農林水産省は、水土里情報利活用促進事業実施要綱(平成18年17農振第2015号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)等に基づき、45道府県(注1)に所在する土地改良事業団体連合会(以下「土連」という。)が事業主体となって平成18年度から22年度までの5年間を事業実施期間として実施した水土里情報利活用促進事業に対して国庫補助金(補助率は定額)を交付しており、その交付額は5年間で202億5905万余円となっている。
本事業は、農地、農業水利施設等に関する地図情報及び農地情報(以下、これらを「水土里情報」という。)を国や地方公共団体、土地改良区等の関係機関共通のデータベースとして整備して、これらの関係機関が相互に利用できるようにすることにより農地の有効利用の促進に資することなどを目的としている。
本事業は、18年度から22年度までの5年間を要して多額の国費が投じられて実施されたものである。そして、上記の事業目的を達成するためには、本事業で整備された水土里情報が事業実施期間終了後においてもできるだけ多くの関係機関により継続して利活用されるようにすることが求められ、農林水産省においても、水土里情報の具体的な利活用方法の普及を行うなどの取組を実施しているところである。また、農地等の形状はほ場整備事業の実施等によって変化することがあるが、こうした変化により利活用に支障が生ずることのないよう、水土里情報が現況を反映して適時適切に更新されていくことが、継続的な利活用のために必要である。
そこで、本院は、有効性等の観点から、水土里情報が関係機関により十分利活用されているか、適時適切に更新されるための体制は構築されているかなどの点に着眼して、41道府県土連(注2)が実施した本事業(事業費計179億3078万余円、国庫補助金計178億3311万余円)を対象として検査を実施した。検査に当たっては、農林水産本省及び上記の41道府県土連において、実績報告書等の関係書類や整備された水土里情報の内容を確認するなどして会計実地検査を行った。
本院において、24年5月末時点における、水土里情報を利活用することが想定される主要な関係機関(注4)の全数に対する、水土里情報を既に利活用している関係機関及び水土里情報を利活用するための利用契約を既に締結するなどしていて24年度末までに利活用を開始する見通しとなっている関係機関の数の割合(以下「利活用率」という。)を求めることにより、土連ごとの水土里情報の利活用状況について検査した。その結果、41道府県土連における平均の利活用率は44.1%となっており、このうち7県土連(注5)(事業費計32億0021万余円、国庫補助金計31億9084万余円)においては利活用率が30%未満となっており、各土連は個別に関係機関に赴いて水土里情報の利便性について説明を行うなどの取組を行っているとしているものの、関係機関による利活用が必ずしも進んでいない状況となっていた。
<事例>福岡県土連は、平成18年度から22年度までの間に本事業を事業費計6億5297万余円、国庫補助金計6億4950万円で実施し、これにより整備した水土里情報を23年6月から提供している。そして、関係機関が利活用を希望するに当たっては、福岡県土連と利用契約を締結することとされている。しかし、水土里情報を利活用することが想定される主要な関係機関数184に対し、水土里情報を実際に利活用している関係機関等の数は25にとどまっており、利活用率は13.6%となっていた。
水土里情報の利活用状況を評価するためには、事業主体である各土連が、地域の実情に応じた目標をあらかじめ設定しておくことが必要である。これにより、各土連は、目標に対する利活用の達成状況を適切に把握することができ、そして、この達成状況に応じて利活用促進のための効果的な取組を行うことで、結果として事業効果の早期発現に寄与することが期待できる。
しかし、各土連においては、水土里情報の利活用に関する目標を明確に設定していなかった。
以上のとおり、関係機関による水土里情報の利活用が必ずしも進んでいなかったり、水土里情報が適時適切に更新されるための体制が構築されていなかったり、利活用に関して目標設定を行っていなかったりしている事態は適切とは認められず、改善を図る必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、25年2月に通知を発して、各土連に対して、利活用に関する目標を設定した上で当該目標の達成に向けた具体的な取組を行うことにより関係機関による利活用を促進させるよう指導するとともに、関係機関に対して、水土里情報の更新に必要なデータを土連に提供するよう協力を要請する処置を講じた。