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  • 平成24年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
  • 第1節 省庁別の検査結果 |
  • 第6 法務省 |
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

人権啓発活動の委託に当たり、研究員手当の時間単価の算出方法、従事実績に係る証拠書類の整備方法及び額の確定検査の手続を定めることにより、委託費の精算が適切に行われるよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)法務本省 (項)人権擁護推進費
部局等
法務本省
契約名
人権啓発活動中央委託
契約の概要
人権に関する啓発教材の作成、人権に関する情報・資料の収集提供等の実施
契約の相手方
財団法人人権教育啓発推進センター(平成24年4月1日以降は公益財団法人人権教育啓発推進センター)
契約
平成20年4月、21年4月、22年4月、23年4月 随意契約
委託費の交付額
9億9845万余円(平成20年度〜23年度)
上記のうち適切な精算が行われていなかった委託費の額
6613万円

1 人権啓発活動等の概要

(1) 人権啓発活動の概要

法務省は、人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(平成12年法律第147号)等の規定に基づき、人権啓発活動として、国民の間に人権尊重の理念を普及させ、及びそれに対する国民の理解を深めることを目的とする広報その他の啓発活動を行っている。そして、この人権啓発活動には、同省人権擁護局、その地方支分部局である法務局及び地方法務局並びに法務大臣が委嘱する人権擁護委員が行う活動のほか、財団法人人権教育啓発推進センター(平成24年4月1日以降は公益財団法人人権教育啓発推進センター。以下「センター」という。)、地方公共団体等へ委託して行う活動がある。

(2) 人権啓発活動中央委託の概要

法務省は、9年度以降、毎年度、人権啓発活動中央委託要綱(平成9年4月法務大臣決定。以下「要綱」という。)及び人権啓発活動中央委託実施要領(平成12年4月法務省人権擁護局長決定。以下「要領」という。)等に基づいて、センターに対して人権啓発活動を委託している(以下、この委託を「人権啓発活動中央委託」という。)。

上記の要綱等によれば、人権啓発活動中央委託の対象となる人権啓発活動は、人権に関する啓発教材の作成事業、人権に関する情報・資料の収集提供事業、人権に関する講演会等の開催事業等となっている。

そして、人権啓発活動中央委託の実施に係る手続は次のとおりとなっている。

① 法務本省(以下「本省」という。)は、委託事項、委託金額等を明記した委託の申入れのための文書によりセンターに委託の申入れを行う。

② センターは、申入れを承諾したときは、本省に対して請書を提出するとともに、人権啓発活動実施計画書、人権啓発活動委託費経費積算内訳書(以下「積算内訳書」という。)等を提出する。

③ 本省は、センターからの請求により委託費の概算払を行う。

④ センターは、本省に対して、実施した人権啓発活動の結果を報告するとともに、人権啓発活動委託費精算書、人権啓発活動委託費支出決算書(以下「支出決算書」という。)等を作成し提出する。

⑤ 本省は、委託費の精算後に残額が生じた場合等にはその返還を求める。

また、センターは、支出決算書において、事業に要した経費として、旅費、庁費等のほか、事業の従事者の人件費に相当するものとして研究員手当を計上している。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性等の観点から、研究員手当の額が事業の従事者に対する給与支給の実態を反映したものとなっているか、証拠書類等による従事実績の確認を経て適切に研究員手当の精算が行われているかなどに着眼して、20年度から23年度までの間における本省からセンターへの人権啓発活動中央委託に係る委託費の交付額計9億9845万余円を対象に検査を行った。

検査に当たっては、本省において、支出決算書等の関係書類の提出を求めるとともに、それらの書類の確認状況等について職員から説明を聴取するなどして、また、センターにおいて、給与明細書等の関係書類の提出を求めるとともに、研究員の業務の実態等について職員から説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 研究員手当の時間単価について

センターは、支出決算書において、本件事業に従事した研究員の1時間当たりの単価(以下「時間単価」という。)を、主任研究員は5,100円、研究員は4,100円とし、これに各研究員が本件事業に従事したとする時間を乗じた額を研究員手当として計上し、これらの額を支出したとしていた。そして、本省はこれを適正と認め、所要額を交付していた。

しかし、支出決算書における上記研究員手当の時間単価は、センターが委託の申入れを承諾した際に本省に提出した積算内訳書に記載した単価をそのまま使用したものであった。そして、本件事業に実際に従事していたのは、いずれもセンターの職員であることから、センターがこれらの職員に実際に支払った給与、法定福利費等の合計額を年間所定労働時間で除するなどして各職員の時間単価を計算したところ、実際に本件事業に従事したセンターの職員である研究員の時間単価は、センターが支出決算書で報告した時間単価より各年度の平均で955円から1,132円低くなっていた。

(2) 研究員の従事実績の確認について

センターは、支出決算書において、各研究員が本件事業に従事した時間を、20年度に13人で計3,635時間、21年度に9人で計3,860時間、22年度に8人で計4,110時間、23年度に11人で計3,520時間と計上していた。

しかし、支出決算書における上記の従事時間数は、センターが委託の申入れを承諾した際に本省に提出した積算内訳書に記載した従事予定時間をそのまま計上するなどしたものであった。

そして、本省は、要綱等において、センターに対して、本件事業に係る従事実績の確認に必要な業務日誌等の証拠書類の作成や保存を義務付けていなかったため、センターは、業務日誌を作成又は保存しておらず、各研究員が本件事業に実際に従事した時間について、確認できない状況となっていた。

(3) 額の確定検査について

本省は、要綱等に基づき、センターから提出された支出決算書等により委託費の精算を行い、委託費に残額が生ずるなどした場合には、センターに対して、委託費の返還を求めることができることとなっている。

しかし、本省は、毎年度の委託費の精算に当たり、証拠書類による精算額の確認等の支払うべき経費の額の確定のための検査(以下「額の確定検査」という。)を行っておらず、上記(1)及び(2)の事態を全く把握していなかった。

これらのことから、本件委託費の交付額のうち研究員手当の20年度から23年度までの間における交付額計6613万余円については、適切な精算が行われていなかった。

以上のように、本件委託費の精算に当たり、研究員手当の額の算定を事業の従事者に対する給与支給の実態を反映していない時間単価により行っていたり、業務日誌等の証拠書類による本件事業に係る従事実績の確認ができない状況となっていたり、証拠書類による精算額の確認等を行っていなかったりしている事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、法務省において、研究員手当の時間単価の算出方法を具体的に定めていなかったこと、研究員手当の算定の根拠となる従事実績に係る証拠書類の整備方法を定めていなかったこと、精算額の確認を証拠書類に基づいて適切に行うことについての認識が欠けていたことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、法務省は、25年3月に要領を改正するなどして、研究員手当の時間単価の算出方法、研究員手当の算定の根拠となる従事実績に係る証拠書類の整備方法及び額の確定検査の手続を定め、24年度の委託費の精算から適用することとする処置を講じた。