(平成25年10月10日付け 防衛大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省(平成19年1月8日以前は防衛庁)は、日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定(昭和29年条約第6号)に基づき、アメリカ合衆国政府(以下「合衆国政府」という。)から有償援助(Foreign Military Sales)により防衛装備品及び役務の調達(以下「FMS調達」という。)を行っている。
FMS調達は、「有償援助による調達の実施に関する訓令」(昭和52年防衛庁訓令第18号。以下「訓令」という。)等に基づき、その調達源が合衆国政府に限られるもの又はその価格、取得時期等を考慮して有償援助による調達が妥当であると認められ、かつ、合衆国政府が有償援助による販売を認めるものについて行うものとされている。そして、FMS調達における契約は、国産品等の調達契約と異なり、武器輸出管理法等の合衆国の法令等に従って行われ、調達する防衛装備品及び役務(以下「調達品等」という。)の価格は合衆国政府の見積りにより、支払は原則として前払、納期は確定年月日ではなく予定年月日となっているなど、合衆国政府から示された条件によるものとなっている。
FMS調達のうち、装備施設本部(以下「装本」という。)が実施機関として行う調達(以下「FMS中央調達」という。)においては、航空機、イージスシステム等の主要な防衛装備品の調達とともに、これら防衛装備品を取り扱うための技術支援やシステムの維持管理等の役務の調達を行っている。そして、貴省が行うFMS調達のうち役務の調達についてはほとんど全てがFMS中央調達となっている。
FMS中央調達における取引の成立から精算までの手続は、訓令等により次のとおり行うこととされている。
FMS中央調達の要求を行う統合、陸上、海上、航空各幕僚監部等(以下、これらをまとめて「調達要求元」という。)は、装本の支出負担行為担当官等(以下「支担官」という。)に対して、調達品等の品目、役務の内容、希望納期等を明らかにして、合衆国政府に対する引合書(Letter of Offer, LO。取引の条件、価格等を記載した書類で、合衆国政府の代表者が署名したもの)の請求を依頼する。
支担官は、この依頼に基づき合衆国政府に引合書の請求を行い、その発給を受ける。そして、支担官は、調達要求元から、引合書の記載内容のとおり調達を要求する旨の通知を受けて、支出負担行為として当該引合書に署名して引合受諾書(Letter of Offer and Acceptance, LOA)としたのち、合衆国政府に送付すると、取引が成立する(以下、引合受諾書に基づく個々の取引を「ケース」という。また、引合受諾書に記載された価格を「契約額」という。)。また、調達要求元に対しては、支担官から当該引合受諾書の写しが送付される。
そして、支出官は、引合受諾書に定められた支払予定に合わせて、合衆国政府に前払金をドル建てで送金して支払う。
合衆国政府は、引合受諾書に基づき、我が国に対して調達品等を給付する。このうち役務の給付については、調達要求元に属する役務の給付を受ける部隊等(以下「受領部隊等」という。)に提供されることにより行われる。そして、訓令等により、支担官は、役務の給付の受領のための検査(以下「受領検査」という。)を行うこととされている。
受領検査は、次のとおり行うこととされている。
本院は、平成9年度決算検査報告及び平成14年度決算検査報告において、FMS調達において調達品等の納入が著しく遅延していたり未精算額(前払金の総額から精算済額を差し引いた額)が多額に上っていたりなどしている事態について、それぞれ「特に掲記を要すると認めた事項」として掲記している。
しかし、FMS中央調達における未精算額は、24年度末現在で、2282億7366万余円となお多額に上っている状況である。そして、契約額に対する未精算額の割合は防衛装備品の調達よりも役務の調達の方が上回っているなどしており、役務の精算が遅延している傾向が見受けられる。また、役務については、防衛装備品と異なり提供される内容が形に残るものではない場合が多く、給付の内容や完了の時期を事後的に把握することが困難であることなどから、給付の確認をその都度適切に行うことがより重要となる。
そこで、本院は、合規性等の観点から、FMS中央調達における役務の調達において、精算の前提となる受領検査が適時適切に実施されているかなどに着眼して、内部部局、装本及び調達要求元において会計実地検査を行った。
検査に当たっては、元年度から24年度までの間にFMS中央調達を行ったもののうち、24年度末で役務の給付が完了している473ケース、契約額計3402億9652万余円(契約額は引合受諾書に記載されたドル建ての金額を支出官レートにより邦貨に換算したもの。また、一部防衛装備品の調達に係る金額を含む。以下同じ。)を対象として、これらに係る引合受諾書、検査指令書、受領検査調書等の関係書類を確認したり、受領検査官等から、役務の給付の確認方法等について説明を聴取したりするなどの方法により検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア 検査の対象とした473ケースのうち、20年度から24年度までの間に受領検査が行われた449ケース(契約額計3228億2682万円)について、受領検査調書に記載された役務の給付期間と受領検査実施日を照合するなどしたところ、表のとおり、給付が完了してから1年以上経過した後に受領検査が行われていたものが231ケース(契約額計1964億5065万余円、未精算額(受領検査の結果精算された額は含まない24年度末現在の金額。以下同じ。)計344億4803万余円)見受けられた。そして、支担官における検査指令の実施状況について検査したところ、給付が完了した場合には受領部隊等が属する調達要求元がその旨を直ちに支担官に通知することが手続として定められていないため、支担官に役務が終了した旨の書類が送付されていなかったり、引合受諾書の内容から役務の給付が完了する時期に至ったとの判断が可能であったのに、支担官が調達要求元に確認を行っていなかったりなどしていたことから、検査指令が役務の給付完了後適時に行われていない状況となっていた。
表 役務の給付完了日から受領検査実施日までの期間 平成24年度末現在
給付完了からの経過年数 | ケース数 | 契約額(千円) | 未精算額(千円) |
---|---|---|---|
1年以上2年未満 | 101 | 83,336,564 | 23,086,193 |
2年以上3年未満 | 47 | 46,975,618 | 5,548,059 |
3年以上4年未満 | 34 | 16,608,908 | 2,639,135 |
4年以上5年未満 | 17 | 9,581,433 | 1,462,927 |
5年以上6年未満 | 14 | 8,587,150 | 1,247,404 |
6年以上7年未満 | 6 | 2,299,639 | 239,578 |
7年以上8年未満 | 5 | 3,134,665 | 40,197 |
8年以上9年未満 | 2 | 10,477,576 | 110,645 |
9年以上10年未満 | 2 | 8,216,488 | — |
10年以上 | 3 | 7,232,613 | 73,897 |
計 | 231 | 196,450,654 | 34,448,035 |
イ 検査の対象とした473ケースのうち、24年度末現在において役務の給付が完了しているのに検査指令が行われていないものが24ケース(契約額計174億6970万余円、未精算額同額)あったが、このうち、給付が完了してから1年以上経過しているものが22ケース(契約額計173億3955万余円、未精算額同額)見受けられた。
このように、適時に検査指令が行われていない上記ア及びイの事態は、前払金の精算(ア及びイに係る未精算額計517億8758万余円)の円滑な実施を妨げている状況となっていた。
20年度から24年度までの間に受領検査が行われた449ケース(契約額計3228億2682万余円)について受領検査の実施状況を検査したところ、支担官は、検査指令書において、給付予定の役務の内容及び納期を引合受諾書等に基づき記入するなどして、受領検査官が検査確認する必要がある事項を明らかにすることとなっているのに、全てのケースにおいてこれを記載せず、受領検査官が確認した内容をもって受領検査における確認事項とすることとしていた。このため、受領検査においては、訓令等に示されているように給付予定の役務の内容と給付された役務の内容とを照合してその妥当性等を判断することはできない状況となっていた。
また、受領検査官は、受領検査調書の給付内容欄に、受領部隊等から提出された役務の給付が完了した旨を示すものなどに基づき、給付された内容を記入することとなっている。しかし、(1)のとおり、役務の給付完了から相当期間経過した後に受領検査を実施している場合には、受領部隊等が給付が完了したことを受領検査官に対して証明する資料を保存していないなどのため、受領検査官は、給付を受けた役務の内容や給付期間について客観的な根拠を十分把握できないことから、引合受諾書に記載されている給付予定の役務の内容及び納期を記入するなどしていた。
上記(1)及び(2)の事態について、事例を示すと次のとおりである。
支担官は、統合幕僚監部(以下「統幕」という。)の調達要求に基づき、統幕が運用するシステムの機器等の維持更新を図るための技術支援を内容とする役務について、平成9年度から毎年度、FMS中央調達を行っており、各年度ごとにケースが設定され、前払金が支払われている。しかし、統幕は、本件役務の給付が年度ごとに行われ、毎年度給付が完了していることを承知しているにもかかわらず、支担官に対する通知を特段行っていなかった。また、支担官においても、引合受諾書の内容から給付の期間は1年間となることが判断できるにもかかわらず、給付が完了したかどうかについて統幕に確認していなかった。このため、10年度のケース(契約額1億5422万余円)についてみると、11年8月の給付完了から約12年の間、支担官は役務の給付の完了を把握しておらず、検査指令が発令されないままとなっていた。さらに、統幕の受領検査官が、23年12月に受領検査を実施した際には、実際に給付された内容を確認できる客観的な資料が受領部隊等に保存されていなかった。
役務の給付が完了しているにもかかわらず、適時に検査指令が行われていない事態は、受領検査及びその後の前払金の精算手続の円滑な実施を妨げるものであり、また、役務の受領検査が適切に行われていない事態は、取引の履行の確認が十分に行われておらず、前払金の精算の適正性が事後的に検証できないものなどとなっており、いずれも適切ではなく、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。
FMS調達における未精算額の発生は、合衆国政府による有償援助であるというFMS調達の制度上の制約によりやむを得ない面もあるが、貴省は、合衆国政府に更なる前払金の精算の促進を働きかけるなどして、未精算額の一層の減少に努めることとしている。また、FMS調達は今後も引き続き実施され、多額の前払金を合衆国政府に支払うことが見込まれる。
ついては、貴省において、引き続き合衆国政府に精算の促進の働きかけを行う一方で、適時適切に受領検査を行い、前払金の精算の促進を図ることができるよう、次のとおり改善の処置を要求する。