近年の我が国の厳しい財政状況下において、独立行政法人については、事業の見直しや効率化とともに、保有資産の規模の見直しや不要な資産の国庫返納等の検討が求められている。
このような状況を踏まえ、本院は、有効性等の観点から、振興基金が設置の趣旨に沿って適切に運用されているか、振興基金の規模や必要性等が適時適切に検証されているかなどに着眼して、貴省及びセンターにおいて、振興基金の運用状況、基金助成の状況等について、各種助成に係る実績報告書、関係帳票等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、貴省は、2年度にセンターに250億円を出資した。そして、センターは、これに民間からの出えん金を加えて振興基金を設置し、その運用益を財源として基金助成を行っている。2事業年度から23事業年度までの間の振興基金の運用益等の状況は、表2 のとおりとなっていた。
(単位:千円、%)
事業年度 \
区分
|
平成2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
運用益 | 523,598 | 1,770,101 | 1,364,651 | 1,137,329 | 803,234 | 1,029,823 | 959,384 | 779,974 |
事業年度末振興基金の資金保有額 | 25,210,000 | 26,990,283 | 28,031,330 | 28,708,387 | 29,113,184 | 29,311,597 | 29,401,169 | 29,411,206 |
運用利回り | 8.31 | 7.02 | 5.06 | 4.06 | 2.80 | 3.54 | 3.27 | 2.65 |
事業年度 \
区分
|
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
運用益 | 847,843 | 847,287 | 849,526 | 672,142 | 669,770 | 685,876 | 680,343 | 626,468 |
事業年度末振興基金の資金保有額 | 29,440,368 | 29,440,378 | 29,440,404 | 29,441,546 | 29,444,625 | 29,447,206 | 29,448,627 | 29,450,366 |
運用利回り | 2.88 | 2.88 | 2.89 | 2.28 | 2.27 | 2.33 | 2.31 | 2.13 |
事業年度 \
区分
|
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
運用益 | 557,807 | 593,500 | 579,169 | 592,883 | 644,579 | 644,327 |
事業年度末振興基金の資金保有額 | 29,452,629 | 29,454,820 | 29,457,787 | 29,460,270 | 29,462,323 | 29,463,701 |
運用利回り | 1.89 | 2.02 | 1.97 | 2.01 | 2.19 | 2.19 |
振興基金の運用が開始された2事業年度当時は、いわゆるバブル経済期に当たり、8%を超える運用利回りとなっていたが、ここ数年は2%前後で推移しており、運用益は、最多であった3事業年度の17億7010万余円から23事業年度にはその約3分の1の6億4432万余円にまで減少している。
2事業年度から23事業年度までの間の基金助成の状況は、表3
のとおりとなっており、助成総額は、162億0154万余円と多額となっていて、基金助成はこれまでスポーツの振興に大きな役割を果たしてきた。そして、この助成総額162億0154万余円のうち、貴省がセンターに出資した250億円の運用益から充当された額は、128億9222万余円となっている。
一方、事業年度ごとの助成額をみると、前記のとおり、運用益が減少したことに伴い、最多であった3事業年度の13億5100万余円から23事業年度には7億3927万余円にまで減少しており、上記の250億円の運用益から充当された額も3事業年度の12億3243万余円から23事業年度にはその半分以下の5億4147万余円にまで減少している。なお、貴省がセンターに出資した250億円は、上記の23事業年度に250億円の運用益から充当された額5億4147万余円の約46年分に相当することになる。
表3 基金助成の状況
(単位:千円)
スポーツ活動助成 \
事業年度
|
スポーツ団体選手強化活動助成 | スポーツ団体大会開催助成 | 選手・指導者スポーツ活動助成 | 国際的に卓越したスポーツ活動助成 | 計 | ||
うちコーチ強化研修等に対する助成 | 振興基金の運用益等を財源とするもの | 助成準備金を財源とするもの | |||||
平成 2 | 181,539 | - | - | 6,800 | \ | - | 188,339 <186,220> |
3 | 463,001 | 14,139 | 510,280 | 327,727 | \ | 50,000 | 1,351,008 <1,232,434> |
4 | 452,167 | 21,303 | 411,832 | 309,150 | \ | 45,000 | 1,218,149 <1,065,450> |
5 | 271,493 | 32,842 | 342,456 | 342,859 | \ | 33,000 | 989,808 <848,244> |
6 | 259,753 | 15,869 | 309,337 | 271,215 | \ | 10,000 | 850,305 <598,930> |
7 | 272,982 | 22,350 | 292,699 | 289,890 | \ | 20,000 | 875,571 <742,497> |
8 | 245,258 | 18,984 | 289,216 | 259,717 | \ | - | 794,191 <669,641> |
9 | 250,928 | 21,594 | 274,095 | 270,975 | \ | 16,000 | 811,998 <580,379> |
10 | 227,975 | 17,774 | 258,736 | 257,415 | \ | 4,000 | 748,126 <621,564> |
11 | 208,248 | 16,580 | 279,737 | 314,808 | \ | 4,000 | 806,793 <629,934> |
12 | 232,967 | 17,171 | 255,088 | 308,995 | \ | - | 797,050 <599,651> |
13 | 236,088 | 16,731 | 273,012 | 345,124 | \ | 5,000 | 859,224 <502,990> |
14 | 255,450 | スポーツ振興くじ助成に移行 | 234,612 | 63,600 | 311,689 | - | 553,662 <442,570> |
15 | 238,849 | 238,778 | 79,860 | 276,732 | 5,000 | 562,487 <450,248> | |
16 | 156,627 | 97,450 | 287,353 | - | 助成停止 | 541,430 <430,865> | |
17 | 79,604 | 104,394 | 371,252 | - | 555,250 <440,015> | ||
18 | 86,456 | 104,730 | 376,967 | - | 568,153 <446,269> | ||
19 | 73,692 | 108,033 | 346,318 | - | 528,043 <415,012> | ||
20 | 124,976 | 105,650 | 348,651 | - | 579,277 <461,885> | ||
21 | 245,976 | 248,550 | 56,100 | 339,427 | 550,626 <443,404> | ||
22 | 261,164 | 263,659 | 207,953 | 402,424 | 732,776 <542,529> | ||
23 | 372,641 | 226,593 | 140,045 | 617,385 | 739,279 <541,477> | ||
助成総額 | 5,197,834 | 215,337 | 5,228,937 | 5,582,776 | 1,947,657 | 192,000 | 16,201,547 <12,892,220> |
注(1) | 「選手・指導者スポーツ活動助成」欄のうち「助成準備金を財源とするもの」については外数である。 |
注(2) | 「計」欄の<>書きは、250億円の運用益から充当された額であり、内数である。振興基金の運用益から充当された基金助成額を250億円と民間からの出えん金の額の比率で案分して算出した。 |
注(3) | 各事業年度の「計」欄の額と前記表2
の振興基金の運用益の額に差があるのは、基金助成の財源が振興基金の運用益と民間からの寄附金等によっていたり、振興基金の運用益等が基金助成の他に事務費にも充てられていたりすることなどによるものである。 |
また、上記表3
の四つのスポーツ活動に対する助成のうち、スポーツ団体大会開催助成を除く各助成は、次のような状況となっていた。
〔1〕 スポーツ団体選手強化活動助成については、14事業年度から、助成の対象であったコーチ強化研修等のスポーツ活動がスポーツ振興くじ助成に移行していた。
〔2〕 選手・指導者スポーツ活動助成については、14、15、21、22、23各事業年度においては、その財源の一部がスポーツ振興投票の収益による助成準備金から充当されていた。
〔3〕 国際的に卓越したスポーツ活動助成については、16事業年度から停止されていた。
本院は、19年6月に、センターが行っているスポーツ振興投票について国会からの検査要請を受け、20年9月に、「独立行政法人日本スポーツ振興センターにおけるスポーツ振興くじの実施状況について」
として、その検査結果を報告している。そして、この報告において、センターが発売するスポーツ振興くじの売上げが当初の目標を下回り、その収益を財源としたスポーツ振興くじ助成も少額にとどまっていたり、多額の繰越欠損金を抱えていたりなどしていた中で、18年9月に、最高当せん金が6億円の「BIG」の発売が開始されたことにより、売上げが急速に回復しつつあったことなどを踏まえ、繰越欠損金をできる限り早期に解消するとともに、国庫納付を着実に行いながら、スポーツの振興のために必要な資金を確保して、もってスポーツの振興に寄与するという制度本来の目的の達成に努めることが肝要であるとしたところである。
その後のスポーツ振興投票の売上金額等の推移を見ると、表4
のとおり、19事業年度の売上金額は18事業年度の約5倍に増加し、それ以降も順調に推移しており、20事業年度には繰越欠損金の解消を果たすとともに、スポーツ振興くじ助成の助成額も大きく伸びている。
(単位:千円)
事業年度 \
科目
|
平成18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
売上金額 | 13,470,999 | 63,711,847 | 89,741,423 | 78,547,151 | 84,811,945 | 82,673,843 |
収益 | 145,276 | 2,183,293 | 18,388,537 | 24,054,172 | 24,208,840 | 24,338,917 |
国庫納付額 | 48,425 | 727,764 | 6,129,512 | 8,018,057 | 8,069,613 | 8,112,972 |
助成準備金繰入額 | 96,851 | 1,455,529 | 12,259,025 | 16,036,114 | 16,139,639 | 16,225,945 |
繰越欠損金 | 26,417,653 | 9,551,299 | - | - | - | - |
スポーツ振興くじ助成の助成額 | 110,847 | 78,500 | 949,102 | 5,705,426 | 8,575,166 | 12,781,034 |
基金助成の助成額 (前表3
より再掲)
|
568,153 | 528,043 | 579,277 | 550,626 | 732,776 | 739,279 |
センターは、22年2月に、スポーツ振興投票の収益による助成を継続的・安定的に実施するための財源の確保を目的として、「スポーツ振興投票の収益をもって充てる助成財源に係る特定目的資金の設置に関する要綱」(平成22年2月平成21年度要綱第16号)等を定め、助成準備金に計上する金額のうち、一定額について、資金の使途を明確にした特定目的資金として確保することとして、〔1〕 国際競技大会等助成資金、〔2〕 継続事業助成資金、〔3〕 東日本大震災復興支援資金(平成23年8月に追加)の三つの特定目的資金を設置した。
そして、これらの特定目的資金として確保された額は、23事業年度末現在額で、計141億4228万余円となっている。
前記のとおり、振興基金の運用益は振興基金設置当初に比べて大きく減少しており、これに伴い運用益を財源とした基金助成の23事業年度の助成額は、3事業年度の6割を下回るものとなっている。また、基金助成の対象業務の一部は、スポーツ振興くじ助成等他の助成制度によって代替されるなどしている。一方、スポーツ振興投票が軌道に乗ったことにより、スポーツ振興くじ助成の助成額は、この5年間で飛躍的に増加しているこのような状況の中で、センターは、助成準備金のうちの一定額を特定目的資金として確保して、スポーツ振興くじ助成を継続的・安定的に実施するための財源を充実させている。
したがって、スポーツの振興を図るための助成業務を運用型の基金助成により実施する必然性は、乏しい状況になっている。
(改善を必要とする事態)
近年の低金利の状況下において、振興基金の運用益が少額になっていることなどにより、スポーツの振興を図るための助成業務を運用型の基金助成により実施する必然性が乏しい状況になっているのに、振興基金に多額の資金が保有されている事態は、貴重な財政資金が有効に活用されていないため適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省及びセンターにおいて、基金助成の実施状況、金利の低下とその継続等といった社会経済情勢の変化等に応じて、振興基金の在り方を適時適切に見直していないことなどによると認められる。