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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成24年10月

地震・火山に係る観測等の実施状況について


4 所見

(1) 検査の状況の概要

 我が国は、地震、津波、火山噴火等の自然現象による大規模災害が度々発生しており、国、独立行政法人、国立大学法人等の関係機関において、防災・減災や自然現象の発生の予測及び解明を目的として、地震、津波及び火山の観測、調査研究等や、これらに関連する補助事業等が行われてきている。
 そこで、関係機関による近年の地震、津波及び火山の観測機器の整備状況及び運用状況はどのようになっているか、災害時における観測機器等の支障対策はどのようになっているか、国民に対する地震、津波等に関する緊急情報の伝達は適切に実施されているかなどに着眼して検査したところ、次のような状況が見受けられた。

ア 一部の地方公共団体において、近接する地点に気象庁又は防災科研の強震計が設置されているにもかかわらず、その利用について十分に検討することなく震度計を更新するなどしていたり、分岐装置の更新等について十分な検討を行っていなかったりしている事態が見受けられた。

イ 国土交通省の地震計ネットワークは、事務所等における地震直後の初動体制の決定に資することを目的として、7年度以降整備されてきたが、強震計等の故障が一部に見受けられ、事務所等の中には気象庁が発表する震度観測点の増加に伴い、同庁から送信される震度情報により特段の問題もなく地震発生時の初動体制を決定している状況が見受けられた。

ウ 東北地方太平洋沖地震後に発生した停電等により、気象庁への観測データの提供に支障が生じたため、一部の地点で震度情報が発表できない状況や、観測データが欠測している事態が見受けられるとともに、観測網に発動発電機等を整備するなどの停電等に対する支障対策について、データ提供機関によって区々となっている状況が見受けられた。

エ J-ALERTは、全国のほとんどの市町村に整備されたものの、約3割の市町村においては、多額の費用を要するため同報無線等の情報伝達用の機器を整備していないことなどから、J-ALERTにより受信した緊急情報を住民に伝達する手段がないなど、緊急情報を人手を介さずに瞬時に伝達するというJ-ALERTの整備目的が達成されていない事態が見受けられた。

オ 地方公共団体における住民に対する地震、津波等に関する緊急情報の伝達体制についてみると、国から住民へ人手を介さずに瞬時に伝達することができるJ-ALERTが担う役割は重要なものであるが、緊急情報を受信することから同報無線等を自動起動して放送することまでを一連のものとして行う訓練の実施状況が低調となっていたり、居住地域におけるJ-ALERTの運用状況が住民に対し十分に周知・広報されていなかったりしていて、緊急時に伝達すべき情報が住民に適切に伝わらないことが懸念される状況が見受けられた。

(2) 所見

 地震、津波及び火山の観測体制は、地震本部の計画、火山噴火予知連絡会の報告等に基づき、その整備・強化が進められていて、観測機器で得られた観測データは、防災・減災や自然現象の発生の予測及び解明のために幅広く活用されるようになってきているが、地震、津波及び火山の観測、調査研究等並びにこれらに関連する業務は、今後も引き続き実施されるものである。ついては、以上の検査の状況を踏まえて、関係機関においては、次の点について留意することが望まれる。

ア 地方公共団体の整備する観測機器等の更新等に当たっては、気象庁又は防災科研の同種の観測機器の設置状況やシステム等の更新状況を把握するとともに、十分な連携を図るなどして、観測機器等の更新等の必要性について十分に検討し、効率的な予算執行に努める。

イ 国土交通省の地震計ネットワークにおける今後の強震計の更新等については、気象庁が発表する震度観測点と河川・道路施設等の設置場所が離れていて震度観測の精度を向上させる必要がある場合等に限定した上で、これに該当しない強震計については廃止するとした24年8月策定の今後の運用方針に沿って強震計の絞り込みに向けた具体的な計画を策定し、地震計ネットワークの着実な見直しに努める。

ウ 国において、気象庁が発表する予報、警報等が国等の初動体制の確立や的確な被害状況の把握に大きな影響を与える状況を踏まえて、防災対策の見地から、災害発生時等においても気象庁の予報、警報等に活用されるデータ提供機関の観測データが確実に同庁に提供されるよう、支障対策の検討に努める。

エ 市町村において、同報無線等の情報伝達用の機器の整備や多様な情報伝達手段の活用を図ることなどにより、J-ALERTによる緊急情報が住民に対して適切に伝達される体制の確立に努める。また、国において、今後、市町村における緊急情報の伝達体制確立に対する支援に努める。

オ 国及び地方公共団体において、地震、津波等に関する緊急情報が住民に対して確実に伝達されて、防災・減災に資するように、J-ALERTの訓練機会の確保に努めるとともに、市町村ごとのJ-ALERTの運用状況が住民に伝わるよう、周知・広報に努める。

 会計検査院としては、今後も、国、独立行政法人、国立大学法人等における地震、津波及び火山の観測等の実施状況、これらの成果の防災・減災の対策への活用状況等について引き続き注視していくこととする。