(平成25年10月24日付け 国土交通大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴省は、道路交通の安全確保とその円滑化を図るため、道路整備事業を実施しており、その一環として、毎年度トンネル工事等を多数実施し、これらのトンネルの利用者の安全性と快適性及び円滑な交通を確保するため、トンネルの覆工、坑門等のトンネル本体工及び換気設備、非常用施設等のトンネル附属物の点検を国道事務所等において実施している。
国道事務所等は、国が管理する国道のトンネル本体工については、「道路トンネル定期点検要領(案)」(平成14年4月 国土交通省道路局。以下「点検要領」という。)により、定期点検を実施することとしている。点検要領によると、初回定期点検は、トンネル建設後2年以内に、コンクリートのひび割れなどの変状を正確に把握するために近接目視点検及び打音検査を行うこととされている。2回目以降の定期点検は、前回の定期点検の結果等に応じ、2年又は5年に1回程度の頻度で、前回の定期点検で詳細に把握されている変状を遠望目視点検を行うことにより照合して、前回の定期点検の結果に基づき補修・補強対策が講じられた箇所等に対しては、近接目視による変状の把握と打音検査によるうき・剥離の有無及び範囲の確認を行うこととされている。そして、定期点検は、その結果に基づき、応急対策の必要性や補修・補強対策の要否を検討する標準調査の必要性を判定して点検記録を作成し、適切な補修・補強対策に活用することにより、安全で効果的なトンネルの維持管理を行うことを目的としている。
また、国道事務所等は、「トンネル換気設備・非常用施設 点検・整備標準要領(案)」(平成16年3月 国土交通省総合政策局。以下「標準要領」という。)により、トンネル内に設置された換気設備等については、設備の劣化及び老朽化等による損傷箇所の発見を目的として一定の間隔を定めて定期点検を実施している。標準要領によると、定期点検は、設備の機能維持等を目的とした年点検と常に運転可能な状態を維持することを目的とした月点検に区分され、年点検は年1回、月点検は原則として月1回実施することとされている。
国が管理する国道のトンネルの維持管理費用は毎年度多額に上っていることなどから、本院は、合規性、有効性等の観点から、トンネル本体工、換気設備の定期点検は適時適切に実施され、定期点検の結果が維持管理に反映されているかなどに着眼して検査した。
検査したところ、トンネル本体工及び換気設備の定期点検が適切でない事態が次のとおり見受けられた。
3国道事務所等(注4)は、23年度に12トンネル、24年度に17トンネルについて、トンネル本体工の定期点検を実施している。このうち、11トンネル(トンネル本体工の定期点検を含む施設点検業務の契約金額計1億5288万円)については、表のとおり、前回の定期点検の実施時期が、点検要領が制定された14年度となっていて、前回の定期点検から今回の定期点検までの間隔が、点検要領で定める2年又は5年より長い9年又は10年となっていた。
表 トンネル本体工の定期点検の頻度
地方整備局等名 | 国道事務所等名 | トンネル | ||||||||||||
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名称 | 完成年次 | 14年度以降の定期点検及び対策工事の実施状況 | ||||||||||||
14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | ||||
関東 | 長野 | 信越隧道 | S36 | 点 | 対 | 点 | ||||||||
池沢隧道 | S50 | 点 | 対 | 点 | ||||||||||
笹平トンネル | H9 | 点 | 対 | 点 | ||||||||||
犬戻トンネル | H6 | 点 | 対 | 点 | ||||||||||
小松原トンネル | H8 | 点 | 対 | 点 | ||||||||||
中部 | 岐阜 | 吉野トンネル | S62 | 点 | 対 | 点 | ||||||||
近畿 | 姫路 | 夢前トンネル(上り) | S50 | 点 | 対 | 点 | ||||||||
夢前トンネル(下り) | S60 | 点 | 対 | 点 | ||||||||||
山田トンネル(上り) | S48 | 点 | 点 | |||||||||||
城山トンネル(上り) | S60 | 点 | 対 | 点 | ||||||||||
城山トンネル(下り) | S60 | 点 | 対 | 点 |
そして、3国道事務所等では、この間に定期点検を実施していない理由を、14年度の定期点検時に発見した補修等が必要な箇所について対策工事を実施したことから、その対策工事が定期点検に代わるものであり、次回の定期点検を、対策工事の完了から5年経過後に実施すれば問題はないと認識していたためなどとしていた。
しかし、対策工事が実施された箇所は補修等が必要な箇所のみであって、トンネル本体工の全体を点検していないこととなり、定期点検に代わるものではないことから、点検要領で定める頻度で定期点検を実施する要があると認められた。
2国道事務所等(注5)は、23年度に3トンネル、24年度に7トンネルについて、トンネル本体工の定期点検を実施(トンネル本体工の定期点検を含む施設点検業務の契約金額計8876万余円)しているが、供用前の3トンネル(注6)(16年及び19年にトンネル本体工が完成)については、初回定期点検を実施していなかった。そして、2国道事務所等では、初回定期点検を実施していない理由を、トンネルの供用開始までに初回定期点検を実施すれば問題はないなどと認識していたためとしていた。
しかし、点検要領では、初期の段階で発生した覆工コンクリートのひび割れ等の変状を正確に把握し、記録しておくことが以後の維持管理に有効な資料となるため、初回定期点検はトンネル建設後2年以内に実施することとされていることから、点検要領に基づいて初回定期点検を実施する要があると認められた。
帯広開発建設部は、23年度に7トンネルについて、トンネル本体工の定期点検を実施しており、その結果、7トンネルのうち4トンネルについては、補修・補強対策が必要であるとし、次回の定期点検を2年後の25年度に実施することとしていた。そして、この4トンネルのうち3トンネル(注7)(トンネル本体工の定期点検を含む施設点検業務の契約金額計5億0772万余円)については、23年度の定期点検の結果に基づく対策工事を次回(25年度)の定期点検後の26年度以降に実施することとしても問題はないと認識していた。
しかし、点検要領では、定期点検は、前回の定期点検の結果に基づく補修・補強対策が講じられた箇所に対して確認を行うこととされていることから、前回(23年度)の定期点検の結果に基づく対策工事を実施した上で次回(25年度)の定期点検を実施する要があると認められた。
秋田河川国道事務所は、ジェットファンが設置されている3トンネル(注8)(ジェットファン9基)について、22年度までは標準要領に基づき定期点検を実施していたが、23、24両年度については、故障が発生していないことから、道路施設の状況等を把握する目的で行っている徒歩による巡回を年1回実施(定期巡回を含む維持工事の契約金額計3億8850万円)することにより、標準要領に基づく定期点検に代わるものであると認識していた。
しかし、徒歩による巡回では、ジェットファンの取付状況を遠望目視するのみで、標準要領で求められている施設の劣化及び老朽化等による損傷箇所の発見を目的とする目視、打診及び計測等による定期点検に代わるものではないことから、標準要領に基づいて定期点検を実施する要があると認められた。
広島国道事務所は、23年度に6トンネル、24年度に8トンネルの換気設備について定期点検を実施している。そして、これらの定期点検を行ったトンネルのうち、3トンネル(注9)(ジェットファン11基、換気設備の定期点検を含む機械設備点検業務の契約金額計4725万円)については、21、22両年度の定期点検において、トンネル内のばい煙量等が一定以上になるとジェットファンが自動的に運転を開始するために必要な制御盤が故障していて、自動運転ができない状態となっていることを把握していたにもかかわらず、制御盤の修理を行っていなかった。
しかし、上記3トンネルについては、トンネル内の換気が必要であるとして自動運転可能なジェットファンを設置していることから、定期点検の結果を踏まえ制御盤の修理を行い、定期点検の結果を維持管理に反映させる要があると認められた。
トンネル本体工及び換気設備の定期点検を点検要領等に基づき適切に実施していなかったり、定期点検の結果を維持管理に反映させていなかったりしている事態は適切とは認められず、是正改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
貴省においては、道路構造の保全と交通の危険防止を図るため、今後もトンネル本体工及び換気設備の定期点検を適切に実施することが求められている。
ついては、貴省において、トンネル本体工及び換気設備の定期点検が確実に実施されるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。