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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
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  • 平成24年1月

大規模な治水事業(ダム、放水路・導水路等)に関する会計検査の結果について


5 高規格堤防整備事業

(1) 事業の目的、必要性等についての検討の状況

ア 事業の概要

(ア) 高規格堤防整備事業創設の経緯

 治水事業は、自然的・社会的条件の下において、一定限度の規模の洪水を対象としその氾濫の防止に必要な計画を策定して、これに基づき河川工事を実施するという方法により従来進められてきた。しかし、洪水は自然現象である降雨に起因するものである以上、超過洪水が発生する可能性は常に存在しており、超過洪水により、特に各種の中枢機関が集中した東京、大阪等の大都市地域における大河川の堤防が破堤した場合、当該地域に壊滅的な被害が発生し、ひいては我が国全体の社会経済活動等に致命的な影響を与えることが懸念される。このことから、これらの地域においては、破堤に伴う壊滅的な被害の発生を防ぐことがより重要な状況となっているとして、昭和62年3月に河川審議会(注) から「超過洪水対策及びその推進方策について」が答申された。
 そして、人口・資産の集中、さらには中枢機能の集積の著しい東京、大阪等の大都市地域の大河川における特定の一連区間においては、超過洪水等に対して、破堤による壊滅的な被害を回避し、治水安全度の向上を図ることなどを目的として62年度に高規格堤防整備事業が創設された。

 河川審議会  建設大臣の諮問に応じ、河川に関する重要事項を調査審議するために設置されたもので、平成13年1月6日以降は国土交通大臣の諮問に応じて設置される社会資本整備審議会となった。

(イ) 高規格堤防の構造

 高規格堤防の構造は、河川管理施設等構造令(昭和51年政令第199号。以下「構造令」という。)等において、超過洪水に対しても破堤しないよう、堤内地側の堤防の勾配を3%以内とすることとされており、このため、堤防の幅は堤防の高さの30倍程度が必要になるとされている(図表5-1 参照)。以下、これらの高規格堤防に必要な高さ及び幅を満たした堤防の断面形状を「基本断面」という。)。
 また、高規格堤防の区域内の土地は、宅地等として通常の利用に供されることなどから、高規格堤防は、地震に対しても安全なものとして設計することとされている。
 なお、図表5-1 のとおり、高規格堤防は、通常堤防よりも格段に広い幅を持つ構造であり、通常堤防と同様に堤防以外の目的に利用することがないものとして築造することは、多数の移転者が発生し、また、多大な用地補償費を要することになる。これらのことから、従来、国土交通省は、高規格堤防の整備については、原則として用地買収を行うことなく施行し、一般的に土地区画整理事業や市街地再開発等のまちづくり事業との共同事業で実施する手法によることとし、また、完成後には地権者等が高規格堤防の区域内において住宅の建設等通常の土地利用を行えることが、高規格堤防整備事業の基本的なスキームであるとしている。

図表5-1 高規格堤防概念図
図表5-1高規格堤防概念図
(注)
 定規断面とは、通常堤防として必要とされる、構造令から定まる高さ、天端幅、法勾配等の断面形状をいう。

(ウ) 対象河川及び対象区間

 各水系における河川整備基本方針等において、高規格堤防を整備することとされている河川は、利根川、江戸川、荒川、多摩川、淀川及び大和川(以下「6河川」という。)であり、6河川において、高規格堤防を設置する区間のうち山に接しているなどのため整備が不要な区間を除いた区間(以下「要整備区間」という。)の延長は、図表5-2 のとおり、計872.6kmとなっている。
 また、国土交通省は、高規格堤防の更なる効率的、効果的な整備を図るため、平成17年3月に、要整備区間のうち特に国家的な中枢機能と活動が集中している区域を防御する区間等を「重点整備区間」として設定しており、その延長は計223.8kmであり、要整備区間の延長に占める割合は25.7%となっている。

図表5-2 高規格堤防の設置区間、要整備区間等の延長
水系名 河川名 設置区間 要整備区間の延長(a)   (b)/(a)
重点整備区間の延長(b)
      km km
利根川 利根川 小山川合流点〜河口 362.5 49.9 13.8
江戸川 利根川分派点〜河口 120.6 53.3 44.2
荒川 荒川 熊谷大橋〜河口 174.1 58.2 33.4
多摩川 多摩川 日野橋〜河口 82.6 28.1 34.0
淀川 淀川 木津川・桂川合流点〜河口 89.2 16.9 19.0
大和川 大和川 関西線第6大和川橋梁〜河口 43.6 17.3 39.9
872.6 223.8 25.7
(注)
 要整備区間及び重点整備区間の延長は左右両岸の延べ延長である。

イ 高規格堤防の見直しに関する検討会

 第1 2の(3)ウ 及び(4) のとおり、高規格堤防については、整備に多大な時間と費用を要するなどの点で見直しを強く求められていることなどを受けて、国土交通省は、検討会を23年2月に設置して検討を行っており、検討会は、同年8月に、人命を守ることを最重視して要整備区間を大幅に絞り込むことなどの「高規格堤防整備の抜本的見直し(とりまとめ)」を取りまとめている。
 そして、23年10月末現在、国土交通省は、上記の取りまとめを受けるなどして、事業スキームの見直しなどを行っているとしている。

(2) 事業の実施状況

ア 事業スキーム

 高規格堤防整備事業の事業スキームは、上記のとおり、見直しなどが行われているところであるが、事業の実施状況について検査したところ、通達等に基づいた事業執行が行われていなかったり、一般的に示されている整備手法と実際の整備手法が異なっていたりなどしていて、現行の事業スキームが十分に機能していないまま事業が実施されている状況が、次のとおり見受けられた。

(ア) 沿川整備基本構想及び沿川市街地整備計画

a 策定状況

 高規格堤防の整備に当たっては、高規格堤防と市街地との一体的かつ計画的な整備を推進するため、「高規格堤防整備と市街地整備の一体的推進について」(平成6年建設省都計発第146号、建設省河治発第85号。以下「一体的推進通達」という。)等が定められ、高規格堤防の区域内の土地が通常の利用に供されるものであること、また、高規格堤防の整備は都市計画法(昭和43年法律第100号)に基づく都市計画区域内で実施される場合がほとんどであることなどから、沿川地域の土地利用及び都市基盤施設の整備との整合を図る必要があるとされている。このため、高規格堤防の整備に当たっては、高規格堤防等と沿川地域の市街地の整備等に関する基本構想(以下「沿川整備基本構想」という。)を策定し、これに基づき計画的に整備を進めていくこととされている。そして、沿川整備基本構想において、対象地区、対象地区の整備のマスタープラン及び優先的に整備を進める地区を定めることとされている。
 さらに、沿川整備基本構想において優先的に整備を進めることとされた地区のうち、高規格堤防等の整備と併せて一体的に市街地整備を行うことが適当であると認められる地区については、当該市町村等が河川管理者と協議して、高規格堤防等と整合のとれた市街地整備に関する計画(以下「沿川市街地整備計画」という。)を策定の上、高規格堤防整備事業を実施することとされている。
 そこで、6河川における沿川整備基本構想の策定状況についてみたところ、利根川以外の5河川では8年から13年までの間に策定していたものの、利根川では、沿川に市街地整備の動きがないことなどを理由として沿川整備基本構想を策定していなかった。
 また、沿川市街地整備計画については、策定している地区は6河川において1地区もなく、一体的推進通達等が想定した高規格堤防等と市街地との一体的整備は実施されていない状況となっていた。

b 沿川整備基本構想の対象地区等の状況

 前記のとおり、沿川整備基本構想において、対象地区等を定めることとされており、対象地区等における事業の実施状況は、図表5-3 のとおりである。

図表5-3 沿川整備基本構想の対象地区等の状況
河川名 沿川整備基本構想上の位置付け 沿川整備基本構想の対象地区数 事業の実施状況
完成・暫定完成 事業中 停止・中止 事業未実施
利根川 未策定 (21) (16) (4) (1)
江戸川 整備を推進する地区 10 10 0 0 0
整備の計画づくりを進める地区 3 1 0 0 2
調査・検討を進める地区 30 1 1 0 28
整備済地区 5 5
位置付けられていない地区 (2) (0) (2) (0)
荒川(東京ブロック) 高規格堤防と市街地の整備を推進する地区 7 4 3 0 0
整備の計画づくりを進める地区 5 1 1 0 3
調査・検討を進める地区 12 0 1 0 11
高規格堤防が整備された地区 5 5
位置付けられていない地区 (0) (0) (0) (0)
荒川(埼玉ブロック) 高規格堤防整備を推進する地区 4 3 1 0 0
計画づくりを進める地区 4 0 2 0 2
調査・検討を進める地区 7 0 0 0 7
一部整備された地区 3 3
位置付けられていない地区 (1) (0) (1) (0)
多摩川 整備を推進する又は目指す地区 9 7 1 0 1
整備の計画づくりを目指す地区 8 0 2 0 6
当面、調査又は検討を行う地区 14 0 0 0 14
整備済地区 3 3
位置付けられていない地区 (5) (4) (1) (0)
淀川 優先的に整備を進める地区 15 13 1 0 1
優先的に検討を進める地区 8 0 1 0 7
実施済の地区(部分完成も含む) 5 5
位置付けられていない地区 (6) (3) (3) (0)
大和川 優先的に整備を進める地区 7 5 2 1 0
優先的に検討を進める地区 10 3 3 2 6
位置付けられていない地区 (3) (3) (0) (0)
計 対象地区 174 68 18 3 88
(計 位置付けられていない地区) (38) (26) (11) (1) (-)
合計 212 94 29 4 88
      127    
(注)
 沿川整備基本構想の対象地区数と事業の実施状況の地区数の計とは、同構想上の1地区が、事業実施段階で2地区に分けられて事業を実施しているなどのため一致しないものがある。

 このように、沿川整備基本構想に整備を推進する地区等と位置付けられた地区であっても事業が行われていなかったり、同構想に位置付けられていなかった地区で事業が行われていたりするなど、 高規格堤防と市街地の一体的な整備を推進するために策定された沿川整備基本構想は、必ずしも十分に機能していない状況となっていた。

(イ) 沿川整備協議会の設置状況

 沿川整備協議会は、一体的推進通達において、高規格堤防整備と市街地整備の円滑な推進のための事項について沿川自治体と河川管理者との間で十分な連絡調整を図るため、都道府県ごとに、必要に応じて河川ごとに設置するものとされており、 淀川及び大和川では4年7月に設置されていたが、利根川、江戸川、荒川及び多摩川では設置されていなかった。

(ウ)事業計画書の作成状況

 「高規格堤防整備にかかる事業計画書の作成について(通知)」(平成6年建設省河沿発第1号。以下「作成通知」という。)等において、沿川自治体や多くの関係者等から、事業の目的や内容の正確な理解と協力を得るために、地区別に事業計画書(以下「地区別事業計画書」という。)を作成することとされている。そして、地区別事業計画書は、目的、内容、事業期間、共同事業等を記載することとなっており、既に工事着手済みの地区については速やかに作成し、新規事業地区については工事着手までに作成することとされている。
 しかし、国土交通省において地区別事業計画書を作成していることが確認できたとしているのは、工事に着手した127地区中、淀川の1地区のみであり、地区別事業計画書を通じて沿川自治体等から事業の目的等の理解や協力を得るという作成通知の目的を達していない状況となっていた。

(エ) 整備手法

 財務省が実施した平成22年度予算執行調査によると、沿川整備基本構想の対象地区の調査では、基本的な事業スキームとして一般的に示されている整備手法である、まちづくり事業との共同事業で高規格堤防の整備を行っている地区は15地区とされている。
 そこで、整備手法についてみたところ、原則として用地買収を行わないこと、土地区画整理事業や市街地再開発等のまちづくり事業との共同事業で実施することなどの基本的な事業スキームとして一般的に示されている整備手法と実際の整備手法とが異なっている状況が次のように見受けられた。

a 用地買収等の状況

 上記のとおり、高規格堤防整備事業では、原則として用地買収を行うことなく事業を推進できるとしているが、実際の事業進捗に当たっては、河川防災ステーション、水防拠点等の防災拠点や暫定法面等の河川管理施設を整備する箇所で用地買収をした上で併せて盛土を行うなどして高規格堤防の整備を行っている箇所が、図表5-4 のとおり、127地区中35地区(買収予定1地区を含む。)で見受けられた。

図表5-4 用地買収等の状況
河川名 地区名 利用目的 取得面積 取得金額
      m2
利根川 小見川 水防拠点 656 17,793,860
出津 河川防災ステーション 12,222 204,491,309
安西 機場敷地 5,667 191,923,642
押付 暫定法面 2,658 17,811,079
本宿耕地 河川防災ステーション 37,067 509,222,630
目吹 河川防災ステーション 65,960 371,833,107
大高島 河川防災ステーション 83,839 735,949,886
新川通 河川防災ステーション 76,783 984,631,668
上新郷 河川防災ステーション 79,098 1,062,362,312
江戸川 妙典 暫定法面、暫定擁壁 1,077 467,424,512
市川南 暫定擁壁 197 63,742,931
吉川 河川防災ステーション 36,508 832,926,533
木津内 水防拠点 5,215 115,018,288
堤台 水防拠点 1,360 117,912,867
山王 河川防災ステーション、暫定法面 42,118 378,576,480
荒川 新田一丁目 河川防災ステーション 4,745 849,842,037
川口 堤防敷地 1,855 84,734,384
新田 暫定法面 12 2,181,332
北赤羽 河川防災ステーション 14,805 5,159,274,588
明用 暫定法面 31,194 898,759,968
大里 暫定法面 15,576 74,767,056
久下 水防拠点 7,686 222,125,400
西遊馬 河川防災ステーション 未定 未定
多摩川 大師河原一丁目 河川防災ステーション 1,841 178,415,187
大師河原第二 河川防災ステーション 10,635 1,678,277,166
戸手 堤防敷地 526 244,568,540
淀川 点野第2 水防拠点 13,081 3,856,444,840
新町 水防拠点 236 38,614,700
伊加賀西第2 暫定法面 369 130,045,996
大和川 天美北 水防拠点 3,408 770,361,680
住道矢田 暫定法面 1,003 213,416,796
長吉瓜破 暫定法面 2,016 487,504,496
大正 水防拠点 8,375 1,612,297,945
阪高大和川線(一体整備) 水防拠点 4,339 542,385,000
若林第2 河川防災ステーション 13,072 2,614,548,000
計 35地区 585,213 25,730,186,215

b 共同事業等の状況

 共同事業等の内容について地区ごとにみたところ、民間事業者が関与せず、河川防災ステーション、公園等の公共公益施設のみの整備となっている地区が、図表5-5 のとおり、半数以上を占めていた。

図表5-5 共同事業等が公共公益施設のみの整備となっている地区数
河川名 事業実施地区数 左のうち共同事業等が公共公益施設のみの整備となっている地区数
利根川 20 18
江戸川 19 12
荒川(東京ブロック) 14 5
荒川(埼玉ブロック) 10 9
多摩川 18 4
淀川 26 10
大和川 16 9
123 67

c 都市計画区域別の整備状況

 整備地区を都市計画区域別にみたところ、図表5-6 のとおり、土地区画整理事業、市街地再開発等との連携を図ることができる市街化区域での事業の実施以外に、市街化が抑制されている区域である市街化調整区域等でも事業が多く実施されている状況となっていた。

図表5-6 都市計画区域別の整備状況
河川名 事業実施地区数  
市街化区域 市街化調整区域等
利根川 20 3 17
江戸川 19 8 11
荒川(東京ブロック) 14 14 0
荒川(埼玉ブロック) 10 1 9
多摩川 18 18 0
淀川 26 22 4
大和川 16 16 0
123 82 41

  及び のとおり、土地区画整理事業、市街地再開発等のまちづくり事業との連携により事業の進捗を図るという基本的な事業スキームとして一般的に示されている整備手法によって事業の進捗が図られているとはいえない状況となっていた。
 また、17年3月の重点整備区間の設定後に新たに事業に着手した地区の状況についてみると、図表5-7 のとおりとなっており、重点整備区間の設定前の事業の整備手法と際立った違いは見受けられない状況となっていた。

図表5-7 重点整備区間の設定後に新たに事業に着手した地区の状況
河川名 地区名 事業着手年度 重点整備区間 用地買収 公共公益施設のみ 市街化区域
利根川 目吹 平成17 非該当 該当 非該当
北川辺 20 非該当 該当 非該当
江戸川 市川三丁目 18 非該当 非該当 該当
吉川 19 該当 該当 非該当
西金野井第二 21 該当 非該当 該当
荒川 西遊馬 18 非該当 予定 該当 非該当
新田一丁目 21 該当 該当 該当
多摩川 小向仲野 17 該当 非該当 該当
殿町第一 19 該当 非該当 該当
東古市場 19 該当 該当 該当
二子玉川 19 非該当 該当 該当
港町 20 該当 非該当 該当
淀川 大宮 22 該当 非該当 該当
大和川 阪高大和川線(常磐町) 20 非該当 非該当 該当
JR阪和貨物線 21 該当 未定 該当

 以上のように、当初想定していた、沿川整備基本構想に基づく河川と都市との連携や、まちづくり事業との共同事業により実施するという事業スキームは十分に機能していない状況が見受けられることから、今後、本事業を廃止しない場合には、実現可能性のある事業スキームを構築する必要があると認められる。

イ 地区別の整備状況

 高規格堤防整備事業は、予算執行調査等において、22年4月現在で、事業着手から24年を経過し、22年度当初予算までの累計事業費は6943億円、要整備区間延長872.6kmに対して整備延長は50.8kmで、整備率は5.8%であることから、このままのペースで進めるとして単純計算すると、完成までに約400年、累計事業費約12兆円を要するとされたところである。
 そして、事業中であった地区の中で、22年度に完成した2地区と事業を中止した1地区の事業進捗を反映した22年度末現在の整備状況は、図表5-8 のとおり、整備延長50.6km、整備率5.8%、また、重点整備区間延長223.8kmに対しては、図表5-9 のとおり、整備延長27.7km、整備率12.4%となっている。

図表5-8 要整備区間における高規格堤防整備状況
河川名 要整備区間の延長 完成 暫定完成 事業中
地区数 延長 地区数 延長 地区数 延長 地区数 整備延長 整備率
  km   km   km   km   km
利根川 362.5 9 5.0 7 1.7 4 2.0 20 8.8 2.4
江戸川 120.6 7 3.8 9 4.2 3 0.8 19 8.9 7.4
荒川 174.1 2 0.4 14 4.2 8 6.6 24 11.3 6.5
多摩川 82.6 10 2.7 4 1.7 4 2.3 18 6.9 8.4
淀川 89.2 2 0.7 19 4.0 5 1.1 26 5.9 6.7
大和川 43.6 4 0.8 7 1.8 5 5.9 16 8.6 19.8
872.6 34 13.7 60 17.8 29 19.0 123 50.6 5.8

図表5-9 重点整備区間における高規格堤防整備状況
河川名 重点整備区間の延長 完成 暫定完成 事業中
地区数 延長 地区数 延長 地区数 延長 地区数 整備延長 整備率
  km   km   km   km   km
利根川 49.9 2 0.6 2 0.4 1 0.4 5 1.5 3.1
江戸川 53.3 3 1.5 6 3.4 2 0.7 11 5.7 10.8
荒川 58.2 2 0.4 8 2.3 6 5.9 16 8.7 15.0
多摩川 28.1 6 1.1 2 1.1 3 2.0 11 4.3 15.4
淀川 16.9 0 0.0 3 0.5 4 0.8 7 1.3 8.1
大和川 17.3 2 0.4 4 0.6 3 4.8 9 5.9 34.4
223.8 15 4.2 25 8.6 19 14.8 59 27.7 12.4

 国土交通省は、図表5-8 及び図表5-9 に示したように、完成延長、暫定完成延長及び事業中延長の計を整備延長として、その整備延長をもって整備率を算出していた。
 しかし、河川改修事業において、暫定完成及び事業中のものも含めて整備率を算出しているのは高規格堤防整備事業のみであり、また、前記のとおり、高規格堤防は、超過洪水に対しても破堤しないことを目的として整備されているものであり、その破堤しないという効果は、基本断面が完成した場合において初めて発現することになることから、暫定完成や事業中の状態においては、破堤しないという効果は発現しないものである。
 また、国土交通省は、「完成」とは基本断面が完成したもの、「暫定完成」とは基本断面のうち一部が完成したものと定義して分類しているとしている。そこで、会計実地検査において各地区の状況を現地及び図面で確認したところ、実際には、地区の中に基本断面が完成した延長が一部でもあれば「完成」に分類してその地区の延長全てを完成延長として計上しており、また、中には基本断面が完成した延長が全くないのに「完成」に分類してその地区の延長全てを完成延長に計上している地区も見受けられ、国土交通省が算定した完成延長は、基本断面が完成した延長とはなっていなかった。
 上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例5-1>

 利根川の大高島地区は、平成12年度に事業着手し、21年度に基本断面が完成したとして完成地区とされ、完成延長は600mであるとされている。
 しかし、参考図5-1 のとおり、基本断面が完成している延長は290mであり、残りの310mは、背後の盛土が行われていないため、基本断面が完成していなかった。

参考図5-1

 大和川・矢田地区(完成地区)

大和川・矢田地区(完成地区)

<事例5-2>

 大和川の矢田地区は、平成10年度に事業着手し、16年度に基本断面が完成したとして完成地区とされ、完成延長は70mであるとされている。
 しかし、参考図5-2 のとおり、同地区を横断している線路の廃線後の土地利用計画が未定になっているなどのため横断方向に盛土が行われていない箇所があり、基本断面が全く完成していなかった。

参考図5-2

 大和川・矢田地区(完成地区)

大和川・矢田地区(完成地区)

 このことから、会計検査院において、基本断面が完成していると認められる延長について改めて集計を行って高規格堤防の整備延長及び整備率を算出すると、要整備区間においては、図表5-10 、重点整備区間においては、図表5-11 のとおりとなった。

図表5-10 要整備区間における、国土交通省の考え方による整備延長及び整備率と会計検査院の検査結果
河川名 要整備区間の延長 国土交通省の考え方 会計検査院の検査結果
整備延長 整備率 整備延長 整備率
  km m m
利根川 362.5 8,810 2.4 2,300 0.6
江戸川 120.6 8,900 7.4 2,160 1.8
荒川 174.1 11,360 6.5 250 0.1
多摩川 82.6 6,970 8.4 3,325 4.0
淀川 89.2 5,970 6.7 808 0.9
大和川 43.6 8,620 19.8 620 1.4
872.6 50,630 5.8 9,463 1.1
注(1)  国土交通省は、完成延長、暫定完成延長及び事業中延長の計を整備延長としている。
注(2)  会計検査院は、基本断面が完成している延長を整備延長としている。

図表5-11 重点整備区間における、国土交通省の考え方による整備延長及び整備率と会計検査院の検査結果
河川名 要整備区間の延長 国土交通省の考え方 会計検査院の検査結果
整備延長 整備率 整備延長 整備率
  km m m
利根川 49.9 1,570 3.1 240 0.5
江戸川 53.3 5,760 10.8 360 0.7
荒川 58.2 8,750 15.0 190 0.3
多摩川 28.1 4,340 15.4 1,465 5.2
淀川 16.9 1,370 8.1 0
大和川 17.3 5,950 34.4 240 1.4
223.8 27,740 12.4 2,495 1.1
注(1)  国土交通省は、完成延長、暫定完成延長及び事業中延長の計を整備延長としている。
注(2)  会計検査院は、基本断面が完成している延長を整備延長としている。

 すなわち、国土交通省は要整備区間における整備延長を50,630m、整備率を5.8%としていたが、会計検査院において改めて算出すると、整備延長は9,463m、整備率は1.1%となり、同じく、重点整備区間における国土交通省の整備延長27,740m、整備率12.4%は、整備延長2,495m、整備率1.1%となった。
 破堤しないという高規格堤防の効果は基本断面が完成した場合において初めて発現することから、高規格堤防の整備延長及び整備率については、高規格堤防整備の目的、効果等を考慮して算出する必要があると思料される。
 また、高規格堤防としての効果は、基本断面が完成して初めて発現することは当然のことであるが、整備に当たっては、盛土を行うことができる箇所から部分的に施工していく段階的な施工が多数実施されている。そして、国土交通省は、段階的な施工による整備は、超過洪水に対しても破堤しないという効果は発現しないが、通常堤防の断面を拡幅することなどにより、堤防が強化されるという副次的効果(以下「堤防強化効果」という。)を有し、破堤の危険性が減少する効果があるとしている。
 しかし、会計実地検査において現地及び図面で確認したところ、段階的な施工となっている地区等の中には盛土が通常堤防と接していないため断面の拡幅が行われておらず、堤防強化効果を有していないと認められる地区等が見受けられた。
 上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例5-3>

 江戸川の妙典地区は、平成4年度に事業着手し、10年度に基本断面が完成したとして完成地区とされ、完成延長は1,100mであるとされている。
 しかし、参考図5-3 のとおり、基本断面が完成しているのは290mであり、残りの810mは地下鉄の車両基地部分について盛土が行われておらず、また、このうち700mは、通常堤防と接していないため断面の拡幅が行われておらず、堤防強化効果を発現し得ない状況となっていた。

参考図5-3

 江戸川・妙典地区(完成地区)

江戸川・妙典地区(完成地区)

 なお、高規格堤防整備の目的である破堤しない堤防にはなっていないが、高規格堤防整備による堤防強化効果を有していると思料される延長を算出すると計20,807mとなる。
 また、事業中の地区において、次のとおり、当該地区の整備が完了しても事例5-3 と同様に堤防と接しない延長が含まれている地区が見受けられた。

<事例5-4>

 多摩川の二子玉川地区は、平成19年度に事業着手し、390mが事業中となっているが、このうち140mの盛土部の区間については、参考図5-4 のとおり、同地区の整備が完了しても現在施工中の新堤と接しないため断面の拡幅が行われず、新堤に対する堤防強化効果を発現し得ない状況となっている。

参考図5-4

 多摩川・二子玉川地区(事業中地区)

多摩川・二子玉川地区(事業中地区)

ウ 整備後の管理

(ア) 高規格堤防特別区域の指定等の状況

 高規格堤防の区域内は河川区域であり、河川区域については、その区域内で工作物の新築、改築等を行うときは、河川管理者の許可を受けなければならないなど、河川法上の規制を受けることになる。このため、高規格堤防の区域内の土地のうち通常の利用に供することができる土地の区域については、高規格堤防の整備の円滑な推進を図ることを目的として、河川区域の規制が緩和される高規格堤防特別区域に指定することとされており、河川管理者は、指定するときは、その旨を公示(以下、指定及びその旨の公示を合わせて「指定等」という。)しなければならないとされている。
 しかし、高規格堤防の区域内の土地が通常の利用に供されている完成地区及び暫定完成地区において、隣接地区と合わせて指定等を行うこととしていることなどを理由として指定等が行われていない地区が、図表5-12 のとおり見受けられた。

図表5-12 高規格堤防特別区域の指定等の状況
河川名 要指定等地区数
  高規格堤防特別区域の指定等
実施済み地区数 未済地区数
利根川 14 9 5
江戸川 13 9 4
荒川 14 10 4
多摩川 14 7 7
淀川 20 19 1
大和川 8 4 4
83 58 25

 このように、高規格堤防特別区域の指定等が行われないと、高規格堤防であることが明示されないままになり、また、河川区域の規制の緩和が行われないため、通常の土地利用に支障を生ずることとなる。

(イ) 管理協定の締結状況

 高規格堤防の整備は、基本的に、河川管理者と共同事業者との共同事業として実施されることから、築造した構造物等について管理者等を定める必要がある場合には、管理に関する協定(以下「管理協定」という。)を締結することになっている。
 しかし、管理者等を定める必要がある構造物等を有する完成地区及び暫定完成地区において、河川管理者と共同事業者との協議が整わないことなどを理由として管理協定が締結されていない地区が、図表5-13 のとおり見受けられた。

図表5-13 管理協定の締結状況
河川名 管理協定の締結が必要な地区数
  締結済み地区数 未締結地区数
利根川 12 6 6
江戸川 12 8 4
荒川 8 6 2
多摩川 13 3 10
淀川 17 16 1
大和川 5 5 0
67 44 23

 このように、事業完了後において管理協定が締結されていない事態は、河川管理施設である高規格堤防の今後の適切な管理に支障を来すおそれがある。

 したがって、高規格堤防整備事業において、高規格堤防特別区域の指定等及び管理協定の締結を適切に行う必要がある。
 また、今後、高規格堤防整備事業を廃止した場合等において、点在している盛土等については、その周辺において高規格堤防の整備が実施されないことにより、土地利用が進んだ場合には、高規格堤防整備事業によって盛土等が行われたことが認識されずに掘削等が行われるなどのおそれがあることなどから、高規格堤防特別区域の指定等及び管理協定の締結を行うことなどによって、より適切に管理する必要がある。

エ 通常堤防の整備状況及び堤防強化対策の実施状況

(ア) 通常堤防の整備状況

 前記のとおり、超過洪水に対しても破堤しない堤防となるよう高規格堤防が整備されている。一方、計画規模の洪水に対して越水しない堤防となるよう通常堤防が整備されている。
 高規格堤防の要整備区間における通常堤防の整備状況をみたところ、図表5-14 のとおり、完成堤防の割合は64.4%となっていた。

図表5-14 要整備区間における通常堤防の整備状況
河川名 要整備区間の延長(a) 通常堤防の整備状況
完成堤防 暫定完成堤防 未完成堤防・未施工
延長(b) (b)/(a) 延長(c) (c)/(a) 延長(d) (d)/(a)
  km km km km
利根川 362.5 206.5 57.0 126.3 34.8 29.7 8.2
江戸川 120.6 67.2 55.7 53.4 44.3
荒川 174.1 108.2 62.1 45.5 26.1 20.4 11.7
多摩川 82.6 65.4 79.2 15.8 19.1 1.4 1.7
淀川 89.2 86.4 96.9 1.8 2.0 1.0 1.1
大和川 43.6 28.0 64.2 14.1 32.3 1.5 3.4
872.6 561.7 64.4 256.9 29.4 54.0 6.2
注(1)  完成堤防とは、定規断面を満たしているものをいう。
注(2)  暫定完成堤防とは、定規断面に対し、高さや幅の一部が不足しているものをいう。

 通常堤防の整備は、治水安全上、早期の完成が望まれるが、要整備区間全体の整備が完了している河川はなかった。
 また、高規格堤防の完成地区及び暫定完成地区の中には、通常堤防が暫定完成堤防となっている地区もあり、これについて事例を示すと次のとおりである。

<事例5-5>

 荒川の久下地区の暫定完成延長150m中40mの通常堤防については、参考図5-5 のとおり、用地が取得できないなどの理由で改修工事が完了しておらず、暫定完成堤防となっていた。

参考図5-5

 荒川・久下地区(暫定完成地区)

荒川・久下地区(暫定完成地区)

<事例5-6>

 事例5-3 の妙典地区において、盛土部が通常堤防と接していない700mについては、通常堤防の改修工事が完了しておらず、参考図5-3 断面図再掲のとおり、暫定完成堤防となっていた。

参考図5-3断面図再掲

 江戸川・妙典地区(完成地区)

江戸川・妙典地区(完成地区)

(イ) 堤防強化対策の実施状況

 通常堤防は、古くから逐次強化を重ねてきたものであるが、過去に築造された堤防には、必要な強度を有していないものもあり、近年の異常気象の状況を踏まえると、想定を超える豪雨の長期化も考えられることなどから、堤防の質的安全性の確保が必要となっている。このことから、通常堤防の質的安全性の概略点検が8年度から、詳細点検が14年度からそれぞれ実施されている。そして、詳細点検の結果を受けて、対策工事が必要とされた通常堤防の箇所については、堤防の断面を拡大する断面拡大工法や、川裏の法尻を透水性の高い材料に置き換えて堤体の浸透水を速やかに排出させるためのドレーン工法等により堤防強化対策を実施することになっている。
 高規格堤防の要整備区間における通常堤防の詳細点検の結果、堤防強化対策が必要とされた区間(以下「要対策区間」という。)及び堤防強化対策の実施状況は、図表5-15 のとおりとなっていた。

図表5-15 詳細点検結果に基づく要対策区間及び堤防強化対策の実施状況

(単位:km)

河川名 要整備区間の延長 要対策区間  
実施済み区間 施工中区間 未実施区間
利根川 362.5 189.1 0.1 8.0 181.0
江戸川 120.6 63.0 5.0 1.0 57.0
荒川 174.1 73.4 17.2 3.2 53.0
多摩川 82.6 8.9 0.0 0.0 8.9
淀川 89.2 31.8 17.9 0.0 13.9
大和川 43.6 6.6 0.4 0.0 6.2
872.6 372.8 40.6 12.2 320.0

 堤防強化対策は、近年の局地的豪雨や震災等により重要性が高まってきているが、要整備区間全体の対策が完了している河川はなかった。
 また、詳細点検の実施に当たり、高規格堤防の整備地区における通常堤防については、高規格堤防が整備されれば堤防強化対策は不要であるとして、詳細点検の対象から除外していた。
 しかし、高規格堤防の整備地区においても、通常堤防の裏法部分への盛土が施工されなかったため、堤防強化対策の効果が発現する条件を満たしておらず、通常堤防を詳細点検の対象とする必要があったと認められる地区が、次のとおり見受けられた。

<事例5-7>

 荒川下流河川事務所管内においては、通常堤防の詳細点検の結果、要対策区間とされた場合には、川表側を1:4、川裏側を1:3の勾配にする断面拡大工法で堤防の強化を図ることとしていたが、高規格堤防の整備地区については、通常堤防部分を詳細点検の対象から除外し、堤防強化対策が不必要な区間としていた。
 しかし、浮間地区(暫定完成地区)においては、参考図5-6 のとおり、通常堤防の拡幅による断面の変化がなく、また、同地区の上下流は要対策区間とされていることから、当該地区の通常堤防部分については、詳細点検の対象とすべきであったと認められ、当該地区の上下流の状況から、堤防強化対策が必要となる可能性が高いと認められる。

参考図5-6

 荒川・浮間地区(暫定完成地区)

荒川・浮間地区(暫定完成地区)

 また、6河川のうち、利根川の上、中流部及び江戸川の右岸においては、ひとたび破堤した場合、首都圏が壊滅的な被害を受けるおそれがあるとして、図表5-16 に示したように、堤防用地を買収するなどして堤防の高さの7倍の幅を持つ堤防を築造するなどの首都圏氾濫区域堤防強化対策を16年度から実施している。そして、その実施状況は、図表5-17 のとおりであり、また、要整備延長は、高規格堤防の整備地区も含めて算定されていて、65,700mとなっている。

図表5-16 首都圏氾濫区域堤防強化対策概念図
図表5-16首都圏氾濫区域堤防強化対策概念図

図表5-17 首都圏氾濫区域堤防強化対策の実施状況
ア 整備状況

(単位:m)

河川名 首都圏氾濫区域堤防強化対策の要整備延長
  高規格堤防による整備 首都圏氾濫区域堤防強化対策による整備 未実施区間
実施済み区間(必要な幅等を満たす延長) 施工中区間(完成後に必要な幅等を満たす延長) 実施済み区間 施工中区間
利根川
 (I期)
23,500 380 410 120 2,000 20,590
利根川
 (II期)
26,000 440 0 25,560
江戸川 16,200 0 330 2,200 400 13,270
65,700 820 740 2,320 2,400 59,420

イ 用地取得状況
河川名 要取得面積(a) 取得済み面積(b) 取得率(b)/(a)
    ha ha
利根川 全体 119.9 51.64 43.1
  I期 65.5 51.64 78.8
II期 54.4
江戸川 43.8 31.65 72.3
163.7 83.29 50.9

ウ 年度別執行済事業費

(単位:百万円)

年度
河川名
平成16 17 18 19 20 21 22
利根川 5,978 5,969 4,276 5,376 6,260 6,675 10,402 44,936
江戸川 3,099 3,099 3,509 6,006 5,714 7,451 4,181 33,059

 上記のように、首都圏氾濫区域堤防強化対策は進捗しているが、整備に要する事業期間及び計画事業費については、現在、未定となっている。
 また、高規格堤防の要整備区間と首都圏氾濫区域堤防強化対策区間は重複しているが、国土交通省は、堤防用地を買収するなどして首都圏氾濫区域堤防強化対策を実施した箇所についても、沿川自治体等との協議が整えば高規格堤防を整備するとしている。
 一方、高規格堤防の整備地区において、事例5-8 のように、高規格堤防整備事業により整備した幅が、首都圏氾濫区域堤防強化対策に必要とされる堤防の高さの7倍を下回っていて、今後、首都圏氾濫区域堤防強化対策を実施する必要がある地区が見受けられた。

<事例5-8>

 利根川の山王地区は、平成3年度に事業着手し、4年度に暫定完成地区とされ、暫定完成延長は200mであるとされている。
 しかし、参考図5-7 のとおり、高規格堤防整備事業により整備した幅が首都圏氾濫区域堤防強化対策で必要とされる幅を満たしていない状況となっており、高規格堤防としても、首都圏氾濫区域堤防強化対策としても暫定完成でしかなく、今後、少なくとも首都圏氾濫区域堤防強化対策を実施する必要がある状況となっていた。

参考図5-7

 利根川・山王地区(暫定完成地区)

利根川・山王地区(暫定完成地区)

 このように、高規格堤防整備事業が、その整備に相当程度の期間と費用を要する事業である一方で、通常堤防の整備や堤防強化対策は、治水上、早期の完成が望まれることから、通常堤防の整備や堤防強化対策の優先的な実施を検討する必要があると認められる。

(3) 事業費の推移及び事業計画の変更等に伴う見直し等の状況

ア 事業費の推移

 前記のとおり、高規格堤防整備事業は、昭和62年度から実施されており、6河川の高規格堤防整備事業に係る年度別執行済事業費の推移は、図表5-18 のとおりである。

図表5-18 高規格堤防整備事業に係る年度別執行済事業費

(単位:百万円)

年度 利根川 江戸川 荒川 多摩川 淀川 大和川
昭和62 330 80 120 100 630
63 943 100 243 481 275 2,042
平成元 578 360 425 100 497 400 2,360
2 750 1,110 830 210 993 420 4,313
3 905 1,380 1,584 500 1,125 530 6,024
4 1,532 2,927 2,436 516 1,686 620 9,717
5 1,764 3,022 5,770 646 3,502 810 15,514
6 5,628 5,135 7,073 751 6,819 1,000 26,406
7 6,000 6,620 10,240 1,500 9,010 2,120 35,490
8 6,370 5,687 14,101 1,662 10,000 2,200 40,020
9 7,385 5,061 17,658 1,704 10,163 3,350 45,321
10 9,936 4,239 21,468 1,552 10,895 3,563 51,653
11 8,245 5,503 18,685 2,314 8,714 3,969 47,430
12 8,437 7,153 17,798 2,367 8,217 3,896 47,868
13 12,273 5,098 15,156 4,035 11,800 4,401 52,763
14 13,287 5,391 16,685 6,331 8,332 6,999 57,025
15 13,662 5,397 13,175 3,351 8,696 7,694 51,975
16 7,073 1,309 11,833 3,635 8,430 8,692 40,972
17 6,723 828 10,784 1,778 6,472 9,628 36,213
18 5,572 1,111 8,494 2,281 6,398 8,196 32,052
19 4,761 1,454 7,176 2,239 5,707 6,829 28,166
20 2,005 916 7,440 1,648 3,746 6,727 22,482
21 2,210 762 5,870 1,785 2,095 9,724 22,446
22 1,331 70 3,972 1,660 3,446 4,295 14,774
127,700 70,633 218,976 42,565 137,344 96,438 693,656
大規模な治水事業(ダム、放水路・導水路等)に関する会計検査の結果についての図1

 高規格堤防整備事業に係る年度別執行済事業費は、平成14年度の570億円をピークに22年度では147億円まで減少している。

イ 事業計画の変更に伴う計画事業費の見直しの状況

 高規格堤防整備事業においては、共同事業の将来計画が把握できないとして、同事業の全体事業計画や河川ごとの事業計画を策定しておらず、地区別事業計画書は、作成通知等において計画事業費を記載することとはされていなかった。このため、事業計画に基づく計画事業費の執行状況の把握や、事業計画の変更に伴う計画事業費の見直しは行われていない状況となっていた。

(4) 事業再評価時における投資効果等の検討の状況

ア 事業再評価の実施状況

 国土交通省は、10年度から所管する公共事業の事業評価を行っている。 しかし、高規格堤防整備事業に係る便益については、被害軽減期待額を定量的に評価することが困難であるとともに適切ではないことから算定できないとして、図表5-19 の大和川の15年度の残事業評価のように、河川改修等による総便益を、河川改修等と高規格堤防整備に係る総費用との合計により除するなどして、費用対効果分析を行っていた。
 また、前記のとおり、高規格堤防整備事業においては、共同事業の将来計画が把握できないとして、河川ごとに事業計画を策定することとされていないことなどから、事業再評価における高規格堤防整備事業費が不明となっている事態が多く見受けられた。
 一方、高規格堤防整備事業として事業再評価を行っている淀川の10年度の全体事業評価においては、高規格堤防の計画事業費が算定されていないことなどから、全体事業費を河川改修費4501億円とした場合の費用便益比(7.9)と、河川改修費に高規格堤防整備事業費として8900億円を加えた場合の費用便益比(2.6)と、高規格堤防整備事業費として3兆円を加えた場合の費用便益比(0.95)の3パターンで費用便益比を算出していた。
 また、多摩川の17年度の残事業評価では、18年度から42年度までの建設費1169億円のうち、高規格堤防整備事業費を5億円として算定していたが、18年度から22年度までの高規格堤防整備事業の執行済事業費は96億円に上っており、想定額の5億円をはるかに上回っていた。

図表5-19 事業再評価の概要
河川名 再評価年度 事業名 費用対効果分析
全体事業評価 残事業評価
全体事業費
(億円)
  総便益(B)
(億円)
総費用(C)
(億円)
  整備期間 費用便益比(B/C) 残事業費
(億円)
  総便益(B)
(億円)
総費用(C)
(億円)
  整備期間 費用便益比(B/C)
高規格堤防整備事業費 高規格堤防整備事業費 高規格堤防整備事業費 高規格堤防整備事業費
利根川江戸川 平成10 利根川上流改修事業 17,358 不明 318,538 74,284 不明 昭和55〜不明 4.3 未実施
利根川下流改修事業
江戸川改修事業
平成14 利根川上流直轄河川改修事業 21,674 不明 587,781 23,742 不明 昭和55〜平成191
(200年)
24.8 不明 不明 170,804 18,030 不明 平成14〜191
(177年)
9.5
利根川下流直轄河川改修事業 46,353 不明
江戸川直轄河川改修事業 16,890 不明
平成19 利根川上流・下流・江戸川直轄河川改修事業 84,917 不明 692,145 27,359 不明 昭和55〜平成191
(200年)
25.3 不明 不明 184,593 17,391 不明 平成20〜191
(171年)
10.6
荒川 平成10 荒川上流改修事業 不明 不明 不明 不明 不明 不明 26.6 不明
利根川上流改修事業 23,373 不明 591,423 24,638 不明 昭和48〜不明 24.0 未実施
平成15 荒川直轄河川改修事業 未実施 不明 不明 106,097 8,146 不明 平成15〜185
(170年)
13.0
平成20 荒川直轄河川改修事業 59,963 不明 489,335 17,057 不明 昭和48〜平成185
(200年)
28.7 55,202 不明 106,690 8,428 不明 平成20〜185
(165年)
12.7
多摩川 平成10 多摩川改修事業 不明 不明 不明 不明 不明 不明 2.3 不明
平成17 多摩川水系多摩川直轄河川改修事業 1,721 222 5,876 1,402 不明 平成13〜42
(30年)
4.2 1,169 5 3,635 853 不明 平成18〜42
(25年)
4.3
平成22 多摩川直轄河川改修事業 1,500 31,405 1,253 平成13〜42
(30年)
25.1 1,023 17,020 643 平成23〜42
(20年)
26.5
淀川 平成10 淀川改修事業 4,501 不明 1,799 228 不明 不明 7.9 未実施
高規格堤防整備事業(注) 13,401 8,900 1,755 678 450 不明 2.6
34,501 30,000 1,650 1,746 1,518 不明 0.95
平成15 河川改修事業 未実施 4,164 不明 94,421 3,074 不明 不明 30.7
高規格堤防整備事業(注) 16,726 13,700 29,103 4,248 不明 不明 6.9
31,426 28,400 29,103 7,961 不明 不明 3.7
平成20 淀川直轄河川改修事業 3,537 不明 14,069 2,495 不明 平成20〜49
(30年)
5.6
大和川 平成10 大和川改修事業 5,308 14,893 269 不明 55.4 未実施
平成15 大和川改修事業 未実施 4,296 66,783 1,078 平成15〜114
(100年)
61.9
高規格堤防整備事業(注) 18,579 13,300 66,783 4,634 不明 平成15〜114
(100年)
14.4
平成20 大和川直轄河川改修事業 18,537 不明 28,148 4,002 不明 平成20〜136
(117年)
7.0
 高規格堤防整備事業単体として事業再評価を行ったものではなく、河川改修事業に高規格堤防整備事業を含めて事業再評価を行ったものである。

 なお、投資効率性の確認手法を含めた事業評価の方法については、予算執行調査等を踏まえ、検討会において検討した結果、今後の課題とされ、現在、国土交通省で検討している状況である。

イ 23年度予算に向けた地区別事業評価

 高規格堤防整備事業については、事業中の地区のうち、中止した場合に土地所有者や住民等の社会経済活動に重大な支障を及ぼす場合を除き、23年度の予算措置を行わないこととされ、予算措置を行う場合についても、事業評価監視委員会に諮った上で、必要最小限の措置に限るとされた。
 そして、関東、近畿両地方整備局は、事業中の地区のうち、中止した場合に重大な支障を及ぼす地区として、6地区において予算措置を行うこととして、23年3月に、
図表5-20 のとおり、地区別の事業評価を実施している。

図表5-20 関東、近畿両地方整備局における地区別の事業評価の結果
河川名 地区名 総便益(B) 総費用(C) 費用便益比(B/C) 結果
    億円 億円    
荒川 小松川 720 488 1.5 継続
川口 1,290 666 1.9 継続
淀川 海老江 148 119 1.2 継続
大宮 62 13 4.8 継続
大庭 188 48 3.9 継続
大和川 阪高大和川線(一体整備) 5,556 984 5.6 継続

 費用便益比は、第1回検討会(23年2月)で示された「高規格堤防の費用対効果算出の考え方(案)について」に基づいて算出されている。便益のうち被害軽減期待額は、次式のように、通常堤防のみを整備した場合と高規格堤防を整備した場合の想定被害額を基に、通常堤防のみの整備では破堤のおそれがある区間のうち、高規格堤防を整備した区間は破堤しないことからその分だけ破堤の危険性が減少するとして算定することとされている。また、高規格堤防としての効果を発現するために必要な整備面積に対する事業範囲面積の比を用いた割引を行って被害軽減期待額を算定することとされている。

(検討会で示された被害軽減期待額算定式)
 被害軽減期待額=
(通常堤防時想定被害額-高規格堤防時想定被害額)
×(高規格堤防整備延長/破堤のおそれがある区間の延長)
×(事業範囲面積/高規格堤防必要面積)

 高規格堤防は、超過洪水に対しても破堤しない堤防とする目的のために整備しているものであり、その破堤しないという効果は、本来、一連の区間にわたって、基本断面が完成した場合において発現するものである。しかし、整備を実施するに当たっては、一連の区間にわたって同時に施工することは困難であることから、整備は段階的な施工となり、その結果、地区ごとにみれば、基本断面が完成しその地区は破堤しないという効果を有している地区や、基本断面が完成していないことから堤防強化効果のみを発現している地区等が混在することになる。
 このことから、暫定的に、破堤の危険性が減少する効果があるとして被害軽減期待額を算定することができるのは、堤防強化効果を発現すると認められる場合に限られるものである。
 しかし、検討会で示された被害軽減期待額算定式及びその考え方は、破堤の危険性が減少する効果を必ずしも適切に反映するものとはなっていなかった。
 上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例5-9>

 平成16年度に事業着手し、23年度に完成予定の淀川の海老江地区の事業評価では、同地区の整備面積に加えて、24年度に本体工事に着手し、32年度完成予定の市道淀川左岸線(2期)及び淀川南岸線の道路の整備面積を含めて事業範囲面積として、検討会で示された被害軽減期待額算定式を用いて、被害軽減期待額を事業着手の翌年度の17年度から算定していた。
 しかし、海老江地区は、通常堤防から離れた位置に盛土する地区であり、同地区が完成しても、堤防強化効果は発現せず、破堤の危険性を減少する効果があるとは認められない。
 このことから、本院において、淀川左岸線(2期)及び淀川南岸線の完成をもって海老江地区が通常堤防と一体化するとして、被害軽減期待額を33年度から算定すると、総便益は89億円(総費用は119億円のまま)となることから、費用便益比は0.7になる。
 また、事業範囲面積に含めて計上し便益として算定している、淀川左岸線(2期)及び淀川南岸線の整備における河川管理者の費用負担と、通常堤防の裏法部及び淀川左岸線(2期)と海老江地区との間の盛土計画及び河川管理者の費用負担が、23年3月の事業評価時においてはそれぞれ未定となっていたため、それらに係る費用は、費用便益比の総費用に計上されていなかった。
 なお、23年9月に、上記に係る費用は全額大阪市が負担し、河川管理者の費用負担は一切ないことが確定したとしているが、同年10月末現在、上記に係る合意書等は取り交わされていない。

参考図5-8

 淀川・海老江地区(事業中地区)

淀川・海老江地区(事業中地区)

 23年度予算に向けた地区別事業評価においては、事業を中止した場合の土地所有者や住民等の社会経済活動への重大な支障等をもって予算措置の判断をしており、費用便益比のみをもって予算措置の判断をしたものではないが、より適切な評価手法を用いて費用便益比を算出する必要があったと認められることなどから、今後、高規格堤防の目的、効果等を考慮した評価手法について、更なる検討を行い、早急に確立する必要があると認められる。