(平成25年10月4日付け 文部科学大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
義務教育費国庫負担金(以下「負担金」という。)は、義務教育費国庫負担法(昭和27年法律第303号)に基づき、義務教育について、義務教育無償の原則にのっとり、国が必要な経費を負担することによって教育の機会均等とその水準の維持向上とを図ることを目的として、都道府県に対して交付するものである。また、負担金により国が負担する経費は、公立の義務教育諸学校(小学校、中学校、中等教育学校の前期課程(以下、これらを合わせて「小中学校」という。)並びに特別支援学校の小学部及び中学部)に勤務する教職員の給与及び報酬等に要する経費とされており、その額は、都道府県の実支出額と「義務教育費国庫負担法第二条ただし書の規定に基づき教職員の給与及び報酬等に要する経費の国庫負担額の最高限度を定める政令」(平成16年政令第157号。以下「限度政令」という。)に基づいて算定した額(以下「算定総額」という。)とのいずれか低い額の3分の1とするとされている。
貴省が都道府県に対して交付する負担金は毎年度多額に上っており、平成23年度に47都道府県に対して交付された負担金の合計は1兆5426億4480万余円となっている。
限度政令によれば、算定総額は、小中学校の教職員に係る基礎給料月額等に同教職員に係る算定基礎定数を乗ずるなどして得た額と、特別支援学校の小学部及び中学部の教職員に係る基礎給料月額等に同教職員に係る算定基礎定数を乗ずるなどして得た額とを合算して算定することとされている。そして、算定基礎定数については、当該年度の5月1日現在において、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(昭和33年法律第116号。以下「標準法」という。)に基づいて算定した教職員の定数(以下「標準定数」という。)に、産休代替教職員及び育児休業代替教職員の実数を加え、育児休業者の実数を差し引くなどして算定することとされている。
なお、特別支援学校については、義務教育である小学部及び中学部のほかに幼稚部と高等部を置く学校があるため、当該年度の5月1日現在における標準定数並びに産休代替教職員の実数、育児休業代替教職員の実数及び育児休業者の実数にそれぞれ義務制率(注1)を乗ずるなどして小学部及び中学部に係る算定基礎定数を算定することとされている。
貴省は、各都道府県が負担金を算定するために作成した「公立義務教育諸学校教職員の現員現給等調書」、「公立義務教育諸学校教職員実数調」等の各種資料(以下、これらを合わせて「基礎資料」という。)の提出を受け、これを基に算定基礎定数、義務制率等の確認を行うなどして、負担金の交付額を確定している。そして、貴省は、基礎資料が各都道府県において適切に作成されるよう、基礎資料の様式に作成上注意を要する点を注意事項等として記載するとともに、毎年度、各都道府県の担当者を対象とした説明会を開催して、その作成方法等について資料を配布するなどして周知している。
そして、各都道府県の担当者は、基礎資料の様式に示されている注意事項や上記の説明会で配布された資料等に従って基礎資料を作成し、算定基礎定数、義務制率等を算定している。
本院は、負担金の交付額が毎年度多額に上っていることを踏まえ、合規性等の観点から、負担金の交付額が義務教育費国庫負担法、限度政令等に基づいて適正に算定されているかなどに着眼し、25都道府県(注2)に対して20年度から23年度までに交付された負担金計4兆1251億4727万余円を対象として、貴省及び25都道府県において、教職員の実数に関する資料、学級編制に関する資料、基礎資料等を精査するなどして会計実地検査を行った。
貴省が都道府県に対して交付する負担金は毎年度多額に上っており、平成23年度に47都道府県に対して交付された負担金の合計は1兆5426億4480万余円となっている。
検査したところ、7府県(注3)において、次のような事態が見受けられた。
標準法及び限度政令によれば、算定基礎定数の算定に当たり、標準定数に加える当該年度の5月1日現在における育児休業代替教職員の実数については、「地方公務員の育児休業等に関する法律」(平成3年法律第110号)第6条第1項の規定により任期を定めて採用される者及び臨時的に任用される者(以下、この任用を「育休法に基づく任期付採用等」という。)の実数とされている。
しかし、4県(注4)は、育休法に基づく任期付採用等を行うことなく正規の教職員に育児休業者が担当していた職務を行わせている場合にも育児休業代替教職員の実数に計上するなどしていた。
このため、4県において算定基礎定数が過大に算定されており、負担金計1億1574万余円が過大に算定されていた。
特別支援学校等においては、実際に学級を編制する際に、学校の運営上の配慮から、年度当初に児童又は生徒が在籍していない場合や年度途中から児童又は生徒が在籍しなくなった場合でも学級を設置している場合がある。
一方、教職員の標準定数及び義務制率は、各義務教育諸学校の当該年度の5月1日現在における同学年の児童数又は生徒数を一学級の標準として定められた人数で除するなど標準法の規定により算定した標準学級数等を基礎とするなどして算定することとされている。
しかし、3府県(注5)は、特別支援学校の小学部及び中学部に係る標準定数及び義務制率について、標準法の規定により算定される標準学級数に、実際に設置されているものの5月1日時点で児童又は生徒が在籍していない学級数を加えた学級数に基づいて算定していた。
このため、3府県において標準定数を算定要素とする算定基礎定数及び義務制率が過大に算定されるなどしており、負担金計1億1871万余円が過大に算定されていた。
上記(1)及び(2)のとおり、20年度から23年度までに交付を受けた負担金に係る算定基礎定数が7府県において過大に算定されていたり、義務制率が3府県において過大に算定されていたりしていて、負担金計2億3446万円が過大に算定されていた。
(是正改善を必要とする事態)以上のように、育休法に基づく任期付採用等を行うことなく正規の教職員に育児休業者が担当していた職務を行わせている場合にも育児休業代替教職員の実数に計上するなどしていたり、特別支援学校の小学部及び中学部に係る標準定数及び義務制率の算定に用いる標準学級数に、実際に設置されているものの5月1日時点で児童又は生徒が在籍していない学級数を加えていたりしたことにより、負担金が過大に算定されている事態は適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)このような事態が生じているのは、7府県において、標準法等の規定、標準定数及び義務制率の算定の基礎となる標準学級数についての理解が十分でなかったことなどにもよるが、主として、貴省において、育児休業者が担当していた職務を育休法に基づく任期付採用等を行うことなく正規の教職員に行わせている場合の取扱い及び5月1日時点で児童又は生徒が在籍していない学級数の取扱いについて、各都道府県に対して周知するなどの措置を講じていなかったことによると認められる。
貴省は、今後も、各都道府県に対して法令等に基づいて多額の負担金を交付していくこととなる。
ついては、貴省において、次のア及びイについて、基礎資料の様式に明示するとともに、各都道府県に対して周知し、その徹底を図ることにより、負担金の算定が適正に行われるよう是正改善の処置を求める。