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  • 平成24年10月

人事・給与等業務・システム、調達業務の業務・システム並びに旅費、謝金・諸手当及び物品管理の各業務・システムの3の府省共通業務・システムにおける最適化の進捗状況等について


3 検査の状況

(1) 3の府省共通業務・システムの経緯及び現状

ア 人給システムの経緯及び現状

(ア) 人給システムの開発等

 人給システムの16年2月の当初の最適化計画は、参加府省等ごとにサーバ等の機器を調達して保守・運用等を行う「分散方式」を前提としており、給与制度等を所管している人事院及び総務省が「分散方式」のシステムの設計・開発を行っていたが、人事院が17、18両年度に参加府省等にシステムを公開した結果、参加府省等ごとの業務運用の相違に基づく意見や要望が多数寄せられた。
 内閣官房は、18年7月に、業務・システム最適化の実施に当たっては、最適化計画に示された運用経費や業務処理時間の削減以上の効果を目指すために、「分散方式」から機器の調達、保守・運用等を一元的に管理する「集中管理方式」へ変更するなどの見直しを行う必要があるとの考えを示した。
 人給システムは、19年7月開催の人給連絡協議会において、人給連絡協議会における調整等を踏まえつつ、参加府省等は運用に必要な人材及び経費の確保等について応分の負担を行うこと、また、参加府省等の積極的な協力の下、人事院が「集中管理方式」の運用主体となることなどとされた。人事院は、これを受けて、従来の「分散方式」のシステムを基礎として、設計・開発を継続し、20年度から23年度までの間に、それぞれ第1期から第3期に分けて、システムの設計・開発及び改修、サーバ等の機器の賃借等を行っている。
 このように、人給システムは、既にシステムは構築されていて、23年度以降、運用段階に入っている。

(イ) 人給システムの最適化の実施に要した費用等

 人給システムの開発経費や運用経費は、参加府省等が利用規模(参加府省等の定員等)に応じて毎年度負担しており、担当府省は、複数年の国庫債務負担行為に基づく今後の負担額を参加府省等に示している。
 人事院及び総務省における15年度から23年度までの間の開発経費及び運用経費を調書に基づき集計すると、表3 のとおり、計89億2734万余円となるが、これ以外にも、24年度から28年度までの間に国庫債務負担行為により計上された運用経費等の予算額は、計31億2059万余円となっている。

表3  人給システムの年度別支出金額及び国庫債務負担行為
最適化計画の名称 担当府省名

支出金額(千円)(注)

国庫債務負担行為(予算額)(千円)
人事・給与等業務・システム最適化計画 人事院
総務省
平成 15年度
239,389
  16年度 1,105,288
  17年度

455,991

  18年度
414,919
  19年度
314,172
  20年度
1,409,649
  21年度
1,325,386
  22年度
2,182,642
  23年度
1,479,903
8,927,344
24〜28年度 3,120,599
 支出金額は、人事院と総務省の開発経費と運用経費を合計した金額である。

(ウ) 人給システムへの参画時期等

a 最適化計画に基づく参画時期

 参加府省等は、システムに参画するために、独自システムを有する場合にはデータ抽出等により、また、独自システムがない場合にはデータ入力作業等により、システムに登録するデータを作成する必要がある。また、参加府省等は、システムに登録したデータの整合性の確認等を行い、通常、数箇月の並行稼働後に、システムを本番稼働して運用を開始し、独自システムを有する場合にはシステムの本番稼働後に独自システムを停止する。
 人給システムへの参加府省等の参画時期は、16年2月の当初の最適化計画では、17年度から19年度までの間となっていたが、その後に改定された19年8月及び20年2月の最適化計画では、いずれも21、22両年度となっている。
 大半の参加府省等は、21年8月改定の最適化計画に基づく移行計画書において運用開始時期を定めており、運用を開始する本番稼働時期は、表4のとおり、22年度9省庁等、23年度16府省等、24年度4省等、計29府省等(本番稼働時期が定められていない府省等については、並行稼働時期)となっていた。
 しかし、22年度から開始された移行作業に問題が発生したことなどから、参加府省等の運用開始は大幅に遅延し、23年9月の人給連絡協議会申合せ(以下「23年申合せ」という。)により、24年1月に最適化計画が改定された。
 24年1月改定の最適化計画に基づく30府省等の運用開始は、23年申合せ時点で既に人給システムを運用していた人事院、宮内庁、衆議院及び国立国会図書館を除く26府省等については、表4 のとおり、23年度から27年度までの間に予定されるなどしている。

表4 最適化計画に基づく人給システムの本番稼働時期等
府省等名 平成21年8月改定の最適化計画に基づき各府省等が移行計画書等で定めていた本番稼働時期 注(1) 24年1月改定の最適化計画に先立つ23年申合せ 備考
(24年7月末現在に本番稼働している府省等の本番稼働時期)
本番稼働時期 移行作業
22年度 23年度

24年度以降

23年度 24年度 25年度 26年度 27年度
内閣官房  

24年1月

        27年1月   新移行方式  

内閣法制局

  24年1月         27年1月   新移行方式  
人事院 22年10月               新移行方式 (22年10月)
内閣府   24年1月         27年1月  

新移行方式

 

宮内庁

23年2月                 (23年4月)
公正取引委員会 23年2月       24年9月      

継続

 
警察庁   24年2月   24年2月         継続  
金融庁   23年4月           27年5月

新移行方式

 
消費者庁     (24年度)      

27年1月

  新移行方式 注(2)
総務省   23年7月   24年3月         継続 (24年5月)
法務省   23年4月       25年8月     新移行方式  
外務省   23年度           28年3月 新移行方式  
財務省   23年4月           27年5月 新移行方式  
国税庁   24年2月             新移行方式 注(3)
文部科学省 23年2月       25年2月       新移行方式  

厚生労働省
 本省

 

23年4月

 

24年2月

       

継続

 
 地方労働局以外の地方機関       24年10月       注(4)
 地方労働局       25年1月       注(4)

農林水産省

23年1月       24年10月       継続  
経済産業省     24年4月       27年3月   新移行方式  
特許庁   23年度       25年5月     新移行方式  
国土交通省   23年4月         27年1月   新移行方式  
気象庁   24年1月       26年1月     新移行方式  
海上保安庁   23年4月    

25年5月

    新移行方式  
運輸安全委員会   24年1月         27年1月    新移行方式  
環境省 23年1月        

25年4月

   

継続

注(5)
防衛省     24年度      

26年8月

  別途  
衆議院 23年1月                 (23年4月)
参議院     24年度    

26年1月

    新移行方式  
国立国会図書館 23年1月                 (23年6月)
最高裁判所     24年度       27年1月   新移行方式  
会計検査院 23年1月       24年7月       継続  
注(1)   平成21年8月改定の最適化計画に基づく本番稼働時期が移行計画書等に定められていない府省等は、並行稼働時期の年度を記載している。
注(2)   消費者庁は平成21年9月に設置されたため、21年8月改定の最適化計画における本番稼働時期を( )書きとしている。
注(3)   23年申合せにおける国税庁の本番稼働時期は、人事・給与システム事務局で実施する新環境での給与計算等の検証結果が分かり次第確定するとされている。
注(4)   厚生労働省(地方労働局を含む地方機関)の本番稼働時期は、平成21年8月改定の最適化計画では厚生労働本省と区別されていない。
注(5)   環境省の本番稼働時期は、23年申合せでは、原子力安全庁の組織等の詳細が確認できた段階で再度検討を行うとされている。

b 参加府省等のシステムの稼働状況

 参加府省等は、22年度以降、人事、給与等のデータを人給システムの各サブシステムに登録するために、参加府省等の独自システムからのデータ抽出や必要なデータの整備を実施し、人給システムに登録したデータの整合性の確認等の移行作業を実施している。
 移行作業に当たって、人事院は、人給システムの人事、給与等の各サブシステムにデータを登録するためのプログラム(以下「移行ツール」という。)を設計・開発したが、各サブシステムに登録したデータに不整合が発生するなどして、人事院、参加府省等ともにその確認等に膨大な時間を要するなどしたため、移行作業が大幅に遅延した。
 このため、人事院は、23年2月に、22年度又は23年度からの運用開始に向けて移行作業を実施していた15省庁等(注4) のうち、既に運用を開始していた人事院を除く5省庁等(宮内庁、金融庁、財務省、衆議院及び国立国会図書館)の移行作業を優先的に支援することとした。
 人事院は、23年申合せに先立って、参加府省等に対し、人事、給与等の各サブシステム間で重複するデータについて、人給システムに登録する人事データを基にして、人給システムに必要な給与データ等を作成するなど、移行ツールの改修を行い、新しい移行ツールを用いて移行作業を行う「新移行方式」を設計・開発して登録データの不整合を解消するとした。参加府省等は、人給システムに参画するために、既に保有している独自システムを極力、更新せずに運用しているが、人事院による「新移行方式」の提供が24年8月とされたため、参加府省等は、独自システムのハードウェアやソフトウェアの賃借期間やサポート期限の延長等を考慮して、移行作業をそのまま継続して実施するか、「新移行方式」により移行作業を実施するかを選択することになった。
 23年申合せは、参加府省等の事情を踏まえた上記選択に基づき、人事院と参加府省等との間で調整を行った上で、運用開始時期等を決定したものである。そして、「新移行方式」を選択せず、今までの移行作業を継続している7省庁等(公正取引委員会、警察庁、総務省、厚生労働省、農林水産省、環境省及び会計検査院)の運用開始時期は、3省庁が23年度、3省等が24年度、1省が25年度となっている。また、「新移行方式」を選択した18府省等の運用開始時期は、1省が24年度、5省庁等が25年度、8府省等が26年度、3省庁が27年度となっており、今後の人給システムに対する検証結果等に基づいて、運用開始時期を確定するとしている府省等も1庁(国税庁)ある。なお、防衛省は、別途移行作業を行うとしている。
 今までの移行作業を継続している7省庁等の24年7月末現在の稼働状況をみると、23年申合せのスケジュールどおりに運用を開始した省庁等はなく、23年度に運用開始を予定していた3省庁のうち、総務省は24年5月から運用を開始していたが、残りの2省庁は並行稼働しながらデータの整合性の確認等を行っている。また、24年度又は25年度に運用開始を予定している4省等も、同様に、並行稼働しながらデータの整合性の確認等を行っている。さらに、厚生労働省の都道府県労働局は、従来の移行作業ではなく、「新移行方式」により移行作業を実施する旨、24年5月に移行計画書を変更しており、運用開始を23年申合せの25年1月から26年9月へ変更している。
 また、人給システムは、既に運用段階に達しているため、参加府省等は、開発経費だけでなく運用経費についても応分の負担を行っているが、各府省等の運用開始が大幅に遅延しているため、多くの府省等が人給システムを本番稼働していないのに多額の運用経費を負担することになっている(参加府省等が24年度から28年度までの間に負担する運用経費等は、表3 のとおり、計31億2059万余円)。

 15省庁等  人事院、宮内庁、公正取引委員会、金融庁、総務省、法務省、財務省、国税庁、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、環境省、衆議院、国立国会図書館、会計検査院

イ 調達システム及び旅費等システムの経緯及び現状

 官房5業務の各業務・システムは、16年9月の当初の最適化計画が策定された後、経済産業省が開発・運用主体となる「予算執行等管理システム」と総務省が開発・運用主体となる「電子契約システム」(18年度以降は電子入札システムの設計・開発も含む。)の設計・開発が始まった。
 しかし、その後、18年度の「予算執行等管理システム」の設計・開発において、システムのライフサイクルコスト(設計・開発、導入及び4年間の運用・保守に係る費用)を試算したところ、16年9月の当初の最適化計画策定時の試算を大幅に上回ることが明らかとなった。このため、経済産業省は、19年度にシステム化に関する実現可能性調査を実施するなどしたため、システムの設計・開発は企画段階に戻って再検討された。また、「予算執行等管理システム」に密接に連携している「電子契約システム」についても大幅に設計・開発が遅延した。
 その後、総務、経済産業両省は、調達システム及び旅費等システムについて、22年度からの設計・開発業務に向けて、21年度に設計・開発業者の選定の入札公告を行った。一方、内閣官房は、行政刷新担当大臣からの旅費業務効率化についての指示等を受けて、22年2月に旅費業務における支払状況等の実態調査を行い、経済産業省はその結果を見極める必要が生じたため、内閣官房と協議の上、旅費等システムに係る設計・開発業者選定の調達手続を一旦中止した。そして、総務省も、旅費等システムに関連する調達システムに影響が及ぶ可能性があることから、内閣官房と協議の上、調達システムに係る設計・開発業者選定の調達手続を一旦中止した。

(ア) 調達システムの経緯及び現状

a 調達システムの最適化の実施に要した費用等

 総務省は、上記の実態調査や旅費業務の見直し結果を踏まえて、調達システムの設計・開発を再開し、24年1月に設計・開発業務に係る請負契約を民間業者と締結するとともに、同年2月に工程管理支援等業務に係る請負契約を民間業者と締結している状況であり、設計・開発の基礎となる要件定義は完了しており、24年7月末現在、システムの構築のため、設計・開発が行われている。
 調達システムの開発経費は、参加府省等が利用規模(参加府省等の定員等)に応じて毎年度負担しており、総務省は、複数年の国庫債務負担行為に基づく今後の負担額を含めて参加府省等に示している。
 総務省における17年度から23年度までの間の開発経費を調書に基づき集計すると、表5 のとおり、計5億3994万余円となるが、これ以外にも、24、25両年度に国庫債務負担行為により計上された開発経費等の予算額は、計10億4974万余円となっている。

表5 調達システムの年度別支出金額及び国庫債務負担行為
最適化計画の名称 担当府省名 支出金額(千円) 国庫債務負担行為(予算額)(千円)
調達業務の業務・システム最適化計画 総務省
平成 17年度
31,500
18年度
81,900
19年度
29,307
20年度
190,503
21年度
15,540
22年度
9,891
23年度
181,299
539,941 24、25年度 1,049,741

b 調達システムへの参画時期

 調達システムの最適化計画は、各府省等が最短で調達システムの運用が可能となる時期を示しており、16年9月決定及び18年8月改定の官房5業務の各業務・システムの最適化計画では、参加府省等のシステムへの参画時期は20、21両年度、21年8月改定の最適化計画では22年度から24年度までの間となっていた。
 23年7月改定の最適化計画に基づく設計・開発業務の調達仕様書によれば、各府省等のシステムへの参画時期は、15府省等(注5) が26年3月、3省(総務省、国土交通省及び防衛省)が同年4月となっている。また、上記以外の府省等は、3省庁等(警察庁、財務省及び会計検査院)が参画時期を検討中としているほか、4院等(衆議院、参議院、国立国会図書館及び最高裁判所)が調達システムへの参画自体を検討中としている。

 15府省等  内閣官房、内閣法制局、人事院、内閣府、宮内庁、公正取引委員会、金融庁、消費者庁、法務省、外務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、環境省

(イ) 旅費等システムの経緯及び現状

a 旅費等システムの最適化の実施に要した費用等

 経済産業省は、前記の実態調査や旅費業務の見直し結果を踏まえて、旅費等システムの設計・開発を再開し、24年7月に、設計・開発等業務及び工程管理等支援業務に係る請負契約の入札公告を行ったが、一部の入札が不調となっており、今後の進捗が懸念されている。
 このように、旅費等システムは、設計・開発の基礎となる要件定義は完了しているものの、システムの構築のため、今後、設計・開発が行われる。
 旅費等システムの開発経費は、参加府省等が利用規模(参加府省等の定員等)に応じて毎年度負担しており、経済産業省は、複数年の国庫債務負担行為に基づく今後の負担額を含めて参加府省等に示している。
 経済産業省における16年度から23年度までの間の開発経費(官房5業務の各業務・システムの最適化計画に係る開発経費を含む。)を調書に基づき集計すると、表6 のとおり、計14億4776万余円となるが、これ以外にも、24、25両年度に国庫債務負担行為により計上された開発経費等の予算額は、計13億2062万円となっている。

表6 旅費等システムの年度別支出金額及び国庫債務負担行為
最適化計画の名称 担当府省名 支出金額(千円) 国庫債務負担行為(予算額)(千円)
旅費、謝金・諸手当及び物品管理の各業務・システム最適化計画 経済産業省
平成 16年度
293,458
17年度
115,779
18年度
475,676
19年度

304,047

20年度
155,295
21年度
82,823
22年度
-
23年度
20,685
1,447,766 24、25年度 1,320,620

b 旅費等システムへの参画時期

 旅費等システムにおいても、調達システムと同様に、16年9月決定及び18年8月改定の官房5業務の各業務・システムの最適化計画では、参加府省等のシステムへの参画時期は20、21両年度、21年7月改定の最適化計画では23、24両年度となっていた。
 旅費等システムは、旅費、謝金・諸手当に係るシステムと物品管理に係るシステムの2システムから構成されており、それぞれ各府省等の参画時期が定められている。このうち、24年1月改定の最適化計画に基づく旅費、謝金・諸手当に係るシステムの移行予定スケジュールによれば、計25府省等(本省と地方支分部局等で別々に参画を予定している府省等もあるため、以下に示す府省等数とは一致しない。)が参画を予定しており、各府省等のシステムへの参画時期は、一部府省等によるテスト・改修を25年1月以降に行った後、24府省等(注6) が26年1月、10省庁等(注7) が27年1月となっている。

(注6)
 24府省等  内閣官房、内閣法制局、人事院、内閣府、宮内庁、公正取引委員会、金融庁、消費者庁、総務本省、法務本省、外務省、財務本省、文部科学本省、厚生労働本省、農林水産本省、経済産業省、国土交通本省、環境本省、防衛省、衆議院、参議院、国立国会図書館、最高裁判所、会計検査院
(注7)
 10省庁等  警察庁並びに総務省、法務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、環境省及び裁判所の各地方支分部局等

 また、物品管理に係るシステムの移行予定スケジュールによれば、旅費、謝金・諸手当に係るシステムと同様に、計25府省等が参画を予定しており、各府省等のシステムへの参画時期は、一部府省等によるテスト・改修を25年4月以降に行った後、25府省等(注8) が26年4月、9省庁等(注9) が27年4月となっている。

(注8)
 25府省等  内閣官房、内閣法制局、人事院、内閣府、宮内庁、公正取引委員会、警察庁、金融庁、消費者庁、総務本省、法務本省、外務省、財務本省、文部科学省、厚生労働本省、農林水産本省、経済産業省、国土交通本省、環境本省、防衛省、衆議院、参議院、国立国会図書館、最高裁判所、会計検査院
(注9)
 9省庁等  警察庁、総務省、法務省、財務省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、環境省及び裁判所の各地方支分部局等

(2) 担当府省と参加府省等との間の調整

ア 人給システムにおける調整

 「分散方式」による人給システムの設計・開発では、参加府省等から多くの意見や要望が寄せられたが、これらの意見や要望のうちには、企画段階において、担当府省と参加府省等との間で、最適化の対象となる業務範囲や業務の流れなどについて十分調整を図り、政府全体としての共通認識を持って要件定義を行っていれば、本来生じなかったものも多いと考えられる。初期開発の要件定義に係る資料が保存されていないため、会計実地検査では、担当府省と参加府省等との間でどのような確認、合意等が行われたのか確認できなかったが、このような事態は、担当府省として十分な説明責任を果たしていないだけでなく、システムの構築から運用まで一貫性を持ったプロジェクト管理を行っていたとは認められない。
 人事院は、参加府省等における移行作業を円滑に実施するために、20年7月に、システム移行計画書ガイドライン(以下「移行ガイドライン」という。)を作成して、参加府省等に配布した。移行作業は業務知識やプロジェクト遂行の多様なスキル等が求められるため、移行ガイドラインでは、移行に際して事前に検討を要するリスクや注意点等として必要なスキルを持った職員を移行作業に専任させるなどの対策例を示している。
 しかし、全ての作業に必要なスキルを持った職員を配属させることは困難であるため、参加府省等の中には、移行プロジェクトグループとして、必要な役割を複数の職員で補完している府省等もある。
 22年4月から24年6月までの間の16省庁等の移行作業の実施体制を調書により集計したところ、表7 のとおり、11省庁等は移行作業従事者を専任としている一方、5省庁等は他の業務との兼務としている。

表7 16省庁等における移行作業の体制
府省等名 移行作業体制(平成22年4月〜24年6月)
プロジェクトマネージャ データ移行責任者

移行作業従事者数(人)

移行支援に係る請負契約の有無
専任 兼務 専任 兼務 専任 兼務
人事院    
2
-
宮内庁    
2
-
公正取引委員会    
1
1
警察庁    
1
11
金融庁    
2
9
総務省
2
1


法務省    
-
6


財務省    
4
1


国税庁    
-
8


文部科学省    
-
2


厚生労働省    
5
1
農林水産省    
4
-


環境省    
-
2


衆議院    
3
27


国立国会図書館    
-
7


会計検査院    
2
18
注(1)   既に本番稼働している省庁等は、移行作業を実施していた期間の体制としている。
注(2)   プロジェクトマネージャ及びデータ移行責任者は、期間内で変更されている場合がある。
注(3)   移行作業従事者数は、本省等の作業に係る期間内の最大値としている。

 移行作業のうちには、システムに関する高度な技術的知識等を要する作業や作業量が非常に多いものもあることから、多くの参加府省等は、移行作業を請負契約により民間業者に実施させている。しかし、参加府省等は、過去にこのような大規模な移行作業を実施した経験が少ないこと、また、人給システムに移行する人事情報や給与情報等を扱う担当部署はシステムの設計・開発等に関連する部署ではなく、担当者にシステムに関する技術的知識や経験が乏しいことなどから、移行作業に求められる具体的な業務内容や技術水準等に関する情報が乏しく、見積等を徴した民間業者からの情報に頼らざるを得ない状況となっていた。
 また、移行ガイドラインは、移行作業を外部委託する場合、請負業者に提示する仕様等を厳密に定義することが、移行作業時における問題の発生の抑制や大きな問題に発展させないための一番のリスク対策としている。このため契約方式を工夫するなどして、移行作業に係る調達仕様書等の作成に必要な詳細な業務内容の把握に努めている府省等が参考事例のように見受けられたが、人事院においても、より多くの情報を参加府省等に提供することにより、移行作業が円滑に実施できるよう支援する必要があると認められる。

<参考事例>
 国土交通省は、平成20年度から23年度までの間の毎年度、移行作業の準備、移行計画書等の各種計画書の策定等に係る請負契約を民間業者と締結していた。
 そして、同省は、20、21両年度の契約に当たり、人給システムと同規模の大量のデータ移行作業を実施した経験がなく、担当府省からも具体的な情報が提供されていなかったことなどから、人給システムの導入に向けた作業について、詳細な業務内容等を示した調達仕様書等を作成することが困難であるとして、企画競争により、最も優れた提案を行った民間業者と随意契約を締結していた。
 その後、同省は、これらの契約の実績等を踏まえて調達仕様書等の作成が可能になったとして、22年度は一般競争入札、23年度は技術点を加味した総合評価落札方式による一般競争入札を行っており、予定価格に対する契約金額の比率(落札率)は、20、21両年度はほぼ100%であったものの、22年度77.8%、23年度53.2%となっており、競争契約による経済的効果が発現していた。

 そして、参加府省等の移行作業において、独自システムからのデータ抽出作業等についての検討が十分でなかったため、データ作成作業が増加したり、職員情報等を登録するシートに入力する必要のある情報が入力されていなかったために登録データを再提出したりしている事態が以下のとおり見受けられた。

<事例1>
 環境省は、平成21年8月の人給システムの最適化計画において、22年度に人給システムへの移行を実施することとしており、移行計画書(詳細版)では、同年度の人給システムへのデータ移行作業に当たり、22年6月1日付けのデータに基づき移行作業を実施することとして、同年7月に1018万余円で移行作業支援に係る請負契約を締結していたが、移行作業の進捗に合わせて、同年8月1日付けのデータに基づき移行作業を実施するよう契約を変更していた。
 同省の給与システムは既存のパッケージソフトウェアを利用しており、同様のソフトウェアを利用している他府省等は、ソフトウェアの開発業者とデータ抽出用プログラムの開発契約を締結して、移行作業を進めていた。
 しかし、同省は、データ抽出等の作業開始に先立って、ソフトウェアの開発業者と調整がつかず他の民間業者と契約を締結して作業を実施したため、データ抽出用プログラムを利用した場合に比べて、移行のための作業量が増加することとなった。
 さらに、作成したデータを人給システムに登録するために人事院に提出したところ、職員情報の登録前に入力する必要のある組織コードデータ等が入力されていなかったために再度提出が必要となり、23年12月に、不足していたデータの作成と、既に作成したデータの更新等業務を別途409万余円で民間業者に実施させて、24年3月に、同院に登録データを再提出していた。

 参加府省等は、前記のとおり、移行作業の一部を請負契約により民間業者に実施させているが、今回、参加府省等における移行作業に係る請負契約の状況について検査したところ、表8 のとおり、22府省等(注10) は20年度から23年度までの間に、移行計画書の策定支援、独自システムからのデータ抽出等のデータ整備等の移行作業に係る契約を73件、計18億0811万余円で実施していた。

 22府省等  内閣官房、内閣法制局、人事院、内閣府本府、警察庁、金融庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、特許庁、国土交通省、海上保安庁、環境省、衆議院、参議院、国立国会図書館、最高裁判所、会計検査院


表8 22府省等における移行作業に係る請負契約状況
(単位:件、千円)

移行支援業務

データ整備業務
平成
20年度
府省等数 3 - 3
契約件数 3 - 3
契約金額 49,391 - 49,391
21年度 府省等数 11 3 12
契約件数 12 4 16
契約金額 221,298 58,574 279,872
22年度 府省等数 15 13 19
契約件数 17 21 35
契約金額 512,320 508,353 919,181
23年度 府省等数 10 7 11
契約件数 11 13 19
契約金額 463,470 384,613 559,671
府省等数 19 16 22
契約件数 43 38 73
契約金額 1,246,481 951,541 1,808,117
(注)
 移行支援業務とデータ整備業務が重複している契約があるため、府省等数、契約件数及び契約金額については、計は一致しない。

 業務・システムの最適化効果を投資対効果の観点から計測することは重要であり、CIO連絡会議の事務連絡においても、業務・システムの最適化計画ごとに作成する最適化効果算出票には、最適化の実施に係る投資額として、移行等に係る経費を含んだ金額を記載することとされている。
 しかし、人事院は、参加府省等が保有しているシステムはそれぞれ独自システムであり、移行経費の算定が困難であることや、「新移行方式」を踏まえた移行経費の把握が必要となることなどから、内閣官房等と協議の上、24年1月改定の最適化計画においても、移行経費を最適化効果算出票の投資額に含めていなかった。
 移行経費については、前記のとおり、20年度から23年度までの間でも、計18億0811万余円と多額であること、さらに、「新移行方式」を踏まえた移行作業が示されることによって、参加府省等においても今後の移行経費の算定が可能となることなどから、統一的な視点からの評価を可能とするため、人事院は、内閣官房等とも調整の上、参加府省等の移行経費を適切に把握して投資額に含めるよう検討する必要があると認められる。
 また、人事院は、人給システムの操作等に関する資料として、人給システムの画面上から操作閲覧できる操作手引書や利用者講習会用テキストを設計書等と合わせて参加府省等に提供しているが、当該操作手引書等は、画面上で表示される処理の概要等を解説しているものであり、給与計算等の業務全体の処理の流れなどが十分に理解できるものとはなっていなかった。このため、参加府省等から業務の流れに即した業務マニュアルを作成して欲しいとの強い要望があり、人事院は、24年8月に業務マニュアルを参加府省等に提供することとしていたが、同年5月に実施したマニュアル作成業務に係る入札が不調となったため、業務マニュアルの提供は24年度末に延期されている。
 これ以外にも、国庫債務負担行為の参加府省等の年度別負担額に関して、担当府省と参加府省等との間で相互の確認が十分でなかった事態が以下のとおり見受けられた。

<事例2>
 人事院は、平成23年6月に、「人事・給与関係業務情報システムに係るアプリケーション保守業務」に係る契約を11億0039万余円で民間業者と締結している。
 当該契約は、同月から26年10月までの間の契約であり、参加府省等は、定員等の利用規模に応じて、23年度国庫債務負担行為(23年度分から26年度分まで)により、費用を負担することとされている。
 上記の費用負担について、一般会計は同院が一括して予算要求するものの、特別会計は各府省等において予算要求している。そして、厚生労働省は、特別会計の国庫債務負担行為として要求すべき負担額に係る事務手続を行っていたが、誤って23年度単年度要求としてしまったため、24年度から26年度までの間の国庫債務負担行為による費用負担が困難である旨を23年1月に同院に対して連絡した。同院は、同年6月に前記契約を締結し、国庫債務負担行為決議書を発議していたが、同院は、誤って同省においても24年度以降の国庫債務負担行為の費用負担が可能であるとの前提で負担額の算出を行い、参加府省等に通知しており、同省もこれを十分確認していなかった。
 なお、同院は、24年2月の支出決定決議書の発議の準備段階において、参加府省等の24年度以降の国庫債務負担行為額を確認したところ、翌年度以降の支出金額に不足が生ずることに気付いたため、契約金額の総額は変更せずに23年度の支出金額を増額し、24年度から26年度までの各年度の支出金額を減額するよう各年度の業務の見直しを行っていた。

イ 調達システム及び旅費等システムにおける調整

 調達システム及び旅費等システムは、前記のとおり、18年度の「予算執行等管理システム」のライフサイクルコストの試算等のために最適化が遅延したが、経済産業省は、最適化の企画段階でもライフサイクルコストの試算を行ったとしている。
 しかし、設計・開発段階における試算は、要件定義において、参加府省等の個別業務を取り入れたことなどからシステム開発費等が増大したことにより、企画段階での試算を大幅に上回ったとしている。このような事態は、企画段階において、担当府省と参加府省等との間で最適化の対象となる業務範囲や業務の流れなどについて十分調整を図り、政府全体としての共通認識を持って要件定義を行っていれば、本来生じなかったものと考えられる。企画段階の要件定義に係る資料が保存されていないため、会計実地検査では、担当府省と参加府省等との間でどのような確認、合意等が行われたのか確認できなかったが、このような事態は、担当府省として十分な説明責任を果たしていないだけでなく、システムの構築から運用まで一貫性を持ったプロジェクト管理を行っていたとは認められない。
 調達システム及び旅費等システムは、今後の設計・開発に伴い、参加府省等のデータの移行作業等が実施されることになる。担当府省は、参加府省等において必要となる移行作業のうち、作業量や技術面から業務請負が必要になると想定できる業務を、次年度の予算要求に間に合うように、参加府省等に示す必要がある。担当府省は、参加府省等に予算要求のための資料を示しているものの、システムの概要設計や詳細設計が完了していないため、実際に必要となるデータの詳細まで明示していないことなどから、予算要求のための算定が難しいとしている府省等も見受けられた。
 このように、調達システム及び旅費等システムの参加府省等の移行作業やシステムの運用開始のためには、今後も担当府省と参加府省等との間で多くの調整が必要となることから、担当府省と参加府省等との間で十分調整を図り、最適化の円滑な進捗に努める必要があると認められる。

(3) 連携する他のシステムとの間の調整

ア 3の府省共通業務・システムの基盤となるシステムとの調整

 府省共通業務・システムに共通的に利用されるデータ集計、蓄積機能等の基盤機能や施設、設備及びその運用業務等の集約化を図るために、20年2月に、総務省が担当府省となり、共同利用システム基盤の業務・システム最適化計画が策定されている。共同利用システム基盤の担当府省である総務省は、人給システムに係るデータ集計、蓄積機能等の基盤機能を整備・運用することとされており、同省は、21年度から23年度までの間に、人給システムの設計・開発に合わせてデータベースサーバ等の機器等の調達に係る契約を4か年度又は5か年度の国庫債務負担行為により、計8億9848万余円(このうち、人給システムに係る分は計5億6804万余円)で民間業者と締結している。
 また、IT戦略本部は、政府情報システムについて、徹底した業務改革をした上で、費用対効果を踏まえたシステムの構築・刷新を図るため、22年5月に決定された「新たな情報通信技術戦略」において、クラウドコンピューティング技術(注11) を活用した政府共通プラットフォーム(以下「政府共通PF」という。)により、政府情報システムの統合・集約化を進めることとされ、23年11月にCIO連絡会議において、「政府共通プラットフォーム整備計画」(以下「PF整備計画」という。)が決定された。政府共通PFは、政府情報システムの基盤機能や施設(附帯設備を含む。)だけでなく、基盤ソフトウェアに関するサービス等も提供するものであり、PF整備計画では、総務省が、24年度中のサービス提供に向けた整備等を実施することとされている。
 政府共通PFは、原則として、全ての政府情報システムを対象にして統合・集約化を図るとされており、3の府省共通業務・システムも、統合・集約化の検討が行われている。そして、人給システムは、26年10月以降の政府共通PFへの統合・集約
 化に向けた調整が行われており、調達システム及び旅費等システムは、24、25両年度の政府共通PFの検証環境の利用開始に向けた調整等の準備が進められている。
 このように、3の府省共通業務・システムの設計・開発は、連携するシステムだけでなく、その基盤となる共同利用システム基盤や政府共通PFにおける調達と密接に関係するため、相互の調達時期等について十分調整する必要があるが、旅費等システムの調達手続の中止に加えて、共同利用システム基盤における調達時期の変更が、調達システムの機器等の調達に影響を与えていた事態が以下のとおり見受けられた。

 クラウドコンピューティング技術  一元管理されたコンピュータ資源をネットワーク経由で利用することにより、システム開発、管理及び運用の効率化を図る技術

<事例3>
 総務省は、当初、独自の基盤で調達システムの構築を行うため、平成21年度から3か年度の国庫債務負担行為で機器等の予算を要求していたが、内閣官房情報通信技術(IT)担当室の指導により、共同利用システム基盤の担当部署が調達システムの基盤となるサーバ等の機器等を調達し、調達システムの担当部署がアプリケーションサーバ等の機器を調達することとなったため、担当部署ごとに、調達機器等の調整を実施していた。
 同省は、22年度からの調達システムの設計・開発業務の開始に向けて、21年11月から22年1月までの間に、同システムの設計・開発に係る調達支援業務を請負契約により388万余円で実施するとともに、同年1月に、同システムの設計・開発業務の請負契約の入札公告を行った。しかし、同省は、同年2月に、共同利用システム基盤の担当部署から、共同利用システム基盤が調達予定としていたシステム機器等は22年度では調達できない旨連絡があり、旅費等システムの調達手続の中止の影響もあり、21年度の調達システムの調達手続を中止した。

イ 3の府省共通業務・システムと連携を予定しているシステムとの調整

 3の府省共通業務・システムのうち、人給システム及び調達システムは、職員の人事データや契約データ等の基本となるデータを保有する基幹システムであり、他システムとのデータ連携等を行うことにより、重複するデータ入力作業等が削減されることなどから、業務処理時間の最適化が実現できるとされている。
 3の府省共通業務・システムは、相互に連携を予定しているほか、他の府省共通業務・システムとも連携を予定しているが、これらの府省共通業務・システムは、既に運用を開始しており、3の府省共通業務・システムにおいて最適化効果が発現していないだけでなく、他の連携する府省共通業務・システムにおいても、想定された最適化効果が十分発現していない。
 そして、3の府省共通業務・システムに連携を予定している他の府省共通業務・システムのうち、職員等利用者認証業務の業務・システムにおいて、人給システム等との連携が遅延しているために、最適化効果の発現に影響を与えている事態が以下のとおり見受けられた。

<事例4>
 職員等利用者認証業務の業務・システム最適化計画は、利用者認証情報の体系及び管理業務の標準化、職員等利用者共通認証基盤の整備及び業務アプリケーションとの連携等を行うため、連携対象業務アプリケーションを利用する職員等利用者の個人属性情報を管理し、当該情報に基づき、職員等利用者を一意に識別する識別コード(以下「ユニバーサルID」という。)を付与することとしている。そして、ユニバーサルIDが付与されることによって、職員等利用者1人当たりが保有する識別コードの集約化が見込まれ、安全性・信頼性の向上、職員等利用者における利便性の向上等の最適化による効果が見込まれるとされている。
 そして、同計画における最適化効果指標としては、ユニバーサルIDの付与率が掲げられており、その目標値は、平成20年度6.3%、21年度17.2%、22年度100.0%と設定されていた。
 しかし、同計画の22年度実施評価報告書によれば、ユニバーサルIDの付与率は22年度25.4%と目標値を大幅に下回っていた。
 前記の目標値は、人給システムや旅費等システムを全府省等が利用した場合の設定であり、人給システム等の最適化の遅延により、同計画の目標値が達成できていなかった。

 また、旅費等システムのうち、旅費、謝金・諸手当に係るシステムのデータ移行作業手順書によると、旅費、謝金・諸手当に係るシステムの初期登録マスタデータに必要な職員等情報及び組織情報は、人給システムから関連するデータの一部を取得することができるとしているため、人給システムの最適化の遅延は、旅費等システムの移行作業にも影響を与えることとなる。

(4) 最適化の遅延による影響

ア 3の府省共通業務・システムにおける最適化効果の遅延

 3の府省共通業務・システムは、前記のとおり、システムの構築が遅れていたり、移行作業の遅延に伴って参加府省等の運用開始が遅れていたりしており、最適化効果の発現が遅延している。
 最適化計画における最適化に伴う削減経費(試算値)等は、最適化ガイドラインに基づき「最適化共通効果指標」として示されているが、3の府省共通業務・システムは、最適化計画の改定に際して、「最適化共通効果指標」も一部改定している。
 最新の最適化計画に示されている削減経費(削減業務処理時間を含む。)により、最適化効果の発現状況をみると、当初の最適化計画どおりに、全府省等で3の府省共通業務・システムの運用が開始されていれば、毎年度、次のような最適化効果が発現していたことになる。

〔1〕 人給システムは、20年度以降、計340億7536万余円(削減経費12億6286万余円、削減業務処理時間(金額換算値)延べ約1050万時間(328億1250万円))

〔2〕 調達システムは、22年度以降、計6億9781万円(削減経費3101万余円、削減業務処理時間(金額換算値)延べ約21万時間(6億6679万余円))

〔3〕 旅費等システムは、22年度以降、計325億6970万余円(増加経費4億3987万余円、削減業務処理時間(金額換算値)延べ約1056万時間(330億0957万余円))

 そして、前記のとおり、長年にわたって最適化の実施のために費用を投じてきたにもかかわらず、現在においても当初計画において予定されていた最適化効果の発現が遅延していることは適切ではなく、着実に設計・開発等を進め、担当府省だけでなく、政府全体として、最適化効果の早期発現に努める必要があると認められる。

イ 人給システムにおける遅延の影響

(ア) 調達した機器等に対する遅延の影響

 人給システムへの各府省等の参画時期は、前記のとおり、21年8月改定の最適化計画では、22年度から24年度までの間とされていた。そのため、人給システムの担当府省である人事院は、各府省等の参画時期に合わせて、21年度から23年度までの間に、アプリケーションサーバ等の機器等の調達のため、第1期から第3期までに分けて、4か年度又は5か年度の国庫債務負担行為により、計24億2025万円で民間業者と契約を締結しており、共同利用システム基盤の担当府省である総務省も、前記のとおり、21年度から23年度までの間に、人給システムの設計・開発に合わせてデータベースサーバ等の機器等の調達に係る契約を4か年度又は5か年度の国庫債務負担行為により、計8億9848万余円(このうち、人給システムに係る分は計5億6804万余円)で民間業者と締結している。しかし、最適化の遅延により、人給システムを運用している参加府省等は、前記のとおり、24年7月末現在でも、30府省等のうち、総務省、人事院、宮内庁、衆議院及び国立国会図書館の5省庁等にとどまっている。
 そこで、共同利用システム基盤におけるデータベースサーバ等の使用状況を検査したところ、共同利用システム基盤において、参加府省等が本番稼働後に使用する本番環境は、表9 のとおり、基本ソフトウェアであるオペレーティングシステム(OS)が使用するサーバ(OS使用領域)と、人給システム、非常勤システム及び調査統計システムの各データベース用のサーバ(データ使用領域)に区分されているが、このうち参加府省等ごとのデータが蓄積されるデータ使用領域は、本番稼働する府省等のデータが毎年蓄積されていくこと、また、順次、並行稼働を開始する府省等があることなどから、今後、増加すると見込まれるものの、24年7月5日現在の使用率は、0.1%から1.9%までとなっている。

表9 共同利用システム基盤におけるデータベースサーバ等の使用状況(平成24年7月5日現在)
(単位:MB、%)
サーバ名 総容量(A) 使用領域(B) 空き領域(A-B)

使用率(B/A)

データ使用領域 人給システムデータベースサーバ
16,925,987
328,400
16,597,587
1.9
非常勤システムデータベースサーバ
1,103,997
4,538
1,099,459
0.4
調査統計システムデータベースサーバ
1,243,446
1,549
1,241,897
0.1
OS使用領域 OSサーバ1
4,010,080
2,465,920
1,544,160
61.4
OSサーバ2
2,787,600
646,278
2,141,322
23.1
26,071,110
3,446,685
22,624,425
13.2

 人事院は、参加府省等に対して、本番稼働の開始前であっても、参加府省等に対して、データベースサーバにサンプルデータを登録するなどして、業務担当者のシステム習熟等を図るよう求めている。
 しかし、前記のとおり、人給システムは、26年10月以降の政府共通PFへの統合・集約化に向けた調整が行われており、同月以降に運用開始を予定している11府省等については、共同利用システム基盤で調達したサーバ等の機器等は、稼働検証や並行稼働等のために使用されるものの、本番稼働を迎えることなく賃借期間が終了するおそれがあると思料される。

(イ) 参加府省等における遅延の影響

 人事・給与等業務に関しては、22府省等(注12) において、独自システムを運用するための経費が発生しており、このうち、20府省等(注13) は、独自システムの現行経費を他のシステム経費等と区分しており、現行経費の支出金額を調書に基づき集計すると、20年度計38億8036万余円、21年度計41億8418万余円、22年度計36億1210万余円、23年度計31億1866万余円、合計147億9531万余円となっていた。
 人給システムに係る運用経費は、16年2月の当初の最適化計画が円滑に進捗して、19年度までに参加府省等が人給システムの運用を開始していれば相当程度増加したことが予想されるが、逆に独自システムに係る参加府省等の20年度から23年度までの間の現行経費は発生していなかったと思料される。そして、このような現行経費は、年度ごとの支出金額は減少していくものの、参加府省等の運用開始が23年申合せのスケジュールどおりに実施されたとしても、最長28年2月まで継続することになる。

(注12)
 22府省等  内閣府、宮内庁、公正取引委員会、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、外務省、財務省、国税庁、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、衆議院、参議院、国立国会図書館、最高裁判所、会計検査院
 
(注13)
 20府省等  内閣府、宮内庁、公正取引委員会、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、外務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、衆議院、参議院、国立国会図書館、最高裁判所、会計検査院

 また、参加府省等は、人給システムに参画するために、既に保有している独自システムを極力、更新せずに運用しているため、サーバ等の機器は賃借期間を超えて再リースとなっているものも多く、また、ソフトウェアはサポート期限が既に到来していたり間近に迫っていたりするものも多い。
 そこで、最適化の進捗の遅延により、参加府省等には、通常の現行経費以外にどのような影響が発生しているか検査した。その結果、表10 のとおり、7府省等において、サーバ等の機器調達やソフトウェアの更新等の費用が発生したり、これらの費用負担ができずに保守・運用に係る契約を取りやめたりなどしていた。

表10 参加府省等における最適化の進捗の遅延による影響
府省等名 影響の内容
内閣府  内閣府は、最適化の進捗の遅延により、職員の給与の支給に支障を来すことがないように、独自システムの保守等に係る契約を引き続き平成24年4月に705万余円で民間業者と締結しているほか、ソフトウェアの更新等に係る契約を24年4月に179万余円で、24年6月にはサーバの交換を含めて2467万余円で、それぞれ民間業者と締結している。
公正取引委員会  公正取引委員会は、最適化の進捗の遅延により、22年度までは、独自システムの運用支援及び保守に係る契約を宮内庁と共同で民間業者と締結していたが、同庁が23年4月から人給システムを本番稼働したことから、単独での費用負担が難しいとして、同年2月以降は上記契約を締結しておらず、職員が独自システムの運用及び保守に係る業務を実施しており、今後運用等に支障が生ずることを懸念している。
法務省  法務省は、22年度中に人給システムを単独稼働させることを前提としていたことから、更新時期にあった本省の独自システムのハードウェアを更新しなかった。最適化の進捗の遅延により、15年度に調達した機器のほぼ全てが既に製造中止となっているため、今後、ハードウェアに障害が発生した場合には、保守部品の調達が困難になるため、想定外の復旧費用が生ずることを懸念している。

財務省

 財務省は、最適化の進捗の遅延により、23年4月から24年3月までの間に、独自システムの機器等の再リース、運用・保守業務等に係る契約を計2億8222万余円で民間業者と締結しているほか、24年度から27年度までの間に、機器の更新や改修等の費用として計10億6395万円の費用が発生すると見込んでいる。
経済産業省  経済産業省は、最適化の進捗の遅延により、独自システムの契約期間が24年12月末までとなっていることから、25年1月から27年3月までの間に、機器の再リースや更新のために2001万余円、アプリケーションの改修及びデータ移行のために7171万余円の費用がそれぞれ発生すると見込んでいる。
国土交通省  国土交通省は、最適化の進捗の遅延により、人事情報処理システムについては、24年度から27年度までの間に、機器等の賃借及び保守契約を559万余円で民間業者と締結している。また、同省は、人事管理システム及び給与厚生システムについては、24年度の機器等の賃借契約及び運用・保守業務等に係る契約を計648万余円で民間業者と締結している。

海上保安庁

 海上保安庁は、人給システムでは行えない固有の業務を実施するために、23年度から28年度までの人給補完システムの設計・開発及び24年1月から28年3月までの機器賃借に係る契約を計5229万円で民間業者と締結しているが、最適化計画の進捗の遅延により、人給システムと連携した運用は行えず、人給システムの運用を開始するまでは、仮運用となっている。

 参加府省等は、前記のとおり、22年度の移行作業の遅延を受けて、今まで実施していた移行作業を継続するか、改めて「新移行方式」により移行作業を実施するかを選択しており、移行作業の継続を選択した7省庁等(公正取引委員会、警察庁、総務省、厚生労働省、農林水産省、環境省及び会計検査院)は、多くの職員が専任又は兼務で移行作業を実施しており、独自システムと人給システムへの二重のデータ入力作業やデータの整合性の確認等に多大な労力を要している。
 また、今まで実施してきた移行作業を一旦中止し、改めて「新移行方式」により、移行作業を実施するとした4省庁(金融庁、財務省、国税庁及び文部科学省)は、22年度で一度整備したデータの修正作業等が必要となる。

ウ 調達システムにおける遅延の影響

 調達業務に関しては、12府省等(注14) において、独自システムを運用するための経費が発生しており、これらの府省等は、独自システムの現行経費を他のシステム経費等と区分しており、現行経費の支出金額を調書に基づき集計すると、22年度計16億7780万余円、23年度計16億0119万余円、合計32億7899万余円となっている。
 調達システムに係る運用経費は、16年9月の当初の官房5業務の各業務・システム最適化計画が円滑に進捗して、21年度までに参加府省等が調達システムの運用を開始していれば相当程度増加したことが予想されるが、逆に独自システムに係る参加府省等の22、23両年度の現行経費は発生していなかったと思料される。そして、このような現行経費は、年度ごとの支出金額は減少していくものの、参加府省等の運用開始が予定どおり実施されたとしても、26年2月又は同年3月まで継続することになる。

 12府省等  内閣府、警察庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省


 また、参加府省等は、調達システムに参画するために、既に保有している独自システムを極力、更新せずに運用しているため、サーバ等の機器は賃借期間を超えて再リースとなっているものも多く、また、ソフトウェアはサポート期限が既に到来していたり、間近に迫っていたりするものも多い。
 そこで、最適化の進捗の遅延により、参加府省等には、通常の現行経費以外に、どのような影響が発生しているか検査した。その結果、表11 のとおり、5府省において、サーバ等の機器調達やソフトウェアの更新等の費用が発生するなどしていた。

表11 参加府省等における最適化の進捗の遅延による影響
府省等名

影響の内容

内閣府

 内閣府は、最適化の進捗の遅延により、平成23年度に、機器を設置しているデータセンター及び運用業務の更新に係る契約を2846万余円で、機器賃借に係る契約を1401万余円でそれぞれ民間業者と締結していた。また、独自システムを維持するために、同年度に、サーバ証明書の更新に係る契約を194万余円で、利用者の利便性や脆弱性への対応のために、基本OSとWebブラウザのバージョンアップに伴うプログラム改修に係る契約を1406万余円でそれぞれ民間業者と締結していた。
総務省  総務省は、最適化の進捗の遅延により、クラウドコンピューティング技術を活用した電子入札システムを23年8月から運用するために、23年度に、運用センターのシステム監視やサーバ機器及び専用パソコンの保守管理等に係る契約を4965万余円で民間業者と締結していた。
財務省  財務省は、最適化の進捗の遅延により、23年11月末に、独自の電子入札システム等がサポート満了により運用ができなくなることから、新たな「財務省電子入札システム」を5か年度の国庫債務負担行為により、計4億1475万円で調達し、24年2月から運用を開始していた。
厚生労働省  厚生労働省は、最適化の進捗の遅延により、23年10月から独自システムの再リースを実施したが、その際、15年度から使用していた機器の更新及びシステムの改修を行うとともに、基本OSのバージョンアップのためのシステム改修を加えて、システム運用及び機器等借入等一式に係る契約(現行機器の再リースを含む。)を計1億2931万余円で民間業者と締結していた。
環境省  環境省は、最適化の進捗の遅延により、23年度に、独自システムの基本OS及びWebブラウザのバージョンアップのためのシステム改修等に係る契約を4781万余円で民間業者と締結していた。

 これら以外に、独自の電子入札システムを運用していた3省庁(警察庁、法務省及び経済産業省)においては、独自の電子入札システムを利用した業者の応札が少ないことなどから、警察庁及び法務省は22年度末までに、また、経済産業省は23年度末までに、それぞれ運用していた電子入札システムを休止していた。調達システムの最適化計画においては、「最適化個別効果指標」として、電子入札システムにおけるシステム利用率(注15) (以下「システム利用率」という。)を定めており、その目標値は、最適化を実施した初年度は30%、その後、毎年度5%又は10%ずつ上昇して、最適化を実施してから5年度目には60%とされている。
 そこで、独自の電子入札システムを運用していた12府省等について、21年度から23年度までの間のシステム利用率を検査した。

 電子入札システムにおけるシステム利用率  電子的な応札者数/全応札者数×100


表12  12府省等のシステム利用率
(単位:者、%)

府省等名 電子的な応札者数(A) 全応札者数(B) システム利用率(A)/(B)
平成21年度 22年度 23年度 21年度 22年度 23年度 21年度 22年度 23年度
内閣府

601

539 465 2,951 2,379 2,199 20.3 22.6 21.1
警察庁 - -   - -   - -  
総務省

707

672 115 2,570 2,487 533 27.5 27.0 21.5
法務省

754

1,002   989 1,212   76.2 82.6  
外務省

43

46 68 1.511 1,041 771 2.8 4.4 8.8

財務省

529 652 537 1,372 1,475 1,185 38.5 44.2 45.3

文部科学省

77 69 88 776 720 469 9.9 9.5 18.7

厚生労働省

- 905 1,055 - 2,561 2,786 - 35.3 37.8

農林水産省

3,665 2,522 1,918 4,313 2,899 2,188 84,9 86.9 87.6

経済産業省

(37) 48 21 - 573 362 - 8.3 5.8

国土交通省

736 2,013 2,467 1,247 2,495 2,906 59.0 80.6 84.8

環境省

620 1,121 1,040 2,770 3,657 3,244 22.3 30.6 32.0

7,732 9,589 7,774 18,499 21,499 16,643 41.7 44.6 46.7
注(1)  電子的な応札者数(A)及び全応札者数(B)の「-」は、各府省等においてデータを把握していないものである。
注(2)  警察庁は平成23年2月、法務省は23年4月、経済産業省は24年4月にそれぞれシステムを休止している。
注(3)  内閣府には、内閣官房、宮内庁、公正取引委員会及び金融庁を含む。
注(4)  総務省は、平成23年4月から7月までの数値を把握していないことから、当該期間分を除外している。
注(5)  財務省は、平成23年12月から24年1月まではシステム運用を行っていない。
注(6)  経済産業省は、平成23年度について、11月21日までの数値となっている。
注(7)  経済産業省は、平成21年度の全応札者数を把握していないため、電子的な応札者数を( )書きとしており、計に含めていない。

 システム利用率に関しては、表12 のとおり、そもそもデータを把握していない府省等もあったが、データが把握できた11府省全体のシステム利用率は、21年度から23年度までの間に、41.7%から46.7%へと若干上昇していたものの、府省別にみると、23年度では最も高かった農林水産省の87.6%に対して、最も低かった経済産業省は5.8%となっており、システム利用率に大きなばらつきがあった。
 調達システムが対象とする業務は、物品や役務のほかに、簡易な公共事業に係る調達も対象とするとされている一方、工事の実績や技術的難易度等の主観的事項の審査等を行う工事及び当該工事に関する建設コンサルタント業務等は、国土交通省が担当府省として、公共事業支援システム(官庁営繕業務を含む。)の業務・システム(以下「公共事業システム」という。)の企画、設計・開発等を行っている。
 調達システム及び公共事業システムに参画する府省等や部局等は、重複排除の観点から、内閣官房や担当府省等において協議や調整が行われているところであるが、前記のとおり、電子入札システムを休止した3省庁が、再度、参画を予定していることや、今まで電子入札を実施していない府省等も含めた多くの府省等が参画を予定していることなどから、担当府省は、参加府省等における業務内容やシステム利用率向上のための取組等を十分把握して、参加府省等の業務を共通化するなどしてシステム利用率の向上に役立てるなど、参加府省等と十分調整を図っていくことが重要である。
 また、調達システムは、前記のとおり、担当府省が、22年度からの設計・開発業務に向けたプロジェクト管理支援業務の一環として、21年度に、設計・開発業者を総合評価落札方式により選定するなどのため、調達支援業務に係る契約を388万余円で民間業者と締結していたが、調達手続が一旦中止されたことにより、結果的に、22年度の設計・開発業者は選定されなかった。
 なお、その後、総務省は、調達システムに係る最適化計画の変更や簡易な公共事業等の実態調査の把握等も含めた設計・開発等に係る調達支援業務を22年度に989万余円、23年度に5475万余円でそれぞれ民間業者に実施させていた。

エ 旅費等システムにおける遅延の影響

 旅費等業務に関しては、20府省等(注16) において、独自システムを運用するための経費が発生しており、このうち、19府省等(注17) は、独自システムの現行経費を他のシステム経費等と区分しており、現行経費の支出金額を調書に基づき集計すると、22年度計10億6920万余円、23年度計11億9161万余円、合計22億6082万余円となっている。
 旅費等システムに係る運用経費は、16年9月の当初の官房5業務の各業務・システムの最適化計画が円滑に進捗して、21年度までに参加府省等が旅費等システムの運用を開始していれば相当程度増加したことが予想されるが、逆に独自システムに係る参加府省等の22、23両年度の現行経費は発生していなかったと思料される。そして、このような現行経費は、年度ごとの支出金額は減少していくものの、参加府省等の運用開始が予定どおり実施されたとしても、旅費、謝金・諸手当に係るシステムは25年12月又は26年12月、物品管理に係るシステムは同年3月又は27年3月まで、それぞれ継続することになる。

(注16)
 20府省等  人事院、内閣府、公正取引委員会、警察庁、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、防衛省、衆議院、参議院、最高裁判所、会計検査院
 
(注17)
 19府省等  人事院、内閣府、公正取引委員会、警察庁、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、防衛省、衆議院、参議院、最高裁判所

 また、参加府省等は、旅費等システムに参画するために、既に保有している独自システムを極力、更新せずに運用しているため、サーバ等の機器は賃借期間を超えて再リースとなっているものも多く、また、ソフトウェアはサポート期限が既に到来していたり、間近に迫っていたりするものも多い。
 そこで、最適化の進捗の遅延により、参加府省等には、通常の現行経費以外に、どのような影響が発生しているか検査した。その結果、表13 のとおり、3省等において、サーバ等の機器調達やソフトウェアの更新等の費用が発生していた。

表13 参加府省等における最適化の進捗の遅延による影響
府省等名 影響の内容
公正取引委員会  公正取引委員会は、最適化の進捗の遅延により、平成22年度に、独自の物品管理システムのバージョンアップに係る契約を404万余円(導入費及び保守料を含む。)で民間業者と締結していた。
農林水産省  農林水産省は、最適化の進捗の遅延により、諸謝金、物品管理の両システムに係る機器の老朽化やパッケージソフトウェアの保守期限の終了等に対応するため、23年度に、機器の更新に係る契約を334万余円で、また、システム改修等に係る契約を975万余円で、それぞれ民間業者と締結していた。

衆議院

 衆議院は、最適化の進捗の遅延により、23年度に、物品管理システムの機器に係る保守期限の終了に伴う機器の更新に係る契約を186万余円で、また、パッケージソフトウェアのバージョンアップ等に係る契約を302万余円でそれぞれ民間業者と締結していた。

 また、旅費等システムは、前記のとおり、担当府省が、22年度からの設計・開発業務に向けたプロジェクト管理支援業務の一環として、21年度に、設計・開発業者を総合評価落札方式により選定するなどのため、調達支援業務に係る契約を987万円で民間業者と締結していたが、調達手続が一旦中止されたことにより、結果的に、22年度の設計・開発業者は選定されなかった。
 なお、その後、経済産業省は、旅費等システムに係る最適化計画の変更及び設計・開発等に係る調達支援業務を22年度に2068万余円で民間業者に実施させていた。

(5) 最適化を円滑に進捗させるための具体的課題

 前記のとおり、3の府省共通業務・システムのうち、人給システムは、調達システム及び旅費等システムと異なり、既に設計・開発が完了してシステムは構築されている。
 しかし、22年度から実施された移行作業の遅延等により、参加府省等の運用開始が大幅に遅延しており、実施された設計・開発や移行作業の業務等に関して、最適化を円滑に進捗させるための具体的課題が見受けられた。
 次のアからエまでの事項は、人給システムに係る具体的課題となっているが、調達システム及び旅費等システムの設計・開発に当たっても、人給システムにおける具体的課題に十分留意して、設計・開発等を着実に実施していくことが重要である。

ア 設計・開発段階における課題

 システムの設計・開発段階では、一般的に、図2 のとおり、システムの要件定義を確定した後、概要設計及び詳細設計を経て製作を行う。また、システムに対するテストとしては、開発工程で単体テストから総合テストまでを設計・開発業者が実施し、受入テストを発注者が実施する。
 なお、人事院は、人給システムにおいて、ユーザである参加府省等からの確認を得るため、受入テストの一環として、ユーザ検証を実施している。

図2 システムの設計・開発段階における各種テスト
図2システムの設計・開発段階における各種テスト

 最適化ガイドラインにおいて、設計・開発業者等が結合テスト、総合テスト等を終了させた後に、当該システムが要求要件に適合しているかを検証するため、担当府省は受入テストを実施するとしており、府省共通業務・システムに関して、担当府省は、参加府省等と十分調整を行い、合意を得た上で受入テストを実施するとしている。
 しかし、人事院は、第1期及び第2期の設計・改修業務において、設計・改修業者の作業工程の遅延もあり、図3 のとおり、総合テストが完了しないうちに、受入テストにおけるユーザ検証を実施していた。
 また、人事院は、参加府省等のユーザ検証に当たり、検証環境として用意したサーバ等の容量及び時間の制約等から、改修機能の主要部分の確認を目的として、本番環境に近いデータに基づく検証ではなく、あらかじめ設定したシナリオに基づく検証を実施していた。

図3 第1期から第3期までの設計・改修業務における総合テスト、受入テストの実施状況

図3第1期から第3期までの設計・改修業務における総合テスト、受入テストの実施状況

 第1期から第3期までの設計・改修業務において、図3のとおり、当初予定していたテスト期間に比べて、総合テストや受入テストが大幅に遅延しており、例えば、第1期の設計・改修業務については、22年3月末までと予定していたテスト期間に対して、総合テストの完了が同年6月、受入テストの完了が同年7月となっていた。これは、受入テストの結果により発見された多くの問題に対して、人事院が、設計・改修業者に総合テストを再度実施させただけでなく、プロジェクト管理支援業者からのシステムの品質に係る分析結果を踏まえて、設計・改修業者に単体テストや結合テスト等の品質点検や再発防止に向けた対策を別途求めるなどしたために生じたものであり、設計・改修業者の品質管理が十分でなかったと認められる。
 また、人事院は、22年7月から参加府省等の登録データの受付を開始したことから、第3期の設計・改修業務では、参加府省等の移行作業と設計・改修業務の作業の期間が重複したため複数の作業を同時に進行させることになった。
 システムの構築に当たっては、職員数が多い大規模な府省等のデータを登録した場合でも、システムの処理速度等の性能に係る障害が生じないよう、現在のデータ量や将来の職員数の増加を見込んだデータ量に基づき、性能要件を十分定義するとともに、それらを充足するように設計・開発を行い、その充足度を総合テスト等で検証することが求められる。
 しかし、人事院において、参加府省等が保有している現在のデータ量等の確認を十分行っていなかったこと、性能要件を定義する方法や性能の確認方法に関する知見が十分でなかったことなどから、性能要件が十分定義されていなかったり、性能要件に関する設計・改修業者と人事院との認識が一致していなかったりなどしたため、結果として参加府省等の実際のデータ量等が設計・開発に反映されておらず、また、総合テスト等においても十分検証されていなかった。
 このため、22年度に参加府省等のデータを人事院が人給システムに登録して、参加府省等がシステムを並行稼働させたところ、画面遷移に時間を要したり、バッチ処理に時間を要して処理が停止したりするなど性能に係る障害が多数発生した。
 人事院は、23年6月に、参加府省等に対して上記の性能に係る障害に対する対応の説明を行った。そして、その対応としては、設計・改修業者が、過去の設計・改修業務の瑕疵として23年度内に改修を行い、その結果は、人事院が、当該設計・改修業者の作成した報告書等に基づいて確認したほか、大規模データを有する参加府省等の性能要件に対応するため、24年度に第4期のハードウェアの調達を実施した。
 なお、人事院による参加府省等のデータ量の確認等が十分でなかったため、システムの性能要件が確保されていなかった事態が以下のとおり見受けられた。

<事例5>
 国税庁は、平成22年度において、人給システムへのデータ移行作業を実施し、人事院でデータの登録が完了したことから、23年2月に、人給システムにより給与計算処理を実施したが、同システムにおいてエラーが発生し、給与計算を行うことができなかった。
 同院がその原因を調査したところ、同院では1給与支払グループ(1人の支払者が給与を支払う対象職員の範囲)当たりの給与計算の処理対象人数を4,000人と想定していたが、同庁はその処理対象人数をはるかに超える16,000人単位での給与計算が必要であったことが判明した。これは、同院が、給与計算の処理対象人数の想定に際し、参加府省等に対する調査を実施していなかったことによるものである。
 同院は、給与支払グループに相当する行政機関の官署ごとの人員を確認した際、そのほとんどが4,000人未満であったために、給与計算の処理対象人数に係る性能要件を4,000人と設定したとしているが、その根拠となる資料は保存されておらず、会計実地検査時においても確認できなかった。
 なお、同院は、1給与支払グループ当たり16,000人単位での給与計算が実施できるよう性能改善等を行うため、24年4月に、同月から28年7月までの間を対象とする第4期のハードウェアの調達を9億5550万円で実施しており、同庁は、今後、調達されたハードウェアで職員の給与計算処理が可能かどうかの検証作業を行うとしている。

 人給システムは、前記の性能に係る障害以外にも数多くの障害が発生しており、人事院が作成しているアプリケーションの改修課題の「障害改修一覧」をみても、入力画面や帳票等に関する課題が、24年7月6日現在で計51件残されており、安定的なシステム運用が実現できていない。
 このため、既に人給システムを運用している参加府省等のうちには、独自で人給システムの運用支援体制を構築して、障害発生時の早期の原因究明や対処を実施している府省等が見受けられるほか、人給システムしか頼るべきシステムがないため、改めて、現在発生しているプログラム上の問題や作業工程の増加に対する早急な改善要請を行っていた事態が以下のとおり見受けられた。

<事例6>
 宮内庁は、平成23年4月から人給システムを運用開始しているが、運用開始から1年が経過した24年度においても、人給システムのプログラムの不具合が収束しておらず、計算処理の補正が必要な部分があるため従来システムより作業工程が増えていて、担当者の業務量が増大するなどの問題が発生していた。
 一方、人事院は、プログラムの不具合等に係る参加府省等からの改修要望に対応するための年間改修計画を策定するべく、24年2月に開催した人・給システム実務担当者連絡会議において、全府省等に対して改修要望の提出を求めた。これに対して同庁は8件の改修要望を行った。同庁は、運用開始以降、課題が発生する都度、同院に対して回避策や改修の予定等を照会しているが、回答に時間を要していたり、予算上の制約等からシステム改修等を行ってもらえなかったりしているものがあることなどから、各業務担当者からの要望事項を取りまとめるなどして、改めて、24年5月に公文書による要請を行っていた。
 上記の要請の中には、単純な画面の見やすさや操作性だけではなく、運用上、手作業による補正処理で対応しなければならない様々な問題が含まれている。現在、人給システムを運用開始している参加府省等は職員数が少ない小規模な府省等が多く、これらの問題に対しては、手作業等により暫定的に回避している状況であるが、今後、多くの参加府省等が運用を開始するに当たって、このように運用が不安定となっている状況は、業務の最適化の面から早急に改善を図る必要があると認められる。

イ 移行作業における課題

 人事院は、参加府省等からのデータを人給システムに登録するために、20年度に移行ツールの設計・開発を実施した。しかし、移行ツールの受入テストにおいて多数の不備が発見されたため、人事院は、21年3月までに実施した受入テストの後、同年5月まで、設計・開発業者に再度の総合テストを実施させたが、その後も、第1期から第3期までの設計・改修業務におけるデータベースの構成変更等に合わせて、移行ツールの改修を行っている。
 参加府省等は、22年7月以降、順次、人給システムへデータを登録するために、作成したデータを人事院に持ち込んでいるが、データ作成に使用した移行ツールは、22年度の第3期設計・改修業務が終了した23年8月以前の22年7月に配布されており、第3期設計・改修業務に伴う変更を全て反映していなかった。さらに、人事院は、移行ツールに係る要件定義に際して、参加府省等の独自システムにおける既存データの情報を十分把握していなかったため、参加府省等の登録データは基本的に品質が担保されているという前提で設計・開発を行っていた。このため、移行ツールのデータチェックが十分機能せず、人事データと給与データとの間や給与データ内での整合性が確保できない事態が多数発生した。
 このような事態に対して、人事院は、22年度に、急きょ、人給システムへ登録するデータの整合性のチェックを行うプログラムを開発したが、同プログラムでは、エラーの原因が示されず、整合性が確保できない箇所がエラーリストとして一括出力されるのみであったことなどから、エラーリストを見ただけでは修正すべき内容が分かりにくくなっていた。
 また、移行作業の準備段階では、人事院から参加府省等に対する移行ツールや登録シートに関する説明が十分でなかったため、登録データの作成に当たって事前にデータの品質を確保する必要があることや、登録シートに必ず記載すべき情報の範囲等が十分伝えられていないなど、人事院と参加府省等との間で十分な情報共有が図られていなかった。
 さらに、移行作業では、人事院は、参加府省等が作成したデータの整合性のチェック等を実施し、その結果を参加府省等に連絡して、参加府省等が修正データを作成した後、その修正データを人事院が人給システムに登録するという方法を採っていたため、参加府省等と人事院との間で何度もデータのやり取りが必要となっていた。そして、人事院は、人給システムにデータを登録した後に整合性のチェックを実施した結果、各府省等とも総数で数万から数十万単位のデータの不整合によるエラーが発生していることについて、それぞれの参加府省等に連絡していたが、その際に、エラーの内容の詳細な解析結果の説明を行っていなかった。また、参加府省等においては、人事院から連絡があった箇所を修正しても、修正箇所以外のデータで整合性が確保できないエラーが多数発生していた。
 人事院は、人給システムの並行稼働又は本番稼働を開始した参加府省等のシステム利用責任者や業務担当者等の利用者を対象として、22年9月から開設したヘルプデスクにおいて、8時30分から19時までの間の電話等による問合せに対して対応させることとしている。その際、人事院は、上記のような技術的問題が多数発生することをあらかじめ想定していなかったため、ヘルプデスクでは、システム操作の説明等に係る問合せには直接回答するが、データ等に起因する問合せには、人給システムの管理等を行う運用センター等に対応を要請し、運用センター等からの回答を受けて、後日参加府省等に回答することを想定していた。
 22年9月から24年6月までの間にヘルプデスクに寄せられた問合せ件数等は、表14 のとおりであったが、参加府省等からの問合せの多くがデータ等に起因するものであったことから、実際にヘルプデスクで対応できた件数は、全体の平均でも3分の1、最大の月でも半分程度であった。そして、運用センター等に対応を要請した回答の遅延等もあり、参加府省等が人事院に直接質問を寄せたことから、人事院では大量の質問に対する回答に忙殺されて、更なる移行作業の停滞を招くことになった。

表14 ヘルプデスクへの問合せ件数及び対応状況

(単位:件、%)

 

年月
各府省等からの問合せ件数(A)

左に対するヘルプデスクからの回答数(B)

ヘルプデスクでの対応率(B)/(A)

平成22年 9月
16
1
6.2
10月
32
7
21.8
11月
270
97
35.9
12月
297
113

38.0

23年 1月
801
432
53.9

2月

365
78
21.3
3月
295
33
11.1
4月
125
21
16.8

5月

80
15
18.7
6月
108
22
20.3
7月
60
16
26.6
8月
58
23
39.6
9月
59
10
16.9
10月
55
15
27.2
11月
44
8
18.1
12月
60
16
26.6
24年 1月
34
9
26.4

2月

87
18
20.6
3月
103
29
28.1
4月
111
28
25.2

5月

149
53
35.5
6月
148
59
39.8

3,357

1,103
32.8

 上記のヘルプデスク業務に係る契約は、22年4月から26年6月までの間の国庫債務負担行為により、3億1452万余円で締結されているが、契約における想定業務量は、21年8月改定の最適化計画に基づき、22年度から24年度までの間に、全ての参加府省等が人給システムの運用を開始するとの前提となっており、全ての参加府省等が並行稼働又は本番稼働を開始した場合には、平常時で1日約450件の問合せがあるとしている。
 しかし、前記のとおり、参加府省等の運用開始が大幅に遅延したことなどから、実際の問合せ件数は、23年9月以降、1か月当たり数十件又は百数十件となっているなど想定業務量を大幅に下回っていた。人事院は、ヘルプデスク業務について、オペレータの教育強化のため、回答が困難であった事例の解析等を行ったり、想定問答集の充実を図ったりするなどの取組を行っているが、これらの状況を踏まえて、今後の業務内容や業務量を十分検討することにより、契約を見直す必要があると認められる。

ウ プロジェクト管理支援業務における課題

 人事院は、参加府省等のシステム移行の支援を行うなど、「集中管理方式」により業務が多角化したことなどから、プロジェクト全体の管理体制を整備する目的で、20年度、22年度及び23年度に、プロジェクト管理支援業務に係る契約を民間業者と締結していた。
 プロジェクト管理支援業務は、システムの設計・改修業務等を支援するものであり、管理支援業者は、人事院が受入テストやユーザ検証に基づき、人給システムの要件定義等に適合しているか確認する際に、技術的な支援を行うなどとされている。
 20年度以降のプロジェクト管理支援業務は、一般競争入札により行われているが、当該契約期間に締結されている第1期から第3期までの設計・改修業務及びアプリケーション保守業務の契約期間をみると、図4 のとおり、システムの設計・改修業務等を支援するプロジェクト管理支援業務と、設計・改修業務及びアプリケーション保守業務の契約期間が相違していた。

図4 プロジェクト管理支援業務と第1期から第3期までの設計・改修業務及びアプリケーション保守業務との契約期間の対応状況
図4プロジェクト管理支援業務と第1期から第3期までの設計・改修業務及びアプリケーション保守業務との契約期間の対応状況

 人事院は、20年度及び22年度のプロジェクト管理支援業務の契約完了を22年3月及び23年6月までとしており、それぞれのプロジェクト管理支援業務は、第2期及び第3期の設計・改修業務の契約期間内に終了してしまったため、システムの設計・改修業務に対する全体評価が実施できず、中間報告しか行われていなかった。また、第1期設計・改修業務の契約完了は、20年度のプロジェクト管理支援業務の契約完了期間と一致していたが、前記のとおり、受入テストが22年7月まで遅延したため、プロジェクト管理支援業務の契約期間内に、受入テストが完了していなかった。
 これに対して、人事院は、プロジェクト管理支援業務の契約期間内で完了しなかった管理支援業務について、その後のプロジェクト管理支援業務として実施しており、プロジェクト管理支援業務は、一般競争入札で実施されていたものの、それまでのプロジェクト管理支援業務で業務内容等を熟知している従来の管理支援業者が、入札において圧倒的に有利となっていた。
 また、第1期から第3期までの設計・改修業務において、受入テスト時に品質の問題が顕在化し、工程の手戻りが発生して、受入テストが大きく遅延したり、性能に係る障害等の課題が数多く発生したりしたことにより、管理支援業者は、設計・改修業者におけるシステムの品質確保や課題解決等への対応に時間を割かれ、結果として、プロジェクトに係るリスクの事前の洗い出しや対応策の検討等のリスク管理が不十分となり、管理支援業者の知見を十分にいかすことができなかった。
 人給システムは、前記のとおり、安定的なシステム運用が実現できていないことから、人事院では、プロジェクト管理支援業務について、設計・改修業務に対する技術的支援が十分受けられるよう契約期間や業務内容等を十分検討する必要があると認められる。

エ 人事院における業務執行体制等の課題

 人給システムは、前記のとおり、「集中管理方式」以降は、人事院が実質的な担当府省となっているが、人事院だけでは十分な規模の体制が確保できないことから、人事院は、20年度以降、参加府省等に対して必要な人材の確保を依頼している。参加府省等からの人材は、主に併任によって確保されており、23年8月の業務体制をみると、5,000人以上の定員規模の参加府省等から14人を併任により負担してもらい、計36人の人事・給与システム事務局が設置されている。
 このように、人事院は、参加府省等の人材面からの協力なしに、単独で業務執行体制を維持することが困難であることから、効率的かつ効果的な業務執行体制の構築を検討した上で、参加府省等と十分調整を図っていくことが重要である。
 また、人事院及び内閣官房は、前記のとおり、「集中管理方式」への変更に際して、参加府省等の実務担当者から広く意見を聴取しながら、システム開発等を進める必要があるとして、18年9月及び同年11月に、参加府省等の課長クラスによる人給連絡協議会及び人給連絡協議会の実務的な検討の会議として人・給システム実務担当者連絡会議(以下「全体WG」という。)を設置し、設計・開発や移行作業を進めている。
 24年6月末現在、人給システムの最適化のために設置されている人給連絡協議会等の各種会議体の開催状況は、表15 のとおりである。

表15 人給システムに係る各種会議体の開催状況等(平成24年6月末現在)
名称

設置目的

設置年月日 直近の開催年月日 平成24年6月末までの開催回数 主催者 参加府省等
人給連絡協議会 電子政府推進計画において目標として掲げられた、業務・システム最適化の着実な実施による行政運営の簡素化・効率化・合理化を推進する 平成
18年9月29日

23年9月8日
4 GPMO人事・給与システム事務局

全ての府省等の人事・給与担当課長

全体WG 人給システムプロジェクト全体に係る課題等について検討する 18年11月17日 24年2月29日 25 GPMO人事・給与システム事務局 全ての府省等の実務担当者
導入サブ・ワーキング・グループ 全体WGの下に設置され、人給システムの移行・導入に関する事項について検討する 21年5月18日 22年4月23日 9
(3区分×3)
GPMO人事・給与システム事務局 府省等の職員規模別に、大規模府省、中規模府省、小規模府省の3区分の部会がある
改修検討サブ・ワーキング・グループ 全体WGの下に設置され、人給システムの改修に関する事項について検討する 19年3月20日 20年2月25日 11 GPMO人事・給与システム事務局 全ての府省等の担当者
運用サブ・ワーキング・グループ 全体WGの下に設置され、人給システムの運用等に関する課題について検討する 19年2月16日 21年4月27日 16

GPMO人事・給与システム事務局

全ての府省等の担当者
システム移行計画ガイドライン勉強会 システム移行計画ガイドラインに関する勉強及び人給システムの機能に関する確認を行う 20年9月26日 20年12月19日 18
(3区分×6)
人事・給与システム事務局 府省等の職員規模別に、大規模府省、中規模府省、小規模府省の3区分の部会がある

 人給連絡協議会は、18年9月の設置の際、月1回程度の開催を目指すとしていたが、24年6月末までに4回、このうち移行作業が開始された22年度以降は2回しか開催していない。また、全体WGは、システムの詳細機能や移行手順等の実務的な内容について、人事院と参加府省等の情報共有を強化するため、24年6月末までに25回開催している。しかし、前記のとおり、全体WGでは、移行ツール及び登録シートについての説明並びに先行して移行作業を実施した府省等の進捗状況に係る情報の共有及び発生した課題に係る情報の共有が十分図られていなかった。
 そのため、23年5月には、全体WGのメンバーから人事院に対して、移行作業の状況を含めた全体的な作業状況や最適化計画の見直しなどに係る情報提供を依頼する文書が出されており、文書を受けた人事院は、その後も全体WGを開催するなどしている。
 このように、人事院は、全体WGを設置するなどプロジェクト管理体制の整備を行いながら最適化を実施しているものの、参加府省等が人給システムを早期に稼働できるよう移行作業を進捗させるための課題の共有や調整をより一層実施する必要があると認められる。