農林水産省は、平成23年度から、「農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律」(平成18年法律第88号)、農業者戸別所得補償制度実施要綱(平成23年22経営第7133号農林水産事務次官依命通知)等に基づき、販売価格が生産費を恒常的に下回っている作物を対象に、その差額を交付することにより、農業経営の安定と国内生産力の確保を図り、もって食料自給率の向上と農業の多面的機能を維持することを目的として、農業者戸別所得補償制度を実施している。
畑作物の所得補償交付金(以下「交付金」という。)は、小麦、二条大麦、大豆等の交付対象作物を生産数量目標に従って販売目的で生産する販売農家(注1)及び集落営農(注2)(以下「販売農家等」という。)に対して交付するものである。
上記の生産数量目標は、農業協同組合等と販売農家等が締結した出荷契約等における数量(以下「出荷契約数量」という。)とすることとされており、地域センター等(注3)が、農業協同組合等から提出された出荷契約数量に係る資料等により確認することとされている。そして、地方農政局長等は、関係書類を審査し、その内容を適当と認めた場合は、交付金を交付することとされている。
また、ビール用麦として出荷される二条大麦は、食用に出荷される二条大麦(以下「普通麦」という。)と比べて販売価格が高く生産コストが賄われていると考えられることから、交付対象作物としないこととされている。そして、24年度からは、ビール用麦として出荷するために二条大麦を生産している販売農家等については、農産物検査等によりビール用麦として出荷できないものを含む一定量の二条大麦を、出荷契約に基づいて普通麦として確実に出荷する場合に限り、当該出荷契約に基づく出荷契約数量を生産数量目標として設定することができることとされている。
交付金の交付を受けた販売農家等は、交付対象作物ごとの生産量が生産数量目標の2分の1に満たない場合には、生産数量目標を大きく下回ったことの理由書を地域センター等に提出することとされている。さらに、24年度からは、提出された理由書を確認した結果、自然災害等の合理的な理由がない場合には、交付金の一部を返還させることとされている。
本院は、合規性等の観点から、交付金の交付額が適正に算定されているかなどに着眼して、7地方農政局等及び19地域センターにおいて、23、24両年度に交付された交付金を対象として、出荷契約書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査の結果、2地方農政局が35販売農家等に交付した交付金において、生産数量目標を誤っていたことなどにより、交付額計31,789,478円のうち計8,304,786円が過大に交付されていて、不当と認められる。
これらの事態を態様別に示すと、次のとおりである(1販売農家等において、ア及びイの事態が重複している。)。
近畿農政局は、23年度に、京都府福知山市等に所在する30販売農家等に対して交付金計20,368,542円を交付していた。そして、同農政局は、各販売農家等の生産数量目標を、農業協同組合等から提出された出荷契約数量に係る資料等ではなく、地域農業再生協議会(注4)が取りまとめた一覧表(以下「一覧表」という。)により確認していた。
しかし、一覧表に記載された30販売農家等の生産数量目標は、出荷契約数量を上回る誤ったものとなっていた。
したがって、適正な生産数量目標に基づいて交付金の交付額を算定すると計16,892,553円となり、前記交付金の交付額計20,368,542円との差額3,475,989円が過大に交付されていた。
近畿農政局は、24年度に、農業協同組合から提出された普通麦の出荷契約数量に係る資料等に基づいて、京都府亀岡市に所在する5販売農家等に対する交付金の額を計5,782,000円と算定して、同額を交付していた。そして、同農政局は、5販売農家等の普通麦の生産量が生産数量目標の2分の1に満たなかったため、提出された理由書を確認したところ、湿害等により生産量が減少したとされていたことから、交付金の返還を求めていなかった。
しかし、5販売農家等の普通麦の生産量が生産数量目標を大きく下回った原因は、自らの都合で二条大麦の大半をビール用麦として出荷したためであり、合理的な理由とは認められないものであった。
したがって、前記交付金の交付額計5,782,000円のうち3,824,650円が過大に交付されていた。
関東農政局は、23年度に、埼玉県久喜市に所在する1販売農家等から、小麦及び普通麦を農業協同組合に出荷するなどとした農業協同組合との間の出荷契約書が添付された交付申請書等の提出を受け、交付金の額を計5,638,936円と算定して、同額を交付していた。
しかし、同販売農家等は、交付申請書等の提出直後に、二条大麦を普通麦からビール用麦に振り替えて全量出荷するとする別の出荷契約を改めて農業協同組合と締結しており、全量をビール用麦として出荷していた。そして、同農政局は、同販売農家等から全量をビール用麦として出荷した旨の報告を受けていたのに、当初の出荷契約を根拠とする生産数量目標に基づいて交付金を交付していた。
したがって、適正な交付金の交付額を算定すると計4,634,789円となり、前記交付金の交付額計5,638,936円との差額1,004,147円が過大に交付されていた。
このような事態が生じていたのは、2地方農政局において交付金の交付申請等に係る審査及び確認が十分でなかったことなどによると認められる。
これを地方農政局等別に示すと次のとおりである。
地方農政局 | 年度 | 過大に交付された交付金の件数 | 交付金の交付額 | 過大に交付された交付金の額 | 摘要 | |
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件 | 千円 | 千円 | ||||
(369) | 関東農政局 | 23 | 1 | 5,638 | 1,004 | ウ |
(370) | 近畿農政局 | 23 | 30 | 20,368 | 3,475 | ア |
(371) | 同 | 24 | 5 | 5,782 | 3,824 | イ |
(369)—(371)の計 | 36 | 31,789 | 8,304 |