事業所内保育施設設置・運営等支援助成金(平成23年8月以前は事業所内保育施設設置・運営等助成金。以下「助成金」という。)は、雇用保険で行う事業のうちの雇用安定事業の一環として、職業生活と家庭生活の両立支援に対する事業主の取組を促し、もってその労働者の雇用の安定に資することを目的として、自ら雇用する労働者等の子の保育を行うために一定基準を満たす事業所内保育施設(以下「保育施設」という。)の設置、運営、保育遊具等の購入等を行った雇用保険の適用事業主等(以下「事業主等」という。)に対して、都道府県労働局(以下「労働局」という。)が支給しているものである。
厚生労働省が定めた両立支援助成金支給要領(平成23年9月1日付け雇児0901第13号。23年8月以前は事業所内保育施設設置・運営等助成金支給要領。以下「支給要領」という。)によれば、助成金の支給対象となる保育施設の要件は、保育する乳幼児の定員が10人以上であること、保育施設の利用者は、原則として、事業主等の雇用する労働者等であることなどとされている。
支給要領によれば、助成金の支給対象となる費用には、保育施設の設置費、運営費、保育遊具等購入費等がある。これらのうち、設置費を支給対象とする助成金(以下「設置費助成金」という。)の助成率は保育施設の建築等に要した費用の3分の2等で、その支給限度額は2300万円とされ、事業主等は、労働局の認定を受けた事業所内保育施設設置・運営計画に基づき保育施設を設置した後、保育施設の設置費等を記載した事業所内保育施設設置・運営等支援助成金支給申請書(23年8月以前は事業所内保育施設設置・運営等助成金支給申請書。以下「支給申請書」という。)に、工事請負契約書(工事費内訳書を含む。)、設置費等の領収書等を添付して労働局へ提出することとされている。
そして、運営費を支給対象とする助成金(以下「運営費助成金」という。)の助成率は保育施設の運営に要した費用(専任の保育士等の人件費、施設が賃貸である場合はその賃借料等)の合計額に対して、1年目から5年目までは3分の2等で、その支給限度額は保育施設の運営の形態等に応じた額とされ、保育施設の利用者の中に事業主等が自ら雇用する労働者が1名以上いない月については支給しないことなどとされている。そして、事業主等は、毎年1月から12月までの運営費等を記載した支給申請書に保育士の賃金台帳、保育の実施状況を明らかにする保育日誌等を添付して翌年1月中に労働局に提出することとされている。
また、保育遊具等購入費を支給対象とする助成金(以下「遊具購入費助成金」という。)の支給限度額は40万円とされ、保育遊具等1品の単価が1万円以上、総額20万円以上の保育遊具等を購入した場合に、購入に要した額から10万円を控除した額を助成することなどとされている。
支給申請書等の提出を受けた労働局は、支給申請書に記載された設置費等の金額が領収書や賃金台帳等から算出される金額と合致するかなど支給申請書等の内容を審査して、適切なものであると認めた場合、支給決定を行い、これに基づいて助成金の支給を行うこととされており、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない助成金の支給を受け、又は受けようとした事業主等に対しては、支給決定を取り消した上で支給した助成金を返還させることなどとされている。
本院は、合規性等の観点から、事業主等に対する設置費助成金等の支給決定が適正に行われているかなどに着眼して、全国47労働局のうち、18労働局において会計実地検査を行い、21年度から23年度までの間に設置費助成金等の支給を受けた事業主等から50事業主等を選定して、事業主等から提出された支給申請書等の書類を確認するなどの方法により検査を行った。
検査の結果、2労働局管内における2事業主において、設置費助成金及び遊具購入費助成金の支給申請に当たり、虚偽の工事請負契約書及び領収書を添付して事実と相違した設置費等の金額を支給申請書に記載して水増しするなどしていたり、運営費助成金の支給申請に当たり、保育施設の利用者の中に事業主が自ら雇用する労働者が1名もおらず支給要件を満たしていなかったりしているのに、2労働局は、これらの事業主に対して支給決定を行っていた。これにより、2事業主に対する設置費助成金等計27,375,000円のうち、25,395,000円の支給が適正でなく、不当と認められる。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>福岡労働局は、平成22年度に、管内の事業主Aから保育施設の設置費を9,240,000円とする支給申請書、工事請負契約書、領収書等の提出を受けて、これに基づき算定した設置費助成金5,775,000円をAに支給していた。しかし、Aが実際に施工業者に支払った設置費は4,725,000円であり、Aは、虚偽の領収書等を添付して設置費を事実と相違した9,240,000円と支給申請書に記載して設置費を水増ししていたことから、設置費助成金5,775,000円の支給が適正でなかった。
また、同局は、23年1月から12月までの12か月分に係る運営費助成金について、Aから支給申請書等の提出を受けて、これに基づき算定した運営費助成金5,940,000円をAに支給していた。しかし、同年5月から12月までの8か月間は、同保育施設の利用者の中にAが自ら雇用する労働者が1名もいなかったことから、この期間に係る運営費助成金3,960,000円は支給要件を満たしておらず、支給が適正でなかった。
このような事態が生じていたのは、助成金の支給申請に係る審査に当たり、前記の2労働局において、事業主から提出された支給申請書や領収書等の記載内容が事実と相違するなどしていたのに、これに対する調査確認が十分でないまま支給決定を行っていたことによると認められる。
なお、これらの不当と認める支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。
以上を労働局ごとに示すと次のとおりである。
労働局名 | 本院の調査に係る事業主数 | 不適正受給事業主数 | 左の事業主に支給した助成金 | 左のうち不当と認める助成金 | |
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千円 | 千円 | ||||
(60) | 茨城 | 4 | 1 | (1) 15,260 (3) 400 |
(1) 15,260 (3) 400 |
(61) | 福岡 | 4 | 1 | (1) 5,775 (2) 5,940 |
(1) 5,775 (2) 3,960 |
(60)(61)の計 | 8 | 2 | (1) 21,035 (2) 5,940 (3) 400 |
(1) 21,035 (2) 3,960 (3) 400 |
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合計 | 27,375 | 25,395 |