(平成25年10月18日付け 防衛大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴省は、自衛官等(注1)の健康管理は国が全ての責任を持って直接管理する必要があるとして、防衛省の職員の給与等に関する法律(昭和27年法律第266号)第22条に基づき、自衛官等が公務又は通勤によらないで負傷し、又は疾病にかかった場合に、療養の給付、高額療養費の支給等を行っている。
陸上、海上、航空各自衛隊(以下「各自衛隊」という。)における療養の給付等については、防衛省職員療養及び補償実施規則(昭和30年防衛庁訓令第73号。以下「規則」という。)等により、各幕僚長を実施機関の長に指定して実施させている。また、駐屯地等の業務隊長等は、療養の実施権限について実施機関の長から委任を受けており、具体的には、衛生科、衛生隊等の療養の実施担当者(以下「療養実施担当者」という。)が業務を実施している。そして、自衛官等が部外の医療機関において診療を受ける場合については、国が療養の給付等に係る診療委託費を負担している。
診療委託費の支払等の事務は、次のとおりとなっている。
療養の給付等が交通事故等の第三者による行為(以下「第三者行為」という。)によって生じた場合については、規則において、療養に要した費用が第三者行為によって生じたことが明らかであり、かつ、負傷した自衛官等が当該第三者から損害賠償を受けた時は、その価額の限度において、国は療養に要した費用を負担してはならないこととなっている。
そして、海上自衛隊においては「海上自衛官等の療養の実施に関する達」(昭和42年海上自衛隊達第28号)、航空自衛隊においては航空自衛隊療養実施細則(昭和42年航空自衛隊達第43号)に基づき、部隊等の長は、速やかに、「第三者の行為による事故発生報告書」等を実施機関の長等に提出しなければならないこととなっている。一方、陸上自衛隊においては、第三者行為により生じた負傷に係る療養の給付等の取扱いについての事務処理要領等は定められていない。
前記の第三者行為によって生じた療養の給付等については、国は療養の給付等に要した価額の限度で加害者に対する損害賠償請求権を代位取得することになっている。国の債権の管理等に関する法律(昭和31年法律第114号)第12条各号に掲げられている者(以下「債権発生通知義務者」という。)は、債権が発生したことを知ったときには、遅滞なく、債権が発生したことを、当該債権に係る歳入徴収官等に通知しなければならないとされている。
また、同法第11条において、歳入徴収官等は、その所掌に属すべき債権が発生したときは、遅滞なく、債務者の住所、氏名、債権金額、履行期限等の事項を調査し、確認の上、これを債権管理簿に記載し、又は記録しなければならないとされている。債権管理簿については、国の債権の管理等に関する法律施行令(昭和31年政令第337号)第9条において記載又は記録を要しない場合が定められているが、相手方との間に争いがある損害賠償金債権のように金額が未確定の債権については、債権管理簿への記載又は記録を要しない場合とはされていない。したがって、国に損害賠償金債権が発生した以上は、金額が未確定であっても、債権管理簿に記載又は記録して、適時適切に債権管理を行っていく必要がある。
本院は、合規性等の観点から、診療委託費の支払等が適切に行われているか、第三者行為により療養の給付等が生じた場合に、損害賠償金債権に係る債権管理が適切に行われているかなどに着眼して、陸上自衛隊28駐屯地等、海上自衛隊2地方総監部等及び航空自衛隊8航空団等(注2)において、負傷によって高額療養費等の適用を受けた自衛官等に係る平成20年度から24年度までの間の診療委託費の支払等を対象として検査した。検査においては、療養実施担当者から負傷原因について説明を聴取するなどの方法により検査するとともに、貴省内部部局、陸上、海上両幕僚監部において、制度の趣旨、各自衛隊の状況について説明を徴するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
負傷によって高額療養費等の適用を受けた自衛官等に対する23、24両年度の療養の給付等については、陸上自衛隊の28駐屯地等のうち25駐屯地等(注3)において、252件計1億7594万余円の診療委託費が支払われていた。
そして、療養実施担当者は、診療委託費の支払に当たって、診療報酬明細書等における必要な事項等を調査することとなっていることから、上記の診療委託費に係る療養実施担当者の調査、確認状況について検査したところ、以下のような事態が見受けられた。すなわち、療養実施担当者は、診療委託費の支払に当たり、負傷の原因が第三者行為に該当するかどうか確認したとしているものの、確認及び検討した結果を記録していないか、当時記録していたとしても、診療委託費の支払を行った時点で必要でなくなったと判断して廃棄していた。そして、各自衛隊において、負傷の原因が第三者行為に該当するかどうか確認及び検討した結果を記録して、保存する仕組みが整備されていない状況となっていた。
しかし、診療委託費の支払については、当該支払を確認するための関係資料として診療報酬明細書等が一定期間保存されているが、支払の原因となった当該負傷が第三者行為により生じていなかったのかなどの点についても、会計経理の妥当性を確認するために重要なものとなる。このため、療養実施担当者において、負傷の原因が第三者行為に該当するかどうか確認及び検討した結果を記録するとともに、診療委託費の支払の確認のために、会計書類や診療報酬明細書等と合わせて保存しておく必要があると認められる。
陸上自衛隊の2駐屯地等及び海上自衛隊の2地方総監部等(注4)において、第三者行為に係る診療委託費について、債権として速やかに管理する必要があったのに、療養の給付等を受けた自衛官等や療養実施担当者が必要な事務手続をとっていなかったり、陸上自衛隊においては事務処理要領等が定められていなかったため、債権発生通知義務者が損害賠償請求権の発生を歳入徴収官に通知していなかったりしていて、歳入徴収官が適時適切な債権管理を行うことができなかったりなどしていた事態が4件(当該第三者行為に係る診療委託費計779万余円)見受けられた。また、このうちには、民法(明治29年法律第89号)第724条の消滅時効(3年)が成立していて、損害賠償請求ができなくなっている事態が2件(同309万余円)見受けられたほか、海上自衛隊の2地方総監部等においては、第三者行為が発生した際に、被害者の自衛官等の所属する部隊長等が実施機関の長等に「第三者の行為による事故発生報告書」を提出していなかったりなどしていた。
これらの事例を示すと、次のとおりである。
自衛官Aが平成23年12月に眼を負傷し、部外の医療機関に入院するなどして診療を受けた際に、23年12月から25年1月までの間に支払われた診療委託費は、計3,539,089円となっていた。
しかし、自衛官Aの負傷原因は、診療報酬明細書等によれば、休暇時のゴルフプレー中に他者が打ったゴルフボールが眼に当たったことによるものであることから、第三者行為を原因とする負傷であった。したがって、本件に関して支払われた診療委託費の限度で、国は自衛官Aが加害者に対して有する損害賠償請求権を取得したこととなる。しかし、債権発生通知義務者は、自衛官Aに対して支払われる損害賠償の額が確定していなかったなどのため、歳入徴収官に対して債権発生を通知しておらず、歳入徴収官は、これを債権として管理していなかった。
なお、債権発生通知義務者は、本院の会計実地検査を踏まえて、25年7月に歳入徴収官に対して金額を未確定とする債権発生を通知していた。
前記(1)のとおり、各自衛隊において、高額療養費等の適用を受けた自衛官等に係る診療委託費について、負傷の原因が第三者行為に該当するかどうかを確認及び検討した結果を記録して、保存する仕組みが整備されていなかったり、(2)のとおり、陸上、海上両自衛隊において、療養の給付等を受けた自衛官等や療養実施担当者が必要な事務手続をとっていなかったり、債権発生通知義務者が、第三者行為に係る損害賠償請求権の発生を遅滞なく歳入徴収官に通知していなかったりしていて、歳入徴収官が適時適切な債権管理を行うことができなかったりなどしている事態は適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
前記のとおり、診療委託費は、自衛官等が公務又は通勤によらないで負傷し、又は疾病にかかった場合に、外部の医療機関における診療に要した費用のうち、本人負担分を除いた額を国が負担するものである。そして、診療委託費の支払のうちには今後も負傷の原因が第三者行為に該当するものが含まれると見込まれるが、このような支払については、診療報酬明細書等だけでなく負傷の原因やその検討結果に係る記録等に基づき支払が確認できるようにするとともに、国の債権として適時適切に管理していくことが必要である。
ついては、貴省において、診療委託費に係る債権管理等の一層の適正化に資するよう、次のとおり是正改善の処置を求める。