海上保安庁は、同庁に所属する船舶の定期的な整備や船舶に故障が発生した場合の修理(以下、これらを合わせて「船舶修理」という。)を業者と請負契約を締結するなどして実施し、また、船舶修理を行うなどのために船舶に必要となる物品の購入等(以下「物品購入」という。)を行っている。そして、これらに係る経費は、一般会計の航空機及船舶運航費等の予算科目から支払われている。
国の会計経理については、財政法(昭和22年法律第34号)、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)等の会計法令等により、国の会計年度は毎年4月1日から翌年3月31日までとされており、原則として、各会計年度における経費は当該年度の歳入をもって支弁しなければならないとされている。また、歳出の会計年度の所属は、物件の購入代価等で相手方の行為の完了があった後に交付するものは、その支払をなすべき日の属する会計年度に所属することとされている。そして、その支払は、原則として、当該相手方に対して直接行わなければならないことから、第三者を経由させないことになっている。さらに、国の会計機関が契約を締結した場合には、給付の完了を確認するため必要な検査(以下「検収」という。)を行わなければならず、検収が完了した場合には、原則として、所定の検査調書を作成し、当該検査調書に基づかなければ支払をすることができないとされている。
海上保安庁は、国土交通省所管会計事務取扱規則(平成13年国土交通省訓令第60号)等により、支出負担行為担当官等の会計機関を設置するなどして航空機及船舶運航費等の支払等に係る会計事務を行っており、海上保安庁請負契約等監督検査規則(昭和42年海上保安庁訓令第30号)等により、同庁所属の船舶の船員等が支出負担行為担当官の補助者である監督職員又は検査職員として契約の履行について必要な監督又は検査を行っている。
検査したところ、11海上保安本部等において、19年度から24年度までの契約について、虚偽の内容の関係書類を作成するなど不適正な会計経理を行って航空機及船舶運航費等を支払っていたものが、計1,040件、1,400,966,257円あった。
これらを態様別に示すと、次のとおりである(表参照)。
2海上保安本部 23件 支払額 550,776,000円
契約手続を行わないまま前年度又は現年度に業者に実施させた船舶修理に係る未払金に充当するため、別業者と締結した船舶修理の契約に実際には行われていない作業項目を含めることなどにより、その別業者を経由させて支払っていたもの
第十管区海上保安本部は、平成24年9月4日にA社と巡視船さつまの船舶安全法(昭和8年法律第11号)に基づく中間検査のための修理に係る契約を契約金額34,650,000円で締結し、実施した。そして、10月9日に修理が完了したとして、検査職員が検査調書を作成し、同本部は、12月10日にA社に上記の額を支払っていた。しかし、上記修理の仕様書には、A社が実際には修理を行うことにならない架空の作業項目が含まれており、その作業項目は、契約手続を行わないままB社に4月12日から7月27日までの間に実施させたものであった。そして、同本部の担当者は、契約締結時に、この作業に係る未払金の支払をA社に依頼し、A社は修理の一部をB社に外注したこととして、同本部の未払金相当額1,560,000円をB社に支払っていた。
3海上保安本部 6件 支払額 4,731,300円
契約手続を行わないまま前年度又は現年度に業者に実施させた船舶修理に係る未払金に充当するため、当該業者と締結した船舶修理の契約に実際には行われていない作業項目を含めることなどにより支払っていたもの
3海上保安本部等 10件 支払額 5,818,106円
船舶修理や物品の納入が翌年度に完了しているのに、関係書類に実際の履行の完了日より前の現年度の日付を検収日として記載することなどにより、船舶修理や物品の納入が現年度に行われたこととして支払っていたもの
2海上保安本部 15件 支払額 16,640,988円
船舶修理や物品の納入は年度内に完了していたが、関係書類に実際の履行の完了日より前の日付を検収日として記載することなどにより、実際に船舶修理や物品の納入が行われるよりも先に支払っていたもの
9海上保安本部等 66件 支払額 105,767,657円
契約手続を行わないまま前年度に船舶修理や物品の納入が行われていたのに、関係書類に実際の履行の完了日より後の現年度の日付を検収日として記載することなどにより、船舶修理や物品の納入が現年度の契約締結後に行われたこととして支払っていたもの
11海上保安本部等 920件 支払額 717,232,206円
年度内において、契約手続を行わないまま船舶修理や物品の納入が行われていたのに、関係書類に実際の履行の完了日より後の日付を検収日として記載することなどにより、船舶修理や物品の納入が契約締結後に行われたこととして支払っていたもの
表 不適正な会計経理の11海上保安本部等別、指摘の態様別の内訳
11海上保安本部等名 | 年度 | 指摘の態様 | 計 | |||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ア 第三者を経由させた支払 | イ 付替え | ウ 翌年度履行・納入 | エ 先払い | オ 前年度履行・納入 | カ 契約前履行・納入 | |||||||||||
件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | |||
(378) | 海上保安庁本庁 | 平成21〜24 | — | — | — | — | 1 | 670,168 | — | — | 5 | 3,405,874 | 16 | 11,060,024 | 22 | 15,136,066 |
(379) | 第一管区海上保安本部 | 19〜24 | — | — | — | — | — | — | — | — | 13 | 4,625,877 | 129 | 49,768,229 | 142 | 54,394,106 |
(380) | 第二管区海上保安本部 | 19〜24 | 3 | 1,953,000 | — | — | — | — | — | — | — | — | 27 | 13,954,468 | 30 | 15,907,468 |
(381) | 第三管区海上保安本部 | 19〜24 | — | — | 2 | 2,934,750 | — | — | — | — | — | — | 71 | 25,696,935 | 73 | 28,631,685 |
(382) | 第四管区海上保安本部 | 19〜24 | — | — | — | — | 8 | 4,768,027 | — | — | 3 | 1,109,955 | 48 | 39,028,426 | 59 | 44,906,408 |
(383) | 第五管区海上保安本部 | 19〜24 | — | — | — | — | — | — | — | — | 13 | 5,433,296 | 176 | 45,045,799 | 189 | 50,479,095 |
(384) | 第六管区海上保安本部 | 19〜24 | — | — | 3 | 431,550 | — | — | — | — | 1 | 535,500 | 79 | 32,804,418 | 83 | 33,771,468 |
(385) | 第七管区海上保安本部 | 19〜24 | — | — | — | — | — | — | 1 | 193,200 | 4 | 563,755 | 70 | 31,686,136 | 75 | 32,443,091 |
(386) | 第八管区海上保安本部 | 19〜24 | — | — | — | — | — | — | — | — | 8 | 904,650 | 87 | 21,522,705 | 95 | 22,427,355 |
(387) | 第九管区海上保安本部 | 19〜24 | — | — | — | — | — | — | — | — | 1 | 1,380,750 | 95 | 48,325,271 | 96 | 49,706,021 |
(388) | 第十管区海上保安本部 | 19〜24 | 20 | 548,823,000 | 1 | 1,365,000 | 1 | 379,911 | 14 | 16,447,788 | 18 | 87,808,000 | 122 | 398,339,795 | 176 | 1,053,163,494 |
計 | 23 | 550,776,000 | 6 | 4,731,300 | 10 | 5,818,106 | 15 | 16,640,988 | 66 | 105,767,657 | 920 | 717,232,206 | 1,040 | 1,400,966,257 |
これらのアからカまでの事態は、11海上保安本部等において、虚偽の内容の関係書類を作成するなど不適正な会計経理を行って航空機及船舶運航費等計1,400,966,257円を支払っていたものであり、会計法令等に違反しており、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、11海上保安本部等において、職員の会計法令等に関する知識及び理解が十分でなかったこと、会計法令等を遵守することの認識が著しく欠けていたこと、海上保安庁本庁において、11海上保安本部等に対する会計事務手続の適正な執行についての指導監督等が十分でなかったことなどによると認められる。