防衛省は、自衛隊法(昭和29年法律第165号)等に基づき、陸上、海上、航空各自衛隊の共同の機関として、自衛隊中央病院及び15か所の自衛隊地区病院を設置している。このうち、海上自衛隊の監督を受ける病院は、大湊、横須賀、舞鶴、呉及び佐世保の5自衛隊地区病院(以下、これらを「海自病院」という。)となっている。
海上幕僚監部は、防衛省組織令(昭和29年政令第178号)等に基づき、保健衛生施設に関する事務を所掌しており、また、海上自衛隊物品管理補給規則(昭和56年海上自衛隊達第42号。以下「規則」という。)に基づき、海自病院において管理する医薬品及び衛生器材(以下、これらを「医薬品等」という。)を主管している。
国の物品については、物品管理法(昭和31年法律第113号)等に基づき、物品管理官が物品の管理事務を行うこととなっており、物品管理官の事務の一部を分任物品管理官に分掌させたり、代行機関に処理させたりすることができることとなっている。
海自病院においては、病院長を分任物品管理官に、衛生資材課長等を代行機関に指定している。また、供用される物品の管理を行う責任者として、薬剤課、看護課等の課長等を物品取扱責任者に指定している。
そして、物品取扱責任者が四半期ごと又は必要の都度、調達品目、規格、数量等を記載した物品調達要求書を病院長等へ提出することとなっていて、病院長等は地方総監部の契約担当官へ調達を依頼することとなっている。調達された医薬品等は契約業者から直接海自病院の衛生資材課長等の下に納入され、衛生資材課長等は各物品取扱責任者に一括して直ちに供用している。
また、物品管理官等は、物品管理簿に物品の増減等の異動に関する事項等を記録しなければならないこととなっているが、取得後比較的短期間に消耗することを予定する物品であって、一定の数を購入したものが使用のたびに減少するものなどについては、物品管理簿への記録を省略できることとなっている。これを受けて、海上自衛隊は、取得後比較的速やかに供用する必要がある物品で保存を目的としないなどのものについては、消耗品の管理カードに、品目、調達数量等の情報のみを記録することとしており、病院長は、医薬品等について、この物品に該当することとしている。
そして、海自病院における医薬品等は、規則に基づき、病院長が決定した所要量を基に必要な調達を行い、需給の均衡を図ることとされており、その所要量を適切に決定するためには、医薬品等の使用実績、在庫数量等に留意することとされている。
医薬品等については、上記のとおり、所要量を適切に決定するために、使用実績、在庫数量等に留意することとされており、医薬品等の調達数量、使用数量、廃棄数量、在庫数量等(以下、これらを「異動数量」という。)を把握することは、所要量を適切に算定する上で極めて重要となる。
そこで、本院は、合規性、経済性等の観点から、海自病院は医薬品等の異動数量を正確に記録するなどして適切な管理を行い、これを所要量の適切な算定に反映しているかなどに着眼して、海上幕僚監部及び海自病院において、海自病院が平成23、24両年度に調達した医薬品等(購入額計14億9535万余円)を対象として、物品受領検査調書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、海自病院においては、医薬品等について、消耗品の管理カードに調達数量等の情報を記録することとし、また、納入された医薬品等を一括して直ちに供用することとしていることなどから、同カードには、医薬品等の納入の都度、納入年月日、品目、調達数量等のみを記録していた。
一方、医薬品等の供用を受けた物品取扱責任者が医薬品等の現状把握を行うために、医薬品等の異動数量を記録する受払簿や医薬品等を廃棄する場合に廃棄数量、廃棄理由等を記録する廃棄簿を備えて異動数量を記録することについては、特に定めがない状況となっていた。
そこで、海自病院の医薬品等に係る物品取扱責任者23名における医薬品等の管理の実態をみたところ、受払簿及び廃棄簿を備えていた者は4名にすぎず、しかも、これらの者が作成した受払簿及び廃棄簿の全てにおいて、正確性を欠く内容となっていた。また、残りの19名については、受払簿及び廃棄簿の両方又は一方を備えていなかった。
このため、いずれの物品取扱責任者においても、医薬品等の異動数量を正確に把握することができなかったり、廃棄された理由を確認することができなかったりなどしており、また、医薬品等の調達に当たっては、物品取扱責任者が使用実績、廃棄実績等を用いることなく、経験等に基づいて所要量を算定し、これを基に病院長が所要量を決定している状況となっていた。
このように、海自病院において、医薬品等の異動数量が正確に把握されておらず、物品取扱責任者が使用実績等によらずに経験等に基づいて所要量を算定していたり、医薬品等の廃棄理由等が事後的に確認できない状況となっていたりなどしている事態は、算定した所要量の妥当性が十分に確保されておらず、また、医薬品等の過剰調達、亡失等不測の事態を抑止する体制が整備されていないことから適切ではなく、改善の必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、海上幕僚監部は、25年8月に、海自病院に対して、医薬品等の適切な管理を行うために必要な受払簿、廃棄簿等の統一的な様式や記入要領等を示すなどした通知を発するとともに、同年9月までに海自病院の物品取扱責任者等に対して、管理の重要性等について改めて教育指導を行った。そして、海上幕僚監部の指導監督の下に、海自病院は、同月までに、医薬品等の所要量の適切な算定に資するなどのため、それらの異動数量を正確に把握し、これらを記録するための受払簿、廃棄簿等に関する規定を定めるとともに、記録作業を開始するなどの処置を講じた。