海上保安庁は、保有する巡視船艇等の船舶(以下「船舶」という。)の性能及び機能の維持及び向上を図り、もって船舶による海上保安業務の適切な遂行に資することを目的として、船舶安全法(昭和8年法律第11号)、海上保安庁船舶整備規則(平成16年海上保安庁訓令第11号。以下「規則」という。)等に基づき、船舶の整備を適正かつ効率的に行うこととしている。
規則によると、船舶の整備は、海上保安庁の職員が行う普通整備と委託して行う特別整備があり、このうち特別整備については、海上保安庁本庁及び各管区海上保安本部(以下「海上保安本部等」という。)が、造船所と一般競争契約又は随意契約により請負契約(以下「当初契約」という。)を締結して定期的に実施するものである。
そして、海上保安本部等は、当初契約の作業中に船舶の不具合箇所が新たに判明した場合には、当初契約を締結した造船所と随意契約により別途に契約(以下「追加契約」という。)を締結して、当初契約の履行期間内に、当初契約の作業と並行して当該不具合箇所の修理等(以下「追加作業」という。)を実施させている。
海上保安本部等は、当初契約の仕様書に基づき、船舶修繕積算基準(昭和52年保経経第246号。以下「積算基準」という。)等によるなどして当初契約の予定価格を積算している。このうち、労務費及び諸経費(以下「労務費等」という。)については、海上保安本部等が、「国土交通省所管の契約に係る競争参加資格審査事務取扱要領」(平成13年国官会第22号)に定める競争参加資格の「役務の提供等(船舶整備)」において造船所の規模に応じて区分される四つの等級ごとに、海上保安庁本庁が毎年度定める労務費単価及び諸経費率(以下「労務費単価等」という。)を用いて、その労務費単価に作業工数を乗ずるなどして積算している。そして、労務費単価等については、等級が下位になるごとに労務費単価が低額となることを考慮して、「巡視船艇の製造及び修繕に関する契約について」(平成20年保総政第559号)に基づき、当該船舶の整備契約に係る入札又は見積合わせに参加を予定した造船所が有する等級のうち、最下位の等級に適用されるものを採用することとされている。
また、海上保安本部等は、当初契約と同様に、追加契約の仕様書、積算基準等に基づくなどして追加契約の予定価格を積算している。このうち、労務費等については、当初契約を締結した造船所を相手方として随意契約を締結することから、当該造船所が有する等級に適用される労務費単価等を採用して積算している。
本院は、経済性等の観点から、船舶の特別整備に係る契約の予定価格の積算等が適切なものとなっているかなどの点に着眼して、海上保安本部等が平成22年度から24年度までに締結した追加契約1,318件(契約金額計26億3741万余円)を対象として、海上保安庁本庁及び全11管区海上保安本部において契約書、仕様書、予定価格調書等の関係書類により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
海上保安本部等は、前記のとおり、当初契約の予定価格は当該船舶の整備契約に係る入札又は見積合わせに参加を予定した造船所が有する等級のうち、最下位の等級に適用される労務費単価等を採用して積算していたが、追加契約の予定価格は当初契約の相手方である造船所が有する等級に適用される労務費単価等を採用して積算していた。そして、当初契約とその追加契約について労務費単価等を比較したところ、前記追加契約1,318件のうち計266件(22年度85件、23年度82件、24年度99件)については、当初契約の相手方である造船所が有する等級に適用される労務費単価等を採用した結果、当初契約の予定価格の積算における等級よりも高い等級に適用される労務費単価等を採用しており、その予定価格は計6億1564万余円(22年度2億3669万余円、23年度1億9311万余円、24年度1億8583万余円)となっていた。
しかし、前記のとおり、追加作業は、当初契約の作業の結果等に基づいて、追加的に作業内容等が決定されるものであり、当初契約の相手方である造船所において、当初契約の履行期間内に当初契約の作業と一体的に行われるものであることから、追加作業に係る労務費単価等は当初契約と同一のものにすべきであると認められた。現に、複数の造船所において作業報告書や会計帳簿等の関係書類により確認したところ、当初契約の作業と追加作業を区別することなく同じ作業員が作業に従事するとともに、作業工程等を一つの受注番号で一括して管理しているなど、一体的な作業として実施していた。
したがって、追加契約の予定価格の積算に当たり、労務費等について、追加作業が当初契約の作業と一体的に実施されていることを考慮することなく、当初契約の予定価格の積算における等級よりも高い等級に適用される労務費単価等を採用して積算している事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
上記により、当初契約の予定価格に採用した労務費単価等と同一のものを採用するなどして、追加契約に係る費用を積算すると計5億6265万余円(22年度2億1720万余円、23年度1億7508万余円、24年度1億7036万余円)となり、前記の積算額計6億1564万余円に比べて約5290万円低減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、海上保安庁において、追加契約の予定価格の積算に当たり、追加作業が当初契約の作業と一体的に実施されていることを考慮することについての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、海上保安庁は25年7月に各管区海上保安本部等に対して通知を発して、同年9月以降に締結する追加契約の予定価格の積算に当たっては、当初契約の予定価格の積算において採用した労務費単価等を採用するよう周知し、追加契約の予定価格の積算を経済的なものとする処置を講じた。