交付税は地方団体の財源の均衡化を図るなどの目的で交付されるものであるから、その算定には合理性、公平性が求められる。また、実額償還方式により財政需要の額に算入されている地方債の元利償還金は毎年度多額に上っており、補償金免除繰上償還の実施額も多額に上っている。
そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、補償金免除繰上償還が実施された前後において利子支払額が変動することを踏まえて、地方団体の財政需要が合理的に算定されているかなどに着眼して検査した。
補償金免除繰上償還は、前記のとおり、19年3月の地方財政法の改正により、19年度から21年度までの間について実施されている。また、各年度の地方債の元利償還金は、その翌年度の財政需要の額の算定の基礎となる。そこで、本院は、20年度から22年度までの3年間に補償金免除繰上償還に係る地方債の元利償還金を基に実額償還方式により算入して各地方団体の公債費等の経費に係る財政需要として算定した額(以下、公債費等の経費に係る財政需要として算定した額を「公債費等に係る財政需要の額」という。)を対象として検査を実施することとし、貴省本省並びに10県(注3) 及び管内の131市町村において、普通交付税算出資料等の書類によるなどして、会計実地検査を行った。
検査の対象とした上記の県及び管内市町村のうち、19年度から21年度までの間に10県及び123市町村で補償金免除繰上償還を総額5930億3428万余円実施していて、これらの県及び市町村において、20年度から22年度までの3年間に、補償金免除繰上償還に係る地方債の元利償還金を基に実額償還方式により算入した公債費等に係る財政需要の額は計1兆3389億2447万余円となっていた。
そして、10県及び123市町村は、5%から8.5%までの金利で借り入れていた公的資金に係る地方債の補償金免除繰上償還を実施した後、当該償還額の大半について、新たに地方債を発行し、0.1%から2.45%までのより低い金利で市中金融機関等から借り換えており、借入れに係る金利が大幅に低くなっていて、全体として利子支払額は補償金免除繰上償還実施前と比較して低減していた。
そこで、補償金免除繰上償還に係る地方債について、借換えなどが行われないものとして従前の金利により算定した元利償還金と、実際に支払われる元利償還金とをそれぞれ計算して比較すると、表1
のとおり、20年度から22年度までの合計額は1409億8711万余円と1221億1123万余円とになり、その差額は188億7588万余円となっていた。さらに、23年度以降で償還が終了するまでの期間についてみても、2489億9385万余円と1967億9503万余円とになり、その差額は521億9882万余円と多額に上る状況となっていた。
表1 | 借換えなどが行われないものとして従前の金利により算定した元利償還金、実際に支払われる元利償還金及びその差額 |
(単位:千円) |
年度
\
地方団体 |
平成20 |
21
|
22
|
20〜22合計
|
23以降
|
富山県及び管内 15市町村 |
2,978,347
|
5,106,302
|
6,404,591
|
14,489,241
|
40,879,435
|
2,608,121
|
4,358,463
|
5,413,541
|
12,380,126
|
32,103,205
|
|
370,226
|
747,838
|
991,049
|
2,109,115
|
8,776,229
|
|
山梨県及び管内 9市町 |
2,984,603
|
3,511,709
|
3,592,454
|
10,088,767 |
19,674,276 |
2,666,188
|
3,108,658
|
3,169,624
|
8,944,471
|
14,796,293
|
|
318,415
|
403,050
|
422,829
|
1,144,296
|
4,877,983
|
|
岐阜県及び管内 12市 |
2,762,764 |
3,510,263 |
3,977,921
|
10,250,950 |
21,675,454
|
2,282,487
|
3,109,990 |
3,600,900
|
8,993,377
|
16,610,162
|
|
480,277
|
400,273
|
377,021
|
1,257,572 |
5,065,291 |
|
静岡県及び管内 12市町 |
6,734,984
|
8,684,960
|
9,410,663
|
24,830,608
|
51,970,098
|
6,039,802
|
7,517,046
|
7,931,801
|
21,488,651
|
40,860,945
|
|
695,181
|
1,167,913
|
1,478,861
|
3,341,957
|
11,109,152
|
|
愛知県及び管内 9市町 |
12,149,273
|
11,218,459
|
9,497,850
|
32,865,582
|
26,560,888
|
9,990,272
|
10,225,214
|
8,154,263
|
28,369,749
|
21,835,462
|
|
2,159,001
|
993,244
|
1,343,587
|
4,495,833
|
4,725,425
|
|
三重県及び管内 14市町 |
4,094,617
|
5,319,151
|
6,529,418
|
15,943,187
|
37,721,716
|
3,844,447
|
4,712,935
|
5,416,663
|
13,974,046
|
29,564,469
|
|
250,170
|
606,216
|
1,112,754
|
1,969,141
|
8,157,246
|
|
鳥取県及び管内 11市町村 |
499,976
|
685,855
|
887,544
|
2,073,376
|
5,683,413
|
439,713
|
582,262
|
751,331
|
1,773,307
|
4,569,461
|
|
60,262
|
103,593
|
136,212
|
300,068
|
1,113,951
|
|
香川県及び管内 11市町 |
2,575,527
|
3,416,122
|
3,066,054
|
9,057,703
|
11,958,471
|
2,307,016
|
2,932,759
|
2,700,686
|
7,940,463
|
9,396,139
|
|
268,510
|
483,362
|
365,367
|
1,117,240
|
2,562,332
|
|
高知県及び管内 15市町村 |
3,407,725
|
5,007,241
|
5,205,650
|
13,620,618
|
17,206,855
|
3,132,836
|
3,966,846
|
4,574,915
|
11,674,5981
|
14,471,584
|
|
274,889
|
1,040,395
|
630,734
|
1,946,019
|
2,735,271
|
|
大分県及び管内 15市町 |
2,114,461
|
2,583,667
|
3,068,952
|
7,767,080
|
15,663,249
|
1,850,365
|
2,184,150
|
2,537,926
|
6,572,442
|
12,587,307
|
|
264,095
|
399,517
|
531,025
|
1,194,638
|
3,075,941
|
|
合計 10県及び123 市町村 |
40,302,282
|
49,043,734
|
51,641,101
|
140,987,118
|
248,993,859
|
35,161,251
|
42,698,328
|
44,251,655
|
122,111,235
|
196,795,033
|
|
5,141,030
|
6,345,405
|
7,389,446
|
18,875,882
|
52,198,825
|
注(1) | 上段:借換えなどが行われないものとして従前の金利により算定した元利償還金(A) |
中段:実際に支払われる元利償還金(B) | |
下段:元利償還金の差額(C)=(A)-(B) |
そのため、補償金免除繰上償還が行われないものとして算定した元利償還金に基づいた公債費等に係る財政需要の額を、補償金免除繰上償還実施後の実態を反映した利子支払額による元利償還金に基づいて計算した公債費等に係る財政需要の額の相当額と比較すると、20年度から22年度までのそれらの開差の合計額は、表2 のとおり、82億0868万余円となり、地方団体ごとの開差の状況を示すと表3 のとおりとなる。この開差は、普通交付税の交付額の算定の基礎となる公債費等に係る財政需要の額について、省令等に基づき算定した場合と、補償金免除繰上償還に伴う借換えなどにより利子支払額が低減された実態を反映して算定した場合との差額を示しており、23年度以降で償還が終了するまでの期間においてもこの開差は多額に上ると認められる。
年度
\ |
平成20
|
21
|
22
|
合計
|
地方団体 | ||||
富山県及び管内 15市町村 |
44,319,542 |
50,729,644
|
55,866,669
|
150,915,855
|
44,135,180
|
50,377,454
|
55,380,241
|
149,892,875
|
|
184,362
|
352,190
|
486,428
|
1,022,980
|
|
山梨県及び管内 |
26,023,579
|
25,091,229
|
29,860,082
|
80,974,890
|
25,935,090
|
24,997,423
|
29,779,317
|
80,711,830
|
|
88,489
|
93,806
|
80,765
|
263,060
|
|
岐阜県及び管内 12市 |
27,580,524
|
25,861,318
|
28,223,507
|
81,665,349
|
27,335,987
|
25,669,132
|
81,129,733
|
28,124,614
|
|
244,537
|
192,186
|
98,893
|
535,616
|
|
静岡県及び管内 12市町 |
80,377,875
|
81,167,835
|
97,303,221
|
258,848,931
|
80,109,109
|
80,606,788
|
96,658,827
|
257,374,724
|
|
268,766
|
561,047
|
644,394
|
1,474,207
|
|
愛知県及び管内 9市町 |
108,956,958
|
110,626,036
|
120,713,575
|
340,296,569
|
107,930,120
|
110,247,655
|
120,112,241
|
338,290,016
|
|
1,026,838
|
378,381
|
601,334
|
2,006,553
|
|
三重県及び管内 14市町 |
50,204,200
|
51,547,243
|
55,613,273
|
157,364,716
|
50,096,724
|
51,323,031
|
55,167,894
|
156,587,649
|
|
107,476
|
224,212
|
445,379
|
777,067
|
|
鳥取県及び管内 11市町村 |
15,981,067
|
15,253,910
|
19,345,270
|
50,580,247
|
15,951,023
|
15,202,028
|
19,277,615
|
50,430,666
|
|
30,044
|
51,882
|
67,655
|
149,581
|
|
香川県及び管内 11市町 |
31,557,083
|
33,132,940
|
38,257,184
|
102,947,207
|
31,439,995
|
32,910,761
|
38,099,661
|
102,450,417
|
|
117,088
|
222,179
|
157,523
|
496,790
|
|
高知県及び管内 15市町村 |
12,399,162
|
33,905,493
|
38,144,601
|
84,449,256
|
12,284,882
|
33,402,672
|
37,864,808
|
83,552,362
|
|
114,280
|
502,821
|
279,793
|
896,894
|
|
大分県及び管内 15市町 |
6,838,950
|
10,691,769
|
13,350,737
|
30,881,456
|
6,713,249
|
10,503,262
|
13,079,009
|
30,295,520
|
|
125,701
|
188,507
|
271,728
|
585,936
|
|
合計 10県及び 123市町村 |
404,238,940
|
438,007,417
|
496,678,119
|
1,338,924,476
|
401,931,359
|
435,240,206
|
493,544,227
|
1,330,715,792
|
|
2,307,581
|
2,767,211
|
3,133,892
|
8,208,684
|
注(1) | 上段:補償金免除繰上償還が行われないものとして算定した元利償還金に基づいた公債費等に係る財政需要の額(A) |
中段:補償金免除繰上償還実施後の実態を反映した利子支払額による元利償還金に基づいて計算した公債費等に係る財政需要の額の相当額(B) | |
下段:開差額(C)=(A)-(B) |
表3 公債費等に係る財政需要の額の地方団体ごとの開差の状況(20年度〜22年度計)
(単位:地方団体)
開差
\
地方団体 |
1億円以上
|
1000万円以上
|
100万円以上
|
100万円未満
|
開差なし
|
富山県及び管内 15市町村 |
2
|
9
|
2
|
1
|
2
|
山梨県及び管内 9市町 |
0
|
8
|
1
|
1
|
0
|
岐阜県及び管内 12市 |
3
|
5
|
3
|
2
|
0
|
静岡県及び管内 12市町 |
3
|
7
|
2
|
1
|
0
|
愛知県及び管内 9市町 |
3
|
3
|
0
|
3
|
1
|
三重県及び管内 14市町 |
2
|
5
|
4
|
1
|
3
|
鳥取県及び管内 11市町村 |
0
|
4
|
5
|
1
|
2
|
香川県及び管内 11市町 |
1
|
5
|
2
|
3
|
1
|
高知県及び管内 15市町村 |
2
|
5
|
6
|
3
|
0
|
大分県及び管内 15市町 |
1
|
7
|
4
|
1
|
3
|
合計 10県及び123市町村 |
17
|
58
|
29
|
17
|
12
|
そして、10県及び123市町村のうち、20年度から22年度までの間に財源不足額が発生せず普通交付税が交付されない年度があった地方団体が14あり、当該地方団体の普通交付税が交付されなかった年度に係る開差額は16億7717万余円となっている。
したがって、この額を前記の82億0868万余円から控除した開差額は65億3150万余円となり、10県及び123市町村における普通交付税が交付されていた年度の公債費等に係る財政需要の額を改めて前記のように補償金免除繰上償還実施後の実態を反映した利子支払額による元利償還金に基づいて算定すると、65億3150万余円減少することになることから、実態を反映した合理的な算定を行って地方団体間の普通交付税の配分を適切に行う必要があると認められる。
前記のとおり、補償金免除繰上償還が行われないものとして算定した元利償還金に基づいた公債費等に係る財政需要の額を算定することは、実態として発生していない利子支払額に基づく元利償還金を基準財政需要額に算入していることになり、地方団体の財政需要を合理的に算定していないことから地方団体間の普通交付税の配分が適切ではなく、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省において、補償金免除繰上償還実施後の実態を反映した利子支払額による元利償還金ではなく、補償金免除繰上償還実施前の利子支払額による元利償還金を基準財政需要額に算入するよう省令等で定めていることによると認められる。