(平成25年7月30日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、職業生活と家庭生活の両立支援に対する事業主の取組を促し、もってその労働者の雇用の安定に資することを目的として、自ら雇用する労働者等の子の保育を行うために、一定基準を満たす事業所内保育施設(以下「保育施設」という。)の設置、運営、増築等を行った雇用保険の適用事業主等(以下「事業主等」という。)に対して、事業所内保育施設設置・運営等支援助成金(平成23年8月以前は事業所内保育施設設置・運営等助成金等。以下「助成金」という。)を都道府県労働局(以下「労働局」という。)において支給している。助成金は、育児休業等に関する法律(平成3年法律第76号。7年10月から11年3月までは「育児休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」、11年4月以降は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」)等において事業主が講ずべき措置の一つとされた事業所内託児施設の設置促進を図る趣旨から、5年度に創設されたものである。
貴省が定めた両立支援助成金支給要領(平成23年9月1日付け雇児0901第13号。23年8月以前は事業所内保育施設設置・運営等助成金支給要領等。以下「支給要領」という。)によれば、助成金の支給対象となる保育施設の要件は、保育する乳幼児の定員が10人以上であることなどとされている。
助成金の支給対象となる費用には、保育施設の設置費、運営費、増築費等(以下、このうち設置費及び増築費を対象とする助成金を「設置費等助成金」、運営費を対象とする助成金を「運営費助成金」という。)があり、設置費等助成金については、助成率が2分の1(中小企業事業主は3分の2)、助成限度額は2300万円等とされている。また、運営費助成金については、助成期間を運営開始日から10年間(20年度以前は5年間)とし、運営費の2分の1等を助成することとされている。助成金の支給実績は毎年増加傾向にあり、23年度については、設置費等助成金が111件(支給額計14億7250万余円)、運営費助成金が523件(支給額計19億2332万余円)となっている。
事業主等は、設置費等助成金の支給申請に先立ち、保育施設の定員、運営開始から5年間の乳幼児の利用見込数(以下「乳幼児利用見込数」という。)等を記載した事業所内保育施設計画認定申請書(以下「計画認定申請書」という。)等を労働局に提出することとされている。そして、労働局は、「両立支援助成金の支給事務に係る留意事項について」(平成23年9月1日付け雇児職発0901第2号。23年8月以前は「事業所内保育施設設置・運営等助成金の運用に係る留意事項について」。以下「留意事項」という。)等に基づき、計画認定申請書に記載された計画(以下「設置等計画」という。)の審査を行い、適切であると認めた場合に、設置等計画を認定することとされている。
支給要領によると、事業主等は、認定された設置等計画に基づき保育施設を設置等した後、保育施設の設置等に要した経費、保育施設を利用する乳幼児数等を記載した事業所内保育施設設置・運営等支援助成金支給申請書(23年8月以前は事業所内保育施設設置・運営等助成金支給申請書)等を労働局へ提出し、労働局は、その内容を審査して、設置費等助成金を支給することとされている。
留意事項によると、労働局は、保育施設の運営が長期にわたって安定的に行われるようにするために、事業主等に対して、保育施設の設置、運営等について、事前及び事後に、従業員のニーズ等に十分配意するよう適切な指導を行うこと、また、保育施設の運営開始からおおむね10年間、年に1回程度保育施設に赴き、運営状況を確認することとされている。
また、留意事項等によると、事業主等が保育施設を廃止する場合又は事業主等が保育施設の運営を事実上行っていない状態(以下、この状態を「休止」という。)にある場合には、事業主等に対して当該保育施設の廃止又は休止の届出を行う(以下、廃止の届出が行われた保育施設を「廃止施設」、休止の届出が行われた保育施設を「休止施設」という。)よう指導することとされている。
そして、支給要領等によると、事業主等が保育施設を廃止した場合には、原則として支給した設置費等助成金の全部又は一部を事業主等から返還させることとされている。
なお、23年度後半以降、設置等計画の認定件数が増加し、24年4月には、設置費等助成金の支給予定額が予算の上限に達したため、計画認定申請書の受付を一時停止する状況となった。
前記のとおり、助成金の支給実績は毎年増加傾向にあり、また、24年10月に設置費等助成金の支給対象となる保育施設の定員に係る要件が10人以上から6人以上へ緩和されたことなどから、今後、支給対象となる保育施設は更に増加することが見込まれている。したがって、労働局が、適切な審査を行って保育施設の設置等計画の認定を行うとともに、設置された保育施設が長期的かつ安定的に運営されるようにすることが、労働者の雇用の安定にとってより一層重要となる。
そこで、本院は、有効性等の観点から、設置費等助成金の支給を受けて設置等された保育施設が円滑に運営されているか、設置等計画の審査は設置後の円滑な運営を確保するために適切なものとなっているか、労働局は保育施設の運営状況を的確に把握し適切な指導を行っているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、5年度から23年度までの間に設置費等助成金の支給を受けて設置等され運営が開始された47労働局管内の保育施設に係る設置費等助成金支給件数720件(これらに係る支給額は、書面により確認することができた47労働局管内の680件についてみると88億2431万余円)を対象として、貴省本省及び21労働局において、運営状況の把握、設置等計画の審査、事業主等への指導についての実施状況を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、貴省本省を通じて、上記21労働局を含む、廃止又は休止した保育施設を確認した38労働局(注1)を対象とした調書の提出を受けて、その内容を分析するなどして検査した。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
保育施設の運営状況についてみたところ、24年9月末現在において、29労働局(注2)管内の53事業主等における53施設(設置費等助成金の支給件数計53件、支給額計5億6213万余円)が廃止されており、また、22労働局(注3)管内の31事業主等における31施設(同31件、3億0966万余円)が休止されていた。
そして、上記の廃止又は休止されていた計84施設について、提出を受けた調書により確認したところ、23年3月に発生した東日本大震災の影響により廃止又は休止したとしているものが3施設あった。
そこで、上記の84施設から被災の影響により廃止又は休止となった3施設を除いた37労働局(注4)管内の81事業主等における81施設(廃止施設51施設、設置費等助成金の支給件数計51件、支給額5億3380万余円。休止施設30施設、同30件、3億0409万余円。計81件、8億3790万円)を対象として、運営開始から廃止又は休止までの間の運営期間について検査したところ、表1のとおり、運営費助成金の支給対象期間内である5年未満のものが26施設(81施設の32.1%)、運営費助成金の支給対象期間終了後1年を経過していない5年以上6年未満のものが12施設(同14.8%)などとなっていた。
そして、81施設について、事業主等が保育施設を廃止又は休止した主な理由を調書により確認したところ、保育する乳幼児数が減少するなどして設置等計画どおりの乳幼児数が確保できなかったためとしているものが36施設(同44.4%)、事業主等の経営状態や業績が悪化したためとしているものが24施設(同29.6%)などとなっていた。
表1 保育施設の廃止又は休止までの運営期間
保育施設の状態 | 全体数 | 保育施設の運営期間 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
10年以上 | 6年以上10年未満 | 5年以上6年未満(運営費助成金の支給対象期間終了後1年を経過していないもの) | 5年未満(運営費助成金の支給対象期間内のもの) | 保育施設の運営期間を確認することができなかったもの | ||
廃止施設 (構成比) |
51 (100%) |
7 (13.7%) |
15 (29.4%) |
7 (13.7%) |
20 (39.2%) |
2 (3.9%) |
休止施設 (構成比) |
30 (100%) |
6 (20.0%) |
13 (43.3%) |
5 (16.7%) |
6 (20.0%) |
0 (—) |
計 (構成比) |
81 (100%) |
13 (16.0%) |
28 (34.6%) |
12 (14.8%) |
26 (32.1%) |
2 (2.5%) |
また、前記の81施設に係る計画認定申請書を検査したところ、乳幼児利用見込数については、保育施設の運営開始から5年目までには定員に相当する乳幼児数を確保する計画となっていた。
そこで、81施設のうち、運営開始から5年目(運営を開始した日から満4年となった日の翌日から、満5年となった日まで)において施設を利用していた乳幼児数を把握できた廃止施設38施設及び休止施設26施設、計64施設について、その乳幼児数と定員とを比較したところ、表2のとおり、35施設(64施設の54.7%)において、乳幼児数が定員の50%未満となっていたり、5年目を迎える前に廃止又は休止となっていたりしており、多数の保育施設が定員に相当する乳幼児数を確保できていない状況となっていた。
表2 保育施設の運営開始から5年目における乳幼児数の状況
保育施設の状態 | 運営開始から5年目において施設を利用していた乳幼児数を把握できた保育施設数 | |||||
定員に対する乳幼児数の割合(%) | ||||||
100%以上 | 50% 以上100% 未満 | 50% 未満及び5 年目を迎える前に廃止又は休止 | ||||
50%未満 | 5 年目を迎える前に廃止又は休止(乳幼児数0 人) | |||||
廃止施設 (構成比) |
38 (100%) |
4 (10.5%) |
9 (23.7%) |
25 (65.8%) |
10 (26.3%) |
15 (39.5%) |
休止施設(構成比) | 26 (100%) |
6 (23.1%) |
10 (38.5%) |
10 (38.5%) |
7 (26.9%) |
3 (11.5%) |
計 (構成比) |
64 (100%) |
10 (15.6%) |
19 (29.7%) |
35 (54.7%) |
17 (26.6%) |
18 (28.1%) |
(1)の状況を踏まえて、前記の81施設について、労働局における設置等計画の審査状況を検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴省本省は、労働局に対して、設置等計画に記載する保育施設の定員及び乳幼児利用見込数について、労働者に対する利用希望調査等、定員等に係る積算根拠の確認を行うこととする指示を特に行っていなかった。このため、労働局は、設置等計画の審査において、設置に必要な定員が支給要領で定められた10人以上となっているかなどの要件を満たしているか否かについては形式的な確認を行っていたが、保育施設の定員及び乳幼児利用見込数の積算根拠については、関係資料の提出を事業主等に求めていなかったり、雇用する労働者の利用希望数が反映されているかなどの確認を十分に行っていなかったりしていて、前記の81施設の大半において保育施設の運営規模の妥当性が十分に検討されないまま、設置等計画が認定されていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
神奈川労働局は、平成22年度に、管内の社団法人Aから申請を受けた設置等計画を認定し、新たに設置された保育施設(定員10人、設置費640万余円)に対して設置費等助成金320万余円を支給していた。しかし、その後同保育施設の乳幼児数は、運営開始1年目に4人であったものが、2年目までには0人となったことなどから、Aは、24年3月に、運営開始から1年5か月余りで同保育施設を廃止していた。
そして、同局に提出された廃止の届出等によると、廃止の理由は、雇用する労働者からの利用希望に基づき同保育施設を設置したものの、運営開始に当たり改めて利用希望者を募集したところ希望者が十分に集まらなかったことなどによるとしていた。
しかし、設置等計画の審査状況について検査したところ、同局は、Aがどのような方法で雇用する労働者の利用希望を調査して同保育施設の定員等を積算し設定したかについて十分に確認していなかった。
貴省本省は、労働局に対して、事業主等が保育施設の運営費の自己負担分を賄いながら長期にわたって適切な運営を安定的に行うことができるか検討するために、保育施設を運営することとなる事業主等の財務状況の確認を行うこととする指示を特に行っていなかった。このため、労働局は、事業主等が労働保険料を滞納していないことなどの支給要領等に定められた要件については確認を行っていたが、事業主等の直近の決算報告書等により財務状況を確認することは全く行っておらず、前記の81施設の全てにおいて保育施設が長期的かつ安定的に運営される可能性が十分に検討されないまま、設置等計画が認定されていた。
前記の休止施設30施設に係る休止期間を検査したところ、5年以上のものが15施設(30施設の50.0%)となっており、中には14年間にわたって休止している保育施設も見受けられた。
そして、上記の30施設に係る労働局の事業主等に対する指導状況について検査したところ、留意事項に基づき、保育施設の休止の届出を行うことについての指導は行われていた。しかし、休止施設に対する取扱いが支給要領等において特に定められていないため、年1回、休止施設の無断転用の有無等を確認するにとどまっていた。したがって、事業主等に対して、直接訪問して休止施設の運営再開に向けた取組を行うよう働きかけるなど、保育施設の休止状態の解消を図るための指導が十分に行われていない状況となっていた。
以上のように、設置等計画の認定において、保育施設の運営規模の妥当性や長期的かつ安定的な運営の可能性を検討するなどの審査が十分に行われておらず、廃止又は休止に至る保育施設が多数生じている事態、及び事業主等に対して保育施設の休止状態の解消を図るための指導が十分に行われていない事態は、設置費等助成金の支給を受けて設置等された保育施設について長期的かつ安定的な運営の確保を図る面から適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。
貴省は、前記のとおり、24年10月に、より多くの事業主等の利用を促すことなどを目的として設置費等助成金の支給対象となる保育施設の定員に係る要件を緩和するなど、今後とも保育施設の設置等の推進に努めていくこととしている。
ついては、貴省において、保育施設が廃止又は休止となることを未然に防ぐための設置等計画の審査及び保育施設の休止状態の解消を図るための事業主等への指導を適切に行うことにより、設置費等助成金の支給を受けて設置等された保育施設の長期的かつ安定的な運営の一層の確保を図るよう、次のとおり改善の処置を要求する。