もんじゅの研究開発については、これまで多額の国費が投じられてきたこと、7年12月のナトリウム漏えい事故以来長期間運転を停止していたが22年5月に運転を再開したことなどから、国民の関心が極めて高く、国会においても議論されているところであり、さらに、国は、福島第一原発事故を踏まえ、政策大綱の新たな策定に向けた検討を再開するとともに、高速増殖炉サイクルの技術開発を含めた基本計画についても見直しを検討している。このような状況の下、国会等においてもんじゅの研究開発に係る各種の議論や検討を行うに当たっては、もんじゅの研究開発に要した経費、今後必要とされる経費、関連施設の活用状況等、もんじゅに関する情報を適時適切に把握して、これらの客観的なデータ等に基づいて議論や検討を行うことが特に重要となる。
そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、もんじゅの研究開発に要した経費、今後必要とされる経費等が適時適切に把握され公表されているか、もんじゅの運転停止の長期化に伴い活用が遅れることとなる関連施設の状況はどのようになっているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、貴機構本部、敦賀本部及び東海研究開発センターにおいて、建設当初から23年7月末までの間に実施されたもんじゅの研究開発等を対象として、決算書、固定資産台帳等の関係書類等により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴機構は、前記のとおり、23年度までの総事業費を9481億円と公表しており、このうち22年度までに要したとされる経費(以下「機構公表総事業費(22年度まで)」という。)は9265億2644万余円、その内訳は、建設費5886億0740万余円(昭和55年度から平成6年度まで。うち政府支出金4504億4250万余円、民間拠出金1381億6490万円)及び運転費3379億1904万余円(元年度から22年度まで。全額政府支出)とされている。このうち、建設費とは敦賀市に所在するもんじゅの建設等に要した経費であり、運転費とはもんじゅの運転及び維持管理に係る経費並びに7年12月に発生したナトリウム漏えい事故の原因究明、安全総点検、改造工事及び信頼性の向上に関する経費の合計額であるとしている。
しかし、機構公表総事業費(22年度まで)9265億2644万余円は、もんじゅの研究開発に係る各年度の予算額の合計であって、もんじゅの研究開発に実際に支出された額とはなっていないことから、本院が、機構公表総事業費(22年度まで)に計上されている経費について、実際に支出された額を関係書類等に基づき確認するとともに、支出された額が他の事業に係るものと一括して整理されていた一部の経費については予算の細目を用いて案分するなどして集計したところ、もんじゅの研究開発に係る22年度までの総支出額は9106億3301万余円(建設費5860億3278万余円、運転費3246億0023万余円)となり、機構公表総事業費(22年度まで)よりも158億9343万余円少ない額となった。
イ 機構公表総事業費(22年度まで)に計上されていないもんじゅの研究開発に要した経費
もんじゅの研究開発に要したにもかかわらず機構公表総事業費(22年度まで)に計上されていない経費がないか検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴機構は、もんじゅの建設について、43年度から予備設計を開始するなどして着手しているが、54年度以前の予算から支出された経費については、本格的な建設に入る前の準備段階の経費であり、もんじゅの研究開発以外の経費と区分して経理していないため、もんじゅの研究開発に要した経費の金額を正確に把握することができないとして、機構公表総事業費(22年度まで)には計上していなかった。
そこで、本院が、43年度から54年度までの決算書等の関係書類を確認したところ、少なくとも46年度から54年度までの間に支出された原型炉建設準備費計38億3390万余円と、54年度予算を繰り越すなどして55年度から59年度までの間に支出された原型炉建設準備費計9億2434万余円の合計47億5825万余円は、もんじゅの建設費に該当するものであると認められた。
センター等では多くの貴機構職員(平成22年度末現在では任期付職員を含めて計269名)がもんじゅの研究開発に従事している。貴機構は、研究開発プロジェクトの事業費には人件費を含めない取扱いが一般的であるとし、また、貴機構職員の人件費は貴機構全体として管理していてもんじゅの研究開発に従事した職員に係る分のみを把握することができないとして、機構公表総事業費(22年度まで)には計上していなかった。
そこで、本院が、センター等においてもんじゅの研究開発に従事していた貴機構職員の人件費について、センター等が設置されていた昭和49年度から関係資料が保存されていた各年度の貴機構全体の給与支給総額に、センター等で勤務していた各年度の職員数の全職員数に占める割合を乗ずることにより算出したところ、49年度から平成22年度までの間についての人件費は少なくとも計438億2885万余円となった。
貴機構は、もんじゅに係る施設、設備等の固定資産税として支出した額についても、人件費と同様に、研究開発プロジェクトの事業費には含めない取扱いが一般的であるとして、機構公表総事業費(22年度まで)には計上していなかった。
そこで、本院が、関係資料が保存されていた11年度以降に貴機構が敦賀市に納付した固定資産税の実績額を確認したところ、11年度から22年度までの間において貴機構が納付した固定資産税は計358億4710万余円となっていた。
(エ) 貴機構全体の安全対策の一環として実施されたもんじゅに係る各種改修工事の経費
貴機構は、7年12月に発生したもんじゅのナトリウム漏えい事故等を受けて、貴機構の全施設・設備について安全性の総点検を実施し、必要な場合には各種の改修工事を行っていたが、もんじゅに係る改善措置として13年度から21年度までの間に実施されたこれらの改修工事については、もんじゅの研究開発を目的としたものではなく、貴機構全体の安全対策の一環として実施されたものであるとして、その工事費を機構公表総事業費(22年度まで)には計上していなかった。
そこで、本院が、決算書等の関係書類により確認したところ、これらの改修工事に要した経費は計29億4280万余円となっていた。
(ア)から(エ)までのとおり、建設費(昭和54年度以前分)47億5825万余円、人件費438億2885万余円、固定資産税358億4710万余円及び各種改修工事費29億4280万余円ももんじゅの研究開発に要した費用として公表すべきであると認められることから、これらをア に示した9106億3301万余円に加えることにより、平成22年度末までの総支出額を算出すると9980億1003万余円となり、機構公表総事業費(22年度まで)9265億2644万余円を714億8358万余円上回るものとなる。
貴機構は、前記のとおり、もんじゅの研究開発に要する今後の経費として、23年度予算に216億円を計上し、24年度以降は毎年約230億円の経費を要するものと想定して公表している。
しかし、これらの額には、イ(イ)
及び(ウ)
と同様に、貴機構職員の人件費や固定資産税が含まれていない。
そこで、本院が、23年度及び24年度以降の当面の運転に係る経費の予算額についても、イ(イ)
及び(ウ)
と同様の方法で人件費等を含めることとして集計したところ、人件費は年額22億1687万余円、固定資産税は年額16億8025万余円となることから、貴機構の公表額である23年度の216億円は約254億円となり、24年度以降の約230億円は約268億円となる。
なお、上記の経常的な経費の中には、福島第一原発事故を踏まえた安全性向上対策のための経費も含まれている。具体的には、電源車の配備や非常用ディーゼル発電機代替空冷電源設備の追加設置等に要する経費であり、貴機構は、23年7月末現在で、その額を計14億4205万円(うち23年度支出済額計1469万余円。22年度支出済額はない。)と見積もっている。
ア、イ及びウのとおり、貴機構が公表しているもんじゅの研究開発に要した経費は、実際の支出額ではなく予算額の合計であり、また、昭和54年度以前の建設費が計上されておらず、人件費等が含まれていないなど、もんじゅの研究開発に要した経費の全体規模を示すものとはなっていない。一方、もんじゅの研究開発については、平成7年12月のナトリウム漏えい事故以来14年5か月ぶりに運転を再開したものの、運転再開後間もなく炉内中継装置が落下するトラブルが生じて運転を停止していて、国民の関心も極めて高く、国会においても議論されており、さらに、福島第一原発事故を踏まえ、高速増殖炉サイクルの技術開発を含めた基本計画について見直しが検討されるなどしているところである。このような状況の下では、もんじゅの研究開発に要した経費をその全体規模が把握できるように公表することが、業務の内容を公表することなどを通じて組織及び運営の状況を国民に明らかにするよう努めなければならないとする通則法の趣旨にも沿うものと認められる。
したがって、貴機構は、もんじゅの研究開発に要した経費について、国会等で行われる政策議論等に際して客観的なデータとして活用できるものとするよう、その範囲と内容を明確にし、本院が算出したように過去の建設費や人件費、固定資産税等の経費も含めて集計し、公表することが必要であると認められる。
前記のとおり、貴機構は、東海研究開発センターにおいて、昭和62年4月からもんじゅの関連施設としてRETFの概念設計を開始し、平成7年7月に試験棟の建設に着工していたが、建物部分が完成し一部の研究用機器が納品されたまま、12年7月以降RETFの建設を中断している。
貴機構は、RETFについて、昭和63年度以降、建設費として計816億9678万余円を支出している。そして、維持管理費は平成11年度以降支出しているが、このうち関係書類が保存されていて支出額を確認できた17年度から22年度までの間の維持管理費は計1億7897万余円となっている。また、RETFのうち建物部分については、実際には使用していないものの使用可能な状態であるとして、12年度に茨城県が不動産取得税を、12年度以降に東海村が固定資産税及び都市計画税をそれぞれ賦課しており、貴機構は、12年度に係る不動産取得税2億3854万余円、12年度から22年度までの間に係る固定資産税計7億9960万余円及び都市計画税計1億7134万余円、合計12億0949万余円を納付している。
そして、前記の建設費の額にこれらの額を加えると、RETFの建設等に係る支出額は830億8525万余円となるが、貴機構はこれらの経費について公表していない。
しかし、もんじゅの関連施設の研究開発に要した経費についても、もんじゅの研究開発に要した経費と同様な趣旨から、その範囲と内容を明確にし、公表することが必要であると認められる。
RETFは、高速増殖炉の運転により発生する使用済核燃料の再処理技術を開発するための試験施設であることから、もんじゅの運転に伴って実際に使用済核燃料が発生しない限り、その本来の用途での使用は行えないこととなる。12年7月以降建設を中断しているRETFの利活用については、19年4月に文部科学省、経済産業省、電気事業連合会、日本電機工業会及び貴機構(以下「五者協議会」という。)で取りまとめた「第二再処理工場(注6)
に係る2010年頃からの検討に向けた準備の開始について」において、五者協議会の第二再処理工場に関する議論を踏まえて検討することとされており、貴機構によると現在も引き続きその検討が行われているとしていて、現段階においては、RETFの建設再開及び供用開始のめどは立っていない状況となっている。
したがって、RETFの建物部分は、建物内で使用済核燃料を取り扱うことができるなど原子力関連施設としての特長を備えていながら、本来の用途に供されるめどが立っていないまま使用されることなく管理のための経費を要して存置されている状況となっている。
(1)及び(2)のとおり、RETFの建設等に要した経費830億8525万余円を含めた貴機構が行うもんじゅ及びその関連施設の研究開発に係る総支出額は、22年度までの合計額で少なくとも1兆0810億9529万余円となり、前記の機構公表総事業費(22年度まで)9265億2644万余円を1545億6884万余円上回るものとなっている。
また、RETFの建物部分は、本来の用途に供されるめどが立っていないまま使用されることなく管理のための経費を要して存置されている状況となっている。
もんじゅの研究開発は、前記のとおりナトリウム漏えい事故により長期間運転が停止されるなど、所期の目的を達成するにはなお相当の長期間を要することが見込まれており、また、福島第一原発事故を踏まえた基本計画の見直しが検討されるなどしているにもかかわらず、貴機構が行うもんじゅ及びその関連施設の研究開発に係る経費の全体規模が把握できるように公表されていなかったり、関連施設であるRETFの建設計画が中断していて建設再開及び供用開始のめどが立っておらず、その建設費、維持管理費等が多額に上っているにもかかわらず、使用可能な建物部分が使用されることなく存置されていたりしている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴機構において、次のことなどによると認められる。
ア もんじゅの研究開発については、所期の目的を達成するにはなお相当の長期間を要することが見込まれ、また、福島第一原発事故を踏まえた基本計画の見直しが検討されるなどしているにもかかわらず、もんじゅ及びその関連施設の研究開発に係る経費等の全体規模が把握できるように公表することの重要性に対する認識が十分でなかったこと
イ 国等における使用済核燃料の再処理技術等に関する方針の変更といった状況はあったものの、もんじゅの研究開発の遅れにより建設計画の中断が長期化しているにもかかわらず、RETFの建物部分の利活用に関する関係機関との協議・検討等が十分でなかったこと