実態に合わせて評価の体制や規程等を整備して研究開発評価を実施している。

(ウ) 研究開発法人における評価等の実施状況

 研究開発業務を実施している34法人の22年度末時点における評価の実施状況についてみたところ、以下のとおりとなっていた。

a 外部評価者の構成

 全ての法人は、外部評価者による評価を実施しており、外部評価者の構成についてみると、表7 のとおり、22法人において民間企業等の経営者等を選任していた。

表7 外部評価者の構成

(平成22年度末)

法人名 大学教授等の学識経験者 民間企業等の経営者等
情報通信研究機構
酒類総合研究所 ×
国立科学博物館 ×
物質・材料研究機構
防災科学技術研究所 ×
放射線医学総合研究所
理化学研究所
宇宙航空研究開発機構
海洋研究開発機構
日本原子力研究開発機構
国立健康・栄養研究所 ×
労働安全衛生総合研究所
医薬基盤研究所
国立がん研究センター
国立循環器病研究センター ×
国立精神・神経医療研究センター ×
国立国際医療研究センター ×
国立成育医療研究センター ×
法人名 大学教授等の学識経験者 民間企業等の経営者等
国立長寿医療研究センター ×
農業・食品産業技術総合研究機構
農業生物資源研究所
農業環境技術研究所
国際農林水産業研究センター
森林総合研究所
水産総合研究センター
産業技術総合研究所
石油天然ガス・金属鉱物資源機構
土木研究所 ×
建築研究所
交通安全環境研究所
海上技術安全研究所
港湾空港技術研究所
電子航法研究所 ×
国立環境研究所 ×
34 22
(注)
 「計」は、「〇」の数を表している。

 大綱的指針においては、研究開発成果をイノベーションを通じて国民・社会に迅速に還元していく観点から、産業界の専門家等を積極的に外部評価者に選任することとされており、経済及び産業の発展等を研究開発の目的とする産業技術総合研究所のように、自ら定めた規程等において、産業化のための経営的観点からの提言を行うことができる者等を一定割合選定することとしていて、法人の実態に応じた評価者の選定を行っている法人も見受けられた。

b 評価結果の公表状況

 評価結果を公表するための規程等の整備状況と評価結果の公表状況については、表8 のとおりとなっている。

表8 評価結果の公表状況等

平成22年度末)

法人名 評価結果の公表
規程等 実態
情報通信研究機構
酒類総合研究所
国立科学博物館 × ×
物質・材料研究機構
防災科学技術研究所
放射線医学総合研究所
理化学研究所
宇宙航空研究開発機構
海洋研究開発機構
日本原子力研究開発機構
国立健康・栄養研究所
労働安全衛生総合研究所
医薬基盤研究所 ×
国立がん研究センター × ×
国立循環器病研究センター
国立精神・神経医療研究センター × ×
国立国際医療研究センター
法人名 評価結果の公表
規程等 実態
国立成育医療研究センター
国立長寿医療研究センター × ×
農業・食品産業技術総合研究機構
農業生物資源研究所 ×
農業環境技術研究所
国際農林水産業研究センター ×
森林総合研究所
水産総合研究センター
産業技術総合研究所
石油天然ガス・金属鉱物資源機構
土木研究所
建築研究所
交通安全環境研究所
海上技術安全研究所
港湾空港技術研究所
電子航法研究所
国立環境研究所
(注)
 「規程等」における「△」は、一部の評価結果について公表することが、規程等において、明確となっていないことを表している。また、「実態」における「△」は、一部の評価結果について、実際に公表していなかったことを表している。

 研究開発業務を実施している34法人のうち、規程等において評価結果を公表することが明確になっていない法人が7法人見受けられ、このうち、3法人は全ての評価結果を公表していたが、4法人は、評価結果を全く公表していなかった。このほか、法人が実施している研究開発業務のうち、運営費交付金を原資として毎年度課題を採択して実施しているものなど、一部の評価結果について公表することが明確になっていない法人が4法人見受けられ、このうち、1法人は全ての評価結果を公表していたが、3法人は、評価結果の一部を公表していなかった。

c 規程等における評価の実施時期等の記載状況

 規程等における評価の実施時期等の記載状況についてみると、表9 のとおりとなっている。

表9 規程等における評価の実施時期等の記載状況

(平成 22 年度末)

区分 主務省 法人名 評価の実施時期 評価結果を予算等の資源配分に反映すると明記している法人
開始前の評価 中間評価 終了時の評価 追跡評価
研究終了前 研究終了後
時系列的な評価を採り入れている法人(25法人) 具体的な実施時期が明記されている法人(19法人) 総務省 情報通信研究機構    
財務省 酒類総合研究所  
文部科学省 物質・材料研究機構
防災科学技術研究所    
放射線医学総合研究所    
理化学研究所  
海洋研究開発機構  
日本原子力研究開発機構
厚生労働省 国立がん研究センター      
国立成育医療研究センター    
農林水産省 森林総合研究所  
経済産業省 石油天然ガス・金属鉱物資源機構  
国土交通省 土木研究所    
建築研究所    
交通安全環境研究所    
海上技術安全研究所    
港湾空港技術研究所    
電子航法研究所    
環境省 国立環境研究所
小計 18 19 9 15 9 16
具体的な実施時期が明記されていない法人( 6 法人) 厚生労働省 国立健康・栄養研究所    
労働安全衛生総合研究所  
国立循環器病研究センター  
国立精神・神経医療研究センター  
国立国際医療研究センター  
国立長寿医療研究センター  
小計 6 6 1 4
時系列的な評価を規程等上明確には採り入れていない法人( 9 法人) 文部科学省 国立科学博物館 明記なし  
宇宙航空研究開発機構 毎年度
厚生労働省 医薬基盤研究所 毎年度  
農林水産省 農業・食品産業技術総合研究機構 毎年度
農業生物資源研究所 毎年度  
農業環境技術研究所 毎年度  
国際農林水産業研究センター 毎年度  
水産総合研究センター 毎年度
経済産業省 産業技術総合研究所 毎年度  
小計 3
23
注(1)
国立がん研究センターは、開始前の評価について、内部評価のみ実施しているが、研究開発費の配分の決定に際して、原則として外部有識者の意見を聴取することとされている。
注(2)
農業・食品産業技術総合研究機構は、一部の研究において時系列的な評価を採り入れている。

 大綱的指針においては、研究開発評価の意義は、研究開発をその評価の結果に基づく適切な資源配分等を通じて次の段階の研究開発に連続してつなげることなどにより、研究開発成果の国民・社会への還元の効率化・迅速化に資することなどとされており、評価の実施時期について、終了時の評価は、研究開発課題が終了する前の適切な時期に実施することとされている。しかし、規程等において、評価結果を予算等の資源配分に反映させると明記している法人は34法人中23法人で、11法人は明記していなかった。また、時系列的な評価を採り入れるとともに、規程等において、評価の具体的な実施時期を明記している法人が19法人あり、このうち、評価結果を予算等の資源配分に反映させることとしている16法人についてみると、終了時の評価を研究終了前に実施することとしている法人が9法人見受けられた一方、一律に終了時の評価を研究終了後に実施することとしていて、評価の実施時期を検討する必要があると思料される法人が7法人(注3) 見受けられた。

(注3)
7法人  酒類総合研究所、理化学研究所、海洋研究開発機構、国立成育医療研究センター、交通安全環境研究所、海上技術安全研究所、港湾空港技術研究所

 なお、上記19法人のうち、評価結果を予算等の資源配分に反映させることとしていなかった防災科学技術研究所については、23年度に規程等を見直して、終了時の評価の実施時期を研究終了前に変更している。
 また、時系列的な評価を採り入れている25法人のうち、規程等において、評価の具体的な実施時期を明記していない法人が6法人あり、このうち、5法人は終了時の評価を研究終了前に実施していたが、労働安全衛生総合研究所は研究終了後に実施していた。
 追跡評価については、規程等において、実施することとしている法人が10法人見受けられたが、いずれの法人も、今後、必要に応じて実施する予定であるなどとして、評価を行った実績がなかった。
 一方、時系列的な評価を規程等において明確には採り入れていない9法人についてみると、8法人が、毎年度又は隔年度で評価を実施していたが、国立科学博物館は、中期目標期間中に一度、評価を実施するにとどまっていた。また、毎年度又は隔年度で評価を実施していた上記8法人のうち6法人は、研究終了前に評価を実施していたが、医薬基盤研究所及び農業・食品産業技術総合研究機構は研究終了後に評価を実施していた。なお、農業・食品産業技術総合研究機構は、23年度から、評価の実施時期を研究終了前に変更している。
 そして、自らが定めた規程と評価の実態が異なっている法人が、事例2のとおり見受けられた。

<事例2>

 海洋研究開発機構は、研究開発等評価実施規程において、研究開発等の評価を大綱的指針等を踏まえて厳正に実施することとしている。そして、研究開発課題の外部評価として、資源の配分方針を決定するため、研究開発課題の開始前に事前評価を実施するなどとしている。また、研究開発課題の評価とは別に研究開発機関の外部評価として、機関評価も実施することとしている。
 しかし、同機構は、研究開発課題の評価について、毎年度、研究開始後の4月から6月にかけて実施する機関評価と一体的に実施するなど、規程と評価の実態が異なっていた。

 研究開発法人は、研究開発評価の実施に当たり、各法人の研究開発の性格や目的、規模等についても留意する必要があるものの、その実施方法を規程等により明確にした上で、適時に適切な評価を実施して、効果的・効率的な研究開発を行い、また、その評価結果を積極的に公表することなどにより、多額の国費を用いて研究開発を実施することに対する国民への説明責任を適切に果たしていく必要がある。

ウ 研究開発成果の活用等の状況

(ア) 産学官連携のための体制

 研究開発法人は、研究開発成果を迅速かつ効果的にイノベーションにつなげるため、民間企業や大学等との積極的な連携を図る必要がある。そのための体制として、産業技術総合研究所は、産学官連携専門部署を設置したり、連携コーディネーターを配置したりしており、また、医薬基盤研究所は権利化業務担当部署が産学官連携業務を兼務するなど、各法人はその業務の特性等に応じた体制を講じている。

(イ) 研究開発成果の権利化等の状況

a 知的財産ポリシー等の策定及び職務発明規程等の整備の状況

 研究開発法人は、研究成果を積極的に活用するために、企業等との連携を必要とする場合がある。このような連携を円滑に進めるために、研究開発法人は、法人業務の特性や使命、研究開発の成果を社会還元する際の具体的な方針、研究開発の成果を知的財産として取り扱う際の基本的な判断基準等について、知的財産ポリシー又は産学官連携ポリシーとして外部に公表して、企業等が法人との連携を検討する際の判断材料を提供することが重要である。
 また、産学官連携活動の中で日常的に発生する利益相反を適切に管理するための基準を利益相反ポリシーとして定めておくことも重要である。
 さらに、研究開発の成果について法人として知的財産の帰属を明確にした上で将来の市場を見据えて積極的に権利化を図ることや、研究者に対して知的財産創出に係るインセンティブを付与するために、発明に対する十分な対価を還元するなどの配慮も必要である。そして、これらに係る基本的な取扱いを定める職務発明規程や発明補償規程を整備し、法人内部に周知することが重要である。
 そこで、22年度末時点における知的財産ポリシー等の策定及び職務発明規程等の整備状況についてみたところ、表10のとおり、職務発明規程は全ての法人が整備していたが、知的財産ポリシーは16法人、産学官連携ポリシーは25法人、利益相反ポリシーは19法人が策定しておらず、発明補償規程は3法人が整備していなかった。
 また、産学官連携の促進に伴い、研究者の交流が国内はもとより国際的にも活発化していくことが見込まれる状況となっていて、研究開発法人においては、知的財産に関する情報等の流出防止のため情報管理に係る規程等に加えて、研究開発成果としてのデータや研究試料等有体物(以下、これらを合わせて「成果有体物等」という。)の帰属と利用に係る管理体制を整備しておく必要があると思料される。
 そこで、成果有体物等に係る管理体制がどのようになっているかについてみたところ、表10 のとおり、成果有体物等管理規程を整備していない法人が19法人見受けられた。

表10  知的財産ポリシー等の策定等の状況
主務省 法人名 知的財産ポリシー 産学官連携ポリシー 利益相反ポリシー 職務発明規程 発明補償規程 成果有体物等管理規程
総務省 情報通信研究機構 × ×
財務省 酒類総合研究所 × × × ×
文部科学省 国立科学博物館 × × × ×
物質・材料研究機構
防災科学技術研究所 × × × ×
放射線医学総合研究所 ×
理化学研究所 × ×
宇宙航空研究開発機構
海洋研究開発機構 × ×
日本原子力研究開発機構
厚生労働省 国立健康・栄養研究所 × × × ×
労働安全衛生総合研究所 × × × ×
医薬基盤研究所 × × ×
国立がん研究センター × × ×
国立循環器病研究センター × ×
国立精神・神経医療研究センター × × ×
国立国際医療研究センター × × × ×
国立成育医療研究センター × × × ×
国立長寿医療研究センター × × ×  ×
農林水産省 農業・食品産業技術総合研究機構
農業生物資源研究所 ×
農業環境技術研究所 ×
国際農林水産業研究センター
森林総合研究所 ×
水産総合研究センター × ×
経済産業省 産業技術総合研究所 ×
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 × × ×
国土交通省 土木研究所 × × × ×
建築研究所 × × ×
交通安全環境研究所 × × × ×
海上技術安全研究所 × ×
港湾空港技術研究所 × ×
電子航法研究所 × × × ×
環境省 国立環境研究所 × × × ×
〇:済 18 9 15 34 31 15
×:未済 16 25 19 0 3 19
(注)
 ポリシー、規程の名称は法人によって異なる。

 法人によって、その業務特性や使命及び研究開発成果の権利化の必要性は異なるが、これらのポリシーの策定及び規程の整備は、企業等との連携を推進して研究開発成果の活用を図るための有効な方策の一つであることから、法人において、策定の要否について改めて検討する必要がある。

b 特許権の出願件数等の状況

 研究開発法人の知的財産の大部分を占めるのは特許権である。
 研究開発法人が特許権を保有する目的には、活用が見込める知的財産を権利化することや、知的財産を他者に活用されないよう防衛すること、公益に資する知的財産の他者による独占を防止することなどがある。なお、秘匿を要すると判断した知的財産については、内容が公表されることを避けて特許を出願しない場合もある。
 34法人の18年度から22年度までの特許権の出願件数等の推移をみると、図1 のとおり、22年度末時点の特許権の保有件数は国内、外国ともに増加しているが、特許の出願件数は外国がほぼ横ばいの状況であるのに比べて、国内は減少傾向である。

  図1  特許権の出願件数等の推移

図1特許権の出願件数等の推移

 また、34法人について特許権の出願件数等の状況についてみたところ、表11 のとおりとなっていた。

表11 特許権の出願件数等の状況(平成22年度)

(単位:件)

主務省 法人名 出願 保有
総務省 情報通信研究機構 202 1,412
財務省 酒類総合研究所 7 64
文部科学省 国立科学博物館 0 0
物質・材料研究機構 292 1,800
防災科学技術研究所 3 48
放射線医学総合研究所 59 171
理化学研究所 276 1,100
宇宙航空研究開発機構 93 721
海洋研究開発機構 42 115
日本原子力研究開発機構 119 1,184
厚生労働省 国立健康・栄養研究所 0 1
労働安全衛生総合研究所 3 42
医薬基盤研究所 16 1
国立がん研究センター 30 74
国立循環器病研究センター 37 58
国立精神・神経医療研究センター 9 31
国立国際医療研究センター 20 2
国立成育医療研究センター 5 2
国立長寿医療研究センター 10 18
主務省 法人名 出願 保有
農林水産省 農業・食品産業技術総合研究機構 209 1,270
農業生物資源研究所 66 413
農業環境技術研究所 4 32
国際農林水産業研究センター 8 46
森林総合研究所 21 100
水産総合研究センター 15 57
経済産業省 産業技術総合研究所 1,251 9,784
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 408 171
国土交通省 土木研究所 7 328
建築研究所 4 42
交通安全環境研究所 6 39
海上技術安全研究所 33 127
港湾空港技術研究所 7 135
電子航法研究所 2 128
環境省 国立環境研究所 16 38
(注)
 出願件数は平成22年度、保有件数は22年度末現在である。

 前記のとおり、特許権の保有目的は必ずしも知的財産の活用を図ることばかりではないが、34法人における特許権の活用の状況として、特許権に係る収入の状況についてみたところ、表12 のとおり、特許権収入がない法人が7法人ある一方、5000万円を超える法人は5法人あった。そして、22年度末時点で特許権保有件数が最も多い産業技術総合研究所(保有件数9,784件)の特許権収入は8328万余円となっている一方、特許権収入の最も多い石油天然ガス・金属鉱物資源機構(保有件数171件)の特許権収入は6億5889万余円であり、有力な特許権の保有の有無により大きな収入差が生じていた。

表12 特許権に係る収入の状況(平成22年度)

(単位:千円)

主務省 法人名 収入
総務省 情報通信研究機構 7,591
財務省 酒類総合研究所 577
文部科学省 国立科学博物館
物質・材料研究機構 323,433
防災科学技術研究所 604
放射線医学総合研究所 444
理化学研究所 68,058
宇宙航空研究開発機構 8,298
海洋研究開発機構 858
日本原子力研究開発機構 18,336
厚生労働省 国立健康・栄養研究所
労働安全衛生総合研究所
医薬基盤研究所
国立がん研究センター 1,169
国立循環器病研究センター 5,591
国立精神・神経医療研究センター
国立国際医療研究センター
国立成育医療研究センター 93
国立長寿医療研究センター
主務省 法人名 収入
農林水産省 農業・食品産業技術総合研究機構 64,367
農業生物資源研究所 5,313
農業環境技術研究所 112
国際農林水産業研究センター 681
森林総合研究所 199
水産総合研究センター 2,677
経済産業省 産業技術総合研究所 83,282
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 658,898
国土交通省 土木研究所 19,839
建築研究所 1,353
交通安全環境研究所 86
海上技術安全研究所 2,905
港湾空港技術研究所 48,871
電子航法研究所 582
環境省 国立環境研究所 262

 一方、各法人が特許の出願や特許権の維持に要した経費をみると表13 のとおりとなっていた。

表13 特許権関係経費の状況(平成22年度)

(単位:千円)

主務省 法人名 出願 維持
総務省 情報通信研究機構 239,469 15,986
財務省 酒類総合研究所 3,794 51
文部科学省 国立科学博物館
物質・材料研究機構 195,725 17,265
防災科学技術研究所 1,884 447
放射線医学総合研究所 39,660 4,611
理化学研究所 282,723 49,236
宇宙航空研究開発機構 64,986 7,530
海洋研究開発機構 24,381 5,259
日本原子力研究開発機構 111,706 61,815
厚生労働省 国立健康・栄養研究所
労働安全衛生総合研究所 240 591
医薬基盤研究所 1,699
国立がん研究センター 5,454 137
国立循環器病研究センター 4,998 2,734
国立精神・神経医療研究センター 2,248 73
国立国際医療研究センター 2,896 252
国立成育医療研究センター
国立長寿医療研究センター 11,028 771
主務省 法人名 出願 維持
農林水産省 農業・食品産業技術総合研究機構 123,709 8,780
農業生物資源研究所 61,394 7,291
農業環境技術研究所 2,266 37
国際農林水産業研究センター 10,927 1,333
森林総合研究所 9,762 890
水産総合研究センター 7,192 1
経済産業省 産業技術総合研究所 593,816 40,038
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 166,695 6,487
国土交通省 土木研究所 4,954 312
建築研究所 1,605 6
交通安全環境研究所 1,547 188
海上技術安全研究所 23,415 200
港湾空港技術研究所 2,842
電子航法研究所 3,296 414
環境省 国立環境研究所 2,667 39

 特許の出願に係る経費のうち主なものは、特許庁に納付する出願料や審査請求料等に係る特許事務所費用等であり、また、特許権の維持に係る経費のうち主なものは、特許の登録第4年から特許庁に納付する特許料とその納付業務を代行する特許事務所等の手数料である。こうした経費を抑制するためには、定期的に特許権の維持の要否に係る検討を行い、活用の見込みがなく特許権収入が見込めないものや、保有する意義がなくなったものなどについては放棄するなどの取組が必要である。
 22年度の特許権の維持の要否に係る検討状況について参考事例を示すと、次のとおりである。

<参考事例>

 産業技術総合研究所は、同研究所が実施する研究開発業務における発明の発掘、特許の出願から活用までを一貫してサポートする体制を執っており、特許権の維持要否の検討についても定期的に実施していた。そして、平成22年度の特許権の維持の要否については、権利維持に係るコスト等を考慮し、当該年度の対象件数305件について検討を行い、33件を維持し、272件を放棄することとしていた。

 各法人においては、積極的な権利化に努めていることから、権利維持の要否について、定期的に見直すことが重要である。
 また、特許権の保有件数は、国内外ともに増加しているが、外国特許権に係る特許料の納付業務等を代行する特許事務所等の請求書の一部に経費の明細が示されていない場合も見受けられたことから、外国特許を有する法人においては、費用明細の徴収に努める必要がある。

(2) 資金配分業務の実施状況

ア 資金配分の状況
 表1 のとおり、研究開発法人のうち、7法人が資金配分業務を実施している。この7法人が資金配分業務により研究者等に配分している資金の主なものは、研究者間の競争の促進による研究振興を主たる目的とする競争的資金であり、22年度におけるその配分状況を示すと、表14 のとおりである。

表14 研究開発法人が実施する主な資金配分業務(平成22年度)
種別 法人名 制度等名称 事業原資 法人配分額(百万円) 応募件数 新規採択件数 新規+継続件数
競争的資金 情報通信研究機構 新たな通信・放送事業分野開拓のための先進的技術開発支援(先進技術型研究開発助成金制度) 運営費交付金 202 24 6 15
民間基盤技術研究促進制度 財政投融資特別会計出資金 1,254 9
日本学術振興会 科学研究費補助金 補助金 128,372 92,438 17,075 46,950
科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発事業を含む。) 運営費交付金 46,149 3,186 263 1,119
地球規模課題対応国際科学技術協力事業 運営費交付金 1,983 109 17 49
戦略的国際科学技術協力推進事業(共同研究型) 運営費交付金 439 34 4 7
研究成果最適展開支援事業(A—STEP) 運営費交付金 14,050 4,787 974 1,251
先端的低炭素化技術開発 運営費交付金 866 686 54 54
産学イノベーション加速事業 運営費交付金 7,033 428 58 141
医薬基盤研究所 保健医療分野における基礎研究推進事業 運営費交付金 6,319 230 21 106
農業・食品産業技術総合研究機構 イノベーション創出基礎的研究推進事業 運営費交付金 6,151 331 24 131
新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術シーズの育成事業(産業技術研究助成事業(若手グラント)) 運営費交付金 3,160 280
実用化・企業化促進事業(省エネルギー革新技術開発事業) 運営費交付金 5,020 184 23 78
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 石油・天然ガス開発・利用促進型事業 運営費交付金 550 4 3 7
7法人 14制度 221,556
上記以外の主な資金配分制度 新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナショナルプロジェクト(平成18年度以降に開始したプロジェクト等に限る。) 運営費交付金等 104,720
実用化・企業化促進事業(競争的資金以外) 運営費交付金 15,024
1法人 119,744
合計 7法人 341,301
注(1)  平成22年度において、公募、審査、交付、管理及び評価の全ての業務を法人が実施しており、かつ、業務実績がある制度について整理している。
注(2)  複数の研究種目等がある制度については、合計値を表示している。なお、種目等により法人への業務の移管状況が異なる場合には、法人としての業務実績に当たる件数及び金額を集計している。
注(3)  「法人配分額」は、平成21年度以前に採択等され、22年度に継続して交付を受けているものに係る資金配分額と、22年度に新規採択等されたものに係る、法人が資金の交付を行った額の合計である。
注(4)  「上記以外の主な資金配分制度」については、競争的資金と事業の実施形態等が異なることから、法人配分額のみを記載している。

 競争的資金については、国から研究開発法人に対する業務移管が順次行われており、表14 に示すとおり、22年度末時点で、全41制度のうち14制度の業務が研究開発法人に移管されている。
 また、上記の7法人は、競争的資金以外でも、委託研究等の形態で資金配分を実施している。このうち、事業規模が大きなものは、表14 に示すとおり、新エネルギー・産業技術総合開発機構が実施しているナショナルプロジェクト及び実用化・企業化促進事業である。
 上記7法人の資金配分額は、競争的資金で2215億余円、競争的資金以外の主な制度で1197億余円、計3413億余円と多額に上っている。

イ 財政投融資特別会計からの出資金を事業原資とする資金配分制度の状況

 資金配分業務の中には、表14 にある情報通信研究機構の民間基盤技術研究促進制度のように、財政投融資特別会計(19年度以前は産業投資特別会計。以下同じ。)からの出資金を事業原資として、委託研究の形態で資金配分を実施している制度がある。この制度は、委託先の民間企業等において、研究開発期間終了後10年から15年までの間に、研究開発成果が事業化されて売上又は収益が生じた場合に、売上又は収益の一部を同機構に納付させる仕組みとなっており、当該納付がされるまで機構において収益は計上されないが、委託研究費は発生時に費用として計上されることとなるため、繰越欠損金が22年度末で573億円に上っている。そして、「独立行政法人整理合理化計画」(平成19年12月閣議決定)における指摘及び22年4月に実施された行政刷新会議による事業仕分けの結果等を踏まえ、同機構は繰越欠損金の増大を抑制するために、22年度から新規の採択を中止しているが、今後も、委託先における事業化の進捗状況を把握し、事業化の促進に必要な助言を行うなど、売上又は収益の納付が着実に実施されるよう努める必要がある。
 また、表14 に記載した制度のほかに、医薬基盤研究所の医薬品・医療機器実用化研究支援事業、農業・食品産業技術総合研究機構の民間実用化研究促進事業及び新エネルギー・産業技術総合開発機構の基盤技術研究促進事業においても、上記の情報通信研究機構の民間基盤技術研究促進制度と同様の仕組みにより、財政投融資特別会計からの出資金を事業原資とする委託研究を実施して資金配分業務を行っている。これらの事業は、上記の民間基盤技術研究促進制度と同様に、いずれも新規採択を中止して、納付額の確保に向けた取組を推進しているものの、22年度末で、それぞれ65億円、23億円、568億円と多額の繰越欠損金を計上しており、情報通信研究機構と同様の努力が必要である。

ウ 審査・評価等の実施状況

 資金配分業務は、制度ごとに事業の目的や性格が異なっており、その違いに応じて、審査・評価の実施体制等も異なっている。
 競争的資金において、22年度の資金配分額が最大となっているのは日本学術振興会の科学研究費補助金である。科学研究費補助金は、多様な学術研究の発展を目的として、研究者が自発的に設定した研究課題を公募する制度であり、目的や研究費の規模に応じて、表15 に示すとおり、複数の研究種目がある。

表15 科学研究費補助金の研究種目(平成22年度)
研究種目等 研究種目等の目的・内容 研究期間 課題当たり研究費 応募件数(新規) 採択件数(新規) 採択件数(新規+継続) 配分総額(百万円)
科学研究費 特別推進研究 国際的に高い評価を得ている研究であって、格段に優れた研究成果をもたらす可能性のある研究 3〜5年 総額5億円程度 111 15 80 8,404
基盤研究(S) 1人又は比較的少人数の研究者で行う独創的・先駆的な研究 原則5年 総額5千万円以上2億円程度 462 89 417 14,187
基盤研究(A) 1人又は複数の研究者が共同で行う独創的・先駆的な研究 3 〜 5 年 総額2千万円以上5千万円以下 2,296 536 1,878 22,857
基盤研究(B) 総額500万円以上2千万円以下 9,714 2,489 8,236 42,122
基盤研究(C) 総額500万円以下 31,443 7,471 23,142 30,792
挑戦的萌芽研究 独創的な発想に基づく、挑戦的で高い目標設定を掲げた芽生え期の研究 1〜3年 総額500万円以下 12,505 1,412 3,265 4,203
若手研究(S) 42歳以下の研究者が1人で行う研究 5年 総額3千万円以上1億円程度 108 1,986
若手研究(A) 39歳以下の研究者が1人で行う研究 2〜4年 総額500万円以上3千万円以下 1,941 343 938 6,598
若手研究(B) 総額500万円以下 22,817 5,578 14,020 21,022
研究活動スタート支援 研究機関に採用されたばかりの研究者や育児休業等から復帰する研究者等が1人で行う研究 2年以内 単年度当たり150万円以下 3,460 848 1,869 2,423
奨励研究 教育・研究機関の職員、企業の職員又はこれら以外の者で科学研究を行っている者が1人で行う研究 1年 100万円以下 3,570 714 714  349
小計 88,319 19,495 54,667 154,948
研究成果公開促進費 学術定期刊行物 学会又は、複数の学会の協力体制による団体等が、学術の国際交流に資するために定期的に刊行する学術誌の助成 131 102 113 396
学術図書 個人又は研究者グループ等が、学術研究の成果を公開するために刊行する学術図書の助成 719 272 278 472
データベース 個人又は研究者グループ等が作成するデータベースで、公開利用を目的とするものの助成 209 82 86 383
特別研究員奨励費 日本学術振興会の特別研究員(外国人特別研究員を含む。)が行う研究の助成 3年以内   3,060 3,060 6,805 4,898
学術創成研究費 科学研究費補助金等による研究のうち特に優れた研究分野に着目し、当該分野の研究を推進する上で特に重要な研究課題を選定し、創造性豊かな学術研究の一層の推進を図る(推薦制) 5年   39 3,298
合計 92,438 23,011 61,988 164,398
注(1)  平成22年度において、日本学術振興会が審査・評価を実施している研究種目等を掲載している。
注(2)  研究種目のうち、特別推進研究、若手研究(A)及び同(B)については、平成22年度まで、資金の交付等に係る業務を文部科学省が、公募、審査及び評価に係る業務を日本学術振興会が、それぞれ実施していた。
注(3)  「配分総額」欄には、平成22年度当時、文部科学省が交付決定等を行っていた研究種目等に係る配分額も計上している。
注(4)  太線で囲んでいるものは、研究費が高額な研究種目である。

 科学研究費補助金の22年度に係る新規応募研究課題数は約9万2000件であり、その過半は基盤研究(C)や若手研究(B)といった少額の研究種目で占められている。そして、科学研究費補助金の審査・評価の実施状況をみると、研究費が高額な研究種目と少額な研究種目とでは、図2 に示すとおり、審査・評価の流れが異なっている。

  図2  科学研究費補助金に係る審査・評価の流れ

図2科学研究費補助金に係る審査・評価の流れ

 新規応募研究課題の採択に係る審査については、毎年度、9万件を超える新規応募があり、その内容や専門分野も極めて多岐にわたることから、約6万人の審査委員候補者をデータベースに登録し、これを基に審査委員を選出するなど、審査体制の充実が図られている。
 一方、採択された研究課題の評価については、研究費が高額な特別推進研究等の研究種目等は、研究課題ごとに研究進捗評価を実施するとともに、研究進捗評価の一環として、研究終了時の成果に係る検証・評価を実施することとされているが、研究費が少額な研究種目は、こうした評価を実施することとはされておらず、研究成果報告書の提出が義務付けられているだけである。
 このような取扱いとなっているのは、対象となる課題数が膨大であることなどによると考えられるが、科学研究費補助金のうち、事業の性質を異にする研究成果公開促進費や特別研究員奨励費を除く科学研究費のみをみても、研究進捗評価等の対象とされていない少額の研究種目に対する配分額は1303億円と、科学研究費の配分総額1549億円の84%を占めており、また、これら研究種目が学術研究の基盤を支える資金として重要な役割を果たしていることを考慮すると、当該研究種目における評価の在り方等に関して、国民に対する説明責任の実現という観点からの更なる取組を検討することが必要である。

4 本院の所見

 我が国の科学技術政策における基本戦略である第4期科学技術基本計画(平成23年8月閣議決定。計画期間は23年度から27年度まで)においては、科学技術、そしてそれに基づくイノベーションは、我が国の競争力の源泉であり、その意味で我が国の生命線であるなどとして、計画期間中の政府研究開発投資の目標値を対GDP比1%としており、その総額を約25兆円と見込んでいる。
 このように、財政事情が厳しい中にあっても、科学技術関係経費は多額に措置される方向であり、研究開発法人に対しては、今後も引き続き、多額の国費が投入されることが見込まれる。
 また、研究開発法人は、国の科学技術政策の推進に当たって重要な役割を担っていることなどに鑑み、より一層の業務の効率化を推進しつつ、自らに期待されている役割を認識して、その能力を十分に発揮すべく努めていく必要がある。
 したがって、関係府省及び研究開発法人においては、次の点に留意することが必要である。

ア 研究開発法人の収入の大半が国費であることから、研究開発業務に要した人件費の内訳について、可能な限り明らかにするよう管理し、適切に開示するよう努める。また、セグメント情報については、会計基準において法人の事業内容等に応じた適切な区分に基づく情報とすることとされていることから、業務に対応するセグメントを設けている研究開発法人は、事業内容等に応じて、各セグメントへ事業費用等を適切に配分するよう努める。

イ 研究開発評価の実施方法を規程等により明確にした上で、評価結果に基づく適切な資源配分を行うため、必要に応じて終了時の評価を研究開発課題が終了する前の適切な時期に実施したり、法人自らが定めた規程等にのっとった評価を実施したりするなど、適時に適切な評価を実施することにより、効果的・効率的な研究開発を行う。また、その評価結果を積極的に公表することなどにより、多額の国費を用いて研究開発を実施することに対する国民への説明責任を適切に果たしていく。

ウ 各法人が実施している研究開発の特性や目的を踏まえ、研究成果の社会への還元の必要性に応じて、知的財産ポリシー等を作成し、公表する。また、知的財産に係る特許権等の研究開発成果を積極的に活用するとともに、権利維持の要否について、定期的に見直すとともに、活用の見込みのない特許権は放棄するなど、特許権等の適切な管理に努める。さらに、産学官連携の促進に伴い、研究者の交流が活発化していくことが見込まれる状況を踏まえて、情報等の流出防止を含めた情報管理に係る規程等に加えて、成果有体物等を取り扱うための規程の整備について検討を行う。

エ 資金配分業務のうち、財政投融資特別会計からの出資金を原資とする委託研究事業を実施している研究開発法人は、多額の繰越欠損金を計上している現状を踏まえて、委託先における研究開発成果の事業化の進捗状況を把握して、売上又は収益を着実に納付させる取組を一層推進する。また、審査・評価の実施状況については、一部研究種目について、採択された研究課題数が膨大であることなどから、当該研究課題採択後の外部評価を実施することとはしていないが、国民からの貴重な税金等がその原資に充てられていることに鑑み、当該研究種目における評価の在り方等に関して、国民への説明責任の実現という観点から更なる取組の検討を行う。

 本院としては、今後とも、独立行政法人に対する見直しの状況や社会経済情勢の変化等に留意しつつ、研究開発法人の研究開発及び資金配分業務の状況について、多角的な観点から引き続き検査していくこととする。