(前掲246ページの「国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたもの」及び251ページの「国民健康保険の財政調整交付金が過大に交付されていたもの」参照)
【是正改善の処置を求めたものの全文】 国民健康保険の療養給付費負担金及び財政調整交付金の算定における減額調整について(平成25年10月10日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
国民健康保険は、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)等が保険者となって、被用者保険の被保険者及びその被扶養者等を除き、当該市町村の区域内に住所を有する者等を被保険者として、その疾病、負傷、出産又は死亡に関して、療養の給付、出産育児一時金の支給、葬祭費の支給等を行う保険である。そして、保険者である市町村の数は、平成23年度末現在で1,722となっている。
医療機関等で療養の給付等を受ける国民健康保険の被保険者は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号。以下「法」という。)に基づき、療養の給付に要する費用の額等のうち、年齢の区分ごとに定められた割合に応じた額を一部負担金として当該医療機関等に支払わなければならないこととされている。ただし、この一部負担金が一定の限度額を超えた場合には、市町村等は、この限度額を超えた額を高額療養費として被保険者等に支給することとされている。
貴省は、国民健康保険の保険者である市町村に対して各種の国庫助成を行っており、その主なものとして、療養給付費負担金(以下「負担金」という。)及び財政調整交付金を交付している。
負担金は、市町村が行う国民健康保険の事業運営の安定化を図るために、法に基づいて交付するものである。その交付額は、「国民健康保険の国庫負担金等の算定に関する政令」(昭和34年政令第41号。平成20年3月以前は「国民健康保険の国庫負担金及び被用者保険等保険者拠出金等の算定等に関する政令」。以下「政令」という。)等により、療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額及び入院時食事療養費、療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額の合算額(以下「医療費」という。)から所定の額を控除するなどした国庫負担対象費用額に、国の負担割合を乗ずるなどして算定することとなっている。
また、財政調整交付金は、市町村間で医療費の水準や住民の所得水準の差異により生じている国民健康保険の財政力の不均衡を調整するため、法に基づいて交付するものである。財政調整交付金のうち普通調整交付金(以下「交付金」という。)は、被保険者の所得等から一定の基準により算定される収入額(以下「調整対象収入額」という。)が、医療費等から一定の基準により算定される支出額(以下「調整対象需要額」という。)に満たない市町村に対して、その不足を公平に補うことを目途として交付するものであり、その交付額は、政令等により、当該市町村の調整対象需要額から調整対象収入額を控除した額に基づいて算定することとなっている。
以上のとおり、負担金及び交付金(以下、これらを合わせて「国庫負担金」という。)は、いずれも各市町村における医療費がその交付額算定の基礎とされており、医療費が増加すれば国庫負担金の交付額も増加することになる。
市町村等においては、国から国庫負担金等の交付を受けずに自らの負担で、年齢その他の事由により被保険者の全部又は一部について、その一部負担金に相当する額の全部又は一部を、当該被保険者に代わり医療機関等に支払う措置(以下「負担軽減措置」という。)を実施している場合がある。
そして、負担軽減措置には、その対象者に係る療養の給付に要する費用の額等に対する被保険者の一部負担金の額の割合(以下「負担割合」という。)を法が定める10分の3から10分の1にするなど、一定の割合で負担を軽減するもの(以下「定率制」という。)と、一部負担金の上限を医療機関等での受診一回当たり500円や1,000円にするなど定額の上限を設けて負担を軽減するもの(以下「定額制」という。)とがある。
負担軽減措置を実施している市町村においては、実施していない市町村に比べて、一般的に被保険者の医療機関への受診等が増える傾向にあり、これに伴う医療費の増加(以下「波及増」という。)が生ずるとされている。このため、波及増を含んだ医療費を基に国庫負担金の交付額を算定すると、その交付額も増加することになり、負担軽減措置を実施していない市町村との公平を欠くことになる。
そこで、貴省は、国庫負担金の交付額算定に当たり、負担軽減措置の対象者の延べ人数の被保険者数に占める割合が一定の規模以上の市町村については、医療費から波及増の分を減額調整することとして、負担軽減措置の対象者に係る療養の給付に要する費用の額等に、負担割合に応じた所定の率(以下「減額調整率」という。)を乗ずることとしており、「国民健康保険の事務費負担金等の交付額等の算定に関する省令」(昭和47年厚生省令第11号)及び「国民健康保険の調整交付金の交付額の算定に関する省令」(昭和38年厚生省令第10号)において減額調整率を定めている。減額調整率について、負担割合が10分の3である被保険者に係るもの(一般分)を示すと、表のとおりである。
表 省令で定めている減額調整率(一般分)
負担割合 | 10分の2.5を超え10分の3以下 | 10分の2を超え10分の2.5以下 | 10分の1.5を超え10分の2以下 | 10分の1を超え10分の1.5以下 | 10分の0.5を超え10分の1以下 | 0を超え10分の0.5以下 | 0 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
減額調整率 | 1.0000 | 0.9931 | 0.9794 | 0.9441 | 0.9153 | 0.8790 | 0.8427 |
このように、減額調整率は、負担割合の区分に応じて定められており、負担割合が低いほど、より減額の度合いが高い減額調整率が適用され、国庫負担金の交付額が減少することになる。
そして、減額調整率の適用に当たっては、定率制の負担軽減措置を実施している市町村は、その負担割合に応じて、前記の表等の減額調整率をそのまま適用することができるのに対して、定額制の負担軽減措置を実施している市町村は、被保険者が実際に負担した一部負担金の額(以下「実負担額」という。)に基づいて負担割合を算定した上で、算定した負担割合に応じて前記の表等により減額調整率を適用することが必要となる。
また、定額制の負担軽減措置を実施している市町村における負担割合の算定に当たっては、高額療養費については、前記のとおり、市町村等が被保険者等に支給するものであることから、実負担額に含めないことになっている。
そこで、本院は、合規性等の観点から、上記と同様の事態がないか、また、貴省及び都道府県による市町村に対する減額調整率の適用に関する指導や助言が適切に行われているかなどに着眼して、貴省本省及び29都道府県(注1)の365市区町村等において、18年度から23年度までの間に交付された国庫負担金を対象として会計実地検査を行った。そして、会計実地検査において更に確認が必要であると認められた市町村については、都道府県を通じて事業実績報告書等の関係書類の提出を受けるなどして、その内容を確認するなどの方法により検査を行った。
検査したところ、定額制の負担軽減措置を実施している6都道県(注2)の231市町村等(これらの市町村に交付された国庫負担金交付額計4336億7120万余円)において、次のような事態が見受けられた。
すなわち、北海道の市町村は、小学生以下の乳幼児等を対象とした乳幼児等医療給付事業等の負担軽減措置を実施している。これらの負担軽減措置の対象者に係る軽減後の一部負担金については、住民税課税世帯は負担割合を10分の1として、同非課税世帯等は更にその負担の軽減を図るために初診時は580円、再診は負担なしとするなど、定率制と定額制が混在しており、各市町村は、減額調整率の適用に当たっては、実負担額に基づく負担割合を算定する必要があった。しかし、北海道は、定額制を適用したことにより、負担割合の区分が10分の0.5となる場合が想定されたにもかかわらず、負担割合を一律10分の1とするなどとした適用表を独自に定めて、これを適用するよう各市町村に対して指導を行っていた。このため、各市町村は、実負担額に基づく負担割合を算定しておらず、163市町村等(注3)において、負担割合が過大に算定され、より減額の度合いが低い減額調整率が適用されていた。
また、北海道以外の5都県の68市町村(注4)は、減額調整率の適用に当たり、実負担額に基づく負担割合を算定したとしていたが、その算定の際に、実負担額に高額療養費を含めていた。このため、上記の各市町村においては、実負担額に基づく負担割合の算定が適切に行われておらず、負担割合が過大に算定され、より減額の度合いが低い減額調整率が適用されていた。上記の事態について一例を示すと、次のとおりである。
新潟市は、12歳未満の乳幼児及び児童を対象とした子ども医療費助成事業等の負担軽減措置を実施している。これらの負担軽減措置については、被保険者の一部負担金を受診1回当たり530円とするなどの定額制が採用されていることから、同市は、減額調整率の適用に当たり、実負担額に基づく負担割合を算定したとしていた。しかし、新潟県が、減額調整率の適用に当たっては高額療養費を実負担額に含めて負担割合を算定するとの指導を同市に対して行っていたことから、同市は、実負担額に高額療養費を含めて負担割合を算定していた。このため、平成21、22両年度の負担金計1億7793万余円、交付金計9390万余円、合計2億7183万余円が過大に交付されていた。
そして、上記と同様の事態が、同市を含め新潟県の13市町において見受けられ、21、22両年度の負担金計3億4079万余円、交付金計1億7789万余円、合計5億1868万余円が過大に交付されていた。
そこで、上記6都道県の231市町村等について、実負担額に基づいて適正な負担割合を算定した上で、算定した負担割合に応じた減額調整率を適用して国庫負担金の額を算定したところ、18年度から23年度までの間の負担金計11億3946万余円、交付金計5億3877万余円、合計16億7824万余円が過大に交付されていた。
定額制の負担軽減措置を実施している多数の市町村において、実負担額に基づく負担割合を算定していなかったり、実負担額に高額療養費を含めて負担割合を算定していたりしているため、より減額の度合いが低い減額調整率が適用されて減額調整が行われ、国庫負担金が過大に交付されている事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
国民健康保険は、我が国の社会保障の中核を成す医療保険制度の一つであり、保険者である市町村等には、毎年度、多額の国庫負担金等が交付されており、その適正な運用や健全な運営がこれまで以上に強く求められる状況となっている。
ついては、貴省において、国庫負担金を適正に算定するため、都道府県に対して定額制の負担軽減措置を実施した場合における負担割合の算定方法を具体的に示して、これを都道府県を通じて市町村に対して周知するとともに、その適用に関する技術的助言を行うよう是正改善の処置を求める。