国土交通省は、道路交通の安全確保と円滑化を図るために、国が行う直轄事業又は都道府県等が行う国庫補助事業等(以下「補助事業」という。)として、道路整備事業等を実施している。
そして、国又は都道府県等(以下「道路事業者」という。)は、道路の切土法面の崩壊等による土砂災害から道路利用者を守り、安全かつ快適な道路の走行空間を確保するため、法面を植物又は構造物で被覆して法面の安定の確保、自然環境等の保全等を図ることを目的とした法面保護工を多数実施している。
法面保護工の工種には、「道路土工 切土工・斜面安定工指針」(社団法人日本道路協会編)等によると、法面保護工の目的等に応じて、植生工、モルタル吹付工、現場吹付法枠工等があり、現地の条件を考慮して適切に選定しなければならないとされている。そして、これらの工種のうち、現場吹付法枠工は、表層部の崩落や岩盤剥落の防止等を目的として採用される工種であり、法面の形状に応じて変形可能な金網製の型枠を格子状に設置して、この型枠の内部にモルタル又はコンクリートを吹き付けて築造するものである。
道路事業者は、現場吹付法枠工の縦枠及び横枠(以下「枠本体」という。)に囲まれる部分(以下「枠内」という。)に、浸透水や湧水の状態、法面の勾配等を考慮し、雨水、湧水等(以下「雨水等」という。)による浸食や表層崩壊の防止、法面の緑化等の目的に応じて、植生基材、モルタル等を吹き付けるなどすることとしている(以下、枠内に吹き付けるなどする植生基材、モルタル等を総称して「中詰工」という。)。
そして、道路事業者は、雨水等が枠内に滞留すると、枠内の植生が枯死したり横枠が劣化したりするなどのおそれがあるとして、雨水等を速やかに排水すること(以下「枠内排水」という。)を目的として、横枠の内部に径50㎜程度の塩化ビニル製の水抜きパイプを設置する方式(以下「パイプ方式」という。)又は横枠の上部側に三角形断面となるようモルタルを吹き付ける方式(以下、三角形断面に吹き付けられたモルタルを「水切り」といい、これにより枠内排水を行う方式を「水切り方式」という。)により、枠内排水の設計を行っている(参考図参照)。
道路事業者は、現場吹付法枠工について、国土交通省制定の土木工事標準積算基準書及びこれを参考に都道府県等がそれぞれ制定している積算基準書(以下、これらを合わせて「積算基準」という。)等に基づき、工事費の積算を行っている。
積算基準では、枠内排水に必要となる工事費は、パイプ方式により設計する場合は、枠本体の工事費に含まれていることから加算しないこととされている。一方、水切り方式により設計する場合は、枠本体の工事費に水切りの工事費を加算することとされている。
検査したところ、直轄事業46工事、補助事業380工事、計426工事については、現場吹付法枠工の枠内排水を、パイプ方式とすると水抜きパイプが詰まる可能性が高いと判断するなどして、全て水切り方式により設計していた。
一方、直轄事業64工事、補助事業215工事、計279工事については、現場吹付法枠工の枠内排水を全てパイプ方式により設計していた。これらの工事において、パイプ方式により設計することとしたのは、パイプ方式であれば、水抜きパイプの設置に要する工事費は枠本体の工事費に加算する必要がなく経済的であるという理由のほか、特に、中詰工がモルタル等である場合は、水抜きパイプが詰まる可能性が低いと判断したためであるなどとしていた。
そして、上記279工事のうち、中詰工をモルタル等としている87工事について、現地の状況等を確認したところ、現状では、水抜きパイプが詰まるなど、特段の問題が生じていない状況となっていた。
したがって、現場吹付法枠工の枠内排水を全て水切り方式により設計している前記426工事のうち、中詰工をモルタル等としている110工事(直轄事業として6地方整備局(注4)の10国道事務所等(注5)が施行した16工事、契約金額計34億9896万余円(現場吹付法枠工の直接工事費の積算額計2億9953万余円)及び補助事業として15府県(注6)の計31事業主体(注7)が施行した94工事、契約金額計55億6118万余円(国庫補助金等交付額計31億2643万余円、現場吹付法枠工の直接工事費の積算額計9億1963万余円))については、水抜きパイプが詰まる可能性が低いため、枠内排水を、水切り方式に代えてパイプ方式により設計することが可能であったと認められた。
上記のように、現場吹付法枠工の中詰工がモルタル等であり、水抜きパイプが詰まる可能性が低いのに、枠内排水をパイプ方式ではなく水切り方式により設計している事態は、経済的な設計となっていないことから、適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
前記の110工事について、枠内排水を、水切り方式に代えてパイプ方式により設計することとして、現場吹付法枠工の直接工事費の積算額を計算すると、直轄事業で2億9362万余円、補助事業で9億0241万余円となり、積算額を直轄事業で約590万円、補助事業で約1720万円(国庫補助金等相当額約983万円)それぞれ低減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、現場吹付法枠工の枠内排水の設計について、各道路事業者において、経済性に対する配慮が十分でなかったことにもよるが、国土交通省において、より経済的な設計を行う方法を明確に示していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、25年10月に、地方整備局等に対して通知を発し、現場吹付法枠工の枠内排水の設計に当たっては、中詰工がモルタル等の場合はパイプ方式を基本とし、経済性や供用期間中の管理の確実性等を考慮したうえで、適切な排水方法を選択するよう周知徹底するとともに、地方整備局等を通じて都道府県等に対しても同様に周知する処置を講じた。
(参考図)