(平成25年10月31日付け 防衛大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、自衛隊法(昭和29年法律第165号)等に基づき、常時勤務する自衛官のほかに、有事等の際に必要な防衛力を急速かつ計画的に確保するため、予備自衛官、即応予備自衛官等の制度を設けている。
このうち、予備自衛官制度は、予備自衛官が、普段は社会人として働くなどしながら、防衛招集命令、災害招集命令等により招集された場合は、出頭した日をもって自衛官となり、第一線の部隊が移動した後の駐屯地警備、後方支援、避難住民の救護・誘導、災害救助活動等の任務を担うことを目的としている。そして、予備自衛官は、自衛官経験者の志願者等から採用され、平成24年度末の人員数は32,566人(陸上自衛隊31,297人、海上自衛隊682人、航空自衛隊587人)であり、任期は3年で、継続任用も可能となっている。
予備自衛官は、必要となる練度の維持を図ることなどを目的として、防衛大臣が発する訓練招集命令により、毎年度、訓練を受けることとなっている。訓練日数は、自衛隊法等により、「1年を通じて20日をこえないものとする」とされており、昭和30年度以降、年間5日となっている。なお、予備自衛官は、原則として、5日間連続で訓練を受けることとされているが、2回に分割して訓練を受けることもできることとなっている。
訓練招集命令に係る事務の流れは、「予備自衛官の招集手続に関する訓令」(昭和45年防衛庁訓令第33号)等により、次のとおりとなっている。
①防衛大臣は、年度当初に、陸上自衛隊各方面総監、海上自衛隊各地方総監及び航空自衛隊航空総隊司令官に対して、訓練のための予備自衛官の招集の実施時期、期間等を示して、訓練招集の実施等を命ずる。②各方面総監等は、上記の命令に基づき、年度当初に、年間の訓練招集計画等を策定する。そして、各方面総監は、訓練招集業務を担当する地方協力本部長に対して、予備自衛官に係る訓練招集事務を行うように命ずる。③地方協力本部長は、訓練招集計画等に基づき、各予備自衛官等と訓練日程を調整の上、決定し、各予備自衛官に訓練招集命令書の交付を行う。
各方面総監等は、前記のとおり、年度当初に、訓練を担当する部隊ごとに、土曜日及び日曜日を含んだ日程で、年数回(受入人員が多数に上る普通科連隊はおおむね5回)実施することとして、年間の訓練招集計画を作成している。
平成24年度における北部方面総監部の訓練招集計画を例にとると、当該年度末の在籍予備自衛官4,275人に対して、5日間訓練を36訓練招集部隊で計69回実施することとしており、7,312人の受入れが可能な計画となっている。
地方協力本部は、全国で50か所(北海道は4か所、都府県は各1か所)あり、訓練招集命令書の交付前に、予備自衛官が年度内に複数回実施される訓練のうちどの訓練に出頭するかを調整する手続(以下「出頭調整」という。)については、特段の定めはなく、各地方協力本部は、一般的に次のように実施することにしている。
①年度当初に、訓練招集計画に基づき、予備自衛官それぞれに、各地方協力本部が作成した訓練日程表等を送付する。②年度内に複数回設けられた訓練日程の中から、出頭可能な訓練日程を選択させて、書面により返信させる。③訓練招集命令書を交付するおおむね1か月前から10日前までに、予備自衛官に、選択した訓練日程への参加の意思を電話連絡等で再確認する。その際、訓練の延期を希望する場合は、その理由を聴取する。
そして、上記の出頭調整により参加の意思を確認した予備自衛官に対して、前記のとおり訓練招集命令書を交付することとされている。
交付を受けた予備自衛官は、訓練招集に応ずることができない場合には、その事由を証明するに足りる書面を添えて申し出なければならないこととされている。そして、地方協力本部長は、当該申出に、心身に故障を生じたときなど、相当の理由があると認めるときは、訓練招集命令の取消し又は変更をするものとされている。
予備自衛官には、「防衛省の職員の給与等に関する法律」(昭和27年法律第266号)により、予備自衛官手当(以下「予備自手当」という。)が支給され、その額は月額4,000円となっている。そして、予備自手当は、予備自衛官に採用された日の属する月から、退職した日の属する月まで、四半期ごと(2、5、8、11月)に前々月までの3か月分がまとめて支給されることとなっている。その支給手続等は、陸上幕僚監部が予備自衛官等に関する業務を正確かつ円滑に実施するために訓練招集手続等についてまとめた予備自衛官等業務マニュアル(平成20年陸幕人計第633号。以下「マニュアル」という。)に記載されている。マニュアルによると、予備自手当の趣旨は、防衛招集、災害招集、訓練招集等に応ずる義務を負う精神的拘束に対する対価として、訓練招集に出頭した場合等に支給するものとされている。また、訓練に出頭した場合には、同手当とは別に、訓練に従事することに対する手当として訓練招集手当や往復旅費が支給されることとなっている。
「防衛省の職員の給与等に関する法律」等により、次の場合に、既に支給した分の翌月分以降の予備自手当を支給しないことができることとなっている。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
10地方協力本部における、在籍する予備自衛官(23年度末計10,009人、24年度末計10,062人)に対応した予備自手当の支給総額は、年度内に退職した予備自衛官に対する支給額も含め、23年度計3億9851万余円、24年度計4億0245万余円、合計8億0097万余円となっていた。
そこで、予備自手当の支給状況を確認したところ、4月から12月まで予備自手当を支給しているが、翌1月からは支給を停止している者等が見受けられたため、これらの者に係る訓練招集の状況等について確認したところ、次のような事態が見受けられた。
すなわち、10地方協力本部では、年度当初に参加予定として選択した訓練期間(年度内の最終訓練を除く)を訓練招集命令発令前の出頭調整の時点で、次回以降の訓練に延期する者及び予備自衛官の訓練が2回に分割して参加することを認められていることから、1回目の訓練で5日未満の日数しか出頭しなかった者で次回以降の訓練に参加する者については、書面によることなく電話等で次回の訓練への参加意思を確認していたとしている。そして、年度内の最終訓練に係る出頭調整の際は、それまで訓練を延期していたなどの予備自衛官に対して訓練招集命令書を交付することとし、これに対して、正当な事由によらないで訓練招集に応じなかった予備自衛官については、不出頭扱いとして、第4四半期の予備自手当の支給を停止していた。
このように、正当な事由によらないで、年度内の訓練招集に全く出頭していなかったり、年度内の訓練日数が5日未満であったりしている予備自衛官に対し第3四半期までの9か月分の予備自手当を支給しているなどの事態が、10地方協力本部において、23、24両年度計2,305人(支給額計68,284,000円(支給総額の8.5%))に上っていた。
千葉地方協力本部は、平成20年10月15日に予備自衛官Aを採用し、以後継続任用しており、24年3月20日に5日間の予備自衛官としての訓練を終了したことにより、Aに対して、24年4月分から引き続き予備自手当を支給することとなっていた。そして、Aは、24年度当初の訓練招集希望時期調査の回答に、24年6月22日からの5日間訓練を選択していたが、出頭調整の時点で6月から25年2月の訓練に変更していた。
そこで、千葉地方協力本部は、4月分から12月分までの予備自手当計9か月分を8月、11月、2月にそれぞれ3か月分ごとに合計で36,000円を支給していた。そして、出頭調整により25年2月15日の最終訓練には出頭できないことが明らかになったため、千葉地方協力本部は、以後の予備自手当を支給しないこととしていた。
このため、千葉地方協力本部は、24年度の訓練に全く出頭していないAに対して、予備自手当9か月分を支給する結果となっていた。
以上のような状況に対して、地方協力本部においては、特段の対応を執っていない事態となっていた。
正当な事由によらないで、年度内の訓練招集に全く出頭していなかったり、年度内の訓練日数が5日未満であったりしている予備自衛官に対し、多額の予備自手当が支給される結果となっている事態、また、このような状況に対して特段の対応を執っていない事態は、適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
予備自衛官制度は、防衛招集命令、災害招集命令等により自衛隊が出動する場合にその一翼を担うものとして重要な制度であり、今後とも、予備自衛官の必要数の確保とともにその練度の維持等が強く求められている。そして、予備自手当を支給するときは、その一層の効果的、経済的な支給を確保することが重要となっている。
ついては、貴省において、次のとおり改善の処置を要求する。