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  • 平成24年9月

T-7初等練習機の委託整備費用の執行に当たり、総合評価の際に示された提案内容を今後の契約に適切に反映させるための取組を行い、経費のより経済的及び効率的な執行に資するよう防衛大臣に対して意見を表示したもの


2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、前記のとおり、平成12年度決算検査報告において、12年度の総合評価落札方式においてはその他の費用が落札者を決定する際の極めて重要な要素となっていたこと、落札者が将来において拘束されることとなる事項等について具体的定めを設けなかったことなどを検査の状況として示すとともに、新初等練習機の調達において、落札者が示したその他の費用の内容が、今後、各契約に適切に反映されていくか注視していくこととした。そして、その他の費用に当たる維持運用に係る契約の22年度までの実績額は、計114億4221万余円と多額に上っている。
 そこで、本院は、経済性、効率性等の観点から、総合評価の際に示された富士重工の提案内容が維持運用に係る契約に適切に反映されているかなどに着眼して検査した。
 検査に当たっては、貴省内部部局、装備施設本部、航空幕僚監部、航空自衛隊第1補給処東京支処等において、富士重工が提出した総合評価のための書類、契約書等の関係書類により会計実地検査を行うとともに、富士重工、富士航空整備等において、各種の整備作業の実態等を確認したり、説明を聴取したりするなどして検査を行った。

 (検査の結果)

(1) 提案経費と実績額の状況

 富士重工が提出した総合評価のための書類に記載された総提案経費の内訳である提案費目ごとの見積経費(以下「提案経費」という。)とその実績額を比較したところ、表3 のとおり、12年度から31年度までの20年間を対象として見積もられていた提案経費を22年度までの実績が既に上回っている費目があった。

表3  提案経費及び平成22年度までの実績額

(単位:千円)

提案費目 提案経費
(平成12年度から31年度までの20年間の合計額)
(A)
提案経費
(消費税及び地方消費税を含む。)
(B)=(A)×1.05
実績額

(22年度までの累計額)

主な調達先
機体価格等計
11,709,146
12,294,603
12,618,613
  入札価格(2機分の機体価格)
489,850
514,342
514,342
富士重工
    47機分の機体価格等
11,219,296
11,780,260
12,104,271
富士重工
  航空機機体定期修理費
2,601,300
2,731,365
1,393,955
富士重工
  委託整備費用
2,079,149
2,183,106
3,935,215
富士航空整備
  維持部品費
2,149,220
2,256,681
2,894,919
商社
  要修理品修理費等
1,704,399
1,789,618
1,087,700
商社
  技術経費
704,021
739,222
890,537
富士重工
  燃料等費
610,944
641,491
741,680
石油会社
  教育経費
132,979
139,627
498,201
富士航空整備
維持運用に係る経費
9,982,012

10,481,112

11,442,210
その他の費用
21,201,308
22,261,373
23,546,482
合計{入札価格(2機分の機体価格)+その他の費用}
21,691,158
22,775,715
24,060,824
注(1)  提案経費及び実績額の金額は、単位未満の金額を切り捨てて表示している。
注(2)  平成18年度以前の委託整備費用については、関係書類の保存期間が満了していて直接把握することができなかったことなどから、19年度以降の実績額から1機当たりの委託整備費用を算出し、これに当該各年度の整備機数を乗じて算定している。

(2) 委託整備に係る契約の状況

 提案費目のうちの委託整備費用については、富士重工が総合評価の際に提案した15年度から31年度までの17年間分の経費の合計額21億8310万余円(消費税及び地方消費税を含む。)と比べて、15年度から22年度までの8年間の実績額が計39億3521万余円となっており、提案費目の中で実績額が提案経費を最も大きく上回る費目となっていた。
 そこで、この要因について分析したところ、次のとおりとなっていた。

ア 提案経費の見積りの対象に指定していた委託整備における作業等の状況

 貴省は、前記の大蔵大臣との協議において、その他の費用については相当な確実性をもって見積もることができるものを対象とすることとされたことなどを踏まえて、入札者に交付した技術的事項等確認書類により、航空機の計画整備(機体ごとに150飛行時間間隔で実施する定期検査、定期検査とは別の時期に実施する定期交換部品の交換、定期交換部品の交換時に実施する特別検査等)と計画外整備(作業の実施時期及び内容が具体的に予知されず航空機の故障等の発生の都度実施する整備)を提案経費の見積りの対象とする整備作業に指定していた。
 そこで、本院が、委託整備における作業について、関係書類が保存されるなどしていて整備作業の内訳を把握することができた19年度から22年度までの実績をみたところ、表4 のとおり、提案経費の見積りの対象に指定されていた整備作業は全体の約46%であって、過半の整備作業は見積りの対象とされていないものであった。
 そして、見積りの対象とされていない整備作業に関して、貴省は、12年度の調達手続において、入札者が作業の詳細を正確に把握することが困難な整備作業や付随的に必要となる整備作業を提案経費の見積りの対象に指定すると入札者にとって不確実な要素が増えることから、入札の公平性を確保するためにこれらの整備作業を提案経費の見積りの対象としなかったとしている。

表4  委託整備の作業区分ごとの実績相当額等の推移と構成割合

(単位:人時間、千円、%、時間)

年度
平成19
20
21
22
構成割合
作業区分
入札者に対して交付した技術的事項等確認書類により、提案経費の見積りの対象に指定されていた整備作業 計画整備 工数
21,450.3
19,344.9
21,801.9

22,401.7

84,998.8

29.1
金額
141,035
127,676
142,911
147,851
559,474
計画外整備 工数
13,608.9
12,522.2
11,088.9

13,491.8

50,711.8
17.3
金額
89,478
82,646
72,687
89,045
333,858
工数
35,059.2

31,867.1

32,890.8
35,893.5
135,710.6
46.4
金額

230,514

210,322
215,599
236,897
893,333

上記整備作業に該当せず、提案経費の見積りの対象とされていなかった整備作業

 
救命装備品等の整備作業 工数
12,045.7

11,819.5

11,394.2
11,992.9
47,252.3
16.2
金額
79,200
78,008
74,688
79,153
311,051
地上器材等の整備作業 工数
5,780.9

6,261.3

6,469.5

6,297.5

24,809.2

8.5
金額
38,009
41,324
42,407
41,563
163,305

整備教育用航空機の整備

工数

3,523.9
4,948.0
4,176.7
5,484.5
18,133.1
6.2
金額
23,169
32,656
27,378
36,197
119,402
航空機受入検査等

工数

608.8
1,360.0
1,010.6
1,223.6
4,203.0
1.4
金額
4,002
8,976
6,624
8,075
27,679
その他の整備作業(個別の指示に基づく就業時間外の支援作業等)

工数

14,984.5
17,304.1
15,185.6
14,926.1
62,400.3
21.3
金額
98,523
114,207
99,541
98,512
410,784
工数
36,943.8
41,692.9
38,236.6
39,924.6
156,797.9
53.6
金額
242,905
275,173
250,640
263,502
1,032,221
合計

工数

72,003.0
73,560.0
71,127.4
75,818.1
292,508.5
100
金額
473,419
485,496
466,240
500,399
1,925,555
年度総飛行時間
11,600
11,600
11,700
11,700

46,600

注(1)  構成割合は、委託整備の作業工数の合計値に占める各種作業の工数の割合である。
注(2)  金額は、単位未満の金額を切り捨てて表示している。

 前記のとおり、富士航空整備による委託整備には、見積りの対象とされていなかった整備作業が多く含まれているため、富士重工が示した提案経費21億8310万余円とこれに対応する実績額とを単純に比較することは適切でない。
 そこで、15年度から22年度までの委託整備費用の実績額39億3521万余円に、前記の提案経費の見積りの対象に指定されていた整備作業の割合約46%を乗じて得られた金額18億2576万余円が、富士重工が示した提案経費に対応する実績相当額となることから、この金額と上記の21億8310万余円とを比較したところ、契約開始以降8年間で17年間分を対象として見積もられていた提案経費の金額の約8割にまで達していた。

イ 提案工数及び要したとしている工数の状況

 前記のとおり、提案経費の見積りの対象に指定されていた委託整備費用の実績相当額が契約開始以降の8年間で提案経費の金額の約8割にまで達していることから、委託整備の効率性について、作業区分ごとに作業に要する工数を年度総飛行時間で除して算出した1飛行時間当たりの工数で比較したところ、表5 のとおり、富士重工が経費の算定の際に用いていた工数(以下「提案工数」という。)0.93人時間に対して、富士航空整備が19年度から22年度までの間に要したとしている工数の平均値は、2.91人時間と提案工数の3倍を超えていた。

表5 1飛行時間当たりの提案工数と要したとしている工数(平成19年度から22年度まで)

(単位:人時間)

工数
提案工数
要したとしている工数
作業区分 平成19年度 20年度 21年度 22年度 平均
計画整備
0.66
1.85
1.67
1.86
1.91
1.82
計画外整備
0.27
1.17
1.08
0.95
1.15
1.09
0.93
3.02
2.75
2.81
3.07
2.91
(注)
 小数点以下第3位を四捨五入して表示している。

 整備作業を提案工数を超えて行っていたことについて、富士航空整備は、作業準備時間、機体の移動時間、構造上作業効率が劣る箇所における作業時間等に係る工数である附帯工数が全体の工数を増加させている要因ではないかと説明している。そして、富士航空整備は、整備作業を一連の流れで行うことから、提案工数と附帯工数を合理的に仕分けて把握することが困難であるとして、各作業者の任意の判断に基づく記録により附帯工数を集計していた。
 貴省は、富士航空整備が附帯工数として集計している整備作業については、いずれも必要な整備作業であるとして委託整備に係る契約の対象に含まれるものとしているが、上記のように、提案工数と附帯工数を合理的に仕分けて把握することが困難な状況であることなどから、現在実施されている委託整備の効率性が、富士重工の提案内容と同程度のものとなっているかについては、十分把握していない状況となっている。
 しかし、貴省は、富士重工による総合評価の際の提案では、富士航空整備が委託整備を実施することとして経費が見積もられていたこと、総合評価落札方式における評価数値の算定要素のうちその他の費用が低額であった富士重工が落札者となったことなどの点を十分に考慮し、富士重工の提案内容と委託整備の作業の実態を的確に把握・分析するなどして、その結果を委託整備に係る契約に適切に反映させる取組を行う必要があると認められる。

ウ 委託整備費用の管理の状況

 貴省は、平成12年度決算検査報告における所見を踏まえ、総合評価の際の提案内容が誠実に履行されることを確保するための具体的措置として、14年9月に「新初等練習機関連経費の適切な積算・執行のガイドライン」を制定し、これに基づき、提案経費に係る実績額等を管理台帳に記録して管理することとしていた。
 しかし、貴省は、提案経費の見積りの対象に指定していた整備作業に係る実績額については、提案工数等に基づき積算した額をそのまま実績額として管理台帳に記録していて、提案工数を超えて行ったとされている整備作業に係る工数については、管理台帳に記録していないなど、委託整備に係る全体の経費の執行について、十分に把握していない。

エ その他の提案費目の状況

 提案費目のうち、維持部品費の実績額が提案経費を上回っていることについて、貴省は、〔1〕 アメリカ合衆国における生産者物価の上昇を背景として同国からの輸入部品の単価が上昇したこと、〔2〕 部品の製造中止等に伴う代替部品の取得に伴い価格が上昇したこと、〔3〕 富士重工の提案では一定数量を一括して調達することを前提とした単価を使用していたのに対して、実際には貴省が商社等から必要数量を個別に購入するなどしていて調達条件が提案の内容と異なっていることなどによるものと分析している。また、技術経費等の実績額が提案経費を上回っていることについて、貴省は、提案時には想定していなかった作業項目等が追加されたことなどによるものと分析している。
 ついては、これらのその他の提案費目に係る経費の執行に当たっても、より経済的かつ効率的な執行に資するよう、今後とも、提案内容と執行状況を的確に把握・分析して、その結果を維持部品等の調達に係る契約に適切に反映していくことが重要と認められる。

(改善を必要とする事態)


 委託整備費用の実績額が富士重工の提案経費に比べて多額に上っているのに、貴省において、委託整備費用の執行状況を適切に把握しておらず、富士重工の提案内容と整備作業の実態を的確に把握・分析するなどして、その結果を委託整備に係る契約に適切に反映させるための取組を十分に行っていない事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。


(発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴省において、総合評価落札方式による調達手続の際に、落札者を将来拘束することとなる事項等について具体的な定めを設けなかったにもかかわらず、このことを十分に踏まえて、維持運用の段階で、委託整備に係る経費全体の執行状況を適切に把握するとともに、富士重工の提案内容と整備作業の実態を的確に把握・分析するなどして、その結果を委託整備に係る契約に適切に反映させるための取組を行うことについての必要性に対する認識が十分でなかったことによると認められる。