無償資金協力は、開発途上にある海外の地域の政府等又は国際機関に対して返済の義務を課さないで資金を贈与することにより行われるものであり、平成20年9月までは外務省が、同年10月以降は、外務省又は独立行政法人国際協力機構(以下「機構」という。)が実施している(以下、国際機関に対して行われる無償資金協力を「国際機関経由援助」という。)。
外務省が実施する国際機関経由援助は、外務省が国際連合食糧農業機関、国際連合世界食糧計画、国際連合児童基金等の国際機関との間で交換公文等を取り交わし、また、機構が実施する国際機関経由援助は、外務省が交換公文等を取り交わした上で更に機構が国際機関との間で贈与契約を締結する。その後、援助の対象となる国又は地域において国際機関により事業が行われる。
上記の交換公文等には、国際機関が、定期的に財務及び実施報告書(以下「進捗報告書」という。)を提出すること、また、事業完了時に、最終の実施報告書(以下「完了報告書」という。)及び最終の財務報告書(以下「財務報告書」という。)を提出することなどが定められている。
外務省又は機構は、資金の全額を一括して国際機関に贈与しているが、事業完了後、財務報告書により事業費の使用状況を確認して、事業費が贈与額を下回ったことが明らかになった場合には、最終的な精算額を確定した上で交換公文等の規定に基づいて、国際機関から残余金が返納されるなどの措置が執られることとなる。そして、早期に残余金の返納が行われるためには、財務報告書を事業完了後遅滞なく受領する必要がある。
外務省又は機構は、国際機関が事業実施機関であることから、国際機関に国際機関経由援助による事業の事後評価の実施を委ねることとしている。
国際機関は、その実施した事業について、各国際機関の評価基準等に従って、個別の事業単位あるいは国別、分野別等の単位で事後評価を行っており、その結果についてはインターネット上で公表されているものもある。
外務省又は機構は、国際機関経由援助により実施された事業の事後評価の結果を十分に把握することで、その後の同種事業の実施について国際機関からの要請がなされた場合、その要請書において、関連する事後評価の結果が的確に反映されているかについて確認することが可能となる。
国際機関経由援助による支出額は、23年度には231億9436万余円となっており、無償資金協力全体の約14.0%を占め、その援助額は多額に上っている。そこで、本院は、合規性、効率性、有効性等の観点から、外務省又は機構は、援助の効果が十分発現するよう、国際機関と連携して事業の進捗状況及び完了時期を適切に把握しているか、事業完了後に速やかに精算額の確定を行っているか、国際機関が実施した事後評価の内容を把握し確認しているかなどに着眼して検査を実施した。
(検査の対象及び方法)外務省が国際機関と交換公文等を締結して15年度から23年度までの間に支出した国際機関経由援助677件(外務省実施分601件、機構実施分76件)、贈与額計2809億8945万余円(同2432億4545万余円、同377億4400万円)を対象として、外務本省及び機構本部において、上記677件の事業の実施状況を聴取するなどして会計実地検査を行った。そのうち45件については、交換公文等の内容や国際機関から外務省又は機構に提出された報告書等の抜粋、要約等を確認するなどして検査を行った。
(検査の結果)検査したところ、次のような事態が見受けられた。
交換公文等の内容を確認して検査した45件のうち、事業の実施期間が1年以内であるなどの15件を除き、定期的に進捗報告書の提出を受けることとされている30件(外務省実施分18件、機構実施分12件)、贈与額計150億5273万余円(同97億0573万余円、同53億4700万円)について、進捗報告書の提出状況をみると、外務省が実施した4件、贈与額計19億9600万円は、進捗報告書の提出を全く受けていなかった。
検査の対象とした国際機関経由援助677件のうち、25年3月末の時点で完了報告書の提出を受けている事業は、事業が実施中のものなどを除いた559件(外務省実施分515件、機構実施分44件)、贈与額計2131億7631万余円(同1951億8131万余円、同179億9500万円)であった。これについて完了報告書の提出状況をみると、559件のうちの外務省が実施した39件、贈与額計209億0362万余円は、事業完了日から完了報告書の提出を受けるまでに2年以上が経過していた。
前記のとおり、外務省又は機構が、財務報告書に基づき精算額を確定した後、国際機関から残余金が返納されることとなる。25年3月末時点において残余金の返納が行われていた事業は143件であり、その返納額は計18億1189万余円となっていたが、このうち外務省が実施した19件、返納額計1449万余円については、事業完了日から残余金の返納日までの期間が5年以上となっていた。この主な要因は、事業完了日から外務省に財務報告書が提出されるまでに要した期間が長かったことであった。
外務省は、パキスタン・イスラム共和国に対するポリオ撲滅計画に係る無償資金協力を国際連合児童基金(以下「UNICEF」という。)を通じた国際機関経由援助により行うこととして、平成16年10月にUNICEFと交換公文を締結し11億0300万円を贈与した。
上記の事業は17年1月に始まり予定どおり同年12月に完了したが、外務省がUNICEFから財務報告書の提出を受けたのは事業完了日から5年4か月経過後の23年4月であった。そして、財務報告書において、事業費が贈与額を91,522.35米ドル下回っていたことが判明したことから、外務省が精算額の確定を行い、UNICEFへ返納を求めた結果、同年8月に814万余円が返納された。したがって、事業完了日から残余金の返納日までに5年8か月を要したこととなる。
交換公文等の内容を確認して検査した45件のうち、10件(外務省実施分6件、機構実施分4件)、贈与額計40億6285万余円(同22億5585万余円、同18億0700万円)について、国際機関が行った事後評価の把握状況を検査したところ、7件(外務省実施分5件、機構実施分2件)、贈与額計31億2685万余円(同21億0485万余円、同10億2200万円)について、外務省又は機構は、事後評価が実施されていることは把握していたが、その実施年度や提言の内容等の評価結果は十分把握していなかった。
以上の事態に対して、外務省は進捗報告書等の提出、残余金の返納に関して、また、外務省及び機構は事後評価の結果に関して、それぞれ国際機関との通常の協議等において確認等に努めているとしているが、進捗報告書の提出を受けていないものなどがあったり、事業完了から残余金の返納を受けるまでに期間を要していたり、国際機関が実施した事後評価の結果を十分に把握していなかったりしている事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
(発生原因)このような事態が生じていたのは、外務省において、国際機関からの進捗報告書等の提出や残余金の返納に関して、また、外務省及び機構において、事後評価の結果に関して、それぞれ、国際機関に対して適時適切に照会や働きかけを行い、それらの状況等の把握を的確に行う体制が十分ではなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、外務省又は機構は、それぞれ、25年9月に各在外公館、在外事務所等に対し通知文書を発して、進捗報告書等の提出、残余金の返納及び事後評価の結果に関し、国際機関に適時適切に照会や働きかけを行い、共通の様式に記載することなどにより、それらの状況等の把握を的確に行う体制を整備する処置を講じた。