本院は、文化芸術振興費補助金(以下「補助金」という。)による映画製作支援事業における収入の納付について、平成25年10月18日に、文化庁長官及び独立行政法人日本芸術文化振興会(以下「振興会」という。)理事長に対して、「文化芸術振興費補助金による映画製作支援事業における収入の納付について」として、会計検査院法第36条の規定により意見を表示した。
これらの意見表示の内容は、文化庁及び振興会のそれぞれの検査結果に応じたものとなっているが、これを総括的に示すと以下のとおりである。
文化庁は、15年度から20年度までの間に、文化芸術振興基本法(平成13年法律第148号)等に基づき、我が国の映画の振興に資することを目的として、映画の製作活動を支援する事業(以下「映画製作支援事業」という。)を実施しており、映画の製作を行うことを主たる目的とする我が国の団体で、所定の要件を満たしている者(以下「団体」という。)に対して、映画の製作活動に必要な経費を対象として、補助金を交付している。
一方、振興会は、21事業年度(以下、年度と事業年度とを合わせて単に「年度」という。)から、文化庁から補助金の交付を受けて、これを財源として、独立行政法人日本芸術文化振興会法(平成14年法律第163号)等に基づき、映画製作支援事業を実施しており、団体に対して、映画の製作活動に必要な経費を対象として、「文化芸術振興費補助金による助成金」(以下「助成金」といい、補助金と合わせて「補助金等」という。)を交付している(以下、振興会が助成金を交付する事業を「助成事業」という。)。
また、文化庁は、23年度から、映画による国際文化交流を推進し我が国の映画の振興に資することを目的として、国際共同製作による映画製作支援事業を実施しており、団体に対して、映画の製作活動に必要な経費を対象として、補助金を交付している(以下、文化庁が補助金を交付する事業を「補助事業」といい、助成事業と合わせて「補助事業等」という。また、補助事業等を実施した団体を「実施団体」という。)。
実施団体に対する補助金等の額は、文化庁及び振興会において毎年度見直されており、それぞれが作成した23年度の補助事業等の募集案内によると、表1のとおり、活動区分、補助金等の対象経費の額等ごとに定められている。また、19年度から23年度までの補助金等の交付実績は表2のとおりであり、計198件、36億9896万余円となっている。
表1 活動区分等と補助金等の額(平成23 年度)
区分 | 活動区分 | 上映時間 | 補助等対象経費の額 | 補助金等の額 | |
---|---|---|---|---|---|
補助事業 | 劇映画 | 1 時間以上 | 1 億円以上 | 1 / 5 以内、ただし最高限度額5000 万円 | |
アニメーション映画 | |||||
助成事業 | 劇映画 | A | 1 時間以上 | 1 億円以上 | 2000 万円 |
B | 5000 万円以上 | 1000 万円 | |||
記録映画 | 特別 | 1 時間以上 | 5000 万円以上 | 1500 万円 | |
A | 5000 万円以上 | 2000 万円 | |||
B | 20分以上 | 600 万円以上 | 200 万円 | ||
アニメーション映画 | 長編 | 1 時間以上 | 8000 万円以上 | 2000 万円 | |
短編A | 1 時間未満 | 1000 万円以上 | 300 万円 | ||
短編B | 300 万円以上 | 100 万円 |
表2 補助金等の交付実績
区分 | 平成19 年度 | 20 年度 | 21 年度 | 22 年度 | 23 年度 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|
交付件数 | ||||||
補助事業分(注) | 22 | 31 | - | - | 5 | 58 |
助成事業分 | - | - | 40 | 50 | 50 | 140 |
計 | 22 | 31 | 40 | 50 | 55 | 198 |
補助金等交付額 | ||||||
補助事業分(注) | 782,000 | 642,000 | - | - | 173,963 | 1,597,963 |
助成事業分 | - | - | 755,000 | 835,000 | 511,000 | 2,101,000 |
計 | 782,000 | 642,000 | 755,000 | 835,000 | 684,963 | 3,698,963 |
(注) 振興会への補助金分は含まない。
「文化芸術振興費補助金交付要綱」(平成15年文化庁長官決定)、「文化芸術振興費補助金による助成金交付要綱」(平成23年独立行政法人日本芸術文化振興会理事長裁定)、「文化芸術振興費補助金(国際共同製作映画支援事業)交付要綱」(平成23年文化庁長官決定。以下、これらを合わせて「交付要綱」という。)等によると、補助事業等は映画の企画から完成までの製作活動を対象としており、実施団体は製作した映画を原則として完成後1年以内に国内の映画館等において1週間以上有料で公開するなど一般に広く公開することとされている。このため、補助事業等の完了後に実施団体は一定の収入を得ることになることから、文化庁及び振興会は、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(昭和30年法律第179号)等に基づき、交付要綱等において、補助事業等の完了した年度の終了後5年間、補助事業等により製作された映画の公開により実施団体に相当の収入があった場合には、共同製作者分、自己負担分等を勘案し、補助金等の交付額を限度として国又は振興会に納付させること(以下、このことを「収入の納付」という。)ができることとしている。そして、振興会が実施団体から収入の納付を受けたときは、国に納付しなければならないとしている。
本院は、合規性、効率性等の観点から、補助事業等における収入の納付が適切に実施されているかなどに着眼して、19年度から23年度までの間に実施された補助事業等計198件、補助金等交付額計36億9896万余円を対象として、補助事業等の完了後における実施団体の収入の状況に関する書類等を検査するとともに、文化庁及び振興会において、収入の納付に関する手続等の整備状況等を聴取するなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
文化庁及び振興会は、前記のとおり、交付要綱等において、実施団体に対して、補助事業等の完了した年度の終了後5年間において映画の公開により相当の収入があった場合には、収入の納付をさせることができることとしている。
しかし、文化庁及び振興会は、収入の納付を求めるに当たっては納付すべき額の算定方法や納付の請求に関する手続、納付期限等を定めて明確にしておく必要があるのに、このような収入の納付を求めるために必要な体制を整備していなかった。なお、実際に実施団体に対して収入の納付をさせた実績もなかった。
文化庁及び振興会は、補助事業等の制度創設時より、補助事業等の完了後5年経過後に、実施団体に対して、収入の状況の報告を求めることにしていたが、交付要綱等の趣旨及び取扱いを再検討するなどして、24年度以降は、補助事業等の完了後毎年度、収入の状況の報告を求めるように改めていた。
そして、文化庁は、19、20両年度の補助事業計53件に係る実施団体に対して、24年11月に、同年12月を期限として、公開による収入、DVD等の販売による収入、テレビ放映等による二次利用収入等(以下、これらの収入を合わせて「一般公開等による収入」という。)を記入する「公開による収入状況調査票」(以下「調査票」という。)の提出を求めており、23年度の補助事業5件に係る実施団体に対しては、25年中を目途に1回目の調査票の提出を求める予定であるとしていた。また、振興会は、21年度から23年度までの間の助成事業計140件に係る実施団体に対して、25年3月に、同年5月を期限として、調査票と同様の事項を記入する「公開による収入状況報告書」(以下、調査票と合わせて「報告書」という。)の提出を求めていた。
本院は、補助事業等の完了後に実施団体が得た一般公開等による収入の状況等を確認するため、報告書の集計を行った。その結果は表3のとおりであり、最高で16億円を超える収入額が記入された報告書も見受けられた。
表3 報告書に記入されていた一般公開等による収入の額の状況等
報告書に記入されていた一般公開等による収入の額 | 補助金等交付件数 | ||
---|---|---|---|
補助金 | 助成金 | 計 | |
マイナスの金額 | 1 | 8 | 9 |
0 円以上 1000 万円未満 | 16 | 61 | 77 |
1000 万円以上 5000 万円未満 | 6 | 19 | 25 |
5000 万円以上 1 億円未満 | 4 | 5 | 9 |
1 億円以上 3 億円未満 | 2 | 8 | 10 |
3 億円以上 5 億円未満 | 2 | 3 | 5 |
5 億円以上 | 1 | 1 | 2 |
計 | 32 | 105 | 137 |
未提出 | 21(5) | 35 | 56(5) |
しかし、報告書ごとに、実施団体が記入した一般公開等による収入の額等を確認したところ、それぞれの収入を得るのに要した経費の取扱いや添付すべき根拠資料の詳細等を文化庁及び振興会が明確に示していなかったため、実施団体によってはマイナスの金額を記入しているなど収入から経費を差し引いていると思料される金額を記入していたり、経費を差し引いていないと思料される金額を記入していたりなどしていて、収入の額の捉え方が統一されていなかった。また、収入や経費を裏付ける根拠資料が添付されていなかったり、添付されていても実施団体ごとに任意の様式、記載項目等で作成されたりしていて、根拠資料により、実施団体が記入した内容を十分検証できるようになっていなかった。したがって、報告書は、収入の納付の要否の判断や納付すべき額の算定に活用できるものとなっていなかった。
文化庁及び振興会において、交付要綱等に基づいて収入の納付を実施するに当たり、収入の納付を求めるために必要な体制が整備されていなかったり、報告書が収入の納付の要否の判断や納付すべき額の算定に活用できるものとなっていなかったりしている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、文化庁及び振興会において、交付要綱等における収入の納付の規定を適切に運用することについての認識が欠けていたこと、納付すべき額の算定方法や納付の請求に関する手続等、収入の納付を求めるために必要な体制や、報告書の記入内容等についての検討がなされていないことなどによると認められる。
映画製作支援事業は、毎年度、多数応募された活動の中から補助金等の交付の対象となる活動が選定されており、それらの中には、前記のとおり、一般公開等による収入が多額に上る映画も見受けられた。したがって、実施団体が得る一般公開等による収入に対して収入の納付を適切に行わせることが必要である。
ついては、文化庁及び振興会において、補助事業等の実施に当たり、収入の納付が適切に行われるよう、次のとおり意見を表示する。