海上自衛隊は、船舶の造修等に関する訓令(昭和32年防衛庁訓令第43号)等に基づき、艦船に係る定期検査及び年次検査を行うこととしており、5地方総監部(注1)は、造船会社等と毎年度多数の定期検査及び年次検査に係る契約(以下「定年検契約」という。)を締結している。
定年検契約の内容は、主として、①艦船の安全性等を確保するために諸性能を確認するなどの検査及び当初契約締結時に工事内容が特定されている修理(以下、これらを合わせて「検査工事等」という。)と、②検査工事等により判明した要修理箇所の修理(以下「修理工事」という。)から成っている。
海上自衛隊は、平成17年度以前においては、国庫債務負担行為により行う定年検契約の場合、国庫債務負担行為の初年度内に債務負担すべき金額の全額について債務負担を行う必要があるために、初年度内に修理工事の内容の全てを特定して変更契約を締結することにしていた。
しかし、これらの業務が年度末に集中する状況となっていたことから、業務の平準化を図ることなどを目的として、海上幕僚監部は、「履行後確定による艦船修理契約の処理要領」(平成18年海幕経第6383号。以下「要領」という。)を作成し、18年度から当分の間試行することとして5地方総監部に通知している。そして、5地方総監部は、国庫債務負担行為により行う定年検契約のうち修理工事の内容の全て又は一部を国庫債務負担行為の初年度内に特定することが困難な場合には、要領に基づいた契約を行うことにしている(以下、要領に基づいて行う定年検契約を「履行後確定契約」という。)。
要領によれば、履行後確定契約では、検査工事等については、契約金額を確定金額とする一方、修理工事については、上記の確定金額に変更率(注2)を乗じて算出される概算金額で当初契約を締結することとされている。また、修理工事に係る変更契約を完成検査の前日までに締結すること、契約の履行後に修理工事に要した材料、工数等に係る費用を記載した費用確認書を契約相手方に提出させ、地方総監部はこれらの費用を証明する書類等を契約相手方に提出させるなどして修理工事に係る費用の妥当性等を確認した上で、上記の概算金額を上限として、修理工事に係る契約金額を確定することなどとされている。
履行後確定契約は、国庫債務負担行為により行う艦船の定年検契約のみに適用されていて、原価監査付契約(注3)のように検査工事等と修理工事を区分せずに製造原価の全額を対象として原価監査を行う契約とは異なり、契約金額の一部である修理工事に係る費用のみを対象としてその妥当性等の確認を行うこととなっている点において特有の契約方法となっている。
検査したところ、5地方総監部が締結した履行後確定契約計99件について、次のような事態が見受けられた。
すなわち、会計法(昭和22年法律第35号)において、契約担当官等は、契約の相手方を決定したときは、原則として、契約の目的等を記載した契約書を作成しなければならないとされている。そして、契約の目的については、契約当事者間の意思の合致の内容を十分に証拠化するために、仕様書等により明確にすべきものであると解されている。
しかし、検査を実施したいずれの履行後確定契約も、修理工事については、当初契約の時点で工事内容が特定されていないことから、当初契約の仕様書には変更率が記載されているのみで、契約の目的である具体的な工事内容は何ら記載されていなかった。そして、具体的な工事内容が仕様書等で明確にされないまま修理工事が実施された後に、履行期限の直前に変更契約を締結して工事内容を確定していて、会計法令の趣旨に照らして適切なものとはなっていなかった。
また、履行後確定契約の場合、地方総監部が、修理工事に要した費用を記載した費用確認書やその費用を証明する書類等を契約相手方である造船会社に提出させるなどして修理工事に係る費用の妥当性等を確認するなどとされている。しかし、造船会社において、修理工事に要する材料の調達等に係る費用を証明する書類等を検査工事等に係るものと区分して整理することは多大な労力を要するとしていることなどから、いずれの履行後確定契約においても、5地方総監部は、費用を証明する書類等の一部を提出させるなどしておらず、費用を十分に確認することができない状況となっていた。さらに、造船会社において、検査工事等に要した工数と修理工事に要した工数を明確に区分することは極めて困難であるとしていることなどから、費用確認書には、修理工事に係る実績工数ではなく、修理工事に要したと見込まれる工数を計上していて、5地方総監部は、実績工数を把握することができない状況となっていた。
このように、5地方総監部が締結した履行後確定契約計99件(契約金額計646億6073万余円、うち修理工事に係る契約金額計118億9981万余円)において、修理工事の具体的な工事内容が仕様書等で明確にされないまま修理工事が実施されていたり、修理工事に係る費用の確認を十分に行うことができない状況となっていたりなどしているにもかかわらず、長期間にわたり何の検証も行わないまま履行後確定契約の適用を継続している事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、海上幕僚監部において、履行後確定契約については試行するものとしていたにもかかわらず、その後、契約方法の妥当性等について検証していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、海上幕僚監部は、国庫債務負担行為により行う艦船の定年検契約について、25年3月に各地方総監部に対して通知を発して、同年4月以降、履行後確定契約の適用を中止することとした。また、同年8月に通知を発して、修理工事については、その具体的な工事内容が判明した後に、仕様書等でその内容を明確にして変更契約を締結した上で実施させることとし、国庫債務負担行為の初年度内に工事内容を特定できない場合は、翌年度の歳出予算により契約を締結することとするなどの処置を講じた。