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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成24年10月

東日本大震災等の被災者を救助するために設置するなどした応急仮設住宅の供与等の状況について


4 所見

(1) 検査の状況の概要

 東日本大震災等により、多くの被災者が住居を失うなどしたため、被災7県は、応急仮設住宅を供与することとし、厚生労働省は、被災7県が応急仮設住宅の設置等に要した費用について、災害救助費等負担金を交付している。
 災害救助法によると、都道府県知事が必要があると認めた場合には、救助を要する者に対し、金銭を支給して救助を行うことができるとされている。しかし、運用通知により、救助は現品によって行うことが原則とされ、金銭の支給は真にやむを得ない場合において、しかも金銭の支給によって救助の実効を期し得る場合に限るべきとされている。
 会計検査院は、東日本大震災等に際して応急仮設住宅の供与は適切に行われているか、改善すべき問題点はないかなどに着眼して検査を実施したところ、次のような状況が見受けられた。

ア 避難所の設置期間は、建設仮設住宅の設置に時間を要したことなどから、長期にわたっている状況であり、この間、被災者は、プライバシーが守られにくいなど良好でない環境での避難所生活を強いられる結果となっている。

イ 被災7県において供与された応急仮設住宅は、建設仮設住宅と民間賃貸仮設住宅が大部分を占めている。そして、東日本大震災等においては、過去の震災等において例のない規模で民間賃貸仮設住宅が供与されている。

ウ 民間賃貸仮設住宅は、建設仮設住宅と比較すると、早期に供与され、また、1戸当たりの供与に要する費用は低額となっていた。しかし、建設仮設住宅と民間賃貸仮設住宅は、ともにそれぞれ利点と欠点があることから、大規模な災害時における応急仮設住宅の供与に際しては、建設仮設住宅と民間賃貸仮設住宅のそれぞれの特性に十分留意しつつ、建設仮設住宅の的確な整備と併せて、民間賃貸仮設住宅のより積極的な活用を図るべきと思料される。そして、応急仮設住宅の一層の早期供与及びこれに伴う避難所の早期解消、被災者の住環境に対する需要への的確な対応、応急仮設住宅の供与に要する費用の低減等に努める必要があると思料される。

エ 都道府県等が民間賃貸仮設住宅の供与を行う場合には、運用通知により事実上現品による供与が前提とされているために、不動産関係の業界団体等から災害時の協定に基づくなどして提供を受けた民間賃貸住宅の物件情報を用いて被災者に希望する物件をあっせんするなどした上で、当該物件ごとに都道府県等が賃貸借契約を締結して自ら借主となって被災者に提供することになる。このことにより、災害発生後、被災自治体が民間賃貸仮設住宅をより積極的に供与しようとする場合には、多大な事務負担を強いられることとなる。このため、被災7県では、被災者が民間賃貸仮設住宅に入居するまでに一定期間を要するなどしていた。また、県等が仲介手数料を2回負担しているなどの不合理な事態が見受けられた。

オ 東日本大震災等においては、多数の被災者が、被災7県等からあっせんを受けることなく自ら不動産業者を訪問するなどして物件を探し、希望物件について被災7県等に当初から又は遡及して賃貸借契約を締結してもらった上で民間賃貸仮設住宅として入居するなどしていた。このことなどから、不動産関係の業界団体等から災害時の協定に基づくなどして提供を受けた民間賃貸住宅の物件情報を用いて被災自治体が行うあっせんは、必ずしも被災者の住環境に対する需要を満たしていなかったと思料される。

カ 被災7県に対する会計実地検査の際に、複数の県等から、事務負担の軽減等のために、災害時の民間賃貸仮設住宅の供与については、被災者が支払う家賃等に対して金銭を支給することにより行うという選択肢が認められる必要があるとの意見が多数示された。一方、金銭の支給による救助については、様々な課題があることから、それらの解決を図る必要があると思料される。

(2) 所見

 東日本大震災等のような大規模な災害時においては、まず被災者に対する応急仮設住宅の迅速な供与が優先課題の一つとなる。そして、その供与は被災者の住環境に対する需要を極力満たしている必要があるが、これに係る事業は、経済的、効率的に実施される必要がある。また、我が国は世界有数の地震国であることなどから、今後の大規模な災害時における対処方法等については、常に見直しを行っていくことが肝要である。
 災害救助法に基づく救助は、災害の際に、食料品その他生活必需品の欠乏、住居の喪失等に対して自らこれらを手当できない被災者に対して、国が地方公共団体等及び国民の協力の下に責任をもって対応するためとして、運用通知において現品により供与することが原則とされている。しかし、この原則を厳格に運用するあまり、東日本大震災等のような大規模な災害の際に、被災者への迅速な対応等が阻害される結果となることは、制度本来の趣旨に反するものである。
 したがって、東日本大震災等のような大規模な災害の場合には、応急仮設住宅の供与について、被災者の住環境に対する需要に迅速かつ的確に応えるために、その実情に応じて、弾力的に対処することが重要である。そして、都道府県知事が必要と認め、運用上の制限が緩和された場合は、民間賃貸仮設住宅の供与について、金銭を支給して行うという選択肢も有力な方策の一つとなる。
 この運用上の制限の緩和に関しては、前記のとおり、生活保護制度において行われているように、支給された金銭が家賃等として家主等に対して確実に支払われるよう、家主等が被災者に代わって都道府県等から直接受領する方法等を検討するとともに、民間賃貸住宅物件を自ら選定することが困難な高齢者、障害者等や特に早期に住宅の確保が必要な者等に対しては、これまでどおりに現品での供与により対応することなどを検討する必要があると思料される。
 そして、これらの問題点が解決されて、運用上の制限が緩和された場合には、今後の大規模な災害時における応急仮設住宅の供与において、民間賃貸仮設住宅が一層活用されることになり、建設仮設住宅では満たされない被災者の住環境に対する需要への対応、応急仮設住宅の供与に要する費用の低減等が図られることになる。また、同時に、国費の支援を受けた被災自治体の災害救助等の業務効率が向上することにもなるため、被災者への迅速な対応が図られることになる。
 ついては、厚生労働省において、今回の東日本大震災等における民間賃貸仮設住宅の供与の状況を踏まえて、応急仮設住宅の供与について、被災者、被災自治体等の実情に応じて弾力的に対応できるようにするとともに、建設仮設住宅の的確な整備と併せて民間賃貸仮設住宅のより積極的な活用が図られるようにするため、災害救助における現品による供与の原則を一部緩和することについて今後の検討課題に含める必要がある。

 会計検査院としては、東日本大震災等のような大規模な災害においては、被災者の需要に迅速かつ的確に応えることが特に重要であること、応急仮設住宅の供与等が国費を原資として行われていることを考慮し、今後も被災7県における応急仮設住宅の供与等の状況等について引き続き注視していくこととする。