国の財務等に関する各種の情報については、国会における予算の議決や決算の審議を受けるために内閣から国会に提出される予算、決算及びこれに関する書類(以下「国会提出書類」という。)や各府省のホームページ等により提供されてきたが、行政改革の重要方針及び行政改革推進法において、一覧性・総覧性を持った形で国の財政状況を説明し十分な説明責任を果たすこととされ、国会提出書類を見直し、国の財政状況の透明化を図ることとされた。
また、発生主義等の企業会計の考え方を活用し国の財政状況等を分かりやすく開示することなどを目的として、一般会計、特別会計等に係る財務書類が作成及び公表されてきたが、このうち特別会計については、特会法の施行に伴い、企業会計の慣行を参考とした特別会計財務書類を作成し、会計検査院の検査を経て国会へ提出することや、特別会計財務書類を含めた特別会計の財務に関する情報をインターネット等により開示することが規定された。
これら財政状況の透明化の実施状況のうち、主に特別会計に関するものについてみると次のとおりとなっている。
各年度の財政運営に必要な基礎的事項について定めた予算総則、特別会計別に「項」ごとの見積額を示した歳入歳出予算等を内容とする予算のほか、予算の添付書類としての予算参照書が作成され国会に提出されている。
この予算参照書は、特会法等により規定されている歳入歳出予定計算書、繰越明許費要求書、国庫債務負担行為要求書、前々年度末における積立金明細表、当該年度に借入れを予定する借入金についての借入れ及び償還の計画表等で構成されている。これらの書類は積立金が設置されていないなど作成する対象がない場合を除き全特別会計で共通して作成され、添付されている。また、これらとは別に、特別会計ごとに特会法等により添付することが規定されている書類がある。例えば、地震再保険特別会計等では前年度及び当該年度の予定貸借対照表及び予定損益計算書が、食料安定供給特別会計(国営土地改良事業勘定を除く。)では前年度及び当該年度の予定財産目録が、社会資本整備事業特別会計(業務勘定を除く。)等では前年度及び当該年度の事業計画表がそれぞれ添付されている。これらのうち、特会法が施行された19年度以降に新たに添付されることとされた書類は、財政投融資特別会計財政融資資金勘定の「当該年度に発行を予定する公債の発行及び償還の計画表」、食料安定供給特別会計農業経営基盤強化勘定の「前々年度の農地等の売払い及び買収に関する実績表」等である(特会法により予算参照書に添付することが規定されている書類については巻末別表3
を参照)。
また、歳入歳出予定計算書については、従前は歳出予算が社会保障費や公共事業費等の施策ごとの経費を示す主要経費別に区分されていなかったため、重要施策等への資金配分の状況が把握できなかったが、前記のとおり、行政改革の重要方針等により記載内容等を見直し、20年度予算から主要経費別内訳が記載された。同時に、主要経費別分類を示すコード番号が付されたため、主要経費別分類によって一般会計と特別会計とを、又は各特別会計相互を比較することが容易となった。
さらに、予算書・決算書の表示科目について、財政制度等審議会により、〔1〕 事業の内容とは必ずしも結びついておらず分かりにくい、〔2〕 政策目的ごとに区分されておらず事後の評価になじみにくいなどの問題点が指摘され、財政の透明性の向上を図るとともに、予算の一層の効率化を図るため、表示科目と政策評価における政策とを原則として対応させることにより、予算・決算と政策評価の連携強化をさらに進める方向で見直しを行うことが提言されたことなどから、19年6月に閣議決定された経済財政改革の基本方針2007において、「政策ごとに予算と決算を結び付け、予算とその成果を評価できるように、予算書・決算書の表示科目の単位(項・事項)と政策評価の単位とを対応させる等の見直しを行い、平成20年度予算から実施する。」とされた。そして、20年度予算から表示科目の一部が変更され、予算書・決算書の表示科目の単位と政策評価の単位とを対応させて政策評価を実施することが可能となった。
特別会計別に、歳入では収納済歳入額、収納未済歳入額等を、歳出では支出済歳出額、翌年度繰越額、不用額等をそれぞれ「項」ごとに示した歳入歳出決算のほか、歳入歳出決算の添付書類としての決算参照書が作成され国会に提出されている。
この決算参照書は、特会法等により規定されている歳入歳出決定計算書、債務に関する計算書、当該年度末における積立金明細表等で構成されている。これらの書類は積立金が設置されていないなど作成する対象がない場合を除き全特別会計で共通して作成され、添付されている。また、これらとは別に、特別会計ごとに特会法等において添付することが規定されている書類がある。例えば、地震再保険特別会計等では当該年度の貸借対照表及び損益計算書が、食料安定供給特別会計(国営土地改良事業勘定を除く。)等では当該年度の財産目録が、社会資本整備事業特別会計(業務勘定を除く。)等では当該年度の事業実績表がそれぞれ添付されている。これらのうち、特会法が施行された19年度以降に新たに添付されることとされた書類は、食料安定供給特別会計農業経営基盤強化勘定の「当該年度の農地等の売払い及び買収に関する実績表」である(特会法により決算参照書に添付することが規定されている書類については巻末別表4
を参照)。
また、歳入歳出決定計算書については、従前は歳出決算の主要経費別内訳が記載されていなかったため、重要施策等への資金配分の状況が把握できなかったが、前記のとおり、行政改革の重要方針等により記載内容等を見直し、20年度決算から歳入歳出予定計算書と同様に主要経費別内訳が記載され、主要経費別分類を示すコード番号が付された。また、歳入歳出予定計算書には事項別内訳が記載されているのに対し、歳入歳出決定計算書には従前は事項別内訳が記載されていなかったため、予算書と決算書との間で事項別の比較を行うことが困難であったが、主要経費別内訳と同様に、20年度決算から事項別内訳が記載され、予算書と決算書との間で事項別の比較を行うことが容易になった。
11年2月に内閣総理大臣の諮問機関である経済戦略会議により答申された「日本経済再生への戦略」において、国民に対して財政及び資産の状況を分かりやすく開示する観点から、企業会計原則の基本的要素を踏まえつつ財務諸表の導入を行うべきであるとの提言がなされ、これを踏まえて、10年度決算分から一般会計及び全ての特別会計を連結した「国の貸借対照表(試案)」が、これに加え12年度決算分からは政府出資法人を連結した連結貸借対照表が、それぞれ作成され公表された。
また、特別会計については、従来、一部の特別会計において財務諸表が作成され、予算書及び決算書に添付されているが、全ての特別会計で作成されているものではなく、また、作成のための統一した基準がないため、各特別会計間での比較ができないなどの状況となっている。こうした中で、特別会計の財政状況をより明らかにするため、企業会計的な考え方を導入した財務諸表の作成についての検討が財政制度等審議会により行われ、その検討結果が15年6月に「新たな特別会計財務書類について」としてまとめられた。この中で、発生主義等の企業会計の考え方及び手法を可能な限り活用した統一的な基準に基づいた「新たな特別会計財務書類の作成基準」が示され、これに基づいて作成上の問題点等の検討のため試作されたものを含めて11年度決算分から、各府省により、全ての特別会計で特別会計財務書類が作成され公表された。
そして、公会計が担うべき意義及び目的を検証するとともに、公会計として開示すべき情報等に関し総合的な検討を行うことを目的として、「公会計に関する基本的考え方」が15年6月に財政制度等審議会により取りまとめられた。この中で、省庁別財務書類を作成し説明責任の履行及び行政の効率化を進めること、また、国全体の財政状況の開示についても検討することとされた。これを受け、16年6月に「省庁別財務書類の作成について」が財政制度等審議会により取りまとめられ、14年度決算分から各省庁により省庁別財務書類が作成された。そして、省庁別財務書類に加えて、一般会計省庁別財務書類及び特別会計財務書類についても、それぞれの作成基準が策定され、これらの財務書類を合わせて省庁別財務書類が構成されることとされた。これにより、特別会計財務書類は、15年度決算分から省庁別財務書類の体系に組み込まれ、上記の「新たな特別会計財務書類の作成基準」は見直されて、「特別会計財務書類の作成基準」として新たに示された。
さらに、各省庁の省庁別財務書類を合算することにより、国全体の財務書類を作成することが可能となり、「国の貸借対照表(試案)」に代わり、15年度決算分から財務省により国の財務書類が作成された。
それまでの特別会計財務書類は、法令等に基づいて作成されたものではなく、国会への提出という手続がとられていないものであったが、18年6月に財政制度等審議会により取りまとめられた「公会計整備の一層の推進に向けて〜中間取りまとめ〜」において、特別会計財務書類を法定化することとされたことなどから、特会法に特別会計財務書類に関する規定が設けられた。
そして、19年度決算分からは、同法に基づいて、各特別会計を所管する大臣がその管理する特別会計について特別会計財務書類を作成して、内閣が特別会計財務書類を会計検査院の検査を経て国会に提出することとされ、また、各特別会計を所管する大臣が特別会計財務書類に記載された情報等をインターネット等により開示することとされた。特別会計財務書類の作成については、特別会計の情報開示に関する省令(平成19年財務省令第30号)の規定に基づき、特別会計財務書類の作成基準(平成20年財務省告示第59号。以下「作成基準」という。)が定められた。この作成基準は、16年6月に「省庁別財務書類の作成について」において示されたものと同じ内容であるため、これらに基づき作成された特別会計財務書類は18年度決算分以前のものと比較して分析することが可能となっている。
また、特別会計財務書類の公表は、18年度決算分では20年3月に行われていたが、特会法施行後の19年度決算分以降は、特別会計財務書類作成対象年度の翌年度の1月(21年度決算分では23年1月)に行われており、公表時期が早まっている。
これらの財務書類の概要を、財務書類別に示すと図表4-1 のとおりとなる。
財務書類名 | 体系 | 作成単位 | 連結対象法人 | 作成及び公表等の根拠法令 | |
国の財務書類 国の財務書類(一般会計及び特別会計)一般会計財務書類
|
貸借対照表、業務費用計算書、資産・負債差額増減計算書、区分別収支計算書及びこれらに関連する事項についての附属明細書 | 国全体 | 国の業務と業務関連性がある特殊法人等 | - | |
省庁別財務書類 | |||||
省庁別財務書類 | 一般会計歳出予算の所管 | 所掌している業務と業務関連性がある特殊法人等 | - | ||
一般会計省庁別財務書類 | 一般会計歳出予算の所管 | - | - | ||
特別会計財務書類 | 特別会計(勘定区分が設けられている特別会計においては勘定) | 特別会計の業務と業務関連性がある特殊法人等 | 特会法第19条第1項及び第20条 |
これらの財務書類は、会計年度末における資産及び負債の状況を明らかにする貸借対照表、業務実施に伴い発生した費用を明らかにする業務費用計算書、貸借対照表の資産・負債差額の増減を要因別に明らかにする資産・負債差額増減計算書、財政資金の流れを業務収支と財務収支の区分別に明らかにする区分別収支計算書及びこれらに関連する事項についての附属明細書という体系により構成されている。
また、国の業務、各省庁が所管している業務又は特別会計の業務と業務関連性がある特殊法人等と連結した財務書類も作成されている。
さらに、国の財務書類については、一般会計と特別会計を合わせた国全体のもののほか、一般会計省庁別財務書類を合算した一般会計財務書類が作成されている。
特別会計財務書類については、アのとおり、その作成及び公表、会計検査院による検査並びに国会への提出が特会法により規定されているが、国の財務書類、省庁別財務書類及び一般会計省庁別財務書類については、作成及び公表等が法令により定められているものではない。
そして、会計検査院は、特会法施行令第35条第2項の規定に基づき、内閣から各特別会計財務書類の送付を受け、これを検査し、内閣に対して検査を行った旨を通知して同書類を内閣へ回付している。この検査は、正確性及び合規性の観点から、各特別会計財務書類が、特会法、特会法施行令、作成基準等に従った適切なものとなっているかなどに着眼して行っている。
検査の結果、作成基準等と異なる処理をするなどしていて、特別会計財務書類の計上金額等の表示が適切とは認められないものが、19年度分で8特別会計14事項、20年度分で3特別会計7事項、21年度分で6特別会計10事項見受けられた。これらは、全て各省において所要の訂正が行われた。
財務書類は、国会における審議等において活用されているほか、一層の活用に向けた取組が行われている。
(1) ア
のとおり、予算・決算と政策評価の連携を強化するための検討が行われ、予算書・決算書の表示科目の見直しにより、20年度から予算書・決算書の表示科目の単位と政策評価の単位とを対応させて政策評価を実施することが可能となったが、財務書類は政策評価の単位での開示となっていないため、省庁別財務書類を活用した政策評価単位でのコスト情報の開示の方法等について検討が行われてきた。そして、21年度決算から政策評価の単位を基本とした政策別コスト情報が各府省のホームページで公表されている。これは、省庁別財務書類の業務費用計算書において人件費や庁費等の形態別に表示されている費用を各省庁の政策評価項目ごとに表示したものである。そして、その意義及び目的は、「政策別コスト情報の把握と開示について」(22年7月財政制度等審議会)において、予算書・決算書では共通的な経費として計上されている人件費や庁費等を一定の基準により各政策に配分等することにより、〔1〕 行政担当者にとっては自ら担当する行政分野の費用の全体像の把握が一段と容易になり、自らの事業のコストに対する意識の醸成、経年変化や他事業との比較を通じた効率化への取組を促す効果が期待できる、〔2〕 政策別コスト情報として把握された費用の全体像を国民に情報提供していくことは、国民の行政活動に関する理解の促進につながるとされている。
各府省は、従前は所管する特別会計に関する財務状況をホームページ等で適宜公表していたが、前記のとおり、特会法により特別会計の財務に関する情報をインターネット等により開示することとされたことから、更に詳細な情報を開示している。開示する内容は特会法施行令第36条により規定されており、その主なものは、特別会計の目的、一般会計からの繰入額及びその理由、剰余金の額、発生理由及び処理方法、積立金等の残高等である。
また、財務省は、特別会計の現状等の情報開示の一環として、特別会計の制度の意義や仕組み、各特別会計の事業内容や財務状況等を分かりやすく説明するためにパンフレットを作成し、これを配布するとともにホームページにおいても公表するなどしている。
さらに、予算の効率性を高めていくため、「予算編成等の在り方の改革について」(平成21年10月閣議決定)において、22年度予算から、「予算編成・執行プロセスの抜本的な透明化・可視化」や「年度末の使い切り等、無駄な予算執行の排除」等の取組を実施するとされている。これらの取組のうち、「予算編成・執行プロセスの抜本的な透明化・可視化」に係るものとして、各府省は、ホームページにおいて、所管する予算の概算要求書及び政策評価調書を公開することなどとされ、22年度予算から概算要求書、政策評価調書等が各府省のホームページで公表されている。
また、特会法施行令により、特別会計の歳入歳出予算に基づき、各項の金額を各目に区分し、必要に応じて各目の金額を細分し、これらの計算の基づくところを示した歳入歳出予定額各目明細書を作成することが規定されている。この歳入歳出予定額各目明細書は、従前はインターネットによる開示はされていなかったが、上記の閣議決定に基づく取組の一環として、23年度予算から各府省のホームページで公表されている。
(1)から(3)のとおり、特別会計の財政状況については透明性の向上が図られてきているが、特別会計の財務等に関する情報は分量が膨大で内容も多岐にわたることから、必要な情報の有無等を把握しにくい場合がある。
特別会計の財政状況の透明性を高めるためには、情報を分かりやすい形で提供することが重要であると考えられるため、1から3までの検査及び18年報告での検査を踏まえ、特別会計における情報の開示の状況についてみると、次のような状況が見受けられた。
1(2)イ(参照) のとおり、一般会計及び特別会計の歳入歳出には重複が生ずるため、一般会計及び全特別会計を合わせた国の財政規模や会計及び勘定相互間の依存関係をみるためには、これらの重複を控除した純計や重複している状況をみることが必要であり、従来、財政法第28条等による予算参考書類等に国全体としての純計額が記載されている。これに加えて、前記行政改革の重要方針等により、当該予算参考書類に一般会計及び特別会計全体を合わせた所管(主管)別及び主要な経費別の純計額が20年度から記載された。しかし、決算における特別会計別及び勘定別の純計額は示されていないため、各特別会計、各勘定の純計での規模の把握が困難な状況となっている。また、1(2)オ(参照) のとおり、歳入歳出の重複以外にも実質的に国の内部の取引として捉えられるものとして、資金が年度を越えて移動したと捉えられる前年度剰余金等の受入れや歳入歳出外で経理されている積立金等との間の資金の受払いがあるが、このような取引区分別にみた財政収支の内訳を示しているものはない。
(イ) 特定財源等
2(2)ウ(イ)(参照) のとおり、社会資本整備事業特別会計空港整備勘定では特定財源等である航空機燃料税財源を一般会計を経由して受け入れているほか、一般財源も一般会計から受け入れている。しかし、同特別会計の予算参照書及び決算参照書においては、「一般会計より受入」としてまとめて表示されているため、特定財源等分の額を把握することができない。航空機燃料税財源分の金額を把握するには、繰り入れる側である一般会計の予算参照書及び決算参照に示されている歳出科目の「目」のうち、「航空機燃料税財源」の記載がある同特別会計への繰入額を集計する必要がある。
(ウ) 積立金等
積立金等に関する情報として、予算参照書及び決算参照書に積立金明細表及び資金増減実績表が、更に予算参照書には資金増減計画表が添付されている。これらの書類には、19年度予算から、積立金等の目的や根拠等が記載され透明性の向上が図られているが、3(3)ウ(参照)
のとおり、積立金等の保有すべき規模、水準等については、地震再保険特別会計等の6資金以外は、ソルベンシー・マージン比率を用いて試算しているものなどはあるが、具体的には示されていない。なお、これら6資金のうち労働保険特別会計労災勘定については、財務省が作成しているパンフレットには積立金の保有すべき規模、水準等の具体的な金額が示されているが、積立金明細表には示されていない。積立金等については、18年報告において、「積立金等の保有量については、設置目的、使途、特別会計の事業規模等に応じ、それぞれ適正規模があると考えられるが、ほとんどの資金においては、そのような基準を具体的に定めていない。このため、積立金等の残高が適正な水準であるかどうかを判断できず、資金の有効活用を図る上での財政統制が機能しにくい状況となっている。」としているが、これら6資金以外は現時点においても同様の状況となっている。したがって、積立金等の有効活用を図る上での財政統制の機能を向上させるため、積立金等の保有すべき規模、水準等を具体的に示すことについて検討する必要がある。
また、3(2)ア(イ)b(参照)
及び3(3)イ(ウ)(参照)
のとおり、年金特別会計基礎年金勘定の積立金は基礎年金の給付に充てられておらず、新たな積立ても行われないため残高は昭和61年度末から変わっていないが、これを財政融資資金に預託して運用しているため、これに係る収入が発生している。この運用収入は法令により積立金に積み立てることとされていないため、積立金に積み立てられずに毎年度剰余金となり翌年度の歳入に繰り入れられている。そして、平成22年度末での運用収入の累積額は7964億円となっているが、この累積額は定期的に公表されていない。しかし、これは将来基礎年金の給付に充てられることとなるため、この累積額についての定期的な情報の開示を検討する必要がある。
各特別会計における一般会計及び他の特別会計(他の勘定)からの繰入未収金(繰戻未収金を含む。以下同じ。)については、国会提出書類では、一般会計については国の債務に関する計算書に、特別会計については各特別会計の債務に関する計算書に、将来繰り入れる側からみた他会計への繰入未済金(繰戻未済金を含む。以下同じ。)としてそれぞれ示されており、また、特別会計財務書類では、発生主義により整理されているという点で国会提出書類と違いがあるほか、会計間の繰入未収金に加えて勘定間での繰入未収金も記載されている。そして、21年度末におけるこれらの状況は図表4-2
のとおりとなっている(図表4-2
では、注(1)
に記載のとおり、国会提出書類については、将来繰り入れられる特別会計側からみた繰入未収金として整理している。)。なお、国の債務に関する計算書には、従前一般会計から他会計への繰入未済金は記載されていなかったが、平成20年度決算検査報告における会計検査院の検査結果を踏まえ、21年度から記載されることとなった。
今回、特別会計の財政状況の透明性という観点から、特別会計と一般会計との間の繰入れなどについてみたところ、国会提出書類及び特別会計財務書類に計上されているもののほかに、一般会計が特別会計に対して将来的に繰入れの義務等を負っているものが、図表4-2
のとおり、特定国有財産整備特別会計等5特別会計8勘定で見受けられた。
特別会計名 | 国会提出書類 | 特別会計財務書類 | 左に計上されていないもの | ||||
勘定名 | 繰入元会計名 (勘定名) |
繰入未収金 注(1) | 繰入元会計名 (勘定名) |
繰入未収金 | 繰入元会計名 (勘定名) |
繰入未収金 | |
交付税及び譲与税配付金 | |||||||
交付税及び譲与税配付金 | 一般 | 2,946,485 | 一般 | 6,250,285 | - | - | |
国債整理基金 | 一般 | 925,521 | 一般 | 925,521 | - | - | |
社会資本整備事業 (道路整備) |
165,278 | 社会資本整備事業 (道路整備) |
165,278 | ||||
特定国有財産整備 | - | - | - | - | 一般 | 19,149 | |
エネルギー対策 | |||||||
エネルギー需給 | - | - | - | - | 一般 | 701,628 | |
電源開発促進 | 一般 注(2) | 13,600 | 一般 | 59,500 | 一般 | 106,798 | |
一般 注(3) | 45,900 | ||||||
船員保険 | - | - | 一般 | 0 | - | - | |
年金 | |||||||
基礎年金 | - | - | (国民年金) | 565,789 | - | - | |
(厚生年金) | 2,521,374 | ||||||
国民年金 | 一般 | 445,400 | 一般 注(4) | 445,400 | 一般 | 未確定 | |
- | - | 一般 注(5) | 313,480 | - | - | ||
一般 注(6) | 12,314 | ||||||
(基礎年金) | 232,751 | ||||||
厚生年金 | 一般 | 2,635,000 | 一般 注(7) | 2,635,000 | 一般 | 未確定 | |
- | - | 一般 注(5) | 1,353,730 | - | - | ||
一般 注(6) | 845,440 | ||||||
(基礎年金) | 146,057 | ||||||
労働保険 | 1,845 | ||||||
福祉年金 | - | - | 一般 注(6) | 1,854 | - | - | |
児童手当 | - | - | 一般 | 37,499 | - | - | |
食料安定供給 | |||||||
農業経営基盤強化 | - | - | (調整) | 60,592 | - | - | |
農業経営安定 | - | - | (調整) | 4,680 | - | - | |
麦管理 | - | - | (調整) | 4,905 | - | - | |
調整 | - | - | (米管理等) | 551,733 | - | - | |
農業共済再保険 | |||||||
再保険金支払基金 | - | - | (農業) | 4,637 | - | - | |
(果樹) | 1,558 | ||||||
貿易再保険 | - | - | - | - | 一般 | 921,019 | |
自動車安全 | |||||||
保障 | 一般 | 49,000 | 一般 | 49,000 | 一般 | 1,747 | |
自動車事故対策 | 一般 | 435,768 | 一般 | 435,768 | 一般 | 95,133 |
図表4-2 の「左に計上されていないもの」欄に記載した、一般会計が特別会計に対して将来的に繰入れの義務等を負っているものについて、その内容等を各特別会計各勘定ごとに示すと図表4-3 のとおりとなる。
繰入先特別会計名(勘定名) | 内容 | 繰入状況等 (百万円)
|
繰入れの根拠法 | 今後の繰入れの目途 |
特定国有財産整備 | 平成14年度の特定国有財産整備計画により、国家公務員共済組合連合会から借り受けている公務員宿舎を建て替えるため取得し、その費用の財源の一部を、後日、一般会計から繰り入れることとすることが法令に定められているもの | 14年度から 16年度 11,154
17年度 3,942
18年度 3,942
19年度 3,942
20年度 3,942
21年度 3,942
|
特会法附則第176条第2項「国有財産の効率的な活用を推進するための国有財産法等の一部を改正する法律」(平成18年法律第35号)附則第3条「国有財産の効率的な活用を推進するための国有財産法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令」(平成18年政令第184号)附則第2条 | 原則として28年度までの間において分割して繰り入れる予定 |
21年度末残高 19,149
(参考)
22年度末残高 19,149
|
||||
エネルギー対策(エネルギー需給) | 石油石炭税及び電源開発促進税の収入は、一般会計の歳入に組み入れた上、原則として、予算で定めるところにより一般会計から繰り入れるが、財政需要等に応じて繰入れを行わず、繰り入れることが必要となるまでの間、一般会計に留保されているもの | 参照 | 特会法第90条特会法第91条行政改革推進法第36条第2項 | 明示されていない |
21年度末残高 701,628
(参考)
22年度末残高 768,359
|
||||
エネルギー対策(電源開発促進) | 参照 | |||
21年度末残高 106,798
(参考)
22年度末残高 135,564
|
||||
年金(国民年金) | 6年度及び7年度に、一般会計から国民年金特別会計国民年金勘定(19年度以降は年金特別会計国民年金勘定)に繰り入れるべき国庫負担金の一部(4454億円)が繰り延べられたが、これが繰り延べられなかったとした場合に生じていたと見込まれる運用収入に相当する額を、後日、一般会計から繰り入れることとすることが法律に定められているもの | 繰入実績なし | 「平成6年度における財政運営のための国債整理基金に充てるべき資金の繰入れの特例等に関する法律」(平成6年法律第43号)第3条「平成7年度における財政運営のための国債整理基金に充てるべき資金の繰入れの特例等に関する法律」(平成7年法律第60号)第7条 | 明示されていない |
21年度末残高 未確定
(参考)
22年度末残高 未確定
|
||||
年金(厚生年金) | 7年度から10年度までに、一般会計から厚生保険特別会計年金勘定(19年度以降は年金特別会計厚生年金勘定)に繰り入れるべき国庫負担金の一部(2兆6350億円)が繰り延べられたが、これが繰り延べられなかったとした場合に生じていたと見込まれる運用収入に相当する額を、後日、一般会計から繰り入れることとすることが法律に定められているもの | 繰入実績なし | 「平成7年度における財政運営のための国債整理基金に充てるべき資金の繰入れの特例等に関する法律」第6条「平成8年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律」(平成8年法律第41号)第3条「平成9年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律」(平成9年法律第27号)第3条「平成10年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律」(平成10年法律第35号)第3条 | 明示されていない |
21年度末残高 未確定
(参考)
22年度末残高 未確定
|
||||
貿易再保険 | 政府の再保険等に関して取得した債権等であって、対外債務を履行することが著しく困難であると認められる国の政府等について、国際約束で定めるところにより、免除又は放棄したために必要となる額を、一般会計から繰り入れることができることが法律に定められているもの | 国際約束で定めるところにより免除又は放棄した額(A) 1,166,342
|
特会法第186条第1項第3号 | 明示されていない |
元年度から16年度 231,237
17年度 2,000
18年度 4,800
19年度 2,500
20年度 2,386
21年度 2,400
|
||||
上記の(A)と21年度までに繰り入れた額との差額 921,019
(参考)
22年度 1,600
上記の(A)と22年度までに繰り入れた額との差額 919,419
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自動車安全(保障) | 6年度(8100億円)及び7年度(3100億円)に自動車損害賠償責任再保険特別会計(20年度以降は自動車安全特別会計)から一般会計に繰り入れた額を繰り入れなかったとした場合に生じていたと見込まれる運用収入に相当する額を、後日、一般会計から繰り入れることとすることが法律に定められているもの | 15年度 6,111
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「平成6年度における財政運営のための国債整理基金に充てるべき資金の繰入れの特例等に関する法律」第7条「平成7年度における財政運営のための国債整理基金に充てるべき資金の繰入れの特例等に関する法律」第10条 | 原則として30年度までの間において分割して繰り入れる予定 |
21年度末残高 1,747
(参考)
22年度末残高 2,409
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自動車安全(自動車事故対策) | 15年度 50,813
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21年度末残高 95,133
(参考)
22年度末残高 102,061
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21年度末残高等合計 1,845,475 (参考)
22年度末残高等合計1,946,964 |
注(1) | 特定国有財産整備特別会計は、平成22年度以降は財政投融資特別会計特定国有財産整備勘定である。
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注(2) | 年金特別会計の国民年金、厚生年金両勘定について、運用収入相当額は繰入れの際に確定するものであるが、繰入れの実績がないため残高が未確定となっている。
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これらは、一般会計が特定国有財産整備特別会計等5特別会計8勘定に対して、特会法等に基づき、将来的に繰入れの義務等を負っているものではあるが、繰入れの時期及び金額が法令等に明記されていなかったり、必要があるときに限り一般会計から繰り入れることができるとされているもので、国会の議決を受けない限り、当該金額に関して、一般会計が特別会計に繰り入れる義務を負うというものではなかったりすることなどから、国会提出書類及び特別会計財務書類には記載されておらず、このような義務等が存在することが表示されていないと考えられる。しかし、将来これらの繰入れを行う際には、その財源として、一部を除いて租税収入等一般会計の歳入を充てる必要があると考えられることから、後年度の財政負担の要因となる可能性もあるものである。
したがって、前記行政改革の重要方針にあるように、一般会計及び特別会計を通じて一覧性・総覧性を持った形で国の財政状況を説明し十分な説明責任を果たすために、このような状況についての情報の開示を検討する必要がある。
ウ 各特別会計における一般会計からの繰入れに関する情報の開示の状況
3(3)ウ(オ)(参照
)のとおり、農業共済再保険特別会計では一般会計から過大に繰り入れられた額の累計額が、22年度末時点で、家畜勘定120億7938万円、果樹勘定213億5148万円、園芸施設勘定94億8148万円、計429億1235万円あるが、この累計額について、農林水産省は、近年、保険事故の発生が少ない農業勘定で、共済掛金に係る国庫負担金である一般会計からの繰入れを抑制することで、同特別会計全体としての累計額を23年度までに可能な限り縮小するとしている。
しかし、家畜、果樹、園芸施設各勘定では依然としてこの累計額は残ることになる。そして、家畜、果樹、園芸施設各勘定と農業勘定とでは共済保険の加入者はそれぞれ異なるため、各勘定の累計額はそれぞれの勘定において処理すべきものである。特別会計の財政状況を説明し十分な説明責任を果たすために、こうした累計額の状況についての情報の開示を検討する必要がある。
エ 18年報告において透明性の面からの課題として記述した事項の現在の状況
18年報告において、特別会計の財政状況の透明性の確保が必ずしも十分に図られていないとした事項は次のとおりである。
〔1〕 一般会計繰入率について、率という形で明示した情報は定期的に提供されていない。また、特定財源等のうち一般会計経由分については、一般財源による繰入額と合わせて「一般会計より受入」として科目表示されるため、予算書・決算書からはその額は把握できない。 |
〔2〕 歳入歳出予定計算書では科目別のほか事項別にも区分することとされているが、歳入歳出決定計算書では事項別に区分することとされていないため、一般会計と同様、予算書・決算書上で事項別の対比を行うことは困難となっている。 |
〔3〕 繰越額・不用額について、年度ごとの推移が一覧できる形で示されておらず、また、ほとんどの積立金等については保有規模に関する基準が示されていない。 |
〔4〕 同一の出資法人に対して、一般会計又は他の特別会計から出資等が行われている場合、それらを集計した形での情報は示されていない。 |
〔5〕 一般会計と特別会計間、特別会計間、特別会計と積立金等の間など国の内部の資金の動きの全体が分かるものは示されていない。 |
〔6〕 一般会計と同様な主要経費別分類を示す科目コードが付されていないため、重点施策等への資金配分の状況が把握できない。また、一般会計からの繰入金、積立金等の残高、出資額等について、各特別会計を横並びで一覧できるものを定期的に示しているものはない。 |
これらの事項について、その後の状況は次のとおりである。
〔1〕 一般会計繰入率については、定期的に情報が提供されていないが、(3) のとおり、19年度から、特会法による特別会計の財務に関する情報の開示として、一般会計からの繰入額及びその理由が各府省のホームページで公表されている。また、一般会計経由の特定財源等については、ア(イ) のとおり、特別会計の予算書・決算書からはその額は把握できない。
〔2〕 (1)イ のとおり、20年度から事項別内訳が記載されている。
〔3〕 繰越額・不用額については、財務省が毎年度作成し国会に提出している「決算の説明」において、22年度から、特別会計の繰越額・不用額の5か年の推移が記載されている。また、積立金等の保有規模に関する基準については、3(3)ウ(参照 )のとおり、一部の積立金等については公表されているが、多くの積立金等については示されていない。
〔4〕 一般会計と特別会計とが同一の出資法人に出資し又は補助金等を交付している場合、それらを集計した形での一覧情報は示されていないが、国の財務書類に国の業務と業務関連性がある特殊法人等を連結した連結財務書類に、17年度分から、これらの特殊法人等に対する国からの出資額等が記載され、19年度から公表されており、その情報は財務省のホームページにも公表されている。また、国の業務を遂行する上で重要な役割を担っている独立行政法人に対する交付金や補助金等の支出額が「決算の説明」に記載されており、20年度からは、財務省のホームページにも公表されている。
〔5〕 ア(ア) のとおり、歳入歳出外で経理されている積立金等との間の資金の受払いなどを含めた国の内部の資金の動きの全体が分かるものは示されていない。
〔6〕 (1)ア 及びイ のとおり、20年度から主要経費別分類を示すコード番号が付されている。また、積立金等の残高については、18年から毎年定期的に、財務省作成のパンフレットに各特別会計が一覧できる形で記載され、財務省のホームページで公表されている。一般会計からの繰入金、出資額等については、各特別会計を横並びで一覧できるものを定期的に示しているものはないが、19年度から、〔1〕 のとおり、一般会計からの繰入額及びその理由が各府省のホームページで公表されており、また、〔4〕 のとおり、連結財務書類に出資法人に対する国からの出資額等が記載されており財務省のホームページで公表されている。
国の財政状況については、国会提出書類、財務書類、各府省のホームページ等により、国の財務等に関する各種の情報について公表する事項を増やしたり、予算と決算が対応する形で情報を公表したりすることなどで、その透明性の向上が図られてきている。しかし、次のとおり、国の財政状況を明らかにする上で重要であると思料される情報が開示されていない状況が見受けられた。
積立金等については、地震再保険特別会計等の6資金以外は、ソルベンシー・マージン比率を用いて試算して公表しているものなどはあるが、その保有すべき規模、水準等が具体的には示されていない状況となっている。また、年金特別会計基礎年金勘定では、積立金を財政融資資金に預託して運用しているが、これに係る運用収入の累積額が定期的に公表されていない状況となっている。
各特別会計における繰入未収金等に関する情報の開示については、一般会計が特会法等に基づき特定国有財産整備特別会計等5特別会計8勘定に対して将来的に繰入れの義務等を負っている状況についての情報が開示されていない状況となっている。また、各特別会計における一般会計からの繰入れに関する情報の開示については、農業共済再保険特別会計における一般会計からの過大な繰入額の累計額等の状況についての情報が開示されていない状況となっている。
18年報告において透明性の面からの課題として記述した事項については、歳入歳出決定計算書に20年度から事項別内訳が記載されるなどした一方、現在でも、〔1〕 一般会計繰入率が定期的に情報提供されていない、〔2〕 多くの積立金等でその保有すべき規模、基準等が具体的に示されていない、〔3〕 一般会計と特別会計とが同一の出資法人に出資し又は補助金等を交付している場合にそれらを集計した形での一覧情報が提供されていない、〔4〕 積立金等との間の資金の受払いなどを含めた国の内部の資金の動きの全体が分かるものが示されていないなどの状況となっている。
このように、透明性の向上が図られてきているが、上記の状況に関する情報の開示について更なる充実を図るよう検討する必要がある。