消費者庁は、地方公共団体における消費生活センター等が行う消費生活相談の実施を支援するため、平成22年1月から消費者ホットライン事業を運営している。そして、消費者ホットラインは、消費者が全国共通の電話番号に電話をかけると、最寄りの相談窓口等に直接つなげたり、つなぐことができない場合には最寄りの相談窓口等の電話番号を案内したりする仕組みとなっていて、消費者ホットラインを利用している相談窓口は、24年度末現在で47都道府県、1,273市区町村等の計1,373か所となっている。これにより、消費者は直接相談窓口に赴くなどの方法に加えて、消費者ホットラインにより消費生活相談を受けることができるようになっている。
消費者庁は、消費者ホットライン事業の運営に当たり、運用体制の維持、利便性向上のための運用支援等の業務を、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(以下「NTTコム」という。)と契約を締結して委託している。
そして、消費者ホットライン事業に係る委託費は、月額利用料金、着信先電話番号設定等の工事費等から構成され、このうち、月額利用料金は、①契約回線(契約に基づき設定された相談窓口の電話番号に係る電話設備と消費生活相談に使用する電話等とをつなぐ電話回線をいう。以下同じ。)の数(以下「契約回線数」という。)に応じて増額する基本サービス料金(1契約回線の月額単価1,050円)、②最寄りの相談窓口が休みなどの際にあらかじめ登録した他の相談窓口に接続先を変更したり、最寄りの相談窓口の電話がIP電話(インターネットの仕組みを利用して提供される電話サービスをいう。以下同じ。)等で消費者ホットラインから当該相談窓口につなぐことができない場合に、当該相談窓口の電話番号の案内ガイダンスを送出したりするサービスに係る有料オプション料金(1電話番号当たり月額単価1,470円等)等から成っている。なお、22年3月からは、最寄りの相談窓口がIP電話等を利用していても、一部のIP電話等については、消費者ホットラインから当該相談窓口につなぐことができるようになった。
消費者庁は、消費者ホットライン事業に要する経費として、21年度から24年度までの間に、NTTコムからの請求に基づき2億7853万余円を支払っており、このうち月額利用料金は計2億3645万余円となっている。
消費者庁は、消費者ホットライン事業の開始時に、地方公共団体等からの申請に基づいて契約回線数等を設定しており、それ以降は、毎年度末の時期に地方公共団体等に変更の有無を確認するほか、随時変更の申請を受け付けるなどして変更を行っている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、契約回線数等の設定は、事業の実績等に即した適切なものとなっているかなどに着眼して、消費者庁において、21年度から24年度までの間の前記の支払額2億7853万余円を対象として契約関係書類により会計実地検査を行うとともに、前記の相談窓口における契約回線等の利用状況等について消費者庁を通じて地方公共団体から報告を求めて、その内容を確認するなどの方法により検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
消費者庁は、基本サービス料金の対象となる契約回線数について、前記のとおり、地方公共団体等からの申請に基づくなどして設定していたが、消費生活相談の実績を考慮して設定することとはしていなかった。また、21年度以降、消費生活センター等の設置数が増加していたが、23年度以降、その増加数は縮小していた。
そこで、23、24両年度における契約回線数の設定状況等について検査したところ、1年間の消費生活相談の総件数(消費者が直接相談窓口に電話するなどの消費者ホットライン事業以外によるものも含む。)が1日平均1回未満と少ないのに契約回線数を2回線以上に設定している相談窓口が、23年度で1県及び124市町村の126か所、24年度で1県及び97市町村の99か所で見受けられた。
したがって、これらの相談窓口については、消費生活相談の実績を踏まえて契約回線数を1回線と設定すれば足り、その場合に比べると、延べ契約回線数(契約回線数の月単位の延べ数をいう。以下同じ。)が23、24両年度で計4,485回線過大となっていた。
また、消費者庁は、上記のほか、上記の事態が見受けられた市町村のうちの2市町を含む1県及び3市町の計4か所の相談窓口に係る契約回線について、地方公共団体からの申請数が3回線であるのに、誤って23回線とするなど不要な契約回線を設定するなどしていて、延べ契約回線数が21年度から24年度までの間で計1,555回線過大となっていた。
前記のとおり、22年3月から一部のIP電話等については、消費者ホットラインから最寄りの相談窓口につなぐことができるようになったことから、5県及び100市町村の106か所の相談窓口においては、当該相談窓口の電話番号の案内ガイダンスを送出する有料オプションが不要となったのに、消費者庁は当該有料オプションの解除を行っていなかった。
上記の(1)及び(2)により、21年度から24年度までの間に支払われた月額利用料金計2億3645万余円のうち、計907万余円が過大に支払われていた。
このように、消費生活相談の実績を考慮しないで契約回線数を設定していたり、地方公共団体からの申請数を上回る不要な契約回線を設定していたり、不要となった有料オプションを解除していなかったりなどしていて、月額利用料金を過大に支払っている事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、消費者庁において、次のことなどによると認められた。
ア 消費者ホットライン事業に係る委託費のうち月額利用料金に関して、消費生活相談の実績等に即した適切な契約回線数等とすることについての認識が欠けており、また、有料オプションの内容の理解が十分でなかったこと
イ 各地方公共団体に対して、契約回線数変更の有無を確認するなどの際に、契約回線数の設定を消費生活相談の実績等に即したものとするよう十分周知していなかったこと
上記についての本院の指摘に基づき、消費者庁は、不要な契約回線及び有料オプションについて、25年7月までに適正な設定に変更するとともに、契約回線数等の設定が消費生活相談の実績等に即した適切なものとなるよう次のような処置を講じた。
ア 25年8月に「消費者ホットラインの運用要領」を制定して、地方公共団体から消費生活相談の実績等に即した契約回線数等の申請を行わせるとともに、地方公共団体の人口、これまでの消費生活相談の実績等から契約回線数の上限を設けることなどとした。また、契約回線数等の設定変更後も、消費者ホットライン入電件数等の実績を基に検証して適時適切に契約回線数の変更を地方公共団体等に求めるなどのフォローアップを行うこととする体制の整備を図った。
イ 上記の要領について、同月に地方公共団体等に通知して、契約回線数等の設定について消費生活相談の実績等に即して契約回線数の変更の申請等を適時適切に行うよう周知した。