(平成25年10月31日付け 国土交通大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴省は、空港法(昭和31年法律第80号)の規定に基づき、国際航空輸送網又は国内航空輸送網の拠点となる空港として20空港を設置し管理している。また、防衛省等が設置し管理している飛行場で、国民が利用するなど公共の用に供するものとされた飛行場が8飛行場ある(以下、20空港と8飛行場を合わせた28空港等(注1)を「国管理空港」という。)。
そして、貴省は、国管理空港の運営のため、滑走路、誘導路、エプロン等の空港基本施設及び建物等に要する土地(以下、これらの施設等を用いて行う事業を「航空系事業」という。)を国有財産として管理している。
一方、旅客ターミナル施設等については、民間会社、第3セクター等(以下「空港関連企業」という。)が貴省から国有財産法(昭和23年法律第73号)に基づく土地の使用許可を受け、自己の資金で建物等を設置して、飲食や物販等の事業等(以下「非航空系事業」という。)を行っている。貴省は、この使用許可に当たって、空港関連企業から国有財産使用料を徴している。
貴省は、空港法第3条等の規定に基づき、平成20年12月に「空港の設置及び管理に関する基本方針」(以下「基本方針」という。)を定めており、基本方針においては、次のことなどを推進するとしている。
貴省は、22年5月に策定した「国土交通省成長戦略(航空分野)」(国土交通省成長戦略会議。以下「成長戦略」という。)において、航空系事業と非航空系事業を一体的に運営する権利を民間の運営主体へ付与することなどにより空港経営改革を行うこととしており、また、空港経営改革が実現するまでの間においても、現行の仕組みの中で空港関連企業の経営状況の透明化、国有財産使用料の適正化に関する取組を継続するとしている。
また、貴省は、基本方針等を踏まえて、21年度に「空港機能施設事業の効率的な運営と空港に係る土地等の使用料のあり方に関する検討調査」を外部委託しており、22年7月に、貴省の「空港機能施設事業等に係る経営状況の透明化・地代の適正化に関する検討会」は、この調査結果及び成長戦略を受けて、「空港機能施設事業等に係る経営状況の透明化・地代の適正化に向けた提言」(以下「提言」という。)を取りまとめている。そして、この提言においては、空港関連企業の独占的地位による弊害を可能な限り取り除くため、経営状況を横比較することが可能な指標を広く公開して一層の効率的な経営を促すことや、用地の独占性に基づく収益性をより的確に国有財産使用料に反映することなどの課題が指摘されている。
そして、空港経営改革については、25年6月に「民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する法律」(平成25年法律第67号。以下「民活空港運営法」という。)が制定され、貴省は現在、民間の運営主体への委託による空港の経営改革を推進している。
国管理空港については、効率的な空港運営を行うことなどが求められており、貴省は民間の運営主体への委託による空港の経営改革を推進しているが、現状では、民間への運営委託が行われるまでには相当の時間を要することなどが想定されている。
そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、現在の国管理空港の運営体制の中で、空港別の収支を収支改善の取組に活用しているか、需要拡大に向けた取組を適切に行っているか、空港関連企業の経営状況の透明化及び国有財産使用料の適正化に関する取組を適切に行っているかなどに着眼して検査を行った。
検査に当たっては、国管理空港28空港等のうち、定期便が運航されていない八尾空港及び千歳飛行場並びに開港(24年12月)後間もない岩国飛行場の3空港等を除いた25空港等を対象として、貴省本省、2地方航空局及び18空港事務所(注2)において、空港の運営状況に関する関係書類及び現地の状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行うとともに、7空港事務所(注3)から関係書類の提出を受けるなどの方法により検査した。
貴省は、基本方針等を踏まえて、21年8月に、社会資本整備事業特別会計における空港整備勘定の歳入歳出決算に企業会計の考え方を取り入れて試算するなどした空港別の現金出納による収支及び企業会計の考え方を取り入れた損益(以下、これらを合わせて「空港別収支」という。)の18年度分を公表しており、25年9月までに23年度分までの空港別収支を公表している。空港別収支については、現金出納による収支と企業会計の考え方を取り入れた損益のそれぞれについて、一般会計から特別会計に繰り入れられる歳入・収益(以下「一般財源」という。)の範囲、また、空港整備経費等の資本形成に関係する歳出・費用の範囲を変えた四つのパターンを作成し、公表している。
前記の25空港等の航空系事業に係る現金出納による収支についてみると、23年度では、着陸料等収入は計649億円、土地建物等貸付料収入は計240億円、空港等維持運営費等は計275億円となっている。
航空系事業に係る企業会計の考え方を取り入れた損益についてみると、23年度では、表のとおり、経常損益が赤字となる空港等の数が最も少なくなるパターンは、空港の維持運営に着目して、収益に一般財源を計上せず着陸料等のみを計上し、費用に減価償却費、空港整備経費等を計上せず維持運営費のみを計上したパターン4であるが、この維持運営に着目したパターンでも25空港等のうち乗降客数の少ない空港を中心に13空港等が赤字となっている。
また、費用に減価償却費、空港整備経費等も計上したパターン1から3までのうち、収益に一般財源を計上せず着陸料等のみを計上したパターン1と一般財源のうちの航空機燃料税財源、着陸料等を計上したパターン2で、25空港等のうち22空港等が赤字となっている。
表 乗降客数と航空系事業の経常損益の状況(平成23年度)
空港等名 | 平成23年度 乗降客数 |
航空系事業の経常損益 | |||
---|---|---|---|---|---|
パターン1 | パターン2 | パターン3 | パターン4 | ||
東京国際 | 63,691,802 | ▲ 21,401 | ▲ 15,363 | ▲ 9,955 | 45,147 |
新千歳 | 16,089,511 | 1,887 | 3,256 | 4,481 | 4,205 |
稚内 | 169,141 | ▲ 732 | ▲ 730 | ▲ 728 | ▲ 344 |
釧路 | 597,834 | ▲ 696 | ▲ 503 | ▲ 329 | ▲ 374 |
函館 | 1,388,850 | ▲ 1,081 | ▲ 814 | ▲ 574 | ▲ 153 |
仙台 | 1,845,963 | ▲ 2,669 | ▲ 424 | 1,586 | ▲ 284 |
新潟 | 858,876 | ▲ 2,516 | ▲ 2,336 | ▲ 2,175 | ▲ 306 |
広島 | 2,557,893 | ▲ 399 | ▲ 320 | ▲ 250 | 379 |
高松 | 1,319,230 | ▲ 298 | ▲ 174 | ▲ 63 | 66 |
松山 | 2,225,595 | ▲ 167 | ▲ 31 | 92 | 304 |
高知 | 1,157,347 | ▲ 532 | ▲ 413 | ▲ 307 | ▲ 128 |
福岡 | 15,802,152 | ▲ 4,798 | ▲ 3,254 | ▲ 1,872 | ▲ 2,564 |
北九州 | 1,175,603 | ▲ 951 | ▲ 906 | ▲ 866 | ▲ 105 |
長崎 | 2,464,251 | ▲ 146 | ▲ 73 | ▲ 7 | 332 |
熊本 | 2,839,494 | 144 | 294 | 428 | 542 |
大分 | 1,383,160 | ▲ 316 | ▲ 208 | ▲ 112 | ▲ 56 |
宮崎 | 2,491,684 | ▲ 407 | ▲ 97 | 181 | 328 |
鹿児島 | 4,470,441 | ▲ 334 | ▲ 26 | 250 | 497 |
那覇 | 14,045,534 | ▲ 5,856 | ▲ 5,099 | ▲ 4,420 | ▲ 2,817 |
札幌 | 128,082 | ▲ 294 | ▲ 294 | ▲ 294 | ▲ 202 |
三沢 | 257,809 | ▲ 187 | ▲ 187 | ▲ 187 | ▲ 159 |
百里 | 293,203 | ▲ 234 | ▲ 234 | ▲ 234 | 19 |
小松 | 1,994,804 | 610 | 636 | 660 | 786 |
美保 | 428,171 | ▲ 347 | ▲ 347 | ▲ 347 | ▲ 58 |
徳島 | 794,272 | ▲ 418 | ▲ 418 | ▲ 418 | 90 |
計 | 140,470,702 | ▲ 42,138 | ▲ 28,065 | ▲ 15,460 | 45,145 |
空港別収支については、各空港別の収支の明確化等透明性の確保のための措置を通じた支出抑制の努力等により効率的な空港運営を行うという基本方針等を踏まえて、作成、公表されている。そして、空港別収支の経常損益は、前記のとおり多くの空港で赤字となっており、また、着陸料等では維持運営費も賄えない空港もある状況となっている。
このようなことから、空港の管理、運営に直接携わっている地方航空局及び空港事務所が空港別収支の収益、費用の詳細について、比較可能な他の空港のものも含めて分析し、その内容を支出削減等の具体的な取組に活用するなど空港別収支を空港の収支改善の取組に積極的に活用していくことが重要である。
しかし、貴省は、地方航空局及び空港事務所に対して、空港別収支を空港の収支改善の取組に活用することについての方針等を示したり、空港別収支の内訳情報等の提供を行ったりすることなどは特に実施しておらず、会計実地検査を行った2地方航空局及び18空港事務所は、空港別収支を空港の収支改善の取組に活用していない状況となっていた。
したがって、貴省は、空港別収支を空港の収支改善の取組に積極的に活用するための検討を行う必要があると認められる。
空港の需要拡大のための新規路線の誘致活動については、現状では、地方航空局及び空港事務所が直接これを行ってはおらず、多くの空港においては、地方公共団体が中心となった協議会等(以下「協議会等」という。)が行っている。誘致活動は、航空会社等利用者の多様な意見や要望に対して的確かつ柔軟に対応していくことが重要であり、そのためには、地方航空局及び空港事務所が、誘致活動に関する情報を協議会等と共有することが有効であると考えられる。
そこで、地方航空局及び空港事務所における協議会等への参加状況をみたところ、13空港事務所ではオブザーバー等の立場で協議会等に参加していたものの、2地方航空局及び12空港事務所は協議会等に参加していなかった。
したがって、需要拡大のための誘致活動について、地方航空局及び空港事務所が地方公共団体等と情報共有を図るなど、地方公共団体、旅客ビル会社等の空港関係者と連携して一体的かつ効果的に行えるようにするための方策を検討する必要があると認められる。
25空港等のうち、旅客ターミナルビルを運営する会社等(以下「旅客ビル会社」という。)に関する財務情報の開示内容が異なる百里飛行場を除いた24空港等について、非航空系事業の23年度の営業収益は計2600億円となっており、このうち旅客ビル会社の営業収益は計2006億円と、非航空系事業の営業収益全体の約77%と大きな割合を占めている。
そこで、旅客ビル会社の23年度決算における財務状況をみると、財務面での健全性を示す自己資本比率は、平均で41.8%となっており、17社が40%を超えていて自己資本比率が比較的高い会社が多くなっている。また、利益剰余金については、14社が10億円以上、うち2社が100億円以上を保有しており、総資産に対する利益剰余金の割合が50%を超えている会社も7社あるなど、多くの旅客ビル会社が営業利益を長期にわたって蓄積してきたものと考えられる。
このように、航空系事業の経常損益が赤字となっている空港が多い中で、旅客ビル会社の財務状況については、多額の営業利益が生じていたり、多額の利益剰余金を保有していたりしている会社も多く見受けられる。
貴省は、前記の提言において、空港関連企業の効率的な経営を促すとされたことなどを受け、24年3月に「空港機能施設事業者の経営情報の公開に関するガイドライン」を定め、貴省のホームページにおいて空港関連企業の決算書を閲覧できるように、空港関連企業のホームぺージのリンク先を表示するなどしている。また、上記のガイドラインにおいては計算書類である貸借対照表、損益計算書等を公開することとし、附属明細書についても事業者の経営の透明性を確保するために公開することが望ましいとしている。
しかし、旅客ビル会社の開示状況についてみると、計算書類である貸借対照表、損益計算書等は25社全てで開示されているものの、附属明細書が開示されているのは3社のみで、残りの22社は開示されていないなど、旅客ビル会社の経営状況の透明化に関する取組は十分なものとなっていなかった。
したがって、旅客ビル会社の経営状況の更なる透明化を図ることによって、より効率的な経営を促していく必要があると認められる。
貴省は、国有財産使用料の算定に当たって、18年度から、不動産鑑定士による鑑定評価(以下「不動産鑑定評価」という。)を導入している。そして、その算定方法は、原則として次のとおりとなっている。
そして、22年度からの不動産鑑定評価については、前記の提言において、旅客ビル会社に係る用地の独占性に基づく収益性をより的確に国有財産使用料に反映するとされたことなどから、貴省は、①の積算賃料の算出に用いる基本効用比及び期待利回りの比率を高めるなどの見直しを行った。
そこで、今回、上記の方法で算定された23年度の旅客ビル会社の国有財産使用料についてみたところ、25空港等中24空港等において収益賃料が積算賃料を下回っており、このうち収益賃料が積算賃料の7割に満たない空港等が25空港等中15空港等あり、中には5割に満たない空港等も4空港等見受けられた。このため、25空港等全体でみると、積算賃料計67億2475万余円に対して、収益賃料計44億0230万余円と収益賃料が積算賃料に比べて大幅に低額なものとなっていた。そして、前記③のとおり、積算賃料の2割と収益賃料の8割を合算するなどして賃料の調整を行っているため、鑑定評価額は計48億6244万余円、国有財産使用料は計49億0897万余円と、積算賃料に比べて大幅に低額なものとなっていた。
しかし、③の賃料の調整割合については、不動産鑑定評価において、具体的な根拠が示されていなかった。また、旅客ビル会社が恵まれた立地条件による独占的利益を享受していて、経営効率化のインセンティブが働きにくい企業であるとされているにもかかわらず、当該企業の実際の営業損益に基づき算出される収益賃料を賃料の調整割合において8割と高く設定しているために、収益賃料が国有財産使用料の算定額に大きな影響を与えることとなっている。
したがって、収益賃料が積算賃料よりも大幅に低額な空港が多い現状においては、旅客ビル会社に係る国有財産使用料の更なる適正化について検討する必要があると認められる。
前記(1)のとおり、地方航空局及び空港事務所において空港別収支を積極的に空港の収支改善の取組に活用できるようにするための方針等を示していなかったり、地方公共団体等と十分に連携して需要拡大のための誘致活動を一体的かつ効果的に行えるようにするための検討を行っていなかったりしている事態、また、(2)のとおり、旅客ビル会社の経営状況の透明化に関する貴省の取組が十分図られていなかったり、貴省の旅客ビル会社の国有財産使用料の適正化に対する取組が必ずしも十分なものとはなっていなかったりしている事態は適切でなく、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。
民活空港運営法が制定され、貴省は、現在、民間の運営主体への委託による空港の経営改革を推進しているが、運営委託を実施するまでに相当の時間を要することなどが想定される。また、現在、多くの空港が赤字となっている状況にあり、空港がより多くの利用者に利用されるなど有効に活用されるとともに、より効率的な空港運営を行うことが必要である。
ついては、貴省において、国管理空港のより一層の有効活用や効率的な運営を図るよう、次のとおり意見を表示する。