介護保険は、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)が保険者となって、市町村の区域内に住所を有する65歳以上の者及び40歳以上65歳未満の医療保険加入者を被保険者として、被保険者の要介護状態等に関して、必要な保険給付を行う保険である。
被保険者が、介護保険法(平成9年法律第123号)に基づき受けるサービスには居宅サービス、施設サービス及び地域密着型サービス(以下、これらを「介護サービス」という。)がある。介護サービスのうち、居宅サービスには、通所介護サービス(注1)等が、施設サービスには、介護療養施設サービス(注2)等がある。
また、これらの居宅サービス又は地域密着型サービスの適切な利用等をすることができるよう、利用する居宅サービス等の種類等を定めた計画(以下「居宅サービス計画」という。)を作成等するための居宅介護支援(注3)がある。
そして、被保険者が介護サービスを受けようとする場合の手続は、次のとおりとなっている。
事業者が介護サービス又は居宅介護支援を提供して請求することができる報酬の額(以下「介護報酬」という。)は、「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準」(平成12年厚生省告示第19号)、「指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準」(平成12年厚生省告示第20号)、「指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準」(平成12年厚生省告示第21号)(以下、これらを「算定基準」という。)等に基づき、介護サービスの種類又は居宅介護支援の別に定められた単位数に単価(10円から11.26円)を乗ずるなどして算定することとなっている。
市町村は、要介護者等が事業者から介護サービスの提供を受けたときは、当該事業者に対して介護報酬の100分の90に相当する額を、また、居宅介護支援の提供を受けたときは、介護報酬の全額(以下、これらを「介護給付費」という。)をそれぞれ支払うこととなっている
介護給付費の支払手続は、次のとおりとなっている(参考図参照)。
(参考図)
介護給付費の支払の手続
介護給付費は、100分の50を公費で、100分の50を被保険者の保険料でそれぞれ負担することとなっている。
そして、公費負担については、介護保険法に基づき、介護給付費のうち、施設等分(注4)については国が100分の20、都道府県が100分の17.5及び市町村が100分の12.5(平成17年度以前は国が100分の25、都道府県及び市町村がそれぞれ100分の12.5)を負担し、施設等以外の分については、国が100分の25、都道府県及び市町村がそれぞれ100分の12.5を負担している。
また、国は、健康保険法(大正11年法律第70号)及び国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づき、社会保険診療報酬支払基金が介護保険の保険者に交付する介護給付費交付金等の財源として医療保険者(注5)が同基金に納付する介護給付費納付金に要する費用の額の一部を負担している。
本院は、合規性等の観点から、介護報酬の算定が適正に行われているかに着眼して、21都府県において、116事業者に対する介護給付費の支払について、介護給付費の請求に係る関係書類等により会計実地検査を行った。そして、介護給付費の支払について疑義のある事態が見受けられた場合には、更に都府県等に事態の詳細な報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。
17都府県及び2市に所在する85事業者に対して40都道府県の304市区町村等の実施主体が行った17年度から24年度までの間における介護給付費の支払について、70,554件、365,296,700円が過大となっていて、これに対する国の負担額109,574,592円は負担の必要がなかったものであり、不当と認められる。
これらの事態について、居宅介護支援又は介護サービスの種類の別に示すと次のとおりである。
指定居宅介護支援事業所において居宅サービス計画を作成等する居宅介護支援については、算定基準等によると、作成した居宅サービス計画に位置付けられた指定訪問介護、指定通所介護又は福祉用具貸与(以下「訪問介護サービス等」という。)の提供総数のうち、同一の事業者によって提供された訪問介護サービス等の占める割合が100分の90を超える場合(小規模な指定居宅介護支援事業所であるため作成した居宅サービス計画数が少ないなどの正当な理由がある場合を除く。)には、特定事業所集中減算として、所定の1月当たりの単位数から200単位を減算することとなっている。そして、指定居宅介護支援事業所が、専ら指定居宅介護支援の提供に当たる常勤の主任介護支援専門員等を配置するなどした場合には、1月につき300単位を加算することとなっている。なお、上記減算の適用を受けている場合には、加算は算定できないこととなっている。
また、居宅介護支援の介護報酬については、算定基準等により、当該事業所の介護支援専門員が利用者の居宅を訪問していないなどの場合には、当該居宅サービス計画に係る月から当該状態が解消されるに至った月の前月まで、運営基準減算として、減算開始月については所定単位数の100分の70に相当する単位数を算定し、また、2月目以降については所定単位数の100分の50に相当する単位数を算定することとなっている。
しかし、25指定居宅介護支援事業者は、正当な理由がないのに特定事業所集中減算を行っておらず、さらに、このうち3指定居宅介護支援事業者は、減算となる期間に300単位を加算していた。また、1指定居宅介護支援事業者は、利用者の居宅を訪問していないにもかかわらず、運営基準減算として所定単位数の100分の70又は100分の50に相当する単位数を算定していなかった。
このため、32,577件の請求に対して181市区町村等が支払った介護給付費が105,050,610円過大となっていて、これに対する国の負担額32,797,675円は負担の必要がなかった。
指定通所介護事業所において要介護者等に提供する通所介護サービスについては、算定基準等によると、前年度の1月当たりの平均利用延べ人員数による事業所規模が、300人以内の場合は小規模型通所介護費、300人超750人以内(20年度までは300人超900人以内)の場合は通常規模型通所介護費、750人超900人以内の場合は大規模型通所介護費(Ⅰ)及び900人超の場合は大規模型通所介護費(Ⅱ)とし、それぞれの事業所規模ごとに1日のサービスの所要時間の区分に応じて定められた単位数等により介護報酬を算定することとなっている。
しかし、20指定通所介護事業者は、前年度の1月当たりの平均利用延べ人員数が300人を超えていたのに、通常規模型通所介護費の区分によらず小規模型通所介護費の区分により単位数を算定していたり、4指定通所介護事業者は、750人を超えていたのに、大規模型通所介護費(Ⅰ)の区分によらず通常規模型通所介護費の区分により算定していたり、3指定通所介護事業者は、900人を超えていたのに、大規模型通所介護費(Ⅱ)の区分によらず大規模型通所介護費(Ⅰ)の区分により算定していたりしていた。
このため、17,893件の請求に対して85市区町村等が支払った介護給付費が100,789,678円過大となっていて、これに対する国の負担額30,655,123円は負担の必要がなかった。
指定介護療養型医療施設(療養病床を有する病院又は診療所)において要介護者等に提供する介護療養施設サービスについては、算定基準等によると、医師等の員数が医療法(昭和23年法律第205号)等に定められている員数に満たない場合には、翌月の介護報酬の算定において所定の1日当たりの単位数から85単位を減算することとなっている。そして、医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第49条の規定が適用されて、医師の員数が3人未満に緩和されている場合には、翌月の介護報酬の算定において所定の1日当たりの単位数から12単位を減算することとなっている。また、多床室に入院させるとその者の著しい精神症状等により同室の他の入院患者の心身の状況に重大な影響を及ぼすおそれがあるとして個室への入院が必要と医師が判断した者であるなどの場合には、個室の単位数より高い多床室の単位数により介護報酬を算定することとなっている。
しかし、4指定介護療養型医療施設は、医師の員数が医療法等に定められている員数を満たしていないのに、85単位を減算していなかった。そして、7指定介護療養型医療施設は、医療法施行規則第49条の規定が適用され、医師の員数が3人未満に緩和されているのに、12単位を減算していなかった。また、6指定介護療養型医療施設は、医師の判断によらず施設の都合で個室を利用した場合においても多床室の単位数により介護報酬を算定していた。
このため、11,791件の請求に対して72市区町村等が支払った介護給付費が95,186,801円過大となっていて、これに対する国の負担額27,952,904円は負担の必要がなかった。
アからウまでの介護サービスのほか、訪問介護サービス、通所リハビリテーションサービス、介護福祉施設サービス及び介護保健施設サービスの4介護サービスについて、15事業者は、単位数の算定を誤るなどして介護報酬を過大に算定していた。
このため、8,293件の請求に対して63市区町村等が支払った介護給付費が64,269,611円過大となっていて、これに対する国の負担額18,168,890円は負担の必要がなかった。
このような事態が生じていたのは、事業者が算定基準等を十分に理解していなかったことにもよるが、市区町村、一部事務組合、広域連合及び国保連合会において介護給付費の請求に対する審査点検が十分でなかったこと、都府県等において事業者に対して算定基準等の内容を十分に周知していないなど指導が十分でなかったことなどによると認められる。
都府県等名 | 実施主体 (事業者数) |
年度 | 過大に支払われた介護給付費の件数 | 過大に支払われた介護給付費 | 不当と認める国の負担額 | 摘要 |
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件 | 千円 | 千円 | ||||
秋田県 | 16市町村等(5) | 17〜22 | 4,414 | 31,796 | 9,951 | イ、ウ、エ |
山形県 | 14市町(2) | 20〜23 | 3,053 | 8,152 | 2,639 | ア |
群馬県 | 5市区(1) | 23、24 | 1,033 | 1,543 | 468 | イ |
埼玉県 | 28市区町等(4) | 22、23 | 2,759 | 18,945 | 5,139 | イ |
千葉県 | 100市区町村等(12) | 18〜24 | 8,376 | 26,141 | 6,754 | ア、エ |
東京都 | 24市区(7) | 19〜24 | 5,932 | 25,926 | 7,116 | イ、ウ、エ |
山梨県 | 33市区町村等(6) | 17〜24 | 6,263 | 19,504 | 5,974 | ア、イ、エ |
長野県 | 15市区町村等(6) | 17〜22 | 4,089 | 23,641 | 7,138 | イ、ウ、エ |
愛知県 | 6市町等(1) | 20〜24 | 741 | 2,339 | 537 | ウ |
京都府 | 13市町等(5) | 22〜24 | 6,345 | 13,244 | 4,098 | ア、イ、エ |
茨木市 | 9市町(2) | 22、23 | 813 | 9,303 | 2,578 | イ |
和歌山県 | 21市町(2) | 18〜23 | 6,109 | 44,860 | 13,891 | ア、エ |
岡山県 | 17市町村(5) | 19〜24 | 6,825 | 18,744 | 6,263 | ア |
倉敷市 | 12市町(2) | 19〜24 | 2,040 | 8,304 | 2,295 | ア、エ |
徳島県 | 32市町村等(9) | 17〜21 | 2,304 | 55,885 | 17,345 | イ、ウ、エ |
愛媛県 | 15市町(10) | 17〜22 | 6,717 | 41,252 | 12,518 | イ、ウ、エ |
佐賀県 | 2市等(3) | 24 | 484 | 5,202 | 1,449 | イ |
長崎県 | 4市町(1) | 20〜24 | 1,046 | 2,092 | 634 | ア |
鹿児島県 | 4市村(2) | 22〜24 | 1,211 | 8,417 | 2,778 | ア、イ |
計 | 304実施主体(85) | 17〜24 | 70,554 | 365,296 | 109,574 |