(平成25年10月18日付け 経済産業大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、地域中小企業の海外販路の拡大を図るとともに、地域経済の活性化及び地域中小企業の振興に寄与することなどを目的として、中小企業海外展開支援事業費補助金交付要綱(平成22・05・14財中第2号)等に基づき、JAPANブランド育成支援事業等の各種補助事業を実施する補助事業者に対して補助金を交付している。また、貴省は、今後の我が国の主要な成長分野として位置付けられている映像、音楽、ファッション等のコンテンツ産業について、国際見本市への出展等を行い、海外市場を獲得していくことなどを目的として、コンテンツ産業強化事業等の各種委託事業を受託事業者との間で委託契約を締結して実施している。そして、貴省本省及び各地方経済産業局は、これらの事業について、補助金を交付し又は委託費を支払っている。
上記の各種補助事業及び各種委託事業の中には、海外販路の拡大や海外市場を獲得するため、補助事業者又は受託事業者である本邦企業等(以下「補助事業者等」という。)が、海外での展示会、見本市、博覧会又は商談会(以下、これらを合わせて「展示会等」という。)に出展したり、参加したりする事業(以下「展示会事業」という。)があり、展示会等に係る会場の賃借料、展示ブースの内装工事費等の経費が展示会事業の対象経費として認められている。そして、平成21年度から24年度までの間の展示会事業の実績は、補助事業計509件、事業費計156億2387万余円(国庫補助金交付額計135億6840万余円)、委託事業計65件、事業費計50億6148万余円(委託費計49億2031万余円)、合計574件、事業費合計206億8536万余円(国庫補助金交付額等合計184億8872万余円)となっている。
そして、補助事業者等は、展示会等に係る会場の賃借、展示ブースの内装工事等を直接行うことが困難であるなどの理由から、ほとんどの場合において海外の展示会事業者に委託するなどしている。
展示会等に係る会場の賃借、展示ブースの内装工事等海外で行われる役務や物品等の調達には一般に現地国の付加価値税が課税されているが、一方で、付加価値税の還付等を受けられる場合がある。例えば、23年の欧州各国における付加価値税率は20%程度となっており、欧州連合(EU)域外の課税事業者のための還付制度等を定めたEU13号指令等に基づき、補助事業者等が現地国において課税売上がないことなどの条件を満たしたときは、付加価値税の還付等を受けられる場合がある。また、還付等の手続は国ごとに個別の法律等により定められており、還付対象項目等はそれぞれ異なっているが、展示会事業に係る経費については、欧州のほとんどの国で還付対象項目となっている。
そして、付加価値税の還付等の方式には、補助事業者等が、申請書、付加価値税額が記載された請求書の原本等を現地国の税務当局へ直接提出したり還付代行業者を通じて提出したりすることなどにより、補助事業者等が一旦負担した付加価値税の還付を受ける還付方式と、特定の業務等について付加価値税額が事前に契約額から控除される事前免税方式とがある。また、上記の還付方式において、還付代行業者に委託した場合には手数料等の経費が生ずることになる。
貴省は、近年、本邦の中小企業等による積極的な海外販路の拡大や海外市場の獲得のため、展示会事業を推進しており、展示会事業の事業費及びこれに係る付加価値税額は多額に上っている。そこで、本院は、経済性等の観点から、展示会事業の実施に当たり、本邦企業等に対する付加価値税の還付制度等がある国において、補助事業者等は還付制度等を利用して付加価値税の還付等を受けているか、また、補助事業者等が還付を受けた付加価値税から手数料等の経費を差し引くなどした額(以下「還付額」という。)に係る国費相当額は国庫に納付されているかなどに着眼して検査を実施した。
検査に当たっては、21年度から24年度までの間に9か国(注)で実施された展示会事業に要する経費を含む補助事業計124件、事業費計121億2379万余円(国庫補助金交付額計110億8749万余円)及び委託事業計13件、事業費計12億3374万余円(委託費計11億9421万余円)、合計137件、事業費合計133億5753万余円(国庫補助金交付額等合計122億8171万余円)を対象として、調書を徴したり、貴省本省、各地方経済産業局等において実績報告書、委託契約書等を確認したりするなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、展示会事業に係る契約(以下、この契約を「契約」、この契約の件数を「契約件数」、この契約に係る支払額を「契約支払額」という。)のうち、契約支払額に付加価値税が課税又は免税されていることが判明した契約における当該付加価値税の取扱いは、表1のとおり、事前免税を受けているものが事業数53件、契約件数124件、契約支払額2億3215万余円、付加価値税の還付を受けているものが事業数23件、契約件数97件、契約支払額2億7144万余円、付加価値税額4117万余円、付加価値税の還付等を受けていないものが事業数94件、契約件数194件、契約支払額1億3618万余円、付加価値税額1917万余円となっていた。
表1 契約支払額に係る付加価値税の取扱い(平成21〜24年度)
分類 | 事業数 (件) |
契約件数 (件) |
契約支払額 (千円) |
|||
---|---|---|---|---|---|---|
左に係る付加価値税額 (千円) |
左に係る国費相当額 (千円) |
|||||
事前免税を受けているもの | 補助 | 48 | 105 | 218,182 | — | — |
委託 | 5 | 19 | 13,968 | — | — | |
計 | 53 | 124 | 232,151 | — | — | |
付加価値税の還付を受けているもの | 補助 | 16 | 77 | 210,117 | 31,352 | 20,669 |
委託 | 7 | 20 | 61,323 | 9,824 | 9,824 | |
計 | 23 | 97 | 271,441 | 41,177 | 30,493 | |
付加価値税の還付等を受けていないもの | 補助 | 86 | 172 | 102,536 | 13,298 | 9,776 |
委託 | 8 | 22 | 33,651 | 5,879 | 5,879 | |
計 | 94 | 194 | 136,187 | 19,178 | 15,656 | |
合計 | 補助 | 124 | 354 | 530,836 | 44,651 | 30,446 |
委託 | 13 | 61 | 108,943 | 15,704 | 15,704 | |
計 | 137 | 415 | 639,780 | 60,355 | 46,150 |
このように展示会事業では、事前免税や付加価値税の還付を受けている契約が多数見受けられたが、一方で、還付等を受けられる可能性が高いのに還付等を受けていない契約も相当数見受けられた。
そこで、展示会事業において、補助事業者等は還付額をどのように取り扱っているのか、また、補助事業者等が付加価値税の還付等を受けていない場合、その理由はどのようなものかなどについてみたところ、次のような状況となっていた。
(1) 還付額に係る国費相当額が国庫に納付されていないもの (事業数17件、契約件数72件、契約支払額2億0921万余円、付加価値税額3170万余円)
補助事業者等が付加価値税の還付を受けているものの国庫納付の状況については、表2のとおり、還付額に係る国費相当額が国庫に納付されるなどしているものが、事業数11件、契約件数25件見受けられたが、一方で、国庫に納付されていないものが、事業数17件、契約件数72件と多数見受けられた。
表2 付加価値税の還付を受けているものの国庫納付の状況(平成21〜24年度)
態様 | 事業数 (件) |
契約件数 (件) |
契約支払額 (千円) |
|||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
左に係る付加価値税額 (千円) |
左に係る国費相当額 (千円) |
還付額 (千円) |
左に係る国費相当額 (千円) |
|||||
還付額に係る国費相当額が国庫に納付されるなどしているもの | 補助 | 9 | 23 | 54,875 | 8,305 | 6,809 | 7,683 | 6,304 |
委託 | 2 | 2 | 7,349 | 1,163 | 1,163 | 867 | 867 | |
計 | 11 | 25 | 62,224 | 9,468 | 7,972 | 8,550 | 7,172 | |
還付額に係る国費相当額が国庫に納付されていないもの | 補助 | 11 | 54 | 155,242 | 23,046 | 13,859 | 21,339 | 12,601 |
委託 | 6 | 18 | 53,974 | 8,661 | 8,661 | 7,889 | 7,889 | |
計 | 17 | 72 | 209,216 | 31,708 | 22,521 | 29,229 | 20,491 |
そして、上記の17事業に係る還付額は2922万余円(補助事業2133万余円、委託事業788万余円)、国費相当額は2049万余円(国庫補助金相当額1260万余円、委託費相当額788万余円)となっていた。
これらは、貴省が補助事業の交付要綱等や委託事業の契約書等において、還付額の取扱いを定めていないことなどから、還付額に係る国費相当額が国庫に納付されていなかったものである。
<事例>A社は、平成22年度に経済産業本省から委託を受けて欧州で展示会事業を実施するなどしていた。この委託費の内訳をみたところ、A社が現地で支払った会場借料、会場の施工費等には、付加価値税額29,543.20ユーロ(邦貨換算額325万余円)が含まれていた。A社は、委託事業終了後還付代行業者を通じて還付手続を行い、計27,407.56ユーロ(同289万余円)の還付を受けていたが、委託契約書等において還付額についての取扱いが定められていないことなどから、還付額は国庫に納付されていない。
(2) 付加価値税の還付等を受けていないもの (事業数94件、契約件数194件、契約支払額1億3618万余円、付加価値税額1917万余円)
補助事業者等が付加価値税の還付等を受けていないものについて、その理由は、表3のとおり、還付制度等について知らなかったとしているものが事業数63件(67%)と最も多く、次いで還付手続が煩雑であるとしているものが事業数26件(28%)などとなっている。このように、補助事業者等が還付制度等について知らなかったとしているものが全94事業の約7割を占めており、付加価値税の還付等を受けていない大きな要因となっている。
表3 付加価値税の還付等を受けていない理由
理由 | (注1)事業数 (件) |
(注2)左の割合 (%) |
契約件数 (件) |
契約支払額 (千円) |
||
---|---|---|---|---|---|---|
左に係る付加価値税額 (千円) |
左に係る国費相当額 (千円) |
|||||
還付制度等について知らなかったとしているもの | 63 | 67 | 119 | 73,676 | 10,725 | 8,404 |
還付手続が煩雑であるとしているもの | 26 | 28 | 58 | 45,413 | 5,705 | 4,708 |
還付手続が事業年度内に処理できないとしているもの | 2 | 2 | 4 | 7,091 | 1,158 | 1,158 |
現在還付申請を行っているとしているもの | 2 | 2 | 4 | 1,902 | 272 | 180 |
還付等を受けられないとしているもの | 6 | 6 | 9 | 8,103 | 1,316 | 1,204 |
計 | 94 | — | 194 | 136,187 | 19,178 | 15,656 |
そして、上記の94事業に係る付加価値税額は1917万余円(補助事業1329万余円、委託事業587万余円)、国費相当額は1565万余円(国庫補助金相当額977万余円、委託費相当額587万余円)となっていた。
これらは、貴省が補助事業の交付要綱等や委託事業の契約書等において、還付額の取扱いを定めておらず、補助事業者等に対して還付制度等に関する周知を行っていないことなどから、還付手続を行っていないものなどである。
上記のとおり、展示会事業の実施に当たり、付加価値税の還付を受けているのに還付額に係る国費相当額を国庫へ納付していなかったり、付加価値税の還付等を受けられる可能性が高いのに還付手続を行っていなかったりなどしている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省において、
などによると認められる。
貴省は、少子高齢化等に伴い我が国の国内市場が年々縮小することが予想される中で、引き続きJAPANブランド育成支援事業等の活用により、我が国の中小企業等による海外販路の拡大や海外市場の獲得を積極的に推進することにしている。
ついては、貴省において、補助事業者等に対して、展示会事業に係る付加価値税の還付額に係る国費相当額を国庫に納付させたり、付加価値税の還付等を適切に受けさせたりするなどして、もって展示会事業が経済的なものとなるよう、次のとおり改善の処置を要求する。