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  • 平成24年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(7) 研究費の使用等に関して、国の会計法令に準じた内部規程を整備して、これに従って物品の発注業務等を行うことなどにより、試験研究機関に所属する研究者に交付された厚生労働科学研究費補助金の経理等が適切に行われるよう是正改善の処置を求めたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)厚生労働科学研究費
部局等
厚生労働本省、国立医薬品食品衛生研究所、国立感染症研究所
補助の根拠
予算補助
補助事業
厚生労働科学研究費補助
補助事業の概要
厚生労働科学研究の振興を促し、もって、国民の保健医療、福祉、生活衛生、労働安全衛生等に関して、行政施策の科学的な推進を確保するための技術水準の向上を目的とする研究事業を行うもの
上記の2研究所が研究者から管理及び経理の事務を委任された厚生労働科学研究費補助金の額
180億4579万余円(平成20年度〜24年度)
上記のうち不適切な経理手続により購入した物品の額
90億2034万円(平成20年度〜24年度)

(前掲266ページの「厚生労働科学研究費補助金が過大に交付されていたもの」参照)

【是正改善の処置を求めたものの全文】 試験研究機関に所属する研究者に交付された厚生労働科学研究費補助金の経理等について

(平成25年10月31日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。

1 試験研究機関に所属する研究者に交付された厚生労働科学研究費補助金の経理等の概要

(1) 試験研究機関の概要

貴省は、国民生活の保障及び向上を図り、経済の発展に寄与するため、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進等を図ることなどを任務としており、この任務を達成するため国立医薬品食品衛生研究所(以下「国衛研」という。)、国立保健医療科学院、国立社会保障・人口問題研究所及び国立感染症研究所(以下「感染研」という。また、これらの4研究所等を合わせて「試験研究機関」という。)を施設等機関として設置している。

(2) 厚生労働科学研究費補助金の概要

貴省は、厚生労働科学研究の振興を促し、もって、国民の保健医療、福祉、生活衛生、労働安全衛生等に関し、行政施策の科学的な推進を確保するため、技術水準の向上を図ることを目的とする研究事業を行う研究者等に対して、厚生労働科学研究費補助金取扱規程(平成10年厚生省告示第130号)等に基づき、厚生労働科学研究費補助金(以下「厚労科研費」という。)を交付している。そして、試験研究機関に勤務する多数の研究者は、業務の一環として、厚労科研費の交付を受けて各種の研究を行っている。

(3) 公的研究費の適正な管理等のための取組に対する要請

厚労科研費を含む公的研究費については、研究者による不正な使用等が後を絶たないことなどから、内閣府に設置されている総合科学技術会議は、平成18年8月に「公的研究費の不正使用等の防止に関する取組について(共通的な指針)」を策定した。

この指針においては、関係府省、公的研究費を配分している機関(以下「配分機関」という。)及び研究機関が取り組むべき事項として、研究費の管理に関する研究機関の責任の一層の明確化、研究者本人が経費の支出手続に直接関わらない仕組みの徹底を含めた研究機関における研究費の使用等の規則の整備及び明確化、研究費の管理及び監査に係る体制整備等を挙げており、配分機関、研究機関等において当該指針にのっとった取組にできるだけ早期に着手し、遅くとも19年度には具体的に推進することなどを求めていた。

貴省は、上記の指針を踏まえて、厚労科研費の経理等について定めた「厚生労働科学研究費補助金における事務委任について」(平成13年厚科第332号厚生科学課長決定。以下「事務委任通知」という。)を20年2月に改正した。そして、それまで厚労科研費の管理及び経理の事務については、研究者の所属機関の長に委任することを原則としていたが、これを必ず委任することと改めるとともに、研究機関に対して、その執行及び管理について、適切な経費の管理が可能な事務体制及び研究機関における規則の整備を図り、研究者本人が経費の支出手続に直接関わらない仕組みを構築することや、適正な経理を確保するために、内部監査を実施できる体制を整備することなどを求めている。

(4) 試験研究機関における研究費の管理

試験研究機関は、19年11月以降、研究者が交付を受けた競争的資金(注1)等について、適正な運営及び管理のために内部規程を定めており、競争的資金等の交付を受けた研究者は、その管理、経理及び受領に関して所属する試験研究機関の長に委任することとしている。そして、委任された競争的資金等の管理、経理及び受領に関する事務については、各試験研究機関の総務部等が行うこととしている。

なお、研究機関は、研究費を適正に管理するため、より現実的で実効性のある制度を構築することとされており、内部統制システムの整備の一環として、規則等が既に設けられている場合はこれを準用することも可能であるとされていることから、国の施設等機関である試験研究機関は、研究者が交付を受けた競争的資金等について委任を受けて管理及び経理の事務を行う場合に、国の会計法令を準用して経理手続を行うことが可能となる。

注(1)
 競争的資金  文部科学省、厚生労働省等の配分機関が、広く研究開発課題等を募り、提案された課題の中から、専門家を含む多数の者による科学的及び技術的な観点を中心とした評価に基づいて実施すべき課題を採択し、研究者等に配分する研究開発資金

(5) 国の物品調達契約の事務

国の物品調達契約の事務は、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号。以下「予決令」という。)等の会計法令に従って執行される。このうち、契約の締結については、原則として競争に付することとされているが、契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合、契約に係る予定価格が少額である場合等においては、随意契約によるものとするなどとされている。そして、予決令により、予定価格が160万円を超えない財産を買い入れる場合には、随意契約によることができることとされている。また、競争入札に付し、又は随意契約によろうとする場合には、仕様書、設計書等により予定価格を作成することとされている。

(6) 試験研究機関における内部監査

試験研究機関は、競争的資金等の適正な運営・管理に資するため、定期又は随時に内部監査を実施することとしている。そして、内部監査は、監督責任者の総務部等の会計課長又は総務課長のほか、所長が指名する事務職員等で構成する監査チームにより、①関係法令、規程等の遵守状況、②競争的資金等の管理及び執行状況、③現金出納に関する事項等について実施することとされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院が、国衛研において、厚労科研費の交付を受けて研究者が実施している研究課題に係る経理状況について会計実地検査を行ったところ、物品の購入に当たり、研究者が業者に架空の取引を指示して虚偽の納品書、請求書等を作成させて、国衛研に架空の取引に係る購入代金を支払わせている不適正な事態が見受けられた。

そこで、本院は、合規性等の観点から、試験研究機関に所属する研究者に交付された厚労科研費について、事務委任通知等の趣旨に沿って厚労科研費の管理及び経理の体制が整備されているか、物品の購入は適切に行われているかなどに着眼して、試験研究機関のうち、所属する研究者に対して多額の厚労科研費が交付されている国衛研及び感染研(以下、これらを合わせて「両研究所」という。)において、20年度から24年度までの間に、厚労科研費を交付された研究者から両研究所にその管理及び経理の事務を委任された1,732研究課題(国庫補助金交付額180億4579万余円)を対象として、物品の納品書、請求書等の関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 厚労科研費の経理

ア 物品の発注

研究機関は、前記のとおり、研究者本人が経費支出手続に直接関わらない仕組みを整備することが求められている。そして、国衛研においては19年11月から23年3月までは総務部会計課、同年4月以降は総務部業務課(以下、業務課と会計課を合わせて「業務課等」という。)が、感染研においては20年9月以降総務部調整課研究経理室が、それぞれの内部規程により競争的資金等の管理及び経理の事務を行うこととしている。

しかし、両研究所は、物品の購入に必要な手続に関する内部規程を整備して明確化していなかったため、実際には、国衛研においては19年11月以降も、感染研においては20年9月以降も、研究者が物品の発注業務を行っている状況となっていた。

イ 契約方式等

試験研究機関においては、前記のとおり、研究費の使用等の規則について、国の会計法令を準用する旨の規定を定めることが可能である。そして、研究費の使用等も試験研究機関が行う事務であることから、国の会計経理の一環として国の会計法令を準用することが望ましい。

しかし、両研究所は、物品の購入に関しては、内部規程等で業者から見積書を徴することなどとしているのみで、物品の購入に必要な手続に関する内部規程を整備して明確化していなかった。このため、契約金額にかかわらず、全ての物品購入について予定価格を作成せずに研究者が業者から見積書を徴して随意契約を締結しており、20年度から24年度までの契約金額が160万円以上の物品の購入計63件、計2億6914万余円についても、予定価格を作成せずに随意契約を締結していた。

ウ 物品の納入に係る検査

前記のとおり、国衛研においては、研究者が交付を受けた競争的資金等の管理及び経理の事務は、内部規程により業務課等が行うこととしており、競争的資金等により購入した物品等の納品に係る品目、規格、数量、納品時期等の検査(以下「検収」という。)の業務についても、同課が納品書と納入された物品を照合することとされている。

しかし、実際には、国衛研の業務課等は、納品書と納入された物品との照合を行っていなかった。

上記ア、イ及びウのような適切とは認められない経理手続により、両研究所が20年度から24年度までの間に厚労科研費により購入した物品の額は、計90億2034万余円となっていた。

(2) 内部監査の状況

両研究所は、21年度以降、事務委任通知に基づき、前年度に厚労科研費の交付を受けた研究課題を対象として、その研究課題数のおおむね10%を抽出して書面による内部監査を実施しており、見積書を徴取せずに物品を発注していることなどを問題として指摘するなどしている。

しかし、実際には、内部監査の対象とした研究課題において、(1)のア、イ及びウのような適切とは認められない事態が見受けられているのに、両研究所は内部監査においてこれらの事態を看過していたり、改善すべき問題としていなかったりしていた。

(是正改善を必要とする事態)

両研究所が物品の購入に係る研究費の使用等の規則を整備して明確化していないことから、両研究所において研究者本人が物品の発注業務を行っていたり、契約金額が160万円以上の物品を随意契約で購入していたりなどしている事態、国衛研において競争的資金により購入した物品の検収を適切に行っていない事態及び両研究所においてこのような会計経理を内部監査において看過していたり、改善すべき問題としていなかったりしている事態は適切とは認められず、是正改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

  • ア 貴省本省において、両研究所に対して、厚労科研費の管理及び経理の事務を適切に行うことについての指導及び監督が十分でなかったこと
  • イ 両研究所において
    • (ア) 厚労科研費は個々の研究者に交付される個人への補助の性格を有するが、その管理及び経理については研究機関が適切に行うことが重要であることについての認識が欠けていたこと
    • (イ) 内部監査において、厚労科研費の管理及び経理の体制が適切に整備されていることを適切に確認することの重要性についての認識が欠けていたこと

3 本院が求める是正改善の処置

厚労科研費については、国民の信頼に応えるために、その管理及び経理を行う試験研究機関において、自らの責任を一層明確化するとともに、国の会計法令を準用することなどにより適正な事務処理の確保を図っていくことが重要である。そして、試験研究機関においては、今後とも多数の研究者が厚労科研費の交付を受けて各種の研究を行っていくことが見込まれている。

ついては、貴省において、試験研究機関における厚労科研費の経理等が適切に行われるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。

  • ア 貴省本省において
    • (ア) 試験研究機関に対して、厚労科研費により物品を購入する場合は、研究費の使用等に関して、国の会計法令に準じた内部規程を整備した上で、これに従って発注業務や検収業務を行うよう指導及び監督を行うこと
    • (イ) 試験研究機関に対して、厚労科研費の管理及び経理の体制が適切に整備されているかについても十分に留意するなどして、内部監査を適切に行うよう指導すること
  • イ 試験研究機関において
    • (ア) 厚労科研費により物品を購入する場合は、研究費の使用等に関して、国の会計法令に準じた内部規程を整備した上で、これに従って発注業務や検収業務を行うこと
    • (イ) 会計書類に対する確認のほか、厚労科研費の管理及び経理の体制が適切に整備されているかについても十分に留意して内部監査を行うこと