(平成25年10月31日付け 国土交通大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
国及び都道府県(政令指定都市及び管内市町村を含む。以下「都道府県等」という。)が道路整備事業により築造し、維持管理する道路橋は、その多くが昭和30年代に始まる高度経済成長期に建設されている。貴省の調べによると、現在我が国に架かる橋りょうは約70万橋あり、このうち建設後50年以上経過している橋りょうは建設時期が不明のものを除いて平成24年時点では約16%であるが、10年後の34年には約40%、20年後の44年には約65%を占める見込みとなっている。
橋りょうの高齢化が進むと、致命的な損傷が発生する危険性が高まったり、従来行われてきた損傷が顕在化した後に対策を行う事後保全型の維持管理を続けた場合には、橋りょうの補修、架け替え費用が増大することが予想されたりするなど、今後、適切な維持管理に支障を来すおそれがある。
そこで、貴省は、国が管理する国道の安全性及び信頼性を確保していくため、一般の土工構造物に対して日常的に行っている巡回等の簡易な点検に加え、定期的に行う点検(以下「定期点検」という。)によって橋りょうの状態を把握し、損傷が顕在化する前の軽微な段階で対策を行う予防保全型の補修により計画的な維持管理を行うとともに、橋りょうの架け替えを計画的に行うことにより維持管理費用の縮減を図ることを目的として、橋りょうの長寿命化修繕計画(以下「計画」という。)を策定することとしている。
貴省は、16年3月に「橋梁定期点検要領(案)」を定め、各地方整備局等ではこれを用いるなどして19年1月から順次計画の策定に入り、これを公表しているところである。
計画は、橋りょうごとに「点検→診断→措置→次回点検」という点検サイクルでおおよそ5年ごとに定期点検を行い、その結果に基づいて定められるものである。定期点検は、橋りょうの損傷状況を把握し、損傷程度の評価を行うために、頻度を定めて定期的に、近接目視を基本としながら目的に応じて機械・器具を用いるなどして実施するものである。そして、その結果から損傷の原因を推定するとともに対策区分を判定するための診断を行い、速やかな補修が必要となれば次回の定期点検までに補修工事等の措置を行うこととされている。
また、貴省は、道路法(昭和27年法律第180号)等に基づいて作成した道路の台帳(橋調書)及び橋りょう台帳(注1)並びに定期点検の結果等に基づいて作成した橋りょう管理カルテ(以下、これらを「橋りょう台帳等」という。)により、橋りょうの維持管理を行っている。
貴省は、19年4月に長寿命化修繕計画策定事業費補助制度要綱(平成19年4月国道国防第215号、国道地環第43号。以下「補助要綱」という。)を定め、都道府県等が管理する国道、都道府県道や市町村道に架設している橋長15m以上の橋りょうの計画策定に要する事業費に対して補助金を交付し、都道府県等における計画の策定を推進することとした。また、21年1月にはこの補助要綱を改正し、定期点検に要する事業費に対しても補助金を交付することとした。その後、交付の対象を、橋長2m以上15m未満の橋りょうの定期点検に要する事業費及び計画策定に要する事業費にも広げ、22年度からはこれらの事業費に対して社会資本整備総合交付金(以下「交付金」という。)を交付している。
貴省においては、計画については自ら策定を行う一方、定期点検及び診断(以下「定期点検等」という。)については、毎年度、業務委託により行っていて、これに係る費用は多額に上っている。また、都道府県等においても、毎年度定期点検等及び計画の策定について業務委託により行っており、これに対して貴省は多額の交付金を交付している。そこで、本院は、経済性、効率性等の観点から、定期点検の対象となる橋りょうの選定は適切かなどに着眼して、検査を行った。
検査に当たっては、23、24両年度において、北海道開発局及び沖縄総合事務局並びに東北地方整備局等10地方整備局等(注2)管内の常陸河川国道事務所等22国道事務所等(注3)が締結した定期点検等に係る業務委託契約86件(契約金額計63億7012万余円)、北海道等9道県(注4)及び6政令指定都市(注5)並びに北海道等22道府県(注6)内の475市町村(以下、これらを合わせて「道県等」という。)、計490事業主体が締結した定期点検等及び計画の策定に係る業務委託契約1,080件(契約金額計62億8561万余円、交付金交付額計34億8165万余円)について、契約書、特記仕様書等を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
道県等においては、貴省と同様に、橋りょう台帳等を作成し、橋りょうの維持管理を行うこととしており、計画の策定状況についてみると、道県及び政令指定都市については、全ての事業主体において計画が策定されているが、市町村については、475市町村のうち79市町村が初回の定期点検等や計画の策定を行うなどしている段階であった。
また、道県等は、定期点検の対象となる橋りょうの選定方法が具体的に定められていないことなどから、定期点検等及び計画の策定を、以下の手法で行っていて、その対象が区々となっていた。
① 橋りょう台帳等に記載された橋りょうについて、橋長に関係なく、こ線橋、こ道橋、緊急輸送道路に指定されている道路に架かる橋りょうなど、事業主体が重要度や予防保全型の維持管理の縮減効果等に基づいて重要と判断した橋りょうを選定して、これらについてのみ対象としているもの
(1県 1政令指定都市 97市町村 定期点検等及び計画策定に係る業務委託契約
185契約 契約金額計10億2227万余円
交付金交付額計5億6241万余円)
② 橋りょう台帳等に記載された橋りょうのうち、橋長が所定の長さ以上の橋りょうを対象としているもの
(3県 77市町村 定期点検等及び計画策定に係る業務委託契約
222契約 契約金額計12億2538万余円
交付金交付額計6億7583万余円)
③ 橋りょう台帳等に記載された橋りょうについて一律に対象としているもの
(5道県 5政令指定都市 301市町村 定期点検等及び計画策定に係る業務委託契約
673契約 契約金額計40億3795万余円
交付金交付額計22億4341万余円)
前記の初回の定期点検等や計画の策定を行う段階にある79市町村についてみると、このうち上記の③に該当するものが53市町村(67%)となっていて、その大半を占めていた。
また、検査の対象とした490事業主体のうち、無作為に抽出した150事業主体(①に該当するもの31事業主体、②に該当するもの20事業主体、③に該当するもの99事業主体)について、上記の区分別に、計画策定の対象橋りょう数に占める橋長5m未満の小規模な橋りょう数の比率をみたところ、①、②及び③に該当する事業主体でそれぞれ2.3%、0%、38.1%となっていて、③に該当する事業主体において特に高くなっていた。
一般に、橋長5m未満のような小規模な橋りょうには、次のような特徴がある。
そして、前記のように、③に該当する事業主体における計画策定の対象橋りょう数に占める橋長5m未満の橋りょう数の比率が、①及び②に該当する事業主体における同比率と比べて特に高くなる結果となっているのは、5m未満の小規模な橋りょうは、①に該当する事業主体では重要度から、②に該当する事業主体では橋長から、それぞれ除外されるものが多かったり、全てが除外されたりしているからであると思料される。
今後、各事業主体において、橋りょう台帳等に記載された橋りょう全てについて定期点検等を実施し、計画を策定していくことは、限りある予算及び人員の中では困難が伴うことが予想される。さらに、前記のとおり、初回の定期点検等や計画の策定を行う段階にある市町村は、③に該当する事業主体が大半を占めていることを鑑みると、③に該当する計311事業主体については、橋りょう台帳等に記載された橋りょうについて一律に定期点検等及び計画策定の対象とするのではなく、①及び②に該当する事業主体のように重要度等を勘案するなどして、優先度の高い橋りょうから計画を早期に策定するとともに、維持管理費用の縮減を図る必要があると認められる。
貴省は、道路法に基づき、道路の現況を明らかにし道路整備計画の立案、策定及び道路施設の管理に関する基礎資料を得るため、毎年、道路施設現況調査(以下「現況調査」という。)を行っている。
現況調査が対象としている橋りょうは、河川や道路、線路等を通過するために架設される構造物で、橋長2m以上のものとされており、暗きょとの区別が困難な溝橋(以下「カルバート」という。)については、土かぶりが1m未満のものを橋りょうとして取り扱うこととされている。
各地方整備局等は、自ら管理する国道が、幹線道路であったり緊急輸送道路に指定されている道路であったりすることから、当該国道に架かる橋りょうは重要であるとして、その全てについて、各国道事務所等が行う定期点検等に基づき計画を策定している。
そして、前記の22国道事務所等のうち、診断に係る業務委託契約のみを締結している4国道事務所等を除いた18国道事務所等での定期点検におけるカルバートの取扱いについてみると、12国道事務所等は、カルバートが上部構造と下部構造から成る一般的な橋りょう形式とは異なることを理由として橋りょう台帳等に記載していないことなどから、近接目視等による定期点検に代えて、職員等が一般の土工構造物に対して日常的に行っている巡回等の簡易な点検の対象としていて、定期点検の対象から除いている。
一方、6国道事務所等は、現況調査におけるカルバートの定義を参考にするなどして、89基について橋りょう台帳等に記載し、定期点検の対象としている(定期点検の対象にカルバートを含む業務委託契約11件、契約金額計5億6016万余円)。
しかし、カルバートは、上部構造と下部構造から成る一般的な橋りょう形式とは異なり、側壁と頂版が剛結された一体的な構造のもので、構造上落橋が想定されないこと、また、一般的な橋りょうに比べて点検が必要な箇所や項目が少ないことなどから、原則として、計画を策定するために行う定期点検に代えて、職員等が一般の土工構造物に対して日常的に行っている巡回等の簡易な点検の対象とすることが適切であると認められる。
道県等のうち、23、24両年度に定期点検を行った9道県、6政令指定都市及び356市町村、計371事業主体におけるカルバートの取扱いについてみると、5県、1政令指定都市、183市町村、計189事業主体は、定期点検の対象としていなかった。
一方、4道県、5政令指定都市、173市町村、計182事業主体は、現況調査におけるカルバートの定義を参考にするなどして、4,210基について橋りょう台帳等に記載し、定期点検の対象としていた((1)との重複分145事業主体を除くと1県、1政令指定都市、26市及び9町の計37事業主体、定期点検の対象にカルバートを含む業務委託契約52件、契約金額計3億3603万余円、交付金交付額計2億0369万余円)。
しかし、カルバートについては、前記アの国が維持管理する橋りょうの場合と同様に、原則として、計画を策定するために行う定期点検に代えて、職員等が一般の土工構造物に対して日常的に行っている巡回等の簡易な点検の対象とすることが適切であると認められる。
以上のとおり、上記の(1)及び(2)事態が見受けられた6国道事務所等、6道県、6政令指定都市、174市、136町及び26村の計354事業主体((1)における311事業主体並びに(2)における6国道事務所等及び37事業主体)で、道県等で橋りょうの重要度等を勘案することなく一律に定期点検の対象としていたり、国道事務所等及び道県等でカルバートを定期点検の対象としたりしている事態(これらに係る業務委託契約金額直轄事業計5億6016万余円、補助事業計43億7399万余円(交付金交付額計24億4710万余円))は適切とは認められない。
前記のように、道県等において、橋りょうの重要度等を勘案することなく一律に定期点検の対象としている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
また、国道事務所等及び道県等においてカルバートを定期点検の対象としている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省において、次のようなことなどによると認められる。
橋りょうの定期点検等及び計画の策定にかかる事業費は、今後も恒久的に発生し、補修工事もこれに基づいて多数行われていくことが予想される。したがって、貴省においては、予防保全型の補修により計画的な維持管理を行うとともに、架け替えを計画的に行うことによって維持管理費用の縮減を図ることが重要である。また、点検サイクルを今後も継続して行うためには、橋りょうごとに重要度等を勘案して定期点検の対象を選定し、定期点検等の実施及び計画の策定を限られた予算及び人員で効率的に行っていく必要がある。
ついては、貴省において、維持管理が適切に行われるよう、次のとおり改善の処置を要求する。