国立療養所奄美和光園(以下「療養所」という。)は、厚生労働省設置法(平成11年法律第97号)に基づき設置された国立ハンセン病療養所で、その組織は庶務課、診療科、薬剤科等に分かれている。そして、療養所の長は、庶務課の職員を資金前渡官吏に任命し、その事務補助者とともに前渡資金に係る事務を行わせている。
資金前渡官吏は、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)に基づき、出納官吏として、所定の様式の現金出納簿を備えて、現金の出納を登記しなければならないとされている。そして、各省各庁の長は、毎年3月31日に、当該各省各庁所属の職員のうちから検査員を命じて、資金前渡官吏の帳簿金庫を検査させなければならず、検査員は、帳簿金庫を検査したときは、検査書を作製しなければならないなどとされている。
療養所に勤務する職員には、一般職の職員の給与に関する法律(昭和25年法律第95号)等に基づき、給与として俸給及び扶養手当、通勤手当、特地勤務手当、超過勤務手当、期末手当等の諸手当が支給されている。
俸給は、正規の勤務時間による勤務に対する報酬であり、職員の職務内容、勤務成績、経験年数等によって決定された職務の級及び号俸に応じて、俸給表に定められた額が支給される。そして、新たに採用された職員の号俸は当該職員のそれまでの経験等に基づき、昇格(注)した職員の号俸は人事院規則9—8(初任給、昇格、昇給等の基準)で定める基準に従い、それぞれ算定された号俸とすることとされている。
また、特地勤務手当は、離島その他の生活の著しく不便な地に所在する官署として人事院規則9—55(特地勤務手当等)に定められた官署に勤務する職員に対して支給される。
そして、これら俸給及び諸手当の算定等に係る事務(以下「給与支給事務」という。)は、庶務課において行っている。
本院は、合規性等の観点から、資金前渡官吏が行う会計経理は会計法令等に従って適正に行われているか、給与の支給は適正に行われているかなどに着眼して、平成21年度から24年度までの間に療養所が経理した前渡資金計2,890,649,596円を対象として、現金出納簿、職員別給与簿等を確認することなどにより会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり、適正とは認められない事態が見受けられた。
療養所の資金前渡官吏及びその事務補助者は、21年4月から22年11月までの間に支出官から資金前渡官吏に対して交付された前渡資金計1,226,938,017円(21年度782,152,579円、22年度444,785,438円)に係る現金及び預金の受払等について現金出納簿に全く登記していなかった。また、療養所の長から命じられた検査員は、22年3月31日に行わなければならない帳簿金庫の検査を行っていなかった。さらに、帳簿金庫の検査を行っていないにもかかわらず、検査書を作製していた。
庶務課は、療養所に新たに採用された職員の号俸を、誤って適正な経験年数に基づく号俸よりも上位の号俸としていたり、職員を昇格させた場合の昇格後の号俸を、誤って人事院規則9—8(初任給、昇格、昇給等の基準)で定められる号俸よりも上位の号俸としていたりなどしていた。このため、職員40名に係る俸給及び諸手当が、21年度から23年度までの間に計5,127,533円過大支給となっていた。
また、22年3月の人事院規則9—55(特地勤務手当等)の改正により特地勤務手当の支給額が減少することとなった官署に勤務する職員に係る経過措置の適用を誤るなどしていたため、職員29名に係る俸給及び諸手当が21年度から23年度までの間に計1,988,036円支給不足となっていた。
上記ア及びイのとおり、21、22両年度に支出官から資金前渡官吏に対して交付された前渡資金1,226,938,017円の受払等について現金出納簿への登記等が行われていなかったり、21年度から23年度までに支給した給与について計5,127,533円の過大支給や計1,988,036円の支給不足となっていたりしている事態は適正とは認められず、現金出納簿へ登記していなかった前渡資金の額と給与の過大支給額の一部が重複していることなどを考慮すると1,230,142,204円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められる。