(平成25年10月10日付け 文部科学大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、「義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律」(昭和33年法律第81号)等に基づき、公立の義務教育諸学校等の施設(以下「公立学校施設」という。)の整備に関して地方公共団体が作成する施設整備計画に基づく施設整備事業に要する経費に充てるため、地方公共団体に対し、学校施設環境改善交付金(平成22年度以前は安全・安心な学校づくり交付金。以下「交付金」という。)を交付する事業(以下「交付金事業」という。)を実施している。そして、貴省は、交付金事業の一環として、公立学校施設である校舎、屋内運動場、寄宿舎等の学校建物の耐震性能を確保し地震防災対策の促進を図ることを目的として、耐震補強事業を実施する地方公共団体に対し、毎年度多額の交付金を交付している。
交付金は、「義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律施行規則」(昭和33年文部省令第21号)等に基づき、毎年度、事業主体である地方公共団体ごとに予算の範囲内で交付することとされており、その交付額は次のとおり算定することとされている。
すなわち、交付金の交付額は、当該地方公共団体の施設整備計画に記載された耐震補強事業等の各種の施設整備事業のうち、交付金の算定の対象となる個々の施設整備事業(以下「交付対象事業」という。)ごとに文部科学大臣が定める配分基礎額に当該交付対象事業ごとに同大臣が定める国の負担割合を乗じて得た額の合計額と、交付対象事業ごとに要する経費の額(以下「実工事費」という。)に当該交付対象事業ごとに上記の割合を乗じて得た額(以下「算定後実工事費」という。)の合計額のうち、いずれか少ない額を基礎として算定することとされている。
耐震補強事業における上記の国の負担割合は、学校施設環境改善交付金交付要綱(平成23年文部科学大臣裁定)等によれば原則として3分の1とされているが、当該耐震補強事業が地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)に基づいて都道府県知事により作成された地震防災緊急事業五箇年計画に基づき実施されるものであるなどの場合には、同法等の規定により、3分の2又は2分の1にかさ上げすることとされている。そして、ほとんどの耐震補強事業に係る国の負担割合は、このかさ上げされた割合の適用を受けている。
なお、設備の耐震化や経年等により発生する改修等工事については、所定の要件を満たす場合に、耐震補強事業とは別の大規模改造事業として交付対象事業となり、これに係る国の負担割合は、原則として3分の1とされている。
貴省は、耐震補強事業に係る実工事費の算定対象とすることができる工事の範囲について、毎年度、交付金に係る事務処理等を定めている貴省大臣官房文教施設企画部施設助成課長通知(以下「通知」という。)により地方公共団体に対し周知している。
20、21両年度の通知によると、耐震補強事業の対象となる工事の範囲は、原則として、耐震性能判定表(地方公共団体が学校建物ごとに地震に対する安全性を評価し、耐震補強の方法等を示したもの。以下同じ。)に明記された工事であって、壁、柱、梁、ブレース(注1)、基礎等の新設、増設又は補強に必要となる工事や学校建物の耐震性能向上を趣旨とした工事(以下、これらを「補強工事」という。)及び補強工事と同一棟で実施される外部・内部の改修等工事とされていた。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
貴省は、公立学校施設が児童生徒等の学習・生活の場であるとともに、災害発生時には地域住民の避難場所となるなど重要な役割を担っていることから、その耐震化を早急に進める必要があるとしている。また、耐震補強事業は、前記のとおり、地震防災対策特別措置法等の規定により、かさ上げされた国の負担割合の適用を受けている。
そこで、本院は、合規性、効率性等の観点から、22年度以降に耐震補強事業の対象となる工事が補強工事等に限定された趣旨に沿って適切に選定され、交付金の交付額が適切に算定されているかなどに着眼して、貴省及び23都道県(注2)において、472地方公共団体が22、23両年度に交付金1215億6726万余円の交付を受けて実施した交付対象事業のうち、3,157耐震補強事業(これに係る実工事費計1353億4584万円、算定後実工事費計753億7661万余円)を対象として、設計図書、実績報告書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。また、上記の472地方公共団体から都道県を通じて耐震補強事業に係る工事の取扱いに関する調書の提出を受けて、その内容を分析するなどの方法により検査した。
検査したところ、22都道県管内の145地方公共団体が交付金408億2129万余円の交付を受けて実施した交付対象事業のうち、634耐震補強事業(これに係る実工事費計351億8665万余円、算定後実工事費計195億5209万余円)において、次のとおり、補強工事等の対象とはならない工事を耐震補強事業に含めている事態が見受けられた(ア及びイには事態が重複しているものがある。)。
70地方公共団体 199耐震補強事業
(上記に係る実工事費計6億7882万余円)
18都道県(注3)管内の70地方公共団体は、199耐震補強事業において、ブレースや耐震壁等の新設工事に加えて、通知に「耐震性能判定表に明記されたもの」が補強工事として取り扱うための要件の一つとして記載されていることなどを理由として、設備の耐震化を目的とした工事や、学校建物の軽量化を図るための改修工事を補強工事として耐震補強事業に含めていた。
しかし、耐震補強事業は学校建物の耐震性能を確保することを目的とするものであることから、補強工事として取り扱うには、単に耐震性能判定表に明記されているのみでは十分でなく、学校建物そのものの耐震性能向上を趣旨とした工事であって、更に耐震性能向上に資することが構造計算等で明確にされている必要がある。
したがって、前記の設備の耐震化を目的として実施された工事等を補強工事として耐震補強事業に含めていることは適切とは認められない。
<事例1>千葉県我孫子市は、平成22年度に、市立A小学校の校舎にブレース等を設置するとともに、耐震性能判定表に高置水槽の付替えが明記されていたとして、校舎屋上に設置された高置水槽を耐震性を有するものに付け替える工事(直接工事費316万余円)を補強工事として耐震補強事業に含めていた。
しかし、当該高置水槽の付替え工事は、設備の耐震化を目的として実施されたものであり、学校建物そのものの耐震性能向上を趣旨とした工事ではないため補強工事の対象とはならない。
奈良県生駒市は、平成22年度に、市立B小学校の校舎にブレース等を設置するとともに、耐震性能判定表を作成する際の基礎となる資料に学校建物の荷重軽減等を図ることも有効である旨が明記されていたとして、校舎屋上の防水層を張り替えることにより学校建物の軽量化を図る工事(直接工事費2936万余円)を補強工事として耐震補強事業に含めていた。
しかし、当該屋上防水層の張替え工事は、学校建物の耐震性能向上に資することを構造計算等で明確にすることなく実施されたものであり、補強工事の対象とはならない。
133地方公共団体 548耐震補強事業
(上記に係る実工事費計24億2671万余円)
22都道県(注4)管内の133地方公共団体は、22年度以降の通知に「内外装、建具及び設備等の改修工事」等が補強の関連工事の主な事例として記載されていることなどを理由として、548耐震補強事業において、補強工事の施工箇所とは関連性のない箇所で施工されている工事を補強の関連工事として耐震補強事業に含めていた。
しかし、補強の関連工事として取り扱うには、単に22年度以降の通知に主な事例として記載されている工事に該当するのみでは足りず、補強工事の施工に伴い必要となる工事であることが必要である。
したがって、前記の補強工事の施工箇所とは関連性のない箇所で施工されている工事を補強の関連工事として耐震補強事業に含めていることは適切とは認められない。
<事例3>新潟県胎内市は、平成23年度に、市立C小学校の校舎の外壁にブレース等を設置するとともに、23年度の通知に「建築基準法、消防法等の規定により必要となる防火扉の設置工事」が補強の関連工事の主な事例の一つとして記載されていることから、補強工事を実施した当該校舎の廊下に防火扉を新設する工事(直接工事費1801万余円)を補強の関連工事として耐震補強事業に含めていた。
しかし、当該防火扉の新設工事は、補強工事の施工箇所とは関連性のない箇所において防火扉を現行の建築基準法(昭和25年法律第201号)等の規定に適合させることのみを目的に施工されたものであるため補強の関連工事の対象とはならない。
以上の事態に係る145地方公共団体が実施した634耐震補強事業について、補強工事等の対象とはならない工事に係る工事費等を除いて耐震補強事業に係る実工事費を計算すると計309億5718万円(算定後実工事費計171億5165万余円)となり、前記の計351億8665万余円と比べて42億2947万余円(前記の算定後実工事費計195億5209万余円と比べて24億0044万余円)の開差を生ずることとなる。
そこで、上記により計算した耐震補強事業に係る算定後実工事費171億5165万余円により上記の145地方公共団体に対する交付金の交付額を算定すると、18都道県(注5)管内の105地方公共団体については交付金の交付額計239億0689万余円(上記の634耐震補強事業のうちこれに含まれるものは513耐震補強事業である。)が計223億3966万余円に減少することとなり、15億6723万余円の開差を生ずることとなる。
以上のように、補強工事等の対象とはならない工事を耐震補強事業に含めて交付金の交付額が算定されている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
(発生原因)このような事態が生じているのは、事業主体である地方公共団体及び実績報告書の審査を行う都道県において、補強工事等の対象となる工事についての理解が十分でないことにもよるが、貴省において、22年度以降の通知で補強工事等の対象となる工事を明確に示していないことなどによると認められる。
貴省は、今後も引き続き、交付金事業により耐震補強事業を推進し、学校建物の耐震化をより一層促進させるとしている。
ついては、貴省において、補強工事等の対象となる工事を明確にすることにより、耐震補強事業が学校建物の耐震性能を確保するために適切に実施され、もって学校建物の耐震化の効率的な実施に資するよう、次のとおり改善の処置を要求する。
ア 補強工事は学校建物の耐震性能向上を趣旨としたものであって、更に耐震性能向上に資することが構造計算等で明確にされている工事であること、及び補強の関連工事は補強工事の施工に伴い必要となるものであることについて、通知において明確に示すこと
イ 補強工事等の対象となる工事をより具体的に示すために、事業主体である地方公共団体及び実績報告書の審査を行う都道府県が確認すべき事項を示した資料を作成するなどして、事業主体及び都道府県に対して周知徹底を図ること