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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成23年11月

高速増殖原型炉もんじゅの研究開発等について、適時適切に研究開発経費を把握して公表することにより研究開発の一層の透明性の確保を図るとともに、使用可能な関連施設の利活用を図るよう独立行政法人日本原子力研究開発機構理事長に対して意見を表示したもの


高速増殖原型炉もんじゅの研究開発等について、適時適切に研究開発経費を把握して公表することにより研究開発の一層の透明性の確保を図るとともに、使用可能な関連施設の利活用を図るよう独立行政法人日本原子力研究開発機構理事長に対して意見を表示したもの

科目 (電源利用勘定)経常費用(平成17年9月30日以前は経常費用)
部局等 独立行政法人日本原子力研究開発機構(平成10年10月1日から17年9月30日までは核燃料サイクル開発機構、10年9月30日以前は動力炉・核燃料開発事業団)
高速増殖原型炉もんじゅの研究開発等の概要 運転の過程において消費した以上の燃料を生み出しつつ発電を行うことができる高速増殖炉の原型炉であるもんじゅについて、発電プラントとしての信頼性の実証等を目的として研究開発を行うなどするもの
もんじゅの研究開発に要した総事業費として公表している経費の平成22年度までの額 9265億2644万余円 (昭和55年度〜平成22年度)
もんじゅ及びその関連施設の研究開発に係る支出額 1兆0810億9529万余円 (昭和46年度〜平成22年度)
上記のうち利活用されていないもんじゅの関連施設の建設等に係る支出額 830億8525万円 (昭和63年度〜平成22年度)

【意見を表示したものの全文】

 高速増殖原型炉もんじゅの研究開発経費及びその関連施設の利活用等について

(平成23年11月14日付け 独立行政法人日本原子力研究開発機構理事長宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 高速増殖原型炉もんじゅの研究開発経費等の概要

(1) 高速増殖炉の研究開発の概要

 貴機構(平成10年10月1日から17年9月30日までは核燃料サイクル開発機構及び日本原子力研究所、10年9月30日以前は動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所)は、独立行政法人日本原子力研究開発機構法(平成16年法律第155号。以下「機構法」という。)に基づき設立された法人である。そして、貴機構は、機構法、原子力基本法(昭和30年法律第186号)第2条に規定する基本方針等に基づき、原子力に関する基礎的研究及び応用の研究、核燃料サイクルを確立するための高速増殖炉及びこれに必要な核燃料物質の開発並びに核燃料物質の再処理に関する技術及び高レベル放射性廃棄物の処分等に関する技術の開発を総合的、計画的かつ効率的に行うとともに、これらの成果の普及等を行い、もって人類社会の福祉及び国民生活の水準向上に資する原子力の研究、開発及び利用の促進に寄与することを目的として、原子力に関する基礎的研究等の業務を行っている。
 貴機構が行う高速増殖炉の研究開発は、既存の原子力発電所を中心とした軽水炉サイクルに替わるものとして高速増殖炉サイクルを技術的に確立し、長期的なエネルギーの安定供給に寄与することを目的としている。そして、この高速増殖炉サイクルは、〔1〕 核燃料を製造する核燃料製造施設、〔2〕 核燃料を核分裂させてエネルギーを取り出すとともにウラン238(注1) をプルトニウム239に変化させる原子炉(高速増殖炉)、〔3〕 核分裂によりエネルギーを取り出した後の核燃料(以下「使用済核燃料」という。)を再処理してプルトニウム等の新しい核燃料の原料を取り出す再処理施設をそれぞれ整備することによって確立されるものである。
 高速増殖炉の研究開発については、原子力基本法等に基づき内閣府に設置されている原子力委員会が昭和42年に策定した「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下「長期計画」という。)において、60年代の初期に実用化することを目標として、42年度から本格的に着手し、これを強力に推進していくこととされた。その後、長期計画は平成12年度までに数次にわたって改定されており、高速増殖原型炉(注2) の建設時期、実用化時期等についてもその都度見直しが行われてきた。
 また、17年10月に原子力委員会が決定した原子力政策大綱(12年度以前の長期計画に相当する。以下「政策大綱」という。)においては、貴機構が建設及び管理を行っている高速増殖原型炉「もんじゅ」(以下「もんじゅ」という。)の成果等に基づいた実用化への取組を踏まえつつ、ウラン需給の動向等を勘案し、経済性等の諸条件が整うことを前提に、62年(2050年)頃から商業ベースでの導入を目指すことなどとされている。さらに、22年6月に閣議決定されたエネルギー基本計画(以下「基本計画」という。)においては、22年5月に試運転が再開されたもんじゅの成果等を反映しつつ、37年(2025年)頃までの実証炉の実現、62年(2050年)より前の商業炉の導入に向け、引き続き、経済産業省と文部科学省とが連携して研究開発を推進するなどとされている。

(注1)
 ウラン238  ウランには燃える(核分裂する)ウラン235と燃えない(核分裂しにくい)ウラン238があり、天然ウランにおけるウラン238の割合は99.3%を占めている。しかし、この燃えないウラン238は、中性子を吸収すると燃えるプルトニウム239に変わる性質を持っている。
(注2)
 高速増殖原型炉  高速増殖炉の研究開発は、実験炉で技術の基礎を確認し、原型炉で発電技術を確立して、実証炉で経済性を見通すことにより、商業炉として実用化を目指すものであり、高速増殖原型炉とはこのうちの原型炉をいう。

(2) もんじゅの研究開発の概要等

ア もんじゅの研究開発の経緯

 もんじゅは、エネルギーの安定供給と環境保全の両立を目的として、貴機構が高速増殖炉の開発及びこれに必要な研究の一環として福井県敦賀市に建設中(炉の据付けは完了、使用前検査は未完了)の高速増殖炉の原型炉である。既存の原子力発電所に設置されている軽水炉が、減速材及び冷却材(注3) として軽水(普通の水)を使用しているのに対して、高速増殖炉であるもんじゅは、高速中性子を利用するために、減速材を使用せず、冷却材としてはナトリウム(注4) を使用している。そして、もんじゅは、運転の過程において消費した以上の燃料を生み出しつつ発電することができる我が国唯一の高速増殖炉である。貴機構は、敦賀本部(10年9月30日以前は敦賀事務所)及び同本部に所属する高速増殖炉研究開発センター(昭和60年10月28日から平成17年9月30日までは高速増殖炉もんじゅ建設所、昭和57年10月1日から60年10月27日までは高速増殖炉もんじゅ建設準備事務所、51年8月1日から57年9月30日までは敦賀事務所、49年4月1日から51年7月31日までは高速原型炉建設準備事務所。以下、敦賀本部と合わせて「センター等」という。)において、もんじゅの研究開発を実施している。
 貴機構は、43年9月にもんじゅの予備設計を開始し、60年10月に着工、平成3年5月に炉の据付けを完了した後、4年12月から運転しながらプラント全体の機能・性能を確認する性能試験(試運転)を行い、6年4月に初臨界(注5) を達成している。しかし、7年12月にナトリウム漏えい事故が発生したことから、貴機構は、14年5か月間にわたりもんじゅの運転を停止していた。そして、事故後、改造工事等が進められる中、22年3月に「独立行政法人日本原子力研究開発機構の中期目標を達成するための計画(中期計画)」が認可され、同計画において、運転再開後約3年間の性能試験の中で使用前検査を受けた後、原型炉として約10年間を目途に100%出力の本格運転をすることによって、「発電プラントとしての信頼性実証」及び「運転経験を通じたナトリウム取扱技術の確立」という所期の目的を達成することとされ、同年5月に運転を再開した。
 しかし、同年8月に、燃料交換の際に使用する炉内中継装置が原子炉容器内で落下するというトラブルが発生したため、貴機構は、23年6月に炉内中継装置を原子炉容器内から引き抜く作業を終了したが、引き続き現在も、23年度中に40%出力プラント確認試験を開始することを目指して復旧作業に取り組んでおり、もんじゅの運転は停止している。

(注3)
 減速材及び冷却材  減速材とは、核分裂によって放出される中性子の速度を下げる役割を果たすものであり、冷却材とは、核分裂によって放出される熱を、原子炉から取り出す役割を果たすものである。
(注4)
 ナトリウム  常温では銀白色の柔らかい固体であり、摂氏98度で液体となる。温まりやすく冷めやすくよく熱を伝えること、中性子の速度を減速させず、吸収も少ないこと、高い温度(約880度)まで沸騰しないことが冷却材としての利点であるが、温度が高い液体ナトリウムが空気に触れると酸素と反応して黄色の炎と白煙をあげて燃焼する。また、水に触れると激しく反応して水素を発生する。
(注5)
 初臨界  原子炉建設後、初めて核分裂反応が一定の割合で維持される状態になること

イ 関連施設の研究開発の経緯

 高速増殖炉サイクルを技術的に確立するためには、前記のとおり使用済核燃料の再処理技術が必要となることから、貴機構は、もんじゅから発生する使用済核燃料を基に再処理施設で使用する機器の研究開発を行うため、茨城県那珂郡東海村に所在する東海研究開発センター(17年9月30日以前は東海事業所等)において、昭和62年4月からリサイクル機器試験施設(Recycle Equipment Test Facility。以下「RETF」という。)の概念設計を開始し、このうち試験棟(地下2階、地上6階、建築面積3,800m2 )の建設を平成7年7月から行っていた。しかし、同年12月に発生したもんじゅのナトリウム漏えい事故等を受けて設置された関係機関による会議における各種議論の結果等を踏まえて、試験棟の建物部分が完成し一部の研究用機器が納品されたまま、12年7月以降RETFの建設を中断している。

ウ もんじゅの研究開発経費

 貴機構は、政府出資金、研究開発に係る補助金、運営費交付金等を財源として、もんじゅの研究開発を行うなどしている。そして、昭和55事業年度(以下、貴機構の事業年度を「年度」という。)から平成23年度までの間にもんじゅの研究開発に要したとされる総事業費を、建設費5886億円(うち政府支出4504億円)、運転費3595億円(全額政府支出)、計9481億円とホームページで公表している。また、前記のとおり、23年度中の40%出力プラント確認試験の開始後には性能試験を行い原型炉として本格運転を実施することとしているが、これらに係る今後の経費については、23年度予算に216億円(上記の9481億円の内数)を計上し、さらに、その後の当面の運転に係る経費を年間約230億円と想定している。

エ 東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故後の対応

 貴機構は、23年3月に発生した東北地方太平洋沖地震に起因する東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故(以下「福島第一原発事故」という。)を踏まえ、同年4月に「福島第一原子力発電所事故を踏まえた安全性向上対策の実行計画」を策定している。
 一方、国は、22年12月に開始した政策大綱の新たな策定に向けた検討について、福島第一原発事故の発生に伴い中断していたが、23年8月に再開するとともに、高速増殖炉サイクルの技術開発を含めた基本計画の見直しを検討している。

(3) 独立行政法人の行う業務の透明性の確保

 独立行政法人は、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)の定めるところにより、その業務の内容を公表することなどを通じて、その組織及び運営の状況を国民に明らかにするよう努めなければならないとされている。
 そして、貴機構は、通則法の趣旨に沿って、前記のもんじゅの研究開発に要したとされる総事業費を公表している。