(平成25年10月31日付け 外務大臣 独立行政法人国際協力機構理事長 宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、政府開発援助を実施している。
そして、政府開発援助について、外務省は、援助政策の企画立案や政策全体の調整等を行っている一方、独立行政法人国際協力機構(以下「機構」という。)は、開発途上にある海外の地域(以下「開発途上地域」という。)に対する技術協力の実施、有償及び無償の資金供与による協力の実施等を行っている。このほか、各府省庁がそれぞれの所掌に係る国際協力として技術協力を実施するなどしている。
無償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して返済の義務を課さないで資金を贈与することにより行われるものである。無償資金協力は、平成20年9月までは外務省が実施し機構がその一部の実施の促進に必要な業務を行っていたが、同年10月以降は、草の根・人間の安全保障無償資金協力等の外務省が実施する一部の無償資金協力を除き、機構が実施することとなっている。
技術協力は、開発途上地域からの技術研修員に対する技術の研修、開発途上地域に対する技術協力のための人員の派遣、機材の供与等を行うもので機構(15年9月30日以前は国際協力事業団)や各府省庁が実施することとなっている。
有償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、資金供与の条件が開発途上地域にとって重い負担にならないように金利、償還期間等について緩やかな条件が付されている資金を供与することにより行われるもので、機構(11年9月30日以前は海外経済協力基金。同年10月1日から20年9月30日までは国際協力銀行)が実施することとなっている。
24年度における政府開発援助の実績は、外務省及び機構が実施した無償資金協力1621億6175万余円、機構が実施した技術協力688億5957万余円及び有償資金協力8643億6210万余円となっている。
(検査及び現地調査の観点及び着眼点)
本院は、政府開発援助について、外務省又は機構が実施する無償資金協力、技術協力及び有償資金協力(以下、これらを合わせて「援助」という。)を対象として、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から次の点に着眼して検査及び現地調査を実施した。
① 外務省及び機構は、事前の調査、審査等において、援助の対象となる事業が、援助の相手となる国又は地域(以下「相手国」という。)の実情に適応したものであることを十分に検討しているか、また、交換公文、借款契約等に則して援助を実施しているか、さらに、援助を実施した後に、事業全体の状況を的確に把握、評価して、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。
② 援助の対象となった施設、機材等は当初計画したとおりに十分に利用されているか、また、事業は援助実施後においても相手国等によって順調に運営されているか、さらに、援助対象事業が相手国等が行う他の事業と密接に関連している場合に、その関連事業の実施に当たり、は行等が生じないよう調整されているか。
本院は、外務本省及び機構本部において協力準備調査報告書等により援助対象事業の説明を聴取するなどして会計実地検査を行うとともに、在外公館及び機構の在外事務所において事業の実施状況について説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。
さらに、本院は、援助の効果が十分に発現しているかなどを確認するため、25年次に13か国(注1)において、無償資金協力135事業(贈与額計504億2207万余円)、技術協力39事業(経費累計額112億2809万余円)、有償資金協力5事業(貸付実行累計額2199億6186万余円)、計179事業について、外務省又は機構の職員の立会いの下に相手国等の協力が得られた範囲内で、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況を確認したりして現地調査を実施した。また、相手国等の保有している資料で調査上必要なものがある場合は、外務省又は機構を通じて入手した。
検査及び現地調査を実施したところ、無償資金協力2事業(贈与額計11億3181万余円)及び技術協力1事業(経費累計額7211万余円)については援助の効果が十分に発現しておらず、また、無償資金協力1事業(贈与額698万余円)については援助の効果が全く発現していなかった。
この事業は、ボリビア多民族国(以下「ボリビア」という。)において、ボリビア国民に対する医薬品の供給体制を改善するため、公的機関として医薬品を医療機関に供給している医薬品供給センターを事業実施機関として、新たな中央センターを建設しブリスター機(注2)等を設置するとともに、この中央センターと既存の地方センターにトラック等の機材を整備することにより、事業実施機関において、ブリスター機で包装化(以下「ブリスター化」という。)された医薬品等の供給能力及び保管・配送能力を強化するものである。
外務省は、18年8月にボリビア政府との間で取り交わした交換公文に基づき、この事業に必要な資金として18年度3766万余円、19年度7億2332万余円、計7億6099万余円をボリビア政府に贈与している。
この事業の実施に先立って18年6月に機構が作成した基本設計調査報告書によれば、ブリスター化された医薬品をボリビア国内でより安価に提供するため、中央センター(延べ床面積5,315㎡)には、瓶詰錠剤をブリスター化するためのブリスター部門室(同222㎡)を設けることとされており、同室には、ボリビアの公的機関では初めてブリスター機等の機材を設置することとされている。
検査及び現地調査を実施したところ、事業実施機関は中央センターに機材設置後、試運転を実施し、事業は20年3月に完了していた。しかし、外務省及び機構は、ブリスター部門室及び同室に設置されたブリスター機等の機材(以下「ブリスター部門室等」という。)の整備後の使用状況について、21年3月に実施された瑕疵検査において、ブリスター部門室等が全く使用されていないことを確認していた。
その後、機構は、事業実施機関に対してブリスター部門室等を使用するために必要な要員の確保を申し入れるなどしたものの、中央センターにおける所長等の頻繁な人員交代があったことから、必要な要員の確保等の対応が執られなかったことにより、ブリスター部門室等は、本院の現地調査実施時(25年3月)においても、全く使用されていなかった。
この事業は、セルビア共和国(以下「セルビア」という。)ベオグラード市の水道施設の機能強化を図り衛生的で安全な飲料水を安定的に供給するために、老朽化した配水ポンプ等の機材の更新等を行うものである。外務省は、18年10月にセルビア政府との間で取り交わした交換公文に基づき、この事業に必要な資金として18年度1933万余円、19年度3億5148万余円、計3億7082万余円をセルビア政府に贈与している。
この事業の実施に先立って17年3月に機構が作成した基本設計調査報告書によれば、配水ポンプ及びその附属設備(以下、これらを合わせて「配水ポンプ類」という。)等の機材は、事業実施機関であるベオグラード市上下水道公社が本件贈与資金により調達するとされている一方で、その設置は、事業実施機関がベオグラード市の予算により行うとされている。
検査及び現地調査を実施したところ、19年度中に調達された24台の配水ポンプ類について、基本設計調査報告書ではいずれも同年度中に設置することとされていたが、実際にはこのうち5台については同年度中にポンプ場に設置されていなかった。事業実施機関は、この理由について、当該配水ポンプ類の更新に併せて配水ポンプ類に接続する送水管も更新することを計画したが、その更新費用に係る予算が確保できなかったためであるとしている。
送水管の更新については、前記の基本設計調査報告書の作成に当たり、その必要性について機構と事業実施機関との間で検討及び協議を行っており、その結果、この事業においては更新を行わない旨の合意をしていた。その後、事業実施機関が上記のとおり送水管を更新することを計画したため、合意した事業実施機関の行う事業の内容、時期等に変更の必要が生じたが、外務省及び機構において、事業実施機関と変更内容を十分確認した上でその内容を文書化するなどして明確化していなかった。
その後、事業実施機関は、世界金融危機の影響でベオグラード市から事業実施機関への予算配分が大幅に減少するなどしたため、20年度以降においても配水ポンプ類を設置できず、本院の現地調査実施時(25年4月)においても、5台の配水ポンプ類は設置されないままとなっていた。
この事業は、バヌアツ共和国において、事業実施機関である土地天然資源省エネルギー局が、各世帯から電気料金を徴収するという自立型の電気料金徴収システムを確立するなどした上で、戸別設置型の太陽光発電システムによる村落電化の一つのモデルシステムを形成することを目的として実施したものである。機構は、事業実施機関に対して戸別設置型の太陽光発電パネル等の機材を供与するとともに、事業実施機関の組織を強化したり、各世帯による太陽光発電システムの維持管理の体制を確立したりなどするために専門家6名を派遣していて、事業実施期間の11年6月から14年5月までの間の経費累計額は7211万余円となっている。
検査及び現地調査を実施したところ、次のような事態が見受けられた。
機構は、計画どおり14年5月に事業を終了しており、その後20年3月まで事業実施機関に青年海外協力隊員を派遣するなどしてフォローアップを行っていた。しかし、太陽光発電システムが設置された世帯の大半において、蓄電池の価格高騰等により、故障するなどした蓄電池を交換できない状況となり、20年から21年頃までには発電がほとんど行われなくなって、電気料金の徴収は完全に停止していた。その後、事業実施機関は、太陽光発電パネル等の機材を廃棄したり、富裕世帯に払い下げたりしていた。
そして、機構は、以上のように電気料金の徴収が停止されていたり、機材が廃棄されていたりしていた事態について、本院の現地調査実施時(25年4月)まで一切把握していなかった。
草の根・人間の安全保障無償資金協力は、贈与契約締結日から1年以内に終了する原則1000万円以下の比較的小規模なプロジェクトに対して、在外公館が中心となって資金を贈与するものである。
この事業は、ヨルダン・ハシェミット王国(以下「ヨルダン」という。)マダバ市内アルカサバ地域の低所得者層の住民に対して安価な医療サービスを提供するため、新設される診療所に医療機材を整備するものである。
在ヨルダン日本国大使館(以下「ヨルダン大使館」という。)は、この事業の事業実施機関であるナダワ慈善協会との間で21年3月に贈与契約を締結して、超音波診断装置等を調達等するための資金として、同月に61,858米ドル(邦貨換算額698万余円)を贈与している。
検査及び現地調査を実施したところ、贈与契約によれば、事業実施機関は、遅くとも22年3月までに必要な医療機材を整備して、診療所を開設しなければならないとされていたのに、雇用する予定の医師が財政的理由により雇用できないなどとして、診療所を開設しておらず、診療所にする予定で賃借した建物内には既に調達して設置した医療機材もあるものの、全く使用していなかった。さらに、本院の現地調査実施時(25年3月)において、事業実施機関が当該建物の家賃を滞納していることから、家主から提訴されていて、建物内に立ち入ることができない状況となっており、ヨルダン大使館は、調達された医療機材の全体の状況や贈与資金の使用状況を把握できない状況となっていた。
ヨルダン大使館は、中間報告書が提出されないことなどから、21年8月に1回目の現地調査を実施してその提出を督促しており、その後も中間報告書等の必要な書類の提出等について、事業実施機関に対して22年10月及び23年1月に警告文書を発出し、23年4月に2回目の現地調査を実施していた。そして、上記の他に累次にわたり電話での督促を行ったとしているが、本院の現地調査実施時においてもなお事業実施機関からこれらの書類は提出されていなかった。
このように、事業実施機関が不誠実な対応を執っていることから、ヨルダン大使館は、1回目の現地調査等の機会を利用したり、より早期に2回目の現地調査を実施したりするなどして、資機材の調達の進捗状況や医師の雇用状況等を把握し、問題が生じていないかなどの確認をより一層行う必要があったのに、1回目の現地調査から約1年半後に2回目の現地調査を実施するなどしていた。
また、ヨルダン大使館は、本件事業の関係書類の一部を保存期間が経過したとして廃棄するなどしていたため、本件事態の原因の分析や早期是正に向けて関係書類を活用することができない状況となっていた。
以上のように、援助の効果が十分発現していない事態及び援助の効果が全く発現していない事態は適切とは認められず、外務省及び機構において必要な措置を講じて効果の発現に努めるなどの改善の要があると認められる。
(発生原因)このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
援助の効果が十分に発現するよう、次のとおり意見を表示する。