農林水産省は、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(平成6年法律第113号)第2条の規定等に基づき、米穀の生産量の減少によりその供給が不足する事態に備えるために、100万t程度の国内産米穀を所有しており、毎年20万t程度の国内産米穀の買入れを行って、原則として、5年間程度備蓄した後、飼料用等の非主食用として販売することとしている(以下、これらの国内産米穀を「政府所有米穀」という。)。
同省は、政府所有米穀の販売、保管、運送等の業務(以下「販売等業務」という。)について、平成22年10月以降、包括的に民間会社等に委託することにより実施している。そして、同省は、23、24両年度に、それぞれ3民間会社等と政府所有米穀の販売等業務に係る委託契約(以下「委託契約」という。)を締結し、民間会社等は、政府所有米穀の保管業務を倉庫業者に再委託するなどして、販売等業務を実施している。
委託契約によると、政府所有米穀の保管業務の開始時期は、米穀が同省に引き渡された日(以下「引渡日」という。)とされている。そして、同省は、1か月を1日から10日まで、11日から20日まで、21日から月末までの3期に区分して期ごとに保管経費を計算することになっている倉庫業者の商慣行を踏まえ、各期における政府所有米穀の期末在庫数量に、1期分の保管単価(100㎏当たり22.48円から28.77円まで)を乗ずるなどして保管経費を算定し、毎月民間会社等に支払っている。
同省は、「米穀の買入れ・販売等に関する基本要領」(平成21年21総食第113号総合食料局長通知)等に基づき、政府所有米穀の買入れに係る契約(以下「買入契約」という。)における、売渡人から同省の委託を受けた民間会社等への米穀の引渡しについて、以下の手順で行うこととしている。
本院は、効率性等の観点から、委託契約に基づく政府所有米穀の保管について、備蓄の目的が達成されるように、保管経費の支払額に見合った保管日数が確保されているかなどに着眼して、農林水産本省、4民間会社等において、23、24両年度に同省が買入れを行った政府所有米穀の保管経費の支払額23年度6億3066万余円、24年度21億0305万余円、計27億3372万余円を対象として、支払証拠書類等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
すなわち、同省は、全国農業協同組合連合会等の売渡人と買入契約を締結し、売渡人に対して引渡予定日の5日前までに引渡申込書等を提出させ、売渡人が引渡しを希望する引渡予定日に間に合うように買入検収の日を決定するなどして、引渡しを受けていた。
そして、各期の何日目に引渡しが行われたかについて、引渡日ごとの引渡数量等を集計すると、表のとおり、23年度に買い入れた207,450t全量の引渡日が、各期の初日以外となっていた。特に、9日目(41,798t)、10日目(102,817t)及び11日目(注)(42,778t)が引渡日となっているものが、全量のうち187,394t(90.3%)となっていた。また、24年度に買い入れた85,383tのうち、77,223t(90.4%)の引渡日が、各期の初日以外となっていた。そして、6日目(2,345t)、7日目(549t)、8日目(15,734t)、9日目(300t)、10日目(6,548t)及び11日目(注)(10,047t)が引渡日となっているものが、全量のうち35,525t(41.6%)となっていた。
一方、保管経費は、期末在庫数量に1期分の保管単価を乗じて算定するため、上記のように各期の初日以外が引渡日になっている場合には、売渡人が所有し保管している日を含めて同省が保管経費を支払っていることになり、保管経費の支払額に見合った保管日数が確保されていなかった。
表 政府所有米穀の買入れに係る引渡日ごとの引渡数量
引渡日 | 初日 | 2日目 | 3日目 | 4日目 | 5日目 | 6日目 | 7日目 | 8日目 | 9日目 | 10日目 | 11日目 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
数量 | — | — | — | 7,086 | 12,969 | — | — | — | 41,798 | 102,817 | 42,778 | 207,450 |
割合 | — | — | — | 3.4 | 6.3 | — | — | — | 20.1 | 49.6 | 20.6 | 100 |
引渡日 | 初日 | 2日目 | 3日目 | 4日目 | 5日目 | 6日目 | 7日目 | 8日目 | 9日目 | 10日目 | 11日目 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
数量 | 8,159 | — | — | 12,897 | 28,800 | 2,345 | 549 | 15,734 | 300 | 6,548 | 10,047 | 85,383 |
割合 | 9.6 | — | — | 15.1 | 33.7 | 2.7 | 0.6 | 18.4 | 0.4 | 7.7 | 11.8 | 100 |
農林水産省は、平成24年3月9日に売渡人である新潟市農業協同組合(以下「農協」という。)等から米穀14,105.3tの引渡しを受け、期末在庫数量である14,105.3tに23年度委託契約の保管単価100㎏当たり25円を乗ずるなどして、24年3月の1期分の保管経費を3,702,636円と算定していた。しかし、この保管経費には、同省に所有権が移転しておらず、農協等が所有し保管している3月1日から8日までの8日間の保管経費が含まれており、保管経費に見合った保管日数が確保されていなかった。そして、同省に所有権が移転した後の2日間に見合った保管経費を算出すると740,520円となる。
このように、政府所有米穀の保管経費について、米穀の引渡日が各期の初日でない場合に、支払額に見合った保管日数が確保されておらず、その日数において、備蓄を目的とする米穀の所有権を同省が有していない事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
同省に米穀の所有権が移転しておらず、支払額に見合った保管日数が確保されていなかった保管経費を算出すると、23年度4542万余円、24年度1165万余円、計5708万余円となっていた。
このような事態が生じていたのは、同省において、保管経費の支払額に見合った保管日数が確保されるように米穀の引渡日を設定することについての検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、26年産米穀の買入れの入札から、引渡日を各期の初日に設定することなどとし、25年8月に各地方農政局等に通知を発してその旨を周知する処置を講じた。