林野庁は、東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所の事故により発生した放射性物質を含む土砂が森林域から流出することを防止するための治山対策について検討することを目的として、平成23年度第3次補正予算により、森林域における放射性物質流出抑制対策調査事業をアジア航測株式会社(以下「アジア航測」という。)に委託して実施している(以下、この事業を「委託事業」という。)。
委託契約書等によると、委託事業の調査内容は、宮城、福島、栃木各県の全域を対象として、衛星写真等により、森林域における山腹の崩壊等に伴い放射性物質を含む土砂が森林域から流出するおそれのある危険箇所を把握することなどとされている。そして、特に放射性物質を含む土砂が流出することによる影響が大きいと考えられる福島第一原子力発電所から半径20.0㎞〜30.0㎞圏内の地域(約750.0)については、航空機を使用して上空からレーザ光を照射し、その反射波を計測すること(以下「レーザ計測」という。)により詳細な地形の解析を行うこととされている。また、飛行制限等の理由により当該地域におけるレーザ計測を実施できない場合には、林野庁とアジア航測において協議の上、レーザ計測の対象地域を別に定めることとされている。
委託契約書によると、林野庁は、委託事業が終了して実績報告書の提出を受けたときは、委託事業が委託契約の内容に適合するものであるかどうかの検査を行うものとされており、適合すると認めたときは、委託契約書に定める委託費の限度額(以下「支払限度額」という。)と委託事業の実施に要した経費の実支出額とを比較して、いずれか低い額を委託費の額として確定して、その支払を行うものとされている。
そして、林野庁は、アジア航測から提出された実績報告書等を検査した上で、当該実支出額171,570,042円が支払限度額168,000,000円を上回ることから委託費の額を168,000,000円と確定して、その支払を行っている。
本院は、合規性等の観点から、委託事業の実施に要したとする経費は適正かなどに着眼して、林野庁及びアジア航測において、アジア航測に支払われた前記の委託費を対象として、実績報告書等の関係書類により会計実地検査を行った。
アジア航測は、委託事業の実施に当たり、林野庁と協議の上、福島第一原子力発電所から半径20.0㎞〜30.0㎞圏内の大部分の地域及び当該30.0㎞圏に隣接する一部の地域をレーザ計測の対象地域と決定し、専用の航空機を使用して実施したとしていた。そして、アジア航測は、実績報告書の提出に当たり、委託事業におけるレーザ計測の実施に要した当該航空機の運航時間は計99.7時間であるとして、これにレーザ計測の実施に要する経費の1時間当たりの単価を乗じて、レーザ計測に係る経費(以下「レーザ計測費」という。)を算定していた。
しかし、アジア航測は、委託事業におけるレーザ計測の実施に当たり、当該対象地域とは異なる地域において、他の受託業務等に係るレーザ計測も併せて実施していた。
そして、アジア航測は、上記の運航時間99.7時間に、委託事業の実施と関係のないこれらのレーザ計測の運航時間計29.8時間を含めていた。このため、実績報告書に記載していたレーザ計測費は、委託事業のレーザ計測の実施に要した運航時間に基づくものとなっていなかった。
したがって、レーザ計測の実施に要した適正な運航時間に基づきレーザ計測費を算定するなどして、改めて委託費の適正な実支出額を算定すると148,947,026円となり、支払限度額168,000,000円を下回ることから148,947,026円が適正な委託費の額となり、前記の支払額168,000,000円との差額19,052,974円が過大に支払われていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、アジア航測において委託費の適正な会計経理に対する認識が欠けていたこと、林野庁において実績報告書等の審査等が十分でなかったことなどによると認められる。