(平成25年10月24日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
貴省は、国民生活の保障及び向上を図り、経済の発展に寄与するため、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進を図ることなどを任務としており、この任務を達成するため、①検疫所(13か所)、②国立ハンセン病療養所(13か所。以下「療養所」という。)、③国立医薬品食品衛生研究所(以下「国衛研」という。)、国立保健医療科学院(以下「科学院」という。)及び国立社会保障・人口問題研究所(以下「社人研」という。)、国立感染症研究所(以下「感染研」という。また、国衛研、科学院、社人研及び感染研を合わせて「試験研究機関」という。)、④国立障害者リハビリテーションセンター(以下「障害者センター」という。)等を施設等機関として設置している。
そして、これらの施設等機関は、それぞれの所掌事務の遂行に必要となる各種の物品を多数取得しており、これらの物品を使用して各種の業務を実施している。
国の物品については、物品管理法(昭和31年法律第113号)等に基づき、各省各庁の長が物品の取得、保管、供用及び処分(以下、これらを合わせて「管理」という。)を行い、各省各庁の長からその管理に関する事務の委任を受けた職員が物品管理官として管理事務を行うこととされている。
物品管理官は、物品管理簿を備えて、その管理する物品の分類、品目ごとに、物品の増減等の異動数量、現在高その他物品の異動に関する事項等を記録することとされており、取得価格が50万円以上の機械及び器具(以下「重要物品」という。)については、その価格も記録しなければならないこととされている。
また、物品管理官は、供用及び処分の必要がない物品について、他の物品管理官への管理換により適切な処理をすることができないときなどは、これらの物品について不用の決定をして廃棄等することができることとされており、重要物品について不用の決定をする場合は、あらかじめ各省各庁の長等の承認を受けなければならないこととされている。
そして、各省各庁の長は、毎会計年度1回及び物品管理官が交替するときなどはその都度、検査員を任命して、物品管理官の管理に係る物品及び物品管理簿を検査させることとなっており、また、その所管に属する物品を亡失したときなどは、財務大臣及び本院に通知しなければならないこととなっている。
また、各省各庁の長は、重要物品について、毎会計年度末の物品管理簿の記録内容に基づいて、物品増減及び現在額報告書(以下「物品報告書」という。)を作成することとされており、物品報告書に基づいた物品の現在額等は内閣から国会に報告されている。
貴省は、厚生労働省所管物品管理取扱規程(平成13年厚生労働省訓第30号)により、検疫所の総務課長、療養所の事務部長又は事務長、試験研究機関の総務部長等を物品管理官に官職指定し、当該施設等機関に属する物品を管理させている。そして、施設等機関の物品管理官が重要物品について不用の決定をする場合は、当該決定の対象となる物品の品目、価格、不用の決定をしようとする理由等を記載した書類及び業者の修理不能証明書を厚生労働大臣に提出し、あらかじめその承認を受けること、施設等機関の物品管理官に対する検査は、施設等機関の長が命ずる検査員が行うこととされている。
また、施設等機関の物品管理官は、物品を亡失したときなどは、施設等機関の長を経由して厚生労働大臣に報告しなければならないこと、また、その管理する重要物品について、物品報告書の様式により作成した報告書(以下「内部物品報告書」という。)を、施設等機関の長を経由して厚生労働大臣に提出しなければならないこととされている。そして、厚生労働大臣は、この内部物品報告書に基づき物品報告書を作成している。
感染研は、貴省の監査指導の際に一部の重要物品の所在が確認できなかったことから、平成22年度末の重要物品について調査を行い、24年9月にその結果を公表している。また、国衛研、科学院及び社人研においても、感染研で重要物品が適正に管理されていない事態が判明したことから、23年度末の重要物品について調査を行い、24年12月にその結果を貴省が取りまとめて公表している。これらの調査結果によると、感染研における22年度末の重要物品1,201個(価格24億1855万余円)、国衛研及び科学院における23年度末の重要物品376個(同9億5336万余円)の管理が適切でなかったとしている。
本院は、正確性、合規性等の観点から、試験研究機関における重要物品の管理に関する調査結果が適正であるか、内部物品報告書は物品管理簿に基づき適正に作成されているか、他の施設等機関における重要物品の管理等は適切に行われているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、感染研が調査対象とした22年度末の重要物品4,244個(価格94億3920万余円)、国衛研、科学院及び社人研が調査対象とした23年度末の重要物品2,827個(同108億9920万余円)並びに3検疫所(注1)、8療養所(注2)及び障害者センターにおける23年度末の重要物品5,333個(同163億8816万余円)を対象として、物品管理簿の記録内容と現物とを照合するなどの方法により会計実地検査を行った。
また、研究者が科学研究費補助金(以下「科研費」という。)により設備備品を購入したときは、直ちに当該設備備品を所属する研究機関に寄附し、研究機関は、これを受け入れて適切に管理するとされていることから、試験研究機関及び障害者センターに所属する研究者が科研費により購入した設備備品が当該機関に寄附されて適切に管理されているかについても着眼して検査した。検査に当たっては、試験研究機関及び障害者センターに所属する研究者が20年度から24年度までの間に科研費により購入した取得価格が50万円以上の設備備品92個(同1億8601万余円)を対象として、寄附手続に係る書類等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、試験研究機関は、全ての重要物品について現物の有無を調査した結果、感染研における22年度末の重要物品1,201個(価格24億1855万余円)、国衛研及び科学院における23年度末の重要物品376個(同9億5336万余円)、計1,577個(同33億7191万余円)について、物品管理簿に記録されているのにその所在が確認できないなど、管理が適切でなかったとしている。
本院は、上記の調査結果について、試験研究機関が調査した関係資料等によりその内容が事実であるか確認するとともに、この調査結果以外にも重要物品の管理等が適切に行われていない事態がないかなどについて検査したところ、感染研における重要物品90個(同1億9649万余円)について、22年度末時点で物品管理簿に記録されていて、その所在が確認できるにもかかわらず、22年度の内部物品報告書に記載されておらず、このため、22年度の物品報告書にも記載されていない事態が見受けられた。
したがって、試験研究機関において適切な管理等が行われていなかった重要物品は、感染研における22年度末の計1,291個(価格計26億1504万余円)並びに国衛研及び科学院における23年度末の376個(同9億5336万余円)となる。
また、前記の調査結果によると、試験研究機関では、管理が適切でなかった重要物品1,577個のうち、所在が確認できない重要物品1,293個について、所在が確認できない理由等を職員等から聞き取ったところ、853個については故障、老朽化等により使用部署で所要の手続を経ずに廃棄されたことが判明したが、440個については所在が確認できない原因や所在が確認できなくなった時期が不明であるとしている。
しかし、検査したところ、上記853個のうち、重要物品の不用決定の承認に必要な業者の修理不能証明書が確認できたものは223個のみであり、残りの630個については確認できず、不用決定の必要性を検証できない状況となっていた。
重要物品716個、価格15億6741万余円
これらは、1検疫所、6療養所及び障害者センターにおいて、重要物品として物品管理簿に記録され、保管中又は供用中の医療機器等とされているが、その所在が確認できなかったものである。そして、これらについては、検査員による物品管理官に対する定期検査等において、物品管理簿の記録内容と現物との照合が行われていないことなどのため、所在が確認できない原因や所在が確認できなくなった時期が不明となっていた。このうち、業者の修理不能証明書が確認できたものは10個のみであり、残りの706個については確認できない状況となっていた。
また、物品管理官は、これらの所在が確認できない重要物品について、厚生労働大臣に亡失の報告をしなければならないのに、この報告を行っていないため、厚生労働大臣による財務大臣及び本院への亡失の通知が行われていない状況となっていた。
重要物品7個、価格1117万余円
これらは、3療養所及び障害者センターにおいて、購入により取得した重要物品について、取得時に物品管理官が物品管理簿に記録することを失念するなどしていたものである。
重要物品34個、価格5962万余円
これらは、1療養所及び障害者センターにおいて、不用の決定をしたのに物品管理簿から削除されていなかったり、同一の重要物品が重複して記録されていたりなどしていたものである。
重要物品37個、価格5475万余円
これらは、3療養所において、重要物品として物品管理簿に記録されていて、その所在が確認できるにもかかわらず、23年度の内部物品報告書に記載されていないなどしていたものである。
上記ア及びイのとおり、施設等機関において、物品管理簿に記録されている重要物品の所在が確認できなかったり、取得した重要物品が物品管理簿に記録されていなかったりなど、重要物品の管理が適正を欠いていて、物品管理簿及び内部物品報告書、ひいては厚生労働大臣が作成する物品報告書が重要物品の現況を反映した正確なものとなっていない状況となっていた。
前記のとおり、科学研究費補助金取扱規程(昭和40年文部省告示第110号。以下「科研費取扱規程」という。)等によると、研究者は、科研費により設備備品を購入したときは、直ちに、当該設備備品を所属する研究機関に寄附しなければならないこととされており、研究機関は、これを受け入れて適切に管理することとされている。このため、国の研究機関が設備備品の寄附を受けた場合は、物品管理法等に従って、当該設備備品を国の物品として適切に管理することになる。
しかし、試験研究機関のうち国衛研、科学院及び感染研、並びに障害者センターにおいて、20年度から24年度までの間に研究者が科研費により購入した取得価格が50万円以上の設備備品92個(価格1億8601万余円)のうち、74個(同1億6475万余円)について、科研費取扱規程等に従って各研究機関に当該設備備品を寄附しなければならないのに、これを行っていない事態が見受けられた。
このため、これらの研究機関は、当該設備備品を国の物品として物品管理法等に基づいて適切に管理することができず、物品管理簿及び内部物品報告書、ひいては厚生労働大臣が作成する物品報告書に記録又は記載されていない状況となっていた。
上記のように、施設等機関において、重要物品の管理が適正を欠いていたり、科研費により購入した取得価格が50万円以上の設備備品が寄附されておらず、国の物品として管理されていなかったりして、物品管理簿及び内部物品報告書、ひいては物品報告書が重要物品の現況を反映した正確なものとなっていない事態は適切とは認められず、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
貴省の検疫所を始めとする施設等機関は、今後も医療機器等の高価な物品を多数使用して業務を実施していくことにしている。また、所属する研究者においても、引き続き科研費により設備備品を購入して各種の研究を行っていくことが見込まれている。
ついては、貴省において、施設等機関における重要物品及び科研費により購入した設備備品の適正な管理等を行うよう、アのとおり是正の処置を要求し及びイのとおり是正改善の処置を求める。