厚生労働本省(平成13年1月5日以前は厚生本省。以下「本省」という。)は、6年7月に、平成6年度こども未来基金造成費補助金交付要綱(平成6年厚生省発児第121号厚生事務次官通知。以下「交付要綱」という。)等に基づき、財団法人こども未来財団(25年4月1日以降は一般財団法人こども未来財団。以下「未来財団」という。)に対し、こども未来基金(以下「未来基金」という。)の造成に必要な経費として、こども未来基金造成費補助金(以下「補助金」という。)30,000,000,000円を交付している。
未来基金は、基金の元本を運用して、運用益を財源として、デパート等における授乳室の整備等に対する助成等(以下「基金事業」という。)を行うものである。
本省は、未来基金の管理運用等に関して、交付要綱のほか、こども未来基金管理運営要領(平成6年厚生省発児第122号厚生事務次官通知。以下、交付要綱と合わせて「交付要綱等」という。)を定めている。
交付要綱等によると、未来財団は、基金を国債等の有価証券、預金等で運用して、その運用益を、基金事業に要する経費に充当することができるものとされており、当該年度の精算によって生じた残余は、速やかに未来基金に繰り入れるものとされている。
また、交付要綱等によると、未来財団が基金事業を中止又は廃止する場合には、厚生労働大臣(13年1月5日以前は厚生大臣)の承認を受けなければならないこととされている。そして、基金事業を中止又は廃止しようとするときまでに、未来基金の保有額、基金事業に係る経理の状況等必要な事項を同大臣に報告し、その指示を受け、基金事業を中止又は廃止するまでに造成された未来基金の保有額及び保有債券等の売却益等基金事業に係る経理の精算により生じた残余額(以下「基金廃止時保有額」という。)の全額を国庫に返還しなければならないこととされており、未来基金を廃止する際の手続が定められている。
本院は、合規性等の観点から、基金廃止時保有額の国庫への返還は交付要綱等に基づき適正に行われているかなどに着眼して、本省及び未来財団において、国庫への返還に関する書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
本省は、21年11月に実施された行政刷新会議による事業仕分けの評価結果を踏まえ、基金廃止時保有額のうち30,000,000,000円を国庫に返還させ、未来基金を廃止することにした。これを受け、未来財団は、23年1月17日に、本省に対して「こども未来基金の廃止及び返還について」(平成23年未来第12号)を提出していた。
そして、本省は、23年1月26日に、未来財団に対して「こども未来基金の廃止及び返還について」(平成23年厚生労働省発雇児0126第2号厚生労働大臣指示)を発し、補助金交付額30,000,000,000円を交付要綱等の規定により23年2月10日までに返還することを命じ、未来財団は、23年2月10日に未来基金を廃止して、基金廃止時保有額32,545,529,126円のうち30,000,000,000円を国庫に返還していた。その結果、基金廃止時保有額から上記30,000,000,000円を除いた額(以下「基金残余額」という。)である2,545,529,126円が、未来財団に残されたままとなっていた。
しかし、交付要綱等によると、未来基金を廃止する際に国庫に返還すべき額は、基金廃止時保有額の全額とされている。また、本省は、未来基金の廃止に当たり、未来財団が基金事業により行っていた事業のうち必要な事業に要する経費について、単年度の国庫補助金を毎年度未来財団に交付し、所要額を措置することとしていた。このため、本省において、補助金交付額30,000,000,000円のみを国庫に返還することを命じ、基金残余額を未来財団に残置したことは、本省自らが定めた交付要綱等に違反するものであり、基金残余額を未来財団に残置する必要性もなく、適正とは認められない。
したがって、未来基金の廃止に当たり国庫に返還すべき額は、基金廃止時保有額32,545,529,126円であり、既に返還済みの30,000,000,000円との差額である基金残余額2,545,529,126円が過小となっていて不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、本省において、基金廃止時の国庫への返還額を決定するに当たり、交付要綱等を遵守することの認識が著しく欠けていたことなどによると認められる。