厚生労働省は、「平成23年度子育て支援対策臨時特例交付金(安心こども基金)の交付について」(平成23年厚生労働省発雇児0623第1号)等に基づき、保育所の整備等を実施するなどにより、子どもを安心して育てることができるような体制整備を行うため、基金を造成して活用することを目的として、都道府県に対して、平成20年度以降、子育て支援対策臨時特例交付金を交付しており、20年度から23年度までの間の交付額は計4835億2651万余円となっている。
保育所緊急整備事業は、都道府県に造成された上記の基金を活用して行われる事業のうち、事業の実施主体である市町村(特別区を含む。以下同じ。)が、整備対象施設の設置主体である社会福祉法人等の事業者(以下「事業者」という。)に対して保育所(公立を除き、認定こども園を構成する保育所を含む。以下同じ。)の施設整備に要する費用の一部を補助することにより、子どもを安心して育てることができるような体制整備を行うことを目的として、保育所の新設、修理、改造及び整備を実施するものである。そして、都道府県は、事業に必要な経費を必要に応じて基金から取り崩して、市町村に助成金として交付することとされている。また、市町村が事業者に対してこの助成金により補助する場合には、保育所の新設等を行うために締結する契約について、一般競争入札に付するなど、市町村が行う契約手続の取扱いに準拠しなければならないことなどを条件に付さなければならないとされている。
地方自治法(昭和22年法律第67号)及び地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)の規定によると、地方公共団体において特に必要があると認めるときは、あらかじめ最低制限価格を設けて、予定価格の制限の範囲内で最低制限価格以上の価格をもって入札をした者のうち、最低の価格をもって入札をした者を落札者とすることができることとされている(以下、この制度を「最低制限価格制度」という。)。最低制限価格制度は、競争入札において、契約の内容に適合した履行を確保することが困難と認められる低価格により落札されて粗漏工事が行われることなどを防止し、もって契約の内容に適合した履行を確保することを目的とするものである。
そして、最低制限価格を設けている場合は、これを下回る価格で入札した者は無条件に失格となり、競争入札から排除される。これは、地方自治法上、競争入札を行う場合は、原則として、予定価格の制限の範囲内で最低の価格をもって入札した者を契約の相手方とするとされていることの重要な例外であり、最低制限価格が合理的な根拠に基づいて設定されていない場合は、競争契約における競争の利益を阻害するおそれがある。
近年、待機児童に対する国民の関心が高まってきており、保育所の整備の一層の促進等が強く求められる状況となっていることから、多くの保育所の整備が進められている。
そこで、本院は、合規性、経済性等の観点から、保育所緊急整備事業において締結される競争契約における最低制限価格が適切に設定されているかなどに着眼して、21年度から23年度までの間に34都道府県(注1)に所在する494市町村が助成金により補助を行った1,796事業を対象として検査を行った。検査に当たっては、このうち、最低制限価格が設定されていた345市町村の991事業について、最低制限価格に関する調書、契約書等の提出を求めて、内容を確認及び分析するとともに、136市町村の200事業について入札の実施状況を聴取するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、31都道府県(注2)の166市町村が補助を行った282事業に係る302件の請負工事契約(契約金額計462億7188万余円、助成金の額215億0912万余円)について、競争契約における入札の際に、当該市町村が実施する公共工事等において最低制限価格が設定される際の算定方法に準ずることなく、当該市町村の算定方法によった場合よりも高率な最低制限価格が設定されていたり、当該市町村の契約手続では最低制限価格を設定することとはなっていないのに最低制限価格を設定していたりする事態が見受けられた。
しかし、これらの入札は、事業者が市町村の定める業者選定の手続に従って参加資格の審査を行うなどして、契約の内容に適合した履行が十分期待できるとした業者を参加させて行ったものである。したがって、上記のような事態は、合理的な根拠に基づくことなく競争入札から排除される者の範囲を拡大していることとなり、適切とは認められない。
そして、このうち12都府県(注3)の22市区町における22事業に係る23件の請負工事契約(契約金額計29億3161万余円、助成金の額13億4580万余円)の入札において、最低制限価格を下回る金額で入札した業者が実際に失格となり、競争入札から排除された結果、助成金の額が過大となっていた。
これについて事例を示すと次のとおりである。
<事例>A県は、B市が保育所緊急整備事業として行った社会福祉法人Cによる保健所の新築工事への補助に対して、助成金9824万余円を交付していた。
社会福祉法人Cは、上記の工事契約に係る入札に際して、設計コンサルタントから助言を受けるなどして、最低制限価格を1億3493万余円(予定価格の96.38%)と設定し、B市が定めた業者選定の手続に従って入札に付していた。そして、最低制限価格を下回って入札した2業者を失格とし、1億3500万円で入札した業者を落札者として、これに消費税を加えた1億4175万円で契約を締結していた。
しかし、B市の算定方法に準じて最低制限価格を設定していたとすれば1億2600万円となり、最低の価格で入札した業者と契約額1億3713万円で契約できたことから、助成金は9516万余円となり、前記の9824万余円との差額308万円が節減できたと認められた。
このように、保育所緊急整備事業により市町村が補助を行う事業者が、保育所の施設整備の契約に係る入札に当たり、当該市町村が実施する公共工事等における算定方法によった場合よりも高率な最低制限価格を設定するなどしていたため、最低制限価格を下回る業者が実際に失格となり競争入札から排除される結果となっている事態は、競争契約における競争の利益を阻害していることなどから適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
仮に、前記の22事業に係る23件の契約について、当該事業の実施主体である22市区町の算定方法に準じて最低制限価格を設定するなどした場合に落札することとなる業者と契約を締結したとして、その契約金額(計28億0446万余円)に基づいて助成金の額を算出すると12億8774万円となり、前記の助成金の額13億4580万余円との差額5806万余円が節減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、24年8月及び25年7月に、都道府県に対して事務連絡を発して、最低制限価格については、契約の内容に適合した履行を確保するために特に必要があると認めるときに設定できるものであること、また、事業者が最低制限価格の設定を行う際は、市町村が実施する公共工事等において最低制限価格を設定する際の算定方法に準ずべきであることについて市町村及び事業者に対して周知するとともに、市町村における補助事業の審査が適切に行われるよう周知する処置を講じた。