検査対象 | 郵便事業株式会社(平成24年10月1日以降は日本郵便株式会社) | |||
郵便事業株式社の概要 | 郵政民営化法(平成17年法律第97号)等に基づき、日本郵政公社から郵便法(昭和22年法律第165号)の規定により行う郵便の業務等に係る機能等を引き継いで、平成19年10月1日に設立された会社 | |||
貸借対照表計上額(平成24年3月31日現在) | 資金合計 | 1兆8519億円 | ||
負債合計 | 1兆6649億円 | |||
株主資本 | 1870億円 | |||
うち資本金 | 1000億円 | |||
うち資本剰余金 | 1000億円 | |||
うち利益剰余金 | △129億円 | |||
損益計算書計上額(平成23年4月1日から24年3月31日まで) | 営業収益 営業費用 営業損失 当期純損失 |
1兆7648億円 1兆7872億円 223億円 45億円 |
郵便事業株式会社(以下「事業会社」という。)は、郵政民営化法(平成17年法律第97号)等に基づき、日本郵政公社(以下「郵政公社」という。)から郵便法(昭和22年法律第165号)の規定により行う郵便の業務等に係る機能等を引き継いで、平成19年10月1日に設立された。そして、事業会社は、24年10月に日本郵便株式会(以下「日本郵便」という。)に商号を変更した郵便局株式会社(以下「局会社」という。)に吸収合併された。
事業会社は、局会社とともに、政府がその株式の全てを保有する日本郵政株式会社(以下「日本郵政」という。)の100%子会社であり、郵便事業株式会社法(平成17年法律第99号)により郵便の業務及び印紙の売りさばきの業務を営むことなどを目的とすることとされ、これらの目的を達成するために営む業務(以下「目的内業務」という。)に加えて、当該業務の遂行に支障のない範囲内で、総務大臣の認可(以下「大臣認可」という。)を受けて他の業務も営むことができるとされていた(以下、この認可を受けて行う他の業務を「目的外業務」という。)。
そして、事業会社は、郵便事業株式会社法等に基づき、毎事業年度の開始前にその事業年度の事業計画を定めて、大臣認可を受けなければならないこととされていて、当該計画を変更しようとするときも同様とされていた。
事業会社は、目的内業務として、前記のとおり、郵便法の規定により行う郵便の業務のほか、国の委託を受けて行う印紙の売りさばき、お年玉付郵便葉書等に関する法律(昭和24年法律第224号)第1条第1項に規定するお年玉付郵便葉書等及び同法第5条第1項に規定する寄附金付郵便葉書等の発行等の業務(以下、これらを合わせて「郵便事業」という。)を行っていた。
事業会社は、目的外業務として、民営分社化以前に「ゆうパック」の名称で取扱いを行っていた郵便小包が郵便法の改正により郵便物から除外されたことから、これを郵便事業の対象から切り離して、貨物自動車運送事業法(平成元年法律第83号)及び貨物利用運送事業法(平成元年法律第82号)に基づき実施する宅配便事業における貨物(以下「宅配荷物」という。)として同じ「ゆうパック」の名称で取り扱っていた。また、同様に印刷物等を内容物とする「冊子小包」等についても郵便物から除外されたことから、これらも貨物自動車運送事業法等に基づき実施する事業における貨物として「ゆうメール」等の新たな名称で取り扱っていた(以下、宅配荷物、「ゆうメール」等の名称で取り扱っていた貨物を配達する事業会社の事業を「宅配便事業等」という。)。
事業会社は、民営分社化に当たって、郵政民営化法に基づき、19年9月に「日本郵政公社の業務等の承継に関する実施計画」が内閣総理大臣及び総務大臣から認可されたことをもって、同計画に記載した宅配便事業等の目的外業務を実施することも併せて認可を受けたものとみなすとされ、これに基づいて宅配便事業等を実施していた。そして、事業会社は、当該認可申請時の書面において、宅配便事業等を実施する理由について、民営分社化時点の郵便小包、冊子小包等が年間20億個の取扱いがあったことから、これらを利用する顧客の利便性を維持する必要があるとするとともに、宅配便市場が年3%程度成長しており、事業会社の収益源として成長が見込まれるためとしていた。そして、宅配便事業等は、民間宅配便事業者が行う宅配便及びメール便に相当するものとなることから、他の民間宅配便事業者と同様の法規制の下で実施することとされ、事業会社は、これら宅配便事業等の目的外業務を他の民間事業者との競合関係の中で実施していた。
事業会社は、24年3月時点で、本社のほか、全国に13支社を設置し、これらの支社は、郵便物等の引受け、配達、集荷等の作業を行う1,090支店、2,524集配センターを所管していた。そして、1,090支店のうち70支店(以下「統括支店」という。)は、引受け、配達及び集荷を行うほか、都道府県外への運送経路を集約する拠点として、郵便物等をそれぞれの宛先への配達を担当する支店ごとに仕分ける作業を実施していた。一方、これ以外の1,020支店及び2,524集配センターは、専ら引受け、配達及び集荷を実施していた。
事業会社は、郵便事業、宅配便事業等の実施に当たって、24年9月30日までは、郵便窓口業務の委託等に関する法律(昭和24年法律第213号)等に基づき、窓口における郵便物の引受け、交付等の業務(以下「郵便窓口業務」という。)、印紙の売りさばきに関する業務、宅配荷物等の取扱いに関する業務等に係る委託契約を局会社と締結して、これらの業務の実施を局会社に行わせて、当該業務に係る手数料を支払うこととなっていた。
局会社が設置していた郵便局は、郵便窓口業務を実施しており、事業会社のほとんどの支店は郵便局と併設されていた。そして、事業会社は、これら郵便局と併設された支店にも、配達時に不在であった郵便物等の受取人への引渡しを行ったり、郵便局の郵便窓口の営業時間外に郵便窓口と同様の業務を行ったりするための独自の窓口(以下「ゆうゆう窓口」という。)を設置していた。
15年4月1日以前に郵政事業特別会計(以下「特別会計」という。)を所管して郵便事業を実施していた郵政省及び総務省郵政事業庁は、現在の目的内業務に相当する業務と、目的外業務のうち「ゆうパック」、「ゆうメール」等の取扱いに相当する業務等とを合わせた業務を郵便業務として実施していたが、特別会計の収支が継続的に赤字になったり消費税が課税されたりした際には、はがき及び定形郵便物の郵便料金の値上げ(昭和51年1月から平成6年1月までに計5回)を実施することなどにより収支を改善していた。
しかし、特別会計の収支は、10、11、12、14各年度にそれぞれ赤字となっていたが、6年2月以降、郵政省及び総務省郵政事業庁は郵便料金の値上げを行わなかった。
その後、郵便業務は、15年4月1日に郵政公社に承継されて、19年9月30日まで郵政公社において実施されていたが、その間の郵便業務に係る収支は、19年度の閉鎖決算を除いて黒字となっていたこともあり、郵政公社は郵便料金の値上げを行わなかった。
そして、郵政公社から業務を承継された事業会社は、会社全体としては19年度から21年度までの各年度の決算の営業損益においていずれも黒字となっていた。その後、22、23両年度については、営業損益において赤字を発生させていたが、郵便料金の値上げを行わなかった。
日本郵政は、19年10月に、我が国において最高のサービスと品質を誇る宅配便事業を構築することを目的として、日本郵政と日本通運株式会社(以下「日通」という。)との協議の結果、日本郵政又は事業会社と日通の間で設立する合弁会社に、事業会社及び日通の両社の宅配便事業をそれぞれ自社の事業から分割して承継させる基本合意を締結した。
事業会社は、上記の基本合意に基づき、日通との間で新会社を設立し、21年4月1日に両社の宅配便事業を統合することとした統合基本合意書を20年4月に締結して、同年6月に、事業会社及び日通がそれぞれ3億円を出資してJPエクスプレス株式会社(以下「JPEX」という。)を設立した。
そして、事業会社及び日通の宅配便事業をJPEXに承継させるため、事業会社は20年8月に日通と契約を締結し、21年4月1日付で第三者割当増資を実施することとしてJPEXの資本金及び資本剰余金を合わせて500億円とし、出資比率を事業会社が66%、日通が34%として、JPEXに同事業に係る業務を実施させることとした。
その後、事業会社は、21年1月に、コンピュータシステムの準備不足等のため、日通との間で合意書を締結して、事業会社の宅配便事業のJPEXへの承継を21年10月までに段階的に行うこととした。
上記の契約及び合意においては、JPEXが宅配便事業を実施するに当たり、都市部はJPEX自らが配達、集荷を含む同事業を実施することとしていたが、宅配荷物だけでは十分な業務量が確保できない地方部において、郵便物と宅配荷物等とを同時に配達し集荷することにより生産性を向上させるため、事業会社の522支店及び2,523集配センター(20年5月時点)においては、事業会社がJPEXと受託契約を締結して、JPEXで取り扱う宅配荷物について配達、集荷等を実施することにより、JPEXから受託手数料を受け取ることとなっていた。
そして、事業会社は、この受託手数料により、宅配便事業をJPEXに承継させた後も年間470億円以上の収益を得る見通しを立て、その収益は事業会社が目的内業務を安定的に実施するためには欠くことができないものであるとしていた。
上記の契約等に基づき、JPEXは、まず日通から宅配便事業を承継させて21年4月から宅配便事業を開始した。
しかし、事業会社が、総務大臣に対して、事業会社の宅配便事業を21年10月にJPEXに承継させることとした21年度事業計画の認可申請を21年2月に行ったところ、〔1〕 上記の受託手数料の算定方法は、事業会社において発生する費用に適正な利潤を加味した金額となっていることが確認できないこと、〔2〕 宅配便事業の統合に係る設備投資及び要員計画が確定しておらず、目的内業務の収支に与える影響が明確でないことなどが理由とされて、21年4月1日のJPEXへの増資の部分の大臣認可は得られたが、宅配便事業を承継させることについて大臣認可を得ることができなかった。
事業会社は、その後も、JPEXに事業会社の宅配便事業を承継させるために、大臣認可が得られない理由とされた上記の事項について明確化を図るなどして21年度事業計画の変更認可申請を行ったが、統合の日程に無理があり現場の混乱が避けられなかったり、郵便事業への影響が見極められなかったりするとして、同年9月の時点でも大臣認可が得られなかったことから、21年10月に事業会社の宅配便事業をJPEXに承継させることを断念した。
このように事業会社からの宅配便事業の承継が受けられない期間が21年10月を超えたことから、JPEXは、計画どおりに事業運営ができなくなり、その結果、計画を上回る累積損失を発生させていた。
事業会社は、その後の事業会社の宅配便事業やJPEXの取扱いについて検討を行った結果、日通から宅配便事業を承継させて業務を行っていたJPEXから同事業を承継して実施することが、事業会社における宅配便事業に係る単年度での黒字化が最も早く達成でき、JPEXが発生させた累積損失が解消されて、目的内業務への影響が少なくなると判断し、JPEXの宅配便事業を事業会社に承継することとした21年度事業計画の変更認可申請を21年12月に行った。
この申請を受けた総務大臣は、〔1〕 ユニバーサルサービスである郵便事業への影響、〔2〕 利用者利便性への影響、〔3〕 他の民間宅配便事業者との競争条件の公平性の確保の各項目についてそれぞれ審査を行い、同計画が適当であると判断したとして、22年2月に上記の認可を行った。
そして、総務大臣は、上記〔3〕 の審査に当たっては、事業会社と他の民間宅配便事業者との競争条件の公平性を確保するために、郵便事業株式会社法により、目的内業務と目的外業務に係る収支を公表することとなっていること、また、事業会社が、上記の認可申請に当たって、年度途中においても上記の両業務間の補填状況を把握して厳格な管理を行うこととしていることを十分確認したとしていた。
そして、JPEXは、22年7月に事業会社に宅配便事業を承継させて、同年8月に解散した。
事業会社は、宅配便事業をJPEXに承継させるに当たっては、JPEXの運営に必要となる要員に、事業会社で宅配便事業に携わっていた社員を出向させて充てることにより、事業会社における人件費の一部を節減できると見通しを立てていた。
また、前記の522支店及び2,523集配センターにおいて宅配便事業に携わる社員に係る人件費の一部は、前記のJPEXから受け取ることになっている受託手数料によって賄われる見通しを立てていた。
そして、事業会社は、宅配便事業をJPEXに承継させることによって、上記の措置を執ってもなお生ずる事業会社の要員配置上の余剰人員については、一時期に解消するのではなく、新規社員の採用の抑制等により3年又は4年を要して解消することとしていた。
(5) 日本郵便株式会社による事業会社の吸収合併
事業会社は、本年4月に成立した郵政民営化法等の一部を改正する等の法律(平成24年法律第30号)に基づき、日本郵便に商号を変更した局会社に、本年10月1日に吸収合併された。そのため局会社は、日本郵便としての24年度事業計画を合併までの間に作成して大臣認可を受けた。