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  • 平成24年度 |
  • 第3章 個別の検査結果|第1節 省庁別の検査結果|第10 厚生労働省|意見を表示し又は処置を要求した事項

(11) 地域密着型施設である認知症対応型通所介護事業所及び小規模多機能型居宅介護事業所の利用の促進を図ることなどにより、地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金等により整備された施設が十分に利活用され、交付金等の事業効果が十分発現するよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)介護保険制度運営推進費 (平成19年度以前は、(項)社会福祉施設整備費)
部局等
厚生労働本省、8地方厚生(支)局
国の負担の根拠
地域における公的介護施設等の計画的な整備等の促進に関する法律(平成元年法律第64号)、予算補助
整備交付金事業の概要
地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金、介護基盤緊急整備等臨時特例交付金等により地域密着型施設である認知症対応型通所介護事業所及び小規模多機能型居宅介護事業所の整備を行うもの
整備交付金交付先及び同交付金により整備された事業所数
178市区町村等、326事業所
上記に対する整備交付金交付額
57億2159万余円(平成18年度〜23年度)
上記のうち事業の効果が十分に発現していない事態に係る整備交付金交付先及び事業所数
153市区町村等、255事業所
上記に対する整備交付金交付額
43億3705万円
【改善の処置を要求したものの全文】 地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金等により整備した地域密着型施設の利用状況について

(平成25年10月22日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 制度の概要

(1) 介護保険制度等の概要

介護保険は、介護保険法(平成9年法律第123号)に基づき、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)が保険者となって、市町村の区域内に住所を有する65歳以上の者等を被保険者として、身体上又は精神上の障害のために常時介護が必要な要介護状態にあると認定された被保険者等(以下「要介護者等」という。)に必要な保険給付を行う保険制度である。そして、要介護者等が受ける介護サービスには、居宅サービス、施設サービス及び地域密着型サービスがあり、要介護者等は、介護サービス計画に基づいて介護サービスを受け、介護サービスの種類ごとに算定された報酬(以下「介護報酬」という。)の1割を負担することとなっている。

そして、市町村は、国が示す基本方針に基づき市町村介護保険事業計画を策定することとなっており、同事業計画には、市町村の区域における要介護者等の人数や介護サービスの利用状況等を基に介護サービスの種類ごとのサービスの需要に関する見込量を定めることとなっている。また、地域における公的介護施設等の計画的な整備等の促進に関する法律(平成元年法律第64号)等により、公的介護施設等を整備する際に策定する市町村整備計画(注1)(以下「整備計画」という。)は、市町村介護保険事業計画と調和が保たれていなければならないこととなっている。

注(1)
 市町村整備計画  公的介護施設等の整備に関する計画で、この中には、住民が身近な日常生活を営んでいる地域(日常生活圏域)を単位として公的介護施設等の面的な配置構想を基に、今後3年以内に実施する基盤整備事業を明らかにした計画等が含まれている。

(2) 認知症対応型通所介護及び小規模多機能型居宅介護の概要

前記介護サービスのうち地域密着型サービスは、平成18年度に導入され、原則として当該サービスを提供する市町村の要介護者等のみが利用できるサービスであり、認知症対応型通所介護(以下「認知通所介護」という。)、小規模多機能型居宅介護(以下「小規模多機能介護」という。)等のサービスがある。

このうち、認知通所介護は、認知症(急性期を除く。)の要介護者等が、できるだけ居宅で能力に応じ自立した日常生活を営めるように、認知症対応型通所介護事業所(以下「認知通所事業所」という。)に通い、入浴、食事等の介護、健康状態の確認等の日常生活上の世話、機能訓練を受けるとともに、認知症の特性に配慮したサービスの提供を受けることなどから、一般の通所介護に比べて介護報酬が高額となっている。

また、小規模多機能介護は、要介護者等が、能力に応じ居宅で自立した日常生活を営むことができるように、サービスの拠点である小規模多機能型居宅介護事業所(以下「小規模多機能事業所」という。)に通ったり、そこで短期の宿泊を行ったり、居宅で訪問サービスを利用したりすることにより、入浴、食事等の介護、調理、洗濯等の家事の援助、健康状態の確認等の日常生活上の世話、機能訓練を受けるもので、通所サービスを中心として、宿泊サービスや訪問サービスを提供することとされている。

(3) 地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金等の概要

地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金は、整備計画に基づき、市町村又は民間事業者が実施する施設整備事業に対して市町村に交付されるものである。そして、同事業は、21年度から上記の交付金のほか、介護機能強化と雇用の創出が緊急に求められていることなどを踏まえて、貴省が介護基盤緊急整備等臨時特例交付金等を都道府県に交付し、これにより造成した基金から補助金(以下、前者の交付金と合わせて「整備交付金」という。)を市町村に交付することにより実施されている。

整備交付金の交付額は、対象経費の実支出額と配分基礎単価(23年度は認知通所事業所1000万円、小規模多機能事業所3000万円)を比較して少ない方の額等とすることとなっており、整備交付金を受けて施設整備事業を行う市町村は整備計画に基づき各日常生活圏域で必要とされる施設を順次整備することにしている。

整備交付金の交付手続については、①交付を受けようとする市町村は交付申請書類等を、地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金については地方厚生(支)局に、基金からの補助金については都道府県に提出して、②地方厚生(支)局又は都道府県(以下「厚生局等」という。)はこれと整備計画等とを審査した上で交付決定を行うこととなっている。そして、③事業完了後に市町村は厚生局等に事業実績報告書を提出して、④これを受理した厚生局等はその内容を審査した上で交付額の確定を行うこととなっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

認知通所事業所及び小規模多機能事業所(以下、両者を合わせて「地域密着型施設」という。)の施設整備事業に対しては、毎年度、多額の整備交付金が交付されている。

そこで、本院は、有効性等の観点から、整備交付金により整備された地域密着型施設の利用促進が図られ、整備交付金による事業効果が十分に発現しているかなどに着眼して、18年度から23年度までの間に整備交付金の交付を受けて地域密着型施設の整備を行った8地方厚生(支)局(注2)管内の25都道府県(注3)の178市区町村等に所在する299事業者の326事業所(整備交付金交付額計57億2159万余円)を対象として、貴省、25都道府県及び178市区町村等において、施設の利用状況についての資料の提出を求めて、これを確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

注(2)
 8地方厚生(支)局  北海道、東北、関東信越、東海北陸、近畿、中国四国、九州各厚生局、四国厚生支局
注(3)
 25都道府県  東京都、北海道、大阪府、青森、秋田、栃木、群馬、神奈川、富山、石川、山梨、岐阜、愛知、三重、兵庫、和歌山、鳥取、広島、山口、愛媛、福岡、佐賀、熊本、大分、沖縄各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 地域密着型施設の利用状況

上記299事業者の326事業所について、開所時等から25年3月までの間の利用率(注4)を算出するなどしたところ、25都道府県の153市区町村等に所在する238事業者の255事業所(整備交付金交付額計43億3705万余円)において、次のとおり、地域密着型施設が全く利用されていなかったり、利用が低調となっていたりしていて、整備交付金の事業効果が十分発現していない事態が見受けられた。

注(4)
 利用率  認知通所事業所においては開所日数に利用定員を乗じた定員に対する実際の延べ利用者数の割合。小規模多機能事業所においては登録定員に対する実際の登録者の割合
  • ア 施設が全く利用されていなかった事態
    7事業者の8事業所(整備交付金交付額計1億2487万円)は、開所時等から施設が全く利用されていなかった。
    上記の事態について事例を示すと、次のとおりである。
    <事例>

    愛知県みよし市(平成22年1月3日以前は西加茂郡三好町)は整備交付金の交付を受けて18年度に事業者Aが行った認知通所事業所(利用定員10人)及び小規模多機能事業所(登録定員10人)の施設整備事業(事業費総額7319万余円)に対して計2500万円を交付し、事業者Aはこれらの事業所を19年6月に開所していた。

    しかし、同市において認知通所介護等に係るサービス内容や特徴等の周知及び利用対象となる者の把握方法の検討が十分でなかったことなどから、これらの事業所は開所時から25年3月まで全く利用されていなかった。

  • イ 施設の利用が低調となっていた事態

    232事業者の247事業所(整備交付金交付額計42億1218万余円)は、開所後の全期間(休止期間を除く。)の平均利用率が50%を下回っており、このうち87事業者の94事業所(整備交付金交付額計14億6160万余円)は、平均利用率が30%に達しておらず、特に利用が低調となっていた。また、3事業者の3事業所は24年度末現在で事業を休止しており、5事業者の5事業所は24年度末までに事業を廃止していた。

(2) 地域密着型施設が提供するサービスの需要に関する調査状況等

整備交付金により整備された地域密着型施設の平均利用率が50%を下回っていた施設が所在する153市区町村等及び255事業所において、サービスの需要に関する調査状況や施設整備後の利用が低調等となっていた理由は、次のとおりとなっていた。

  • ア サービスの需要に関する調査状況

    市町村は、市町村介護保険事業計画で定めることとなっているサービスの需要に関する見込量を基に整備計画を策定している。このサービスの需要に関する見込量は、要介護者等の人数等の基礎的数値のほか、同事業計画策定時に実施される介護サービス利用者等に対する実態調査の結果等を勘案して推計されている。そして、市町村は、上記サービスの需要に関する見込量に基づき地域密着型施設を順次整備しているが、この見込量を実際の利用に結びつけるための方策について検討していたのは5市町のみで、残りの市区町村等は特段検討を行っていなかったり、類似の機能を有するサービス施設を含めた既存の地域密着型施設等の利用状況等を十分に勘案していなかったりしていて、需要を的確に把握して、施設整備事業を実施しているとは認められない状況となっていた。

  • イ 施設の利用が低調等となっていた理由

    地域密着型施設の利用が低調等となっていた主な理由は、質問に対して回答が得られた134市区町村等(認知通所事業所が所在する70市区町村等、小規模多機能事業所が所在する81市町村等)及び250事業所(114認知通所事業所、136小規模多機能事業所)によれば、次のとおりとなっていた。

    • (ア) サービス利用上の問題

      認知通所事業所が所在する45市区町等(70市区町村等の64.2%)及び87認知通所事業所(114事業所の76.3%)は、認知通所介護と通所介護とのサービス内容の差異が分かりにくく、また、認知通所介護の介護報酬が通所介護に比べて高額となっていることなどから、認知症の要介護者等が通所介護事業所を利用してしまうことを理由として挙げている。

      また、小規模多機能事業所が所在する32市町村(81市町村等の39.5%)及び62小規模多機能事業所(136事業所の45.5%)は、通所を中心とした利用を想定しているが、利用者等が宿泊を中心とした利用を望む場合が多く、この要望に対応することが困難であることなどを理由として挙げている。

    • (イ) 要介護者等への周知不足等

      地域密着型施設が所在する91市区町村(134市区町村等の67.9%)及び地域密着型施設162事業所(250事業所の64.8%)は、要介護者等、地域住民等に対して、認知通所介護及び小規模多機能介護のサービスの機能や特徴等が十分に周知されていないことを、さらに、認知通所事業所が所在する24市区町(70市区町村等の34.2%)及び46認知通所事業所(114事業所の40.3%)は、要介護者等及びその家族が認知症であることを隠そうとする傾向があることを理由として挙げている。

(改善を必要とする事態)

整備交付金により整備された地域密着型施設について、サービスの需要が的確に把握されていなかったり、サービスの利用上の問題があったりなどしていて利用が低調等となっている施設が多数見受けられる事態は、整備交付金の事業効果が十分に発現していないことから適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

  • ア 貴省において、市町村が、整備交付金の交付申請に当たり、サービスの需要に関する見込量が実際の利用に結びつくかの検証を行ったり、既存の地域密着型施設等の利用状況等を勘案したりするなどして、需要を的確に把握することの必要性について、市町村に十分に周知していなかったこと

    また、貴省又は都道府県が審査等を行うに当たって、市町村が需要の有無等の把握を的確に行ったかについて十分に確認を行うようになっていなかったこと

  • イ 市町村において、地域密着型施設の整備後の利用状況を的確に把握していなかったり、整備交付金の事業効果が十分に発現していない事業所に対する指導や助言が十分でなかったり、地域密着型施設の機能や特徴等について十分に理解した上で、要介護者等への周知等を十分に行っていなかったりしていたこと

3 本院が要求する改善の処置

我が国における急速な高齢化の進展に伴う介護需要の増加に応じて、市町村は地域密着型施設の整備に取り組んでいるが、その整備に当たっては、地域密着型サービスの機能や特徴等を十分に理解した上で、サービスの需要を的確に把握して計画的な整備を進めていくことが重要になっている。

ついては、貴省において、地域密着型施設を地域の需要に応じて計画的に整備するとともに、整備した施設が十分に利活用され、整備交付金の事業効果が十分に発現するよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 整備交付金の交付申請に当たり、サービスの需要に関する見込量が実際の利用に結びつくかの検証を行ったり、既存の地域密着型施設等の利用状況等を勘案したりするなどして、需要を的確に把握することの必要性について、都道府県を通じるなどして市町村に周知するとともに、交付申請の審査等に当たり、需要の有無等の把握を的確に行ったかについて十分に確認するよう都道府県等に周知すること
  • イ 都道府県を通じるなどして、利用が低調等となっている地域密着型施設が所在する市町村に対して、当該施設の整備後の利用状況を的確に把握して、事業効果の発現のための取組について事業所を指導するとともに、地域密着型施設が提供するサービスの機能や特徴等について要介護者等に対する周知等を十分に行うよう指導や助言を行うこと