(平成25年9月25日付け 海上保安庁長官宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴庁は、海上保安庁法(昭和23年法律第28号)等に基づき、海上の安全及び治安の確保を図ることを任務としており、この任務を遂行するために使用する巡視船艇には、武器及び武器管制装置(以下「武器等」という。)を搭載している。そして、武器等の製造・定期整備に当たっては、製造に係る契約は貴庁本庁(以下「本庁」という。)が行い、その後の定期整備に係る契約は各管区海上保安本部(以下、管区海上保安本部を「海上保安本部」という。)が行っている。
本庁及び各海上保安本部は、武器等の製造・定期整備に当たり、日本国内における特定の会社1社が他国の会社とのライセンス契約に基づいて製造している武器等については、技術的理由等により当該特定の会社1社(以下「特定1社」という。)と随意契約を締結している。これらの契約に係る予定価格の算定については、その仕様が特殊で市場価格が形成されていないため、材料費、労務費、直接経費等の製造原価又は定期整備に係る原価(以下「製造等原価」という。)を積み上げる原価計算方式を採用しており、契約方法については、契約条件に変更のない限り、契約締結時に確定した契約金額をもって契約の相手方に契約代金を支払う確定契約を採用している。
そして、本庁及び11海上保安本部(注1)が締結した武器等の製造・定期整備に係る契約は、平成19年度から24年度までの間に、表1のとおり、計249件、146億6748万余円となっている。
また、武器等の製造・定期整備に係る契約のうち、20㎜機関砲、40㎜機関砲、武器管制装置等の製造は、本庁が住友重機械工業株式会社(以下「住友重機械」という。)及び三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)と契約を締結し、20㎜機関砲、40㎜機関砲等の定期整備は、各海上保安本部が住友重機械及びその子会社である住重特機サービス株式会社(以下「住重特機」といい、「住友重機械」を合わせて「住友重機械等」という。)とそれぞれ契約を締結している。そして、本庁及び11海上保安本部が締結した契約は、19年度から24年度までの間に、表1のとおり、計172件、110億4475万余円となっている。
表1 武器等の製造・定期整備に係る契約実績
会社 | 住友重機械 | 住重特機 | 三菱電機 | その他の3会社 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
主な契約内容 | 20㎜ 機関砲(遠隔操縦機能付)、40㎜機関砲等の製造 | 40㎜機関砲の定期整備 | 20㎜ 機関砲(遠隔操縦機能付)等の定期整備 | 武器管制装置の製造 | 30㎜機関砲の製造 | 35㎜機関砲、武器管制装置等の定期整備 | |
契約実績 | 平成 19年度 |
2 1,395,447 |
— — |
23 79,122 |
1 831,717 |
1 615,959 |
8 97,198 |
20年度 | 1 462,420 |
— — |
20 64,025 |
— — |
— — |
7 123,217 |
|
21年度 | 1 1,722,840 |
— — |
34 166,918 |
— — |
— — |
14 189,556 |
|
22年度 | 2 2,392,950 |
2 148,530 |
32 152,496 |
2 1,031,100 |
1 522,900 |
19 423,678 |
|
23年度 | — — |
2 121,275 |
25 115,378 |
2 856,800 |
1 1,167,600 |
16 334,791 |
|
23年度 | 3 1,291,500 |
2 114,836 |
18 97,394 |
— — |
— — |
10 147,833 |
|
小計 | 9 7,265,157 |
6 384,642 |
152 675,336 |
5 2,719,617 |
3 2,306,459 |
74 1,316,275 |
|
計 | 172 11,044,754 |
77 3,622,735 |
|||||
合計 | 249 14,667,489 |
本庁及び11海上保安本部においては、特定1社から材料費、労務費、直接経費等を記載した見積書を徴して、ア及びイのとおり、武器等の製造・定期整備の契約に係る予定価格を算定している。
24年1月以降、住友重機械等及び三菱電機は、防衛省との防衛装備品の製造、修理等契約において、工数の水増しや工数の付替えによる過大請求をしていたことが発覚した。そして、防衛省は、過大請求事案の実態解明、過払額の算定等のための特別調査を行って過払額等を算定して、住友重機械等及び三菱電機に対して返還請求を行い、25年2月に過払額等の全額が防衛省に納付された。
本庁及び11海上保安本部が締結している武器等の製造・定期整備に係る契約は確定契約であり、また、本庁及び11海上保安本部が住友重機械等又は三菱電機と締結している契約は、過大請求事案が発覚した防衛省の防衛装備品の製造、修理等と同じ製造所等で製造・定期整備が行われている。そこで、本院は、合規性、経済性等の観点から、原価計算方式により予定価格を算定している武器等の製造・定期整備に係る契約方法は適切なものとなっているか、また、予定価格の算定基礎となっている見積書は製造・定期整備の実態を反映した適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。
そして、前記の本庁及び11海上保安本部が締結した武器等の製造・定期整備に係る契約249件、契約金額146億6748万余円を対象として、本庁及び10海上保安本部(注2)において、見積書等の関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行い、また、第十一管区海上保安本部については関係書類の提出を受けるなどして検査した。さらに、住友重機械等及び三菱電機に赴いて、社内の調査資料や工数の管理状況等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
検査の対象とした249件の契約は、全て確定契約で行われており、これらの契約には、見積工数に対する実績工数の確認や、製造等原価を確認するための調査を行うことができる旨の条項が付されておらず、本庁及び11海上保安本部は、実績に基づく製造等原価を把握していなかった。また、これらの契約には、予定価格の算定の際に特定1社から提出される見積書等の信頼性を確保するために有効と考えられる関係資料等の保存義務や虚偽の資料を提出又は提示した場合の違約金の賦課を定めた条項も付されていなかった。
また、本庁及び11海上保安本部が住友重機械等又は三菱電機と締結した契約172件における見積工数と実績工数については、ア及びイのような状況となっていた。
住友重機械等は、20㎜機関砲等の製造・定期整備に当たり、本庁及び11海上保安本部に提出する見積書については、当該機種の最初の製造等の時期に定めた見積工数を、仕様書等が変更されない限りそのまま次の契約の見積工数として提出していた。このため、19年度から24年度までの間に本庁及び11海上保安本部が住友重機械等と契約を締結して、履行が完了した20㎜機関砲等の製造契約計4件(契約金額計21億0356万余円)、定期整備80件(注3)(契約件数では158件、契約金額計10億5997万余円)について、見積工数と実績工数を比較したところ、表2のとおり、大幅なかい離が生じていた。
すなわち、住友重機械と契約している20㎜機関砲等の製造契約計4件及び定期整備計3件の全てにおいて実績工数が見積工数を下回っており、製造・定期整備の実績工数はそれぞれ見積工数の63.0%から83.4%まで(平均71.7%)又は63.5%から77.4%まで(平均70.8%)となっていた。また、住重特機と契約している20㎜機関砲等の定期整備計77件のうち76件において実績工数が見積工数を下回っており、77件の実績工数は見積工数の35.1%から104.2%まで(平均61.8%)となっていた。
表2 見積工数と実績工数のかい離の状況
会社名等 | 件数 | 実績工数が見積工数を下回っているもの | 見積工数に対する実績工数の割合 | ||
---|---|---|---|---|---|
範囲 | 平均 | ||||
住友重機械 | 製造 | 4 | 4 | 63.0%〜83.4% | 71.7% |
定期整備 | 3(6) | 3(6) | 63.5%〜77.4% | 70.8% | |
住重特機 | 定期整備 | 77(152) | 76(150) | 35.1%〜104.2% | 61.8% |
上記のとおり、住友重機械等との契約の大半において、実績工数が見積工数を下回っていたことから、上記の製造契約4件及び定期整備80件の計84件を対象として実績工数等に基づく試算額(注4)を算定した。その結果、製造等原価のうち材料費や労務費は実績額に基づき算定したため、必ずしも工数のかい離に応じて減少することとはならないものの、住友重機械の製造契約1件及び定期整備3件においては、試算額が契約金額を下回っており、これらの開差額は計7807万余円となっていた。また、住重特機の定期整備50件においては、試算額が契約金額を下回っており、これらの開差額は計5032万余円となっていた。
本庁は、19年度から24年度までの間に三菱電機と武器管制装置の製造契約を計5件締結しているが、このうち、履行が完了しているものは19年度の「武器管制装置4式製造」契約(契約金額8億3171万余円)のみであった。当該契約に当たり、三菱電機において本庁との契約を担当する部署は、本庁に見積書を提出する際に、事前に三菱電機鎌倉製作所(以下「鎌倉製作所」という。)に製造等原価に係る見積書を作成させていた。しかし、当該契約は、18年度に受注した武器管制装置と仕様が変更されていないことから、三菱電機は、鎌倉製作所が作成した見積書の見積工数を考慮せずに、18年度に本庁に提出した見積工数をそのまま19年度の見積工数として提出していた。そのため、当該契約の見積工数32,836工数に対して、推定工数(注5)は20,532工数(見積工数に対する推定工数の割合62.5%)となっていて、推定工数が見積工数を下回っていた。
上記のとおり、本庁及び11海上保安本部において、住友重機械等及び三菱電機との契約における見積工数と実績工数等が大幅にかい離しているにもかかわらず、契約締結時に確定した契約金額をもって相手方に契約代金を支払う確定契約により契約を締結していたり、製造等原価を確認するための調査を行うための条項を付していなかったり、実績に基づかない見積書の提出を受け続けていたりするなどの事態は適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、本庁及び各海上保安本部において、製造等原価の実績等に基づいて契約代金の額を確定する契約方法についての検討を行っていなかったこと、製造等原価を確認するための調査を行う必要性についての理解が十分でなかったこと、実績に基づかない見積書の提出等を防止するための対策を十分検討していなかったことなどによると認められる。
本庁及び各海上保安本部は、今後も引き続き、巡視船艇に搭載する武器等の製造・定期整備を実施することとしているが、これらの契約については、技術的理由等により特定1社との契約となることが見込まれている。
ついては、本庁及び各海上保安本部において、原価計算方式により予定価格を算定する武器等の製造・定期整備に係る契約について、契約方法等の適正化が図れるよう契約方法、契約条項等に関し、次のような処置を講ずる要があると認められる。