厚生労働省の医療保障制度には、後期高齢者医療制度、医療保険制度及び公費負担医療制度があり、これらの制度により次の医療給付が行われている。
これらの医療給付においては、被保険者(上記ウの被保護者等を含む。以下同じ。)が医療機関で診察、治療等の診療を受けた場合、薬局で薬剤の支給等を受けた場合、又は居宅において継続して療養を受ける状態にある者が訪問看護事業所の行う訪問看護を受けた場合に、広域連合、保険者、都道府県又は市町村(以下「保険者等」という。)及び患者が、これらの費用を医療機関、薬局又は訪問看護事業所(以下「医療機関等」という。)に診療報酬、調剤報酬又は訪問看護療養費(以下「診療報酬等」という。)として支払う。
診療報酬等の支払の手続は、次のとおりとなっている(図参照)。
図 診療報酬の支払の手続
このうち、保険者等に対する医療費の請求は、次のように行われている。
保険者等が支払う医療費の負担は次のようになっている。
国民医療費は、医療の高度化や人口の高齢化に伴って、21年度に35兆円を超え、その後も毎年増加している。また、このうち後期高齢者医療費は、高齢化が急速に進展する中でその占める割合が3割を超えている。このような状況の中で医療費に対する国の負担も多額に上っていることから、本院は、後期高齢者医療費を中心に、合規性等の観点から、医療費の請求が適正に行われているかに着眼して検査した。
本院は、7地方厚生(支)局(注2)及び30都道府県において、保険者等の実施主体による医療費の支払について、レセプト、各種届出書、報告書等の書類により会計実地検査を行った。そして、医療費の支払について疑義のある事態が見受けられた場合は、地方厚生(支)局及び都道府県に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。
30都道府県に所在する229医療機関、40薬局及び6訪問看護事業所の請求に対して607実施主体において、20年度から24年度までの間における医療費が、131,819件で2,376,985,546円過大に支払われていて、これに対する国の負担額948,471,028円は負担の必要がなかったものであり、不当と認められる。
これを診療報酬項目等の別に整理して示すと次のとおりである。
診療報酬項目等 | 実施主体 (医療機関等数) |
過大に支払われていた医療費の件数 | 過大に支払われていた医療費の額 | 不当と認める国の負担額 |
---|---|---|---|---|
件 | 千円 | 千円 | ||
① 入院基本料 | 167市区町等 (91) |
16,782 | 1,397,056 | 558,795 |
② 在宅医療料 | 137市区町村等 (68) |
20,540 | 295,184 | 111,743 |
③ 入院基本料等加算 | 210市区町村等 (22) |
25,600 | 248,841 | 101,729 |
④ リハビリテーション料 | 160市区町村等 (18) |
17,052 | 177,050 | 68,524 |
⑤ 医学管理料 | 60市町村等 (10) |
8,376 | 31,827 | 13,448 |
⑥ 処置料 | 197市区町村等 (8) |
9,508 | 27,288 | 10,632 |
⑦ 初診料・再診料 | 51市町村等 (9) |
7,416 | 21,294 | 8,090 |
⑧ 検査料等 | 43市町村等 (3) |
3,508 | 8,323 | 2,917 |
①から⑧までの計 | 594実施主体 (29) |
108,782 | 2,206,867 | 875,881 |
⑨ 調剤報酬 | 66市区町等 (40) |
22,393 | 139,443 | 60,492 |
⑩ 訪問看護療養費 | 7市等 (6) |
644 | 30,674 | 12,097 |
①から⑩までの計 | 607実施主体 (275) |
131,819 | 2,376,985 | 948,471 |
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められる。
前記の医療費が過大に支払われていた事態について、主な診療報酬項目等の別に、その算定方法及び検査の結果の詳細を示すと次のとおりである。
入院基本料は、患者が入院した場合に1日につき所定の点数が定められている。入院基本料のうち療養病棟入院基本料等は、患者の疾患、状態等について厚生労働大臣が定める区分に従い、所定の点数を算定することとされている。
検査の結果、23都道府県に所在する91医療機関において、入院基本料等の請求が不適正と認められるものが16,782件あった。その主な態様は、療養病棟入院基本料等に定められた区分のうち、より低い点数の区分の状態等にある患者に対して高い区分の点数で算定していたものである。
このため、上記16,782件の請求に対して167市区町等において、医療費が1,397,056,681円過大に支払われていて、これに対する国の負担額558,795,777円は負担の必要がなかったものである。
在宅医療料のうち在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料等は、医療機関が、在宅での療養を行っている患者等であって通院が困難なものに対して、診療に基づき計画的な医学管理を継続的に行い、当該医療機関の理学療法士等を訪問させて、基本的動作能力等の回復を図るための訓練等について必要な指導を行わせた場合等に算定することとされている。ただし、介護保険の要介護被保険者等である患者に対しては、この指導が別途介護保険制度の介護給付等として行われるものであることから、原則として在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料等は算定できないこととされている。
また、在宅患者訪問診療料等は、医療機関が、在宅での療養を行っている患者であって通院が困難なものに対して、計画的な医学管理の下に定期的に訪問して診療を行った場合等に算定することとされている。ただし、特別養護老人ホーム等の入所者に対しては、原則として在宅患者訪問診療料等は算定できないこととされている。
検査の結果、16都道府県に所在する68医療機関において、在宅医療料等の請求が不適正と認められるものが20,540件あった。その主な態様は、次のとおりである。
このため、上記20,540件の請求に対して137市区町村等において、医療費が295,184,920円過大に支払われていて、これに対する国の負担額111,743,699円は負担の必要がなかったものである。
入院基本料等加算には、療養病棟療養環境加算、重症者等療養環境特別加算等があり、それぞれ所定の点数が定められている。そして、これらの加算の多くは、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生(支)局長に届け出た医療機関において、その基準に掲げる区分に従い所定の点数を算定することとされている。ただし、療養病棟療養環境加算等は、医師等の数が医療法(昭和23年法律第205号)に定める標準となる数(以下「標準人員」という。)を満たしていない場合には算定できないこととされている。
また、療養病棟療養環境加算等は、患者の選定に係る特別の病室に入院していて、特別の料金を徴収している患者に対しては算定できないこととされている。
検査の結果、13都府県に所在する22医療機関において、入院基本料等加算等の請求が不適正と認められるものが25,600件あった。その主な態様は、次のとおりである。
このため、上記25,600件の請求に対して210市区町村等において、医療費が248,841,731円過大に支払われていて、これに対する国の負担額101,729,143円は負担の必要がなかったものである。
リハビリテーション料には、脳血管疾患等リハビリテーション料、運動器リハビリテーション料等があり、これらは、専従の常勤理学療法士等が勤務していることなどの厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生(支)局長に届け出た医療機関においてリハビリテーションを行った場合に、発症、手術等から180日以内に限り、その届出に係る所定の点数を算定することなどとされている。そして、治療を継続することにより状態の改善が期待できるなどの厚生労働大臣が定める患者については、180日を超えて算定することなどができることとされている。
また、関節の変性疾患、その他の慢性の運動器疾患等の患者等に対してリハビリテーションを行った場合には、運動器リハビリテーション料(Ⅰ)ではなく、より点数の低い運動器リハビリテーション料(Ⅱ)により算定することとされている。
検査の結果、10都道府県に所在する18医療機関において、リハビリテーション料等の請求が不適正と認められるものが17,052件あった。その主な態様は、次のとおりである。
調剤報酬のうち在宅患者訪問薬剤管理指導料は、在宅で療養を行っている患者等であって通院が困難なものに対して、医師の指示に基づき、薬剤師が患家を訪問して薬学的管理指導を行った場合に算定することとされている。ただし、介護保険の要介護被保険者等である患者に対しては、この指導が別途介護保険制度の介護給付等として行われるものであることから、原則として在宅患者訪問薬剤管理指導料等は算定できないこととされている。
検査の結果、7都道府県に所在する40薬局において、調剤報酬の請求が不適正と認められるものが22,393件あった。その主な態様は、介護保険の要介護被保険者等である患者に対して、在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定していたものである。
このため、上記22,393件の請求に対して66市区町等において、医療費が139,443,038円過大に支払われていて、これに対する国の負担額60,492,517円は負担の必要がなかったものである。
訪問看護療養費のうち訪問看護基本療養費は、訪問看護を受けようとする者に対して、主治医から交付を受けた訪問看護指示書等に基づき、訪問看護事業所の看護師等が訪問看護を行った場合等に算定することとされている。ただし、介護保険の要介護被保険者等である患者に対しては、この訪問看護が別途介護保険制度の介護給付等として行われるものであることから、原則として訪問看護基本療養費等は算定できないこととされている。
検査の結果、3道県に所在する6訪問看護事業所において、訪問看護療養費の請求が不適正と認められるものが644件あった。その態様は、介護保険の要介護被保険者等である患者に対して、訪問看護基本療養費等を算定していたものである。
このため、上記644件の請求に対して7市等において、医療費が30,674,950円過大に支払われていて、これに対する国の負担額12,097,218円は負担の必要がなかったものである。
また、前記の医療費が過大に支払われていた事態について、医療機関等の所在する都道府県別に示すと次のとおりである。
都道府県名 | 実施主体(医療機関等数) | 過大に支払われていた医療費の件数 | 過大に支払われていた医療費の額 | 不当と認める国の負担額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|---|
北海道 | 38市町等 (23) |
10,438 | 178,716 | 76,533 | ①②④⑦⑨⑩ |
茨城県 | 3市等 (1) |
84 | 8,813 | 3,218 | ② |
群馬県 | 22市区町村等 (2) |
1,727 | 11,629 | 4,319 | ③⑦ |
埼玉県 | 22市区町等 (7) |
610 | 29,847 | 11,288 | ①②⑥ |
千葉県 | 38市町等 (10) |
6,103 | 94,806 | 34,361 | ①②⑨ |
東京都 | 54市区等 (8) |
4,282 | 31,681 | 12,237 | ①②③④⑨ |
神奈川県 | 69市区町等 (14) |
7,490 | 87,232 | 32,974 | ①②③④⑤ |
新潟県 | 2市等 (4) |
777 | 8,907 | 3,454 | ② |
富山県 | 7市等 (4) |
1,070 | 10,086 | 3,873 | ①⑤⑦ |
石川県 | 9市町等 (7) |
1,905 | 26,383 | 10,954 | ①⑦ |
長野県 | 23市町村等 (8) |
2,055 | 33,227 | 12,710 | ②⑤⑩ |
岐阜県 | 2市等 (1) |
42 | 4,968 | 1,952 | ① |
愛知県 | 38市町等 (14) |
11,409 | 132,270 | 50,755 | ①②③④⑥⑩ |
三重県 | 32市町等 (6) |
3,398 | 279,775 | 116,753 | ①③⑤ |
京都府 | 22市町等 (9) |
3,079 | 35,072 | 14,220 | ①②③⑥⑨ |
大阪府 | 76市町村等 (58) |
23,982 | 323,106 | 138,961 | ①②③④⑤⑦⑧⑨ |
兵庫県 | 43市町等 (34) |
13,638 | 407,801 | 153,984 | ①②③④⑤⑥⑨ |
奈良県 | 6市等 (2) |
1,045 | 3,176 | 1,196 | ②⑦ |
岡山県 | 16市町等 (6) |
1,280 | 110,717 | 41,683 | ① |
広島県 | 27市町等 (10) |
5,270 | 38,784 | 14,762 | ①③⑦⑨ |
山口県 | 24市町等 (10) |
1,164 | 20,241 | 7,248 | ①③ |
徳島県 | 9市町等 (3) |
777 | 13,409 | 5,596 | ②④ |
香川県 | 21市町等 (9) |
2,863 | 31,390 | 12,656 | ①②④⑥⑧ |
愛媛県 | 7市町等 (3) |
753 | 59,647 | 23,567 | ① |
高知県 | 10市町等 (2) |
466 | 13,081 | 4,699 | ③⑥ |
福岡県 | 166市区町村等 (14) |
19,756 | 197,176 | 81,591 | ①③④⑥⑦ |
長崎県 | 33市区町等 (4) |
4,532 | 44,962 | 16,737 | ①③④ |
熊本県 | 8市町等 (2) |
525 | 47,900 | 19,796 | ① |
宮崎県 | 6市町等 (2) |
287 | 13,548 | 4,991 | ① |
鹿児島県 | 8市町等 (2) |
1,012 | 78,619 | 31,388 | ①② |
計 | 607実施主体 (275) |
131,819 | 2,376,985 | 948,471 |