刑務所、少年刑務所及び拘置所の刑事施設、少年院及び少年鑑別所(以下、これらを合わせて「刑事施設等」という。)は、「刑務所、少年刑務所及び拘置所組織規則」(平成13年法務省令第3号)又は「少年院及び少年鑑別所組織規則」(平成13年法務省令第4号)により、保健、防疫、医療等に関する事務を所掌する医務部門を設置し、同部門に常勤で勤務する医師(以下「常勤医師」という。)を配置している。
常勤医師には国家公務員法(昭和22年法律第120号。以下「公務員法」という。)、一般職の職員の給与に関する法律(昭和25年法律第95号。以下「給与法」という。)、一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律(平成6年法律第33号。以下「勤務時間法」という。)等が適用され、刑事施設等は常勤医師の勤務時間の管理等を行い、また、所定の給与を支給している。
公務員法では、一般職の国家公務員である職員は、勤務時間中職務に専念しなければならないこととされており、給与法により、休日である場合又は休暇による場合その他その勤務しないことにつき特に承認があった場合等を除いて正規の勤務時間中に勤務しなかった時間は、給与額(勤勉手当等の額は含まない。以下同じ。)を減額して支給することとされている。そして、この減額する給与額は、給与法等によると、勤務しなかった時間数に勤務1時間当たりの給与額を乗じて得た額とされている。
また、給与法等によると、職員に支給される勤勉手当は当該職員の俸給の月額等に勤務期間(注1)による割合(以下「期間率」という。)を乗ずるなどして算出することとされており、期間率は勤務期間に応じて0から100分の100までの割合とされている。
常勤医師は、一定の要件を満たす場合、医療技術の維持向上等を目的として、大学医学部、大学病院、総合病院等の外部医療機関等における研修(以下「外部研修」という。)を行うことが認められている。
人事院規則10—3(職員の研修)、「医療職俸給表(一)適用職員の外部医療機関等における研修について」(平成13年法務省矯総第4293号)等によれば、外部研修を行う場合は、勤務する刑事施設等の長(以下「施設長」という。)に対して、研修目的、研修先の外部医療機関等、研修の課業時間等を記載した研修計画書(以下「計画書」という。)を事前に提出して許可を受けることとされている。そして、外部研修を行った場合は、施設長に対して、計画した研修期間の満了時点等の適宜の時期に研修結果報告書(以下「報告書」という。)を提出することとされている。
また、勤務時間法、人事院規則15—14(職員の勤務時間、休日及び休暇)等によれば、日常の執務を離れて行う外部研修については、許可を受けた課業時間が当該職員に割り振られた正規の勤務時間とされている。
本院は、合規性等の観点から、常勤医師が外部研修を行う場合の勤務時間の管理は適正に行われ、常勤医師の給与は適正に算定されているかなどに着眼して、27刑事施設等において、常勤医師に支給された給与を対象として、出勤簿、計画書、報告書、職員別給与簿等により会計実地検査を行った。そして、このうち疑義が生じた4刑事施設等(注2)の常勤医師4名については、平成19年4月から25年3月までの間に支給された給与の総額225,705,895円を対象として、上記の関係書類を確認したり、刑事施設等の職員を通じて外部研修の実施状況を確認したりするなどして検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
すなわち、常勤医師4名は、19年度から24年度までの毎年度、外部研修として、週1日又は週2日、外部医療機関等において、医療技術の向上等を目的とした研究等を行うこととする計画書を施設長に提出して外部研修の許可を受けており、研修期間経過後に報告書を提出して、計画どおり研修を行ったとしていた。そして、常勤医師4名が外部研修を行ったとする課業時間について、正規の勤務時間に勤務したものとして、所定の給与が支給されていた。
しかし、本院が刑事施設等の職員を通じて、常勤医師4名及び常勤医師4名の外部研修先から外部研修の実施状況を確認するなどしたところ、常勤医師4名は、19年4月から24年12月までの間に、上記の外部研修を行ったとする課業時間に外部研修を全く行っていなかった。
したがって、常勤医師4名が19年4月から24年12月までの間に外部研修を行っていなかった課業時間数計11,129時間は、当該常勤医師に割り振られた正規の勤務時間中に特に承認を得ることなく無断で勤務していなかったこととなることから、月ごとの勤務しなかった時間数(20時間から80時間)にそれぞれの月の勤務1時間当たりの給与額(2,497円から3,538円)を乗じた額の合計35,163,727円の給与額を減額すべきであった。
また、上記の勤務しなかった期間については、勤務期間の算定上、給与法により給与を減額される期間となり在職した期間から除かれることから、勤勉手当の算出基礎となる期間率は当初の割合(100分の30から100分の100)から所定の割合(100分の15から100分の95)に下がることとなり、勤勉手当額を計3,648,241円減額すべきであった。
前記のとおり、常勤医師4名が施設長の許可を受けて行うこととされている外部研修を全く行わず、正規の勤務時間中に勤務していなかったのに、当該常勤医師4名が勤務していた4刑事施設等は、その給与の支給に当たり、勤務しなかった時間に係る給与額35,163,727円及び勤勉手当額3,648,241円、計38,811,968円を減額しておらず、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、常勤医師4名において国家公務員の服務規律を遵守することの認識が欠けていたこと、4刑事施設等において外部研修をその目的に沿って適切に行うよう常勤医師に対して十分な指導を行っていなかったこと、外部研修の実施状況を適切に把握していなかったことなどによると認められる。
これらの勤務しなかった時間について減額すべきであった給与額及び勤勉手当額を刑事施設等別に示すと次のとおりである。
刑事施設等名 | 当該常勤医師に支給された給与の総額(支給期間) | 外部研修を行っていなかった期間 | 外部研修を行っていなかった課業時間 | 減額すべきであった給与額 | 減額すべきであった勤勉手当額 | であった給与額及び勤勉手当額の計 | |
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円 | 時間 | 円 | 円 | 円 | |||
(22) | 府中刑務所 | 31,766,061 (20.9〜23.7) |
20.9〜23.7 | 2,121 | 5,813,901 | 563,274 | 6,377,175 |
(23) | 奈良少年刑務所 | 65,049,218 (20.1〜24.12) |
21.10〜24.12 | 2,314 | 7,986,613 | 877,902 | 8,864,515 |
(24) | 仙台少年鑑別所 | 63,163,954 (19.4〜24.3) |
19.4〜23.7 | 3,250 | 10,482,662 | 10,482,662 | 11,557,108 |
(25) | 大阪少年鑑別所 | 65,726,662 (20.1〜25.3) |
20.1〜24.9 | 3,444 | 10,880,551 | 1,132,619 | 12,013,170 |
(22)〜(25)の計 | 225,705,895 | 11,129 | 35,163,727 | 3,648,241 | 38,811,968 |