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(6) 東日本大震災からの復旧・復興を担う専門人材育成支援事業により開発された教育プログラム等の成果物が被災地で有効に活用されるよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)文部科学本省 (項)東日本大震災復旧・復興生涯学習振興費
部局等
文部科学本省
事業の概要
東日本大震災からの復旧・復興に向けた専門人材育成コースの開発等の事業を委託するもの
検査の対象とした委託事業の成果物
79件
上記の成果物を開発した委託先に対して支払った委託費
3億2031万余円(平成23、24両年度)
委託事業の目的を十分に達成していない成果物
66件
上記の成果物の開発に係る委託費相当額
1億1211万円(平成23、24両年度)
【改善の処置を要求したものの全文】
東日本大震災からの復旧・復興を担う専門人材育成支援事業により開発された教育プログラム等の成果物の被災地での活用状況について

(平成25年10月29日付け 文部科学大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 東日本大震災からの復旧・復興を担う専門人材育成支援事業の概要

貴省は、平成23年度第3次補正予算による東日本大震災復旧・復興事業の一環として、震災により大きく変化した被災地c1(注1)の人材需要に対応し、復旧・復興の即戦力となる専門人材の育成及び地元への定着を図るための推進体制を整備し、専門人材育成コースの開発及び実証を行うことなどを目的として、東日本大震災からの復旧・復興を担う専門人材育成支援事業(以下「専門人材育成支援事業」という。)を学校法人等に委託して実施している。

専門人材育成支援事業のうち「中長期的な人材育成コースの開発・実証」(以下「委託事業」という。)は、被災地で人材需要が高い医療、IT、介護、農業等の分野において、産学官の連携により、専門学校の正規課程に相当する授業時間数で1年から2年程度の期間を目安とした内容の人材育成コースの開発及び実証を行うものである。

委託事業の受託を希望する学校法人等は、「「東日本大震災からの復旧・復興を担う専門人材育成支援事業」実施委託要綱」(平成23年生涯学習政策局長決定。以下「委託要綱」という。)等に基づき、開発する成果物の内容、成果の普及等を記載した事業計画書を作成して、貴省に提出することとされている。そして、貴省は、これに基づき、委託事業を選定し、当該委託事業を実施する学校法人等と委託契約を締結することとしている。なお、委託事業の選定は、被災地の専門人材の育成等に資する取組となっているか、成果のフォローアップ等が明確に記載されているかなどの観点から行うこととしており、委託事業の実施要件としては、委託事業の成果をまとめた事業報告書の作成等、積極的に社会へ情報発信及び普及するための方策を明確にすることなどが求められている。

委託事業を受託した学校法人等(以下「委託先」という。)は、委託要綱等に基づき、被災地の人材需要の把握及び委託事業の推進体制の構築のために、産学官の連携の下に設置する推進協議会において、被災地に所在する専門学校等を交えて人材育成コースの開発及びその実証方法について意見交換を行うなどして委託事業を進める上での具体的事項を決定することとされている。そして、委託先は、これを踏まえて、専門人材育成のための授業の全体計画等の教育プログラムや、教育プログラム上で利用できる教材等を開発するなどした上で、実証講座c2(注2)を開講し、これらの成果物の有効性の検証を行うこととされている。

そして、委託先は、委託事業が終了した後に、貴省に委託事業終了後に予定している事業展開等を記載した実績報告書等を提出することとされている。

また、開発された成果物の著作権等の権利は、委託要綱に基づき、原則として委託事業終了後に速やかに貴省に帰属させることとされているが、貴省は、引き続き、委託先にこれらの成果物を使用させて成果の普及を図らせることとしており、委託事業終了後における事業展開等の進捗状況や成果等について調査を行うなどした上で、委託事業の評価を行うこととしている。

(注1)
被災地  委託要綱において規定されている岩手、宮城、福島各県
(注2)
実証講座  被災地の専門学校等で、被災地の学生等を対象にして、開発した教育プログラム等に係る講義を試行的に行うなどするもの

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、委託事業により開発された教育プログラム等の成果物が被災地の復旧・復興の即戦力となる専門人材の育成に向けて有効に活用されているかなどの点に着眼して、教育プログラム等の成果物計79件を対象として、貴省及び成果物を開発した委託先の17学校法人等c3(注3)(委託費支払額計3億2031万余円)のうち5学校法人等(注4)において、委託事業終了後の成果物の活用状況について事業計画書、実績報告書等の資料を確認するなどして会計実地検査を行った。そして、残りの12学校法人等における委託事業終了後の成果物の活用状況等については、貴省に対して調査及び報告を求めてその内容を確認して検査を行った。

(注3)
17学校法人等  菅原学園(仙台保健福祉専門学校)、滋慶文化学園(仙台医健専門学校、仙台コミュニケーションアート専門学校、福岡医健専門学校)、新潟総合学院(専門学校国際情報工科大学校)、有坂中央学園(中央農業グリーン専門学校)、中央情報学園(中央情報専門学校)、埼玉福祉学園(埼玉ベルエポック製菓専門学校)、三橋学園(船橋情報ビジネス専門学校)、秋葉学園(成田国際福祉専門学校)、東京生命科学学園(東京バイオテクノロジー専門学校)、電子学園(日本電子専門学校)、大美学園(大阪美容専門学校)、コンピュータ総合学園(神戸電子専門学校)、古沢学園(広島医療保健専門学校)、九州総合学院(九州工科自動車専門学校)、宮崎総合学院(宮崎情報ビジネス専門学校)の各学校法人、東京都専修学校各種学校協会、大阪府専修学校各種学校連合会
(注4)
5学校法人等  中央情報学園(中央情報専門学校)、東京生命科学学園(東京バイオテクノロジー専門学校)、大美学園(大阪美容専門学校)、コンピュータ総合学園(神戸電子専門学校)の各学校法人、東京都専修学校各種学校協会
(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

前記のとおり、委託事業は、被災地の人材需要に対応して、被災地の復旧・復興の即戦力となる専門人材の育成及び地元への定着を図るために、専門学校の正規課程に相当する期間の人材育成コースの開発等を行うものであるので、委託事業終了後、開発された教育プログラム等の成果物を被災地の専門学校等に対して導入して積極的に活用させていく必要がある。

そこで、前記の17学校法人等に委託して開発した教育プログラム等の成果物計79件の委託事業終了後の活用状況についてみたところ、被災地以外に所在する委託先が自校での導入を検討するにとどまっていたり、特段活用されていなかったりなどしていて、被災地の専門学校等に対して導入されておらず、被災地の復旧・復興の即戦力となる専門人材の育成という目的を十分に達成しているとは認められない成果物が、表のとおり、計66件(開発に係る委託費相当額計1億1211万余円)あった。このうち計64件(開発に係る委託費相当額計9880万余円)の成果物は、被災地以外に所在する委託先が開発した成果物であった。

表 開発された成果物の活用状況

(単位:件、千円)
委託先の所在地 成果物の活用の態様(注1) 左のうち、委託事業の目的を十分に達成しているとは認められない成果物(②③) 左の開発に係る委託費相当額
被災地 3学校法人
(注2)
4 2 0 6 2 13,314
被災地以外 15学校法人等 9 59 5 73 64 98,801
17学校法人等
(注3)
13 61 5 79 66 112,116
(注1)
表の「成果物の活用の態様」は、それぞれ次の態様を示す。
  • ① 被災地の専門学校のカリキュラムに導入されるなど、被災地において、継続的に活用されている成果物又は活用が具体的に決定している成果物
  • ② 被災地以外に所在する委託先が自校での導入を検討するにとどまっていたり、委託先が被災地の専門学校への導入を検討するにとどまっていたりするなど、①の形では活用されていない成果物
  • ③ 特段活用されていない成果物
(注2)
菅原学園(仙台保健福祉専門学校)、滋慶文化学園(仙台医健専門学校、仙台コミュニケーションアート専門学校)、新潟総合学院(専門学校国際情報工科大学校)の各学校法人をいう。
(注3)
滋慶文化学園は被災地以外に設置している福岡医健専門学校においても委託事業を行っているため、学校法人等の内訳数と合計数は一致しない

そして、上記の事態が生じている主な要因は、次のとおりとなっていた。

  • ア 被災地以外に所在する委託先による成果物の開発

    前記のとおり、貴省は、委託事業終了後の成果物の活用を主として教育プログラム等を開発した委託先に委ねている。そして、被災地に所在する委託先が成果物を開発した場合は、おおむね自校のカリキュラムで活用することにより成果物の被災地での活用が図られることになる。

    これに対して、被災地以外に所在する委託先が成果物を開発した場合は、成果物が被災地で活用されるか否かは、それを導入する被災地に所在する専門学校等の裁量によるところが大きく、また、被災地以外に所在する委託先が被災地に所在する専門学校等に対して導入を進めるには、自ら経済的な負担をする必要がある。このため、被災地以外に所在する個々の委託先が行う成果物の被災地での活用に向けた取組には限界があることから、被災地以外に所在する委託先が成果物を開発している場合は、被災地に所在する委託先が成果物を開発した場合と比べて、被災地での活用が図られにくいものと認められる。

  • イ 事業計画書に基づく委託事業の選定

    被災地以外に所在する委託先においては、上記のような限界があること、また、被災地に所在する委託先においても、被災地の他の専門学校等に対する成果物の導入に向けた取組を行う場合には同様の限界があることから、委託事業終了後の被災地での活用を踏まえた委託事業の選定を図ることが重要であると認められる。

    そこで、貴省における委託事業の選定についてみたところ、貴省は事業計画書に基づき、成果のフォローアップ等が明確に記載されているかという観点も踏まえて委託事業の選定を行うこととしており、委託事業を通じて得られた成果について事業報告書を作成するなど、積極的に社会へ情報発信及び普及するための方策が明確であれば、委託事業の実施要件を満たしているとして、委託事業に選定していた。

    しかし、事業計画書に記載されている委託事業により開発する個々の成果物の活用方法については、「事業成果の幅広い利用を促進していく」と記載されているなど具体的でないものが多く、委託事業終了後の被災地での活用を踏まえた選定を行うための情報としては十分なものとはなっていなかった。

  • ウ 成果物の被災地での活用に向けた貴省の取組

    委託先が被災地に所在する他の専門学校等に対する成果物の導入に向けた取組を行う場合には前記のような限界があることから、成果物の著作権等の権利を有する貴省において成果物の被災地での活用に向けた取組を行うことも重要であると認められる。

    そこで、貴省における成果物の被災地での活用に向けた取組状況についてみたところ、貴省は委託先に委託事業終了後に予定している事業展開等を実績報告書に記載させていたが、委託事業により開発された個々の成果物の活用方法については「公開・共有できる場を整備し、普及促進を図っていく」と記載されているなど具体的でないものが多く、成果物の被災地での活用に向けて貴省が取組を行うための情報として十分なものとはなっていなかった。

    また、貴省は、前記のとおり、委託事業終了後における事業展開等の進捗状況等について調査を行うなどした上で委託事業の評価を行うなどとしているが、個々の成果物の被災地での活用状況を把握することは行っていなかった。

    このため、委託事業の評価に際して、成果物の被災地での活用を図るための検討が十分なものとはなっていなかった。

(改善を必要とする事態)

委託事業により開発された教育プログラム等の成果物が、被災地の専門学校等に対して導入されていないなど、被災地の復旧・復興の即戦力となる専門人材の育成という委託事業の目的を十分に達成していない事態は適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、個々の委託先が行う成果物の被災地での活用に向けた取組には限界があるにもかかわらず、委託先が作成した事業計画書及び実績報告書に個々の成果物の活用方法を具体的に記載させていなかったこと、委託事業終了後における成果物の被災地での活用に向けた取組が十分でなかったことなどによると認められる。

3 本院が要求する改善の処置

国は、東日本大震災復興基本法(平成23年法律第76号)に基づき、復興のための取組の基本方針として「東日本大震災からの復興の基本方針」を決定し、その復興施策として復興を支える人材の育成を掲げている。そして、貴省は、専門人材育成支援事業と同様の枠組みで24年度においても事業を実施しており、25年度以降も継続することとしている。

ついては、貴省において、委託事業終了後に成果物が被災地で活用されて委託事業の目的の達成に資するよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 委託先を原則として被災地に所在する学校法人等とするなどし、事業計画書に開発する個々の成果物ごとの活用方法を具体的に記載させて、成果物が被災地の専門学校等に対して早期に導入されるような委託事業の選定を図ること
  • イ 実績報告書に開発された個々の成果物ごとの活用方法を具体的に記載させた上で、既に終了した委託事業を含めて、成果物ごとに被災地での活用状況について調査を行い、その結果を踏まえて活用を図るための検討を十分に行うとともに、被災地に所在する専門学校、専修学校関係団体、県等に対して広く情報を提供することにより、成果物の活用促進を図ること