(平成25年10月24日付け 農林水産大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴省は、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(平成6年法律第113号。以下「法」という。)が施行された平成7年11月時点において、全国に19の政府倉庫及び政府サイロ(以下「政府倉庫等」という。)を設置し、法の規定等に基づき政府が所有する米穀(以下「政府所有米穀」という。)等を、政府倉庫等で保管したり、民間の倉庫等に委託して保管させたりしていた。その後、保管業務の外注化を促進することを定めた貴省の政府倉庫の整備方針等に基づき、建物の老朽化が著しいなどの政府倉庫等について順次倉庫業務を終了し、用途廃止して、売払いなどを行ってきた。さらに、業務の大幅な効率化を目的として、22年10月以降は政府所有米穀の保管業務を包括的に民間業者に委託して行うこととしたことに伴い、全ての政府倉庫等について同年9月までに倉庫業務を終了し、同年10月までに用途廃止している(以下、倉庫業務を終了し用途廃止した政府倉庫等を「旧政府倉庫等」という。)。そして、貴省は、同年10月末時点において、旧政府倉庫等を14倉庫等管理していた。
「農林水産省所管国有財産取扱規則」(昭和34年農林省訓令第21号)等によると、旧政府倉庫等の管理、処分等は、地方農政局長等が行うこととされている。ただし、23年9月に行われた貴省の組織再編以前は、総合食料局長が、これらの事務を行うこととされており、実際の事務の大部分は、地方農政事務所等(注1)(15年6月以前は食糧庁食糧事務所。以下同じ。)の所長等に分掌させて行わせていた。
「食料安定供給特別会計(食糧管理勘定及び業務勘定)所属不用国有財産の売払等処分手続要領」(平成15年15総合第1746号総合食料局長通知)等(以下「旧要領」という。)によると、貴省において、旧政府倉庫等の売払いなどに向けての契約等事務手続(以下「処分手続」という。)に係る全ての事務を実施することとし、その内容は、おおむね次のとおりとなっていた。
旧政府倉庫等のうち建物等については、原則として存置のままで売払いなどの処分を行うものとするが、建物等存置のままでは土地の売払いが困難な場合等、真にやむを得ない場合は、本省と協議の上、建物等の取壊しを行う。また、敷地の測量、境界確認等が必要な場合には、あらかじめこれを行う。
貴省は、「各省各庁所管特別会計所属普通財産の処分等に係る事務取扱要領について」(平成23年財理第3002号財務省理財局長通知)により、特別会計普通財産の処分手続に係る財務局長等への事務委任を積極的に進めることとされたことなどを踏まえ、23年11月に旧要領を廃止し、「食料安定供給特別会計(食糧管理勘定及び業務勘定)所属普通財産の取扱要領」(平成23年23生産第5140号生産局長通知。以下「新要領」という。)を定め、原則として、処分手続のうち入札、契約等に関する事務を財務局長等に委任することとしている。そして、地方農政局長は、委任に先立って行う必要がある公的要望の確認等の事務を行っている。
旧要領によると、旧政府倉庫等の処分手続は、当該財産が不用となったとき以降、可及的速やかに実施することとし、原則として5年以内に処分を完了することを目標として進行管理を行うこととされていた。また、地方農政事務所長等は、処分手続の実施予定時期等を記載した進行管理表等の書類(以下「進行管理表等」という。)を作成し、重要な情報について貴省本省に随時報告したり、所定の時期に提出したりなどすることとされていた。一方、新要領では、原則として入札、契約等に関する事務を財務局長等に委任することから、一定の期間内に処分手続を完了することを目標として進行管理を行ったり、進行管理表等を作成したりすることとはされていない。
また、政府は、24年8月に定めた「国有資産及び独立行政法人が保有する資産の売却等に係る工程表」により、28年度までに売却収入等が所定の額以上になるように、特別会計に所属する普通財産を含む未利用国有財産の売却等を実施することとしている。
本院は、有効性等の観点から、旧政府倉庫等の処分手続が計画的、効率的に進められているかなどに着眼して、22年10月末時点において貴省が管理していた前記の14倉庫等のうち、売払いなどが完了していない12倉庫等(注2)(土地及び建物の国有財産台帳価格計279億1705万余円(24年度末現在。以下同じ。))を対象として、貴省本省及び7地方農政局(注3)において、処分手続に係る関係書類等を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、11倉庫等(土地及び建物の国有財産台帳価格計277億2157万余円)に ついて、次のような事態が見受けられた。
公的要望の確認、地方公共団体等との売払いなどに向けた協議等に時間を要したり、建物等存置のまま売払いを行うか又は建物等の取壊しを行ってから売払いを行うかなどの売払いの方法について十分に検討していなかったりしたことなどのため、倉庫業務を終了してから長期間処分手続が進捗しておらず、旧要領において処分完了までの目標期間とされていた5年以内に処分が完了していないものが、表1のとおり、4倉庫等(土地及び建物の国有財産台帳価格計14億8252万余円)あった。すなわち、倉庫業務を終了してからの経過期間が、酒田倉庫については21年以上、門司倉庫については19年以上、新潟倉庫については土地の一部において11年以上、横浜サイロについては6年以上であるのに、いずれも処分が完了していなかった。
表1 倉庫業務を終了してから長期間処分手続が進捗しておらず、処分が完了していないもの
旧政府倉庫名(管理している農政局名) | 倉庫業務 終了時期 |
用途廃止時期 | 土地面積・金額、建物延面積・金額(国有財産台帳価格(土地、建物合計(平成25 年3 月31 日現在))) | |
---|---|---|---|---|
酒田倉庫 (東北農政局) |
平成4年3月 | 10 年6月 | 土地:35,881.73㎡、 建物:15,468.06㎡、 |
3億8752万余円 8円 (3億8752万余円) |
新潟倉庫 (北陸農政局) |
13年10月 | 13年11月 | 土地: 1,086.16㎡、 | 4437万余円 (4437万余円) |
門司倉庫 (九州農政局) |
6年3月 | 8年4月 | 土地:33,219.98㎡、 建物:17,013.63㎡、 |
4億7836万余円 27万余円 (4億7864万余円) |
横浜サイロ (関東農政局) |
19年3月 | 21年4月 | 土地:15,059.09㎡、 建物: 4,425.00㎡、 |
5億6019万余円 1178万余円 (5億7198万余円) |
酒田倉庫(大正15年築、土地及び建物の国有財産台帳価格計3億8752万余円)は、建物の老朽化により平成4年3月に倉庫業務が終了となり、10年6月に用途廃止になった。当時同倉庫を管理していた山形食糧事務所(15年7月以降23年8月までは山形農政事務所)は、11年3月に土地と建物とを一括して一般競争入札を実施したものの、応札者がなく売払いを行うことができなかった。
同倉庫の建物は、用途廃止となった時点で、建築から70年以上が経過していて老朽化しており、一般競争入札を実施した場合、応札者がないことは十分に想定されたのであるから、同事務所は、建物の取壊しを行ってから売払いを行うことも同時に検討しておくべきであったのに、これを行っていなかった。また、上記の一般競争入札後も検討しないまま、同事務所は、12年6月から16年2月まで、既に購入等を希望しないとの回答をしている酒田市と情報交換を行い、19年9月に山形県及び再度同市に公的要望の確認を行って、購入等を希望しないとの回答を得ていた。そして、24年5月に東北農政局が建物の解体撤去費の予算要求を行うまで、処分手続が行われていなかった。
このように長期間処分が行われなかったため、芝刈りや老朽化した建物の屋根材撤去工事費等の維持費が22年度から24年度までの間に計429万余円発生していた。
門司倉庫(昭和2年築、土地及び建物の国有財産台帳価格計4億7864万余円)は、平成6年3月に倉庫業務が終了となり、8年4月に用途廃止になった。当時同倉庫を管理していた福岡食糧事務所(15年7月以降23年8月までは福岡農政事務所)は、9年12月に福岡県及び北九州市に対して公的要望の確認を行い、10年3月に同市から一部取得希望との回答を得た。その後、同市との間で具体的な取得に向けた協議を数十回にわたり行った中で、同年9月、12年2月及び21年3月に同倉庫全体の購入等を希望するとの意向が同市から示されるなどしているものの、同市の予算の制約等により、交渉が長期化して処分手続が進捗していない状況となっていた。
このように長期間処分が行われなかったため、同倉庫の敷地の除草費等の維持費が22年度から24年度までの間に計162万余円発生していた。
倉庫業務が終了してから、貴省が旧要領において処分が完了するまでの期間の目標としていた5年を経過してはいないものの、地方公共団体から取得要望がない旨の回答を得た後も、跡地利用に関しての申入れについて協議を繰り返すなどしていて、処分手続が順調に進捗していないものが、表2のとおり、7倉庫(土地及び建物の国有財産台帳価格計262億3904万余円)あった。
表2 倉庫業務を終了して5年は経過していないが、処分手続が順調に進捗していないもの
旧政府倉庫名(管理している農政局名) | 倉庫業務 終了時期 |
用途廃止時期 | 土地面積・金額、建物延面積・金額(国有財産台帳価格(土地、建物合計(平成25年3月31日現在))) | |
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深川倉庫 (関東農政局) |
平成22年9月 | 22年10月 | 土地:36,882.03㎡、 建物:58,956.98㎡、 |
112億8589万余円 47億7689万余円 (160億6279万余円) |
立川倉庫 (関東農政局) |
22年9月 | 22年10月 | 土地:22,420.11㎡、 建物:18,128.45㎡、 |
38億4083万余円 6億6202万余円 (45億0285万余円) |
大江倉庫 (東海農政局) |
22年6月 | 22年10月 | 土地:31,426.95㎡、 建物:16,382.71㎡、 |
5億0911万余円 334万余円 (5億1246万余円) |
茨木倉庫 (近畿農政局) |
22年9月 | 22年10月 | 土地:23,140.49㎡、 建物:20,481.34㎡、 |
15億2727万余円 3億2407万余円 (18億5135万余円) |
松江倉庫 (中国四国農政局) |
22年9月 | 22年10月 | 土地:10,830.60㎡、 建物: 3,975.90㎡、 |
4億5488万余円 4億5848万余円 (9億1336万余円) |
岡山倉庫 (中国四国農政局) |
22年6月 | 22年10月 | 土地:13,016.71㎡、 建物: 4,377.07㎡、 |
5億7794万余円 912万余円 (5億8706万余円) |
福岡倉庫 (九州農政局) |
22年9月 | 22年10月 | 土地:24,974.68㎡、 建物: 8,639.47㎡、 |
14億2855万余円 3億8059万余円 (18億0914万余円) |
深川倉庫(平成8年築、土地及び建物の国有財産台帳価格計160億6279万余円)は、22年9月に倉庫業務が終了となり、同年10月に用途廃止になった。当時同倉庫を管理していた東京農政事務所は、同月に東京都及び江東区に対して公的要望の確認を行い、23年1月にいずれも購入等を希望しないとの回答を得ている。しかし、同区からは、同倉庫の跡地利用について、地域づくりの観点から同区が行うこととした文教施設の誘致に配慮してほしいとの申入れがなされており、協議が繰り返されるなどしていて、処分手続が順調に進捗していない状況となっている。
このように処分が行われていないため、建物等の安全を図るための機械警備に係る経費が24年度に267万余円発生していた。
酒田、門司両倉庫については、倉庫業務の終了後、公的要望の確認、地方公共団体等との売払いなどに向けた協議等に要している期間が計10年を超過していた。
これらの旧政府倉庫等については、地方農政事務所等が、倉庫業務を終了した後に速やかに公的要望の確認を行っていなかったり、旧要領に規定されていたように公的要望の確認を回答期限を定めて行うことをしていなかったりなどしていた。
旧要領によると、地方農政事務所長等は、進行管理表等を作成して、貴省本省に報告することなどとされていた。しかし、旧要領が廃止される以前の作成状況をみると、旧政府倉庫等ごとに作成する進行管理表等のうち多くの書類が作成されておらず、書類が作成されていても、処分に向けて今後必要となる処分手続の具体的な予定については、ほとんど記載されていなかった。
また、新要領では、原則として入札、契約等に関する事務を財務局長等に委任することから、進行管理表等を作成することとはされていない。このため、引き続き地方農政局長が行っている処分に向けての事務について、計画の策定やこれに基づく貴省本省での統一的な進行管理等が適切に行われていない状況となっていた。
前記のとおり、貴省は、22年10月に、全ての旧政府倉庫等を用途廃止して、政府所有米穀の保管業務を包括的に民間業者に委託する方式を導入する大規模な業務体制の変更を行った。そして、その業務体制の変更と同時に地方農政事務所の廃止等の組織再編を行い、旧政府倉庫等の管理、処分等を地方農政局長が行うこととする予定としていたが、組織再編は23年9月に延期された。旧要領によると、地方農政事務所長等は、進行管理表等を作成して、貴省本省に報告することなどとされていた。しかし、旧要領が廃止される以前の作成状況をみると、旧政府倉庫等ごとに作成する進行管理表等のうち多くの書類が作成されておらず、書類が作成されていても、処分に向けて今後必要となる処分手続の具体的な予定については、ほとんど記載されていなかった。
しかし、22年10月から23年8月までの間、旧政府倉庫等を管理していた地方農政事務所等は、処分手続をほとんど行っていなかった。
上記のように、旧政府倉庫等について、各地方農政局において公的要望の確認等に長期間を要していたり、処分に向けての計画の策定や処分手続が適時適切に行われていなかったり、貴省本省において統一的な進行管理等が適切に行われていなかったりなどしていて、倉庫業務を終了してから長期間が経過しているのに処分が完了していなかったり、処分手続が順調に進捗していなかったりしている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、地方公共団体等からの要望があったこと、地方公共団体における予算上の制約、経済情勢の変化等の事情にもよるが、貴省において、地方農政事務所等が旧政府倉庫等の処分に向けての具体的かつ詳細な計画を確実に策定することとして、これに基づき貴省本省が統一的な進行管理等を行うこととしていなかったこと、公的要望の確認及び地方公共団体等との売払いなどに向けた協議等に際して、あらかじめ具体的な期限を設定することとしていなかったことなどによると認められる。
前記のとおり、政府は、28年度までに売却収入等が所定の額以上になるように、未利用国有財産の売却等を実施することとしている。
ついては、貴省において、新要領を改正するなどして、旧政府倉庫等の処分手続の促進を図るため必要な措置を講ずるよう、次のとおり意見を表示する。